別紙

1 事実関係
当社の取引先であるM証券は、個人投資家から預かった株券を貸株として大口機関投資家に対し貸し出す事業を始めました。
すなわち、M証券は、個人投資家と消費寄託契約を締結し(下図「概要図」丸1参照。以下同じ)、当該個人投資家から預かった株券を大口機関投資家であるN社に貸し出し(丸2)、その見返りに貸株銘柄の時価相当額の代り金(以下「貸株代り金」といいます。)を受け入れます(丸3)。M証券は当社を受託者として信託契約を締結し、受け入れた貸株代り金相当額を当社に信託します(以下「本件信託契約」といいます。丸4)。本件信託契約は、一方において、M証券を委託者兼収益受益者とする、貸株代り金相当額を運用し収益を享受する自益信託としての性質を有し、他方において、個人投資家を元本受益権者とする、貸株株券の返還請求権担保信託(他益信託)としての性質を有しています。
なお、元本受益権は、委託者が証券取引法79条の54に定める通知証券会社に該当した場合で、本件信託契約により定められた信託管理人がその行使を必要とした場合にのみ一括して行使されます。その場合に、個人投資家に支払われる元本受益権の額は、消費寄託契約に基づき委託者に債権を持つ各顧客に係る当該債権の額であり、また、貸株と同種類の株式の返還請求権は、貸株代り金相当額の受領により消滅します。
概要図
 
2 照会事項
  1. (1) 本件信託契約が締結されたにすぎない場合には、個人投資家に対して課税関係が生じないとして取り扱って差し支えないか。
    信託法7条によれば、受益者に指定された者は、当人の受益の意思表示を待たずに受益者とされています。このことからすれば、本件信託契約締結時に個人投資家に元本受益権が生じることとなりますので、その時点において個人投資家に課税されることになるのか疑義があります。
    ところで、所得税法36条の規定によれば、「その年分の各種所得の計算上収入金額とすべき金額」は「その年において収入すべき金額」ですが、本件元本受益権は、委託者であるM証券が証券取引法79条の54に定める通知証券会社に該当した場合で、本件信託契約により定められた信託管理人がその行使を必要とした場合にのみ一括して行使されることになる停止条件付他益信託であると考えられますから、条件成就前に元本受益権の収入の発生が確定しているといえず、収入すべき金額があるとはいえません。
    したがって、本件信託契約の締結時には、個人投資家に対する課税関係は生じないものとして取り扱います。
  2. (2) 信託管理人が元本受益権を行使した場合に、個人投資家がM証券に消費寄託した株式の譲渡があるものとして取り扱って差し支えないか。
    本件元本受益権は、委託者であるM証券が証券取引法79条の54に定める通知証券会社に該当した場合で、本件信託契約により定められた信託管理人がその行使を必要とした場合にのみ一括して行使されることになりますが、当該支払の原資は、あくまでM証券の財産から拠出された信託財産(貸株代り金相当額)であり、当社が負担するものではありません。また、M証券に対する貸株と同種類の株式の返還請求権は、貸株代り金相当額の受領により消滅します。このことからすれば、元本受益権の行使により、実質上、M証券に対して個人投資家が有価証券を譲渡した場合と異なりませんから、元本受益権の行使がなされた時に貸株代り金相当額を収入金額とした譲渡があったものとして取り扱います。
 

 

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