1 事前照会の趣旨

当社は、技術研究組合法(以下「技組法」といいます。)に基づき主務大臣の認可を受けて設立された技術研究組合を前身とする株式会社です。(前身である)技術研究組合では、AIを活用した新技術やサービスを生み出す技術革新を支援する試験研究を協同で行ってきたところ、試験研究が一定の段階に進んだことから、組合員が協同して当該試験研究の成果を実用化するために、技組法第61条《組織変更》の規定に基づき、技術研究組合から株式会社に組織変更(以下「本件組織変更」といいます。)をしました。
 ところで、技術研究組合が組織変更をしたときは、組織変更をした技術研究組合については解散の登記を、組織変更後の株式会社については会社法第911条《株式会社の設立の登記》の登記をすることとされています(技組法152)。
 また、組織変更後の株式会社の資産及び負債の価額は、組織変更計画備置開始日(技組法第63条第2項《組織変更計画に関する書面等の備置き及び閲覧等》に規定する組織変更計画備置開始日をいいます。以下同じです。)における組織変更をする技術研究組合の資産及び負債の価額によるものとされています(技組法66@)。さらに、組織変更後の株式会社が資本金として計上すべき額は、当該資産の価額から当該負債の価額を差し引いた額とされ、その2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができ(技組法66A)、資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならないこととされています(技組法66B)。
 本件組織変更に係る事実関係は次の2のとおりであるところ、この場合の下記(1)から(3)までの税務上の取扱いについては、それぞれ次のとおりと解して差し支えないかご照会申し上げます。

(1) 本件組織変更前の欠損金額について(照会事項1)
本件組織変更前の事業年度で青色申告書を提出する事業年度(以下「青色申告事業年度」といいます。)において生じた欠損金額は、株式会社である当社の過去の事業年度において生じた欠損金額として当社の損金の額に算入される。 (2) 技組法第66条第1項《資本金として計上すべき額等》に係る評価益について(照会事項2)
当社の資産及び負債につき、本件組織変更に係る組織変更計画備置開始日の資産及び負債の価額による評価換えをしてその資産の帳簿価額を増額した部分の金額は、組織変更計画備置開始日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入されない。 (3) 資本金等の額について(照会事項3)
技組法第66条第1項の規定に基づいて、上記(2)の評価換え後の資産の価額から負債の価額を差し引いた額の2分の1を資本金の額として計上し、残額を資本準備金の額として計上しますが、法人税法上の資本金等の額は変動しない(資本金等の額は零となる。)。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 技術研究組合は、いわゆる非出資制を採用した組合であり、技組法第2条第1項《人格及び住所》により法人とされます。技術研究組合は、その事業に必要な費用を組合員へ賦課することとなるため、一般的には多額の欠損金額が累積することはありませんが、事業年度単体で見た場合には、欠損金額が生ずる事業年度もあるところ、当社は、本件組織変更前の青色申告事業年度において生じた欠損金額を有しています。

(2) 当社は、組織変更計画備置開始日における資産及び負債の価額として、第三者の評価機関により特許権等の知的財産を含む資産及び負債について価額の評定を受け、当該価額に基づき資産の評価益を組織変更計画備置開始日に計上しています。また、当社は、評価換え後の資産の価額から負債の価額を差し引いた額の2分の1を資本金の額として計上し、残額を資本準備金の額として計上しています。具体的には、評価換え後の資産の価額から負債の価額を差し引いた額に相当する金額を当社の剰余金の額とし、その剰余金の額を減少させて資本金の額及び資本準備金の額としています。
 なお、組合員は、技組法第65条《組合員への株式の割当て》の規定に基づき、組織変更計画の定めるところにより、当社の株式の割当てを受けておりますが、その際に金銭等の払込みは行われていません。

3 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 照会事項1について

 技術研究組合が技組法の規定に基づいて株式会社に組織変更をした場合、技術研究組合については解散の登記をし、組織変更後の株式会社については設立登記をすることとされていることを踏まえると、組織変更前の青色申告事業年度において生じた欠損金額を組織変更後の事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入できるのか疑問が生じます。
 この点、会社がその組織を変更するに当たって、登記簿上、旧会社の解散及び新会社の設立の各登記を経ることとなりますが、これは登記技術上の問題であり、会社はその前後を通じて同一人格を保有するものと解されており、法人税法上も、法人税基本通達1−2−2《組織変更等の場合の事業年度》において、法人が会社法その他の法令の規定により組織変更をした場合、当該組織変更の前後において、原則として、事業年度は区分されず継続するとされています。
 欠損金の繰越しに関して、法人税法及び技組法上、法人(技術研究組合)が株式会社に組織変更をした場合の特別の規定はなく、また、組織変更の前後を通じて同一人格を保有するとの考え方に基づく上記のような取扱いを踏まえると、技組法の規定に基づく組織変更が行われた場合、組織変更前の青色申告事業年度において生じた欠損金額は、組織変更後の事業年度における所得の金額の計算上、損金の額に算入されることとなると考えます。
 したがって、本件組織変更前の青色申告事業年度において生じた欠損金額のうち、株式会社である当社の各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度において生じたものについては、当社の本件組織変更後の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されることとなると考えます。
 なお、本件組織変更を理由に、改めて青色申告の承認申請書を提出する必要はないと考えます。

(2) 照会事項2について

 技組法上、組織変更後の株式会社の資産及び負債の価額は、組織変更計画備置開始日における組織変更をする技術研究組合の資産及び負債の価額によるもの(技組法66@)とされ、組織変更計画備置開始日における価額による評価換えを行う必要があります。
 しかしながら、法人税法上、資産の評価換えをしてその帳簿価額を増額した場合に、その増額部分の金額は、一定の事由があったことにより評価換えをした場合を除いて益金の額に算入されないとされているところ、技組法の規定による株式会社への組織変更は、その一定の事由に該当しない(法法25、法令24、24の2)ことから、当社の資産及び負債につき、組織変更計画備置開始日の価額による評価換えをしてその資産につき帳簿価額を増額した部分の金額は、組織変更計画備置開始日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入されないものと考えます。

(3) 照会事項3について

 本件組織変更前の組合員は、技組法第65条の規定に基づき、組織変更計画の定めるところにより、当社の株式の割当てを受けることとなり、また、当社は、組織変更計画備置開始日における価額による評価換え後の資産の価額から負債の価額を差し引いた額の2分の1を資本金の額として計上し、残額を資本準備金の額として計上しています。
 法人税法における資本金等の額は、法人が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額とされているところ(法法2十六)、本件組織変更における当社の資本金の額及び資本準備金の額となる金額は、株式の発行等に伴い金銭等が払い込まれるものではないため、法人税法上の資本金等の額に該当するのか疑問が生じます。
 この点、資本金等の額は、法人税法施行令第8条《資本金等の額》において、資本金の額又は出資金の額(法令8@柱書)と一定の調整項目について加減算した金額との合計額(法令8@一〜二十二)とされているところ、事業年度開始の日以後に剰余金の額を減少して資本金の額を増加した場合のその増加した金額がある場合には、当該金額を減算することとされています(法令8@十三)。当社が資本金の額とした金額は、同条第1項柱書の「資本金の額」に該当する一方で、上記2(2)のとおり、同項第13号の剰余金の額を減少して資本金の額を増加した金額にも該当しますので、当該金額を資本金等の額から減算することとなり、その結果、資本金等の額は変動しないこととなります。
 また、当社が資本準備金の額とした金額は、株式の発行等に伴い払い込まれた金銭の額等(法令8@一)には該当せず、その他いずれの調整項目にも該当しないため、法人税法上の資本金等の額に含まれません。
 したがって、当社は、本件組織変更に際して評価換えした資産の価額から負債の価額を差し引いた額の2分の1を資本金の額として計上し、残額を資本準備金の額として計上しますが、法人税法上の資本金等の額は変動せず、同額は零になると考えます。

以上

←上記照会の内容に対する回答はこちら