1 照会の趣旨及び内容

東京都では、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開会式と閉会式の合計4日間、都内で排出される全てのCO2排出量をオフセットしてゼロにする取組として「東京ゼロカーボン4デイズin2020」を実施することとしています。また、東京オリンピック・パラリンピック大会のホストシティとして、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が掲げた「東京2020大会の開催に伴い発生するCO2をオフセットする取組(東京2020大会のカーボンオフセット)」に新たに協力することとしました(以下これらの東京都が行う取組をまとめて「本件取組」といいます。)。

本件取組を実施するためには、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号)」(以下「条例」といいます。)に基づく「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」(以下「都制度」といいます。)において発行され、一般管理口座(クレジットの取得、保有、譲渡の際に利用する口座)を保有する事業者(以下「事業者」といいます。)が保有するクレジット(超過削減量)(以下「クレジット」といいます。)を東京都が取得して自ら無効化を申請する必要があります。このため、東京都は、クレジットを保有する事業者に対して、当該クレジットの東京都への提供について協力を呼び掛けています。

この場合、東京都に対してクレジットを提供した事業者における法人税法上の取扱いは次のとおりと解して差し支えないか、御照会申し上げます。

〔法人税法上の取扱い〕
 内国法人である事業者が保有するクレジットを東京都に無償で提供した場合には、その無償提供をした日(当該クレジットが当該事業者の一般管理口座から東京都の一般管理口座に移転した日)の属する事業年度において、当該クレジットの無償提供時の価額に相当する金額を地方公共団体に対する寄附金の額として損金の額に算入する。
 この場合における当該クレジットの無償提供時の価額とは時価をいうこととなり、当該クレジットが東京都の一般管理口座に移転された日に近い売買実例等を参考として算定することになる。ただし、売買実例等の把握が容易でないことにより時価の算定が困難である場合には、事業者の帳簿価額を当該クレジットの価額として取り扱う。

(参考)都制度に関する過去の文書回答の内容
 都制度におけるクレジットの税務上の取扱いについては、既に国税庁ホームページで公表されている文書回答事例「東京都条例に基づく排出削減義務制度における排出量取引に係る税務上の取扱いについて」(平成24年6月11日東京国税局回答)において、資産性を有し、削減義務者自らが発行を受ける場合には取得時の処理は不要(オフバランス)であり、他の者から購入した場合には取得時にその取得に要した費用を無形固定資産等に計上することが明らかにされています。また、取得したクレジットを義務充当した場合及び他の者へ売却した場合の税務上の取扱いが明らかにされています。
 今回の照会は、本件取組において事業者が東京都に対してクレジットを無償提供した場合の税務上の取扱いについて照会を行うものです。

2 照会に係る取引等の概要

(1) 都制度の概要
 東京都では、条例に基づき都制度を運用しています。都制度において、知事が指定する特定地球温暖化対策事業所の所有者等(以下「削減義務者」といいます。)は、条例で定める削減義務期間内において、特定温室効果ガス(燃料、熱又は電気の使用に伴って排出される二酸化炭素)の排出量を一定量以上削減する義務(以下「削減義務」といいます。)を負うこととされています(条例5の11)。
 都制度では、削減義務者自らが設備更新による省エネ対策等を実施して削減義務を達成することが義務付けられますが、排出量の実績が排出上限量を下回っている場合、削減義務者は、東京都からその下回っている部分に相当するクレジットの交付を受け、これを他の者に譲渡することができます。
 一方、実績排出量が排出上限量を上回っている場合、削減義務者は、他の者からクレジットを取得し、削減義務に充当することによって自己の削減義務を達成することができます。このクレジットのやりとりを排出量取引といいます。
 これまでの都制度では、事業者は、クレジットを自己の削減義務の履行(以下「義務充当」といいます。)及び他の者への譲渡のみに利用できることとされていましたが、今般、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例施行規則(平成13年東京都規則第34号)」の改正により、クレジットを知事の管理口座(以下「無効化口座」といいます。)に移転することによって、義務充当や譲渡ができないようにすること(以下「無効化」といいます。)が可能になりました。この無効化によって、事業者は、無効化したクレジットを自己が実施するカーボンオフセット(注)に利用することが可能となりました(無効化が完了した時点でカーボンオフセットは完了します。)。

(注)カーボンオフセットとは、「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」(平成20年2月環境省)において、企業、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等(クレジット)を購入すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせることと定められています。また、「カーボン・オフセットガイドライン」(平成27年3月31日環境省)において、排出量の埋め合わせの際には、排出削減・吸収量等(クレジット)を無効化する必要があり、無効化を申請した者がカーボンオフセットを行ったと主張できることとされています。
 都制度におけるクレジットを自己が実施するカーボンオフセットに利用するためには、これらの指針やガイドラインに従い、当該クレジットを取得して自らが無効化を申請する必要があります。

(2) 本件取組及び東京都へのクレジットの無償提供の概要(別図参照)
 東京都が行う本件取組に賛同し、保有するクレジットを東京都に提供しようとする事業者は、当該事業者の一般管理口座から東京都の一般管理口座にクレジットを無償で提供(移転)する旨の申請を東京都に行います(別図2)。東京都は、知事に対して、一般管理口座に記録されたクレジットの種類、識別番号及びその数量を指定して、これを無効化する申請を行うことにより、当該クレジットは、東京都の一般管理口座から知事の管理口座(無効化口座)に移転され、無効化されます(別図34)。クレジットを自己が実施するカーボンオフセットに活用するためには、当該クレジットを取得して自らが無効化を申請する必要がありますので、本件取組を実施するためには、東京都がクレジットを取得して(東京都の一般管理口座でクレジットの移転を受け)、自ら無効化を申請し、無効化口座に移転するという手続を行う必要があります(別図56)。
 なお、クレジットを東京都に提供した事業者は、当該クレジットを自己が実施するカーボンオフセットには活用することはできないこととなります。

3 照会者の求める見解となることの理由

平成24年6月11日東京国税局回答において、都制度におけるクレジットは資産性を有し、取得したクレジットを他の者に売却(有償譲渡)した場合には、資産(無形固定資産(投資その他の資産)又は棚卸資産)の譲渡として扱うことが相当とされています。

また、法人税法上、金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合には寄附行為に該当し、国又は地方公共団体に対する寄附金については、原則として、その交付した資産の価額(時価)の全額が損金の額に算入されます(法3713一、7)。

本照会において、東京都が行う本件取組に賛同した事業者は、保有するクレジットを当該事業者の一般管理口座から東京都の一般管理口座に無償で移転するところ、これは、資産性を有すると認められるクレジットを、対価なく任意に東京都に移転させるものであることからすれば、当該事業者が保有するクレジットを自己の一般管理口座から東京都の一般管理口座に移転した日の属する事業年度において、当該クレジットの無償提供時の価額に相当する金額を地方公共団体に対する寄附金の額として損金の額に算入することが相当であると考えられます。

ところで、この場合のクレジットの無償提供時の価額は、原則として、売買実例等を参考として時価を算定する必要がありますが、事業者においては、第三者間で行われる売買実例等の価額を把握することが容易ではないことも考えられます。このような場合であっても、東京都に対する寄附金としてその資産の価額(時価)の全額が損金算入されることを考えると、クレジットの帳簿価額をクレジットの価額(時価)として処理することとしても差し支えないものと考えられます。

なお、削減義務者が東京都からクレジットの発行を受けた場合(オフバランスの場合)には、上記の処理を行わなくても差し支えないものと考えられます。

以上

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