別紙

1 事前照会の趣旨

当社は、当社及び子会社の従業員の財産形成を促進する福利厚生及び業績向上のインセンティブを目的として、当社を委託者、信託銀行(以下「乙銀行」といいます。)を受託者とする信託(以下「本件信託」といいます。)契約を締結しています。
本件信託は、当社及び子会社の従業員が加入する従業員持株会(以下「本件持株会」といいます。)が将来取得する予定の当社株式を一括して取得し、定期的に本件持株会への売却を行いながら、その間の株価上昇に伴う信託収益を得、これを信託期間終了後に受益者となる一定の要件を充足する従業員及び退職者に分配することを目的として設定されています (以下、本件信託を利用するスキームを「本件信託スキーム」といいます。)。
本件信託については、平成23年12月○日の本件持株会への売却をもって信託財産に属する当社株式の全てが売却され(受益権確定事由の発生)、その翌日本件信託は終了し、平成24年3月○日を受益の意思表示の期限として、平成24年4月○日に各受益者に残余財産(以下「本件分配金」といいます。)が交付される予定です。
本件信託スキームに関して、所得税法及び法人税法上、次のとおり取り扱ってよろしいか照会します。

  • (1) 所得税法上の取扱いについて
    • イ 本件分配金の所得区分について
      当社の従業員、当社の退職者、子会社の従業員及び子会社の退職者に交付される本件分配金は、いずれも給与所得となる。
    • ロ 本件分配金の収入すべき時期について
      本件分配金の収入すべき時期は、受益者が確定する平成24年3月○日となる。
    • ハ 非居住者に交付される本件分配金の取扱いについて
      本件分配金が非居住者に交付される場合には、当該非居住者に係る本件分配金の額に、その計算の基準とされた期間のうちに国内において勤務した期間の占める割合を乗じて計算した金額が国内源泉所得として課税の対象となる。
  • (2) 法人税法上の取扱いについて
    当社は、本件分配金の額をその支払債務が確定する平成24年3月○日を含む事業年度の損金の額に算入する。

なお、本件信託の信託期間中は信託法上の受益者は存在せず、所得税法及び法人税法上、本件信託が当社をみなし受益者(所得税法第13条第2項及び法人税法第12条第2項の規定により受益者とみなされる者をいいます。以下同じです。)とする受益者等課税信託に該当することを照会の前提とします。

(注) 受益者等課税信託とは、所得税法第13条第1項及び法人税法第12条第1項に規定する受益者がその信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなされる信託をいいます。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

当社では、本件持株会を利用し、受益者適格要件を満たした従業員及び退職者を受益者とする本件信託を設定しています。
本件信託においては、当社株式を一括取得の上、当該株式を定期的に本件持株会へ売却し、その売却益及び配当を原資とする信託収益を信託期間終了後に受益者に交付するものであり、その概要は次のとおりです。

  • (1) 本件信託スキームの取引の流れ
    本件信託スキームの取引の流れは、次のとおりです。
    • 1 当社は、受益者適格要件を満たす従業員及び退職者を受益者とする本件信託を設定する。
    • 2 本件信託は、乙銀行から当社株式の取得に必要な資金の借入れを行い、当社が本件信託の借入れについての保証を行う。
    • 3 本件信託は、信託期間内に本件持株会が取得すると見込まれる相当数の当社株式に関する割当てを受け、払込みを行う。
    • 4 本件信託は、信託期間を通じ、毎月一定日までに本件持株会に拠出された金銭(注1)をもって譲渡可能な数の当社株式を、時価で本件持株会に譲渡する。
    • 5 本件信託は、本件持株会への株式売却により受け入れた株式売却代金及び保有株式の配当金をもって乙銀行からの借入金を返済する。
    • 6 信託期間を通じ、受益者の代表として選定された信託管理人が議決権行使等、信託財産の管理の指図を行う。
    • 7  信託終了時に金銭(預金)以外の資産がある場合には換価処分し、借入金等の負債がある場合には信託財産より弁済して残余財産を確定し、その確定した残余財産のうち損失ほてん金(注2)を除く部分の金額を残余財産受益者に対して一定の割合に応じて交付(金銭給付)する。
    • 8 信託終了時に借入金が残っている場合、2の保証契約に基づき当社が弁済する。

(注)

  • 1 本件持株会への拠出額は、1月当たり基本給の15%を上限とし、賞与からは100万円未満とする。
  • 2 損失ほてん準備金とは、本件信託の借入金が債務不履行になった時の損失保証に充てる準備金(借入金が株式の売却代金をもって完済される場合、必ず当社に交付される。)をいう。

《本件信託スキーム図》

本件信託スキーム図

  • (2) 信託契約の内容
    本件信託契約の内容は次のとおりです。
    • イ (残余財産)受益者
      • (イ) 本件信託の受益者は、次に掲げる要件の全てを充足する者(以下「対象受益者」 といいます。)をいい、残余財産の分配を受けることとされています。
        • 1 受益権確定事由発生日(信託の終了事由が発生した日又は信託期間の満了日をいう。以下同じ。)において、対象会社(委託者である当社及びその子会社をいう。以下同じ。)の従業員又は退職者(受益権確定事由発生日までに、定年退職した者、会社都合によって対象会社以外の会社へ転籍した者及び対象会社の役員に就任した者をいう。以下同じ。)であり、かつ、生存していること。
        • 2 信託設定日から受益権確定事由発生日までの期間中、2年以上本件持株会に加入している期間があり、かつ受益権確定事由発生日において本件持株会の加入員(加入員であった退職者を含む。)であること。
        • 3 受益の意思に係る確認書を送付することにより、所定の期日までに受益の意思表示を行っていること。
      • (ロ) 本件信託においては、受益権確定事由発生日後(信託期間終了後)に、本件信託契約に定める手続に従って受託者が所定の期日までに所定の書類を受領したことをもって、本件信託の受益者が確定するものとされ、かかる手続に従って対象受益者が確定するまで、本件信託の受益者は存在しないものとされます。
    • ロ 受益権確定事由
      本件信託において、受益権確定事由は、信託財産に属する当社株式の全てが売却されたことや本件持株会が解散したことなど一定の事由により本件信託が終了する場合及び信託期間満了日が到来する場合とされています。
    • ハ 信託財産の交付
      対象受益者は、受益権確定事由発生日(退職者については、本件持株会の加入資格を喪失した日)において対象受益者が保有する株式の数のうち本件持株会を通じて信託期間中に購入し増加した当社株式の数を基準とする分配割合に応じ、残余財産のうち損失ほてん準備金の残高を除く部分が金銭で交付されます。

3 事前照会者の求める見解となることの理由

本件信託スキームにおいては、本件信託の信託期間終了後の所定の期日において残余財産受益者である対象受益者が確定することから、本件信託の信託期間中は信託法上の受益者は存在せず、所得税法及び法人税法上、当社をみなし受益者とする受益者等課税信託に該当することを前提とすれば、本件分配金は、みなし受益者である当社から本件信託の受益者となった従業員等に対してその所定の期日において信託財産の移転があったものとして、次のとおり取り扱われることとなると考えます。

  • (1) 所得税法上の取扱いについて
    • イ 本件分配金の所得区分について
      • (イ) 当社の従業員に対するもの
        本件分配金は、本件持株会を通じて信託期間中に購入し増加した当社株式の数を基準に計算され、提供した労務の程度に直接応じたものとはなっておりませんが、本件信託は、従業員に対し株価上昇による利益を享受するといった精勤のインセンティブを与えるとともに、従業員の資産形成の助成という福利厚生を目的とするものです。
        この点は、持株会に参加する従業員が使用者から支給される奨励金と類似しているとともに、当社の従業員としての地位に基づき、その使用者から受ける給付である以上、給与所得と取り扱うのが相当であると考えます。
      • (ロ) 当社の退職者に対するもの
        当社の退職者に対する本件分配金には、退職後に生じた株式売却益及び配当金もその交付額の計算の基礎に含まれるため、従業員であった期間の勤務に関連を有しない利益も含まれます。
        しかしながら、本件信託は、上記(イ)のとおり、従業員に対する精勤のインセンティブや福利厚生を目的として、当社又はその子会社に在籍する者を対象に実施するものです。本件分配金の収入すべき時期において当社を退職している者と当社との間に雇用関係はないものの、信託期間中退職する日まで、2年以上の期間当社の従業員であったこと(本件持株会に加入していたこと)及び本件持株会を通じて当社株式を購入したことに基因して本件分配金の交付を受けるものです。
        また、対象受益者に受益権確定事由発生日以前に自己都合により退職した者は含まれず、定年退職、転籍又は役員等への就任により退職した者に限って対象受益者に含めていますが、このことは、会社の都合により退職した者に不利益とならないよう、引き続き勤務する従業員と同様に取り扱う趣旨によるものです。
        したがって、当社の退職者に対して交付される本件分配金は、当社の従業員として勤務したことに関連して当社(勤務先)から受ける給付であることから、従業員と同様に給与所得と取り扱うのが相当と考えます。
        なお、本件分配金は、他の引き続き勤務している者に支払われるものと同じ基準で計算することとしているため、退職所得には該当しないものと考えます(所得税基本通達30-1)。
      • (ハ) 子会社の従業員に対するもの
        本件信託は、持株会社である当社が、当社の従業員だけではなく、子会社の従業員に対しても精勤のインセンティブを与えるとともに、資産形成の助成という福利厚生を目的としており、また、当社と子会社の従業員とはその支配関係を通じて雇用契約に類する関係にあり、その関係に基づき支払を受けるものです。
        したがって、子会社の従業員が受ける本件分配金についても、当社の従業員が受けるものと同様に、給与所得と取り扱うのが相当と考えます。
        なお、本件分配金に係る支払債務を負い、かつ、実際にその支払を行うのは当社であることから、源泉徴収義務者は当社になると考えます。
      • (ニ) 子会社の退職者に対するもの
        子会社の退職者に対する本件分配金については、上記(ロ)及び(ハ)と同様の理由から、給与所得として取り扱うのが相当であると考えます。
    • ロ 本件分配金の収入すべき時期について
      本件分配金の交付を受けることとなる対象受益者は、本件信託の信託期間終了後、必要書類等を受託者に送付することにより、所定の期日までに受益の意思表示を行っていることが要件の一つとされ、かかる手続によって確定します。
      したがって、対象受益者は、その所定の期日である平成24年3月○日において本件分配金(報酬)に係る請求権が確定し取得すると考えられることから、その収入すべき時期は、平成24年3月○日となり、また、給与所得となる本件分配金について実際に支払が行われる際に、当社は源泉徴収をする必要があると考えます。
    • ハ 非居住者に交付される本件分配金の取扱いについて
      本件分配金の交付を受けることとなる対象受益者の要件(上記2の(2)イ)及びその計算方法(上記2の(2)ハ)からすれば、本件分配金は、本件信託設定日又は本件持株会に加入した日のいずれか遅い日から受益権確定事由発生日(退職者については、本件持株会の加入資格を喪失した日)までの期間を基準に計算されることとなります。
      したがって、本件分配金が非居住者に交付される場合には、当該非居住者に係る本件分配金の額に、その計算の基準とされた上記の期間のうちに国内において勤務した期間の占める割合を乗じて計算した金額が国内源泉所得として課税の対象となると考えます。
  • (2) 法人税法上の取扱いについて
    本件分配金は、上記(1)のとおり、対象受益者において従業員としての勤務に係る給与として取り扱われるものであり、対象受益者が確定する平成24年3月○日にその請求権が確定すると考えられることから、当社においては、本件分配金の額をその支払債務が確定する平成24年3月○日を含む事業年度の損金の額に算入することとなると考えます。