別紙

1 事前照会の趣旨

当社の退職金制度は、退職一時金、確定給付企業年金、確定拠出年金から構成されており、当社の退職給付規則等に定められた方法により計算し、対象者に支給しています(以下、当社から支給される退職一時金を「本件退職一時金」といいます。)。
 今般、当社は、安定的に雇用を確保しながら事業を前進させる必要があることに加え、高年齢者安定雇用の確保という社会情勢や労働組合の要望を踏まえ、労働組合との合意により労働協約書等を改定し、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき満60歳に達した月の末日としていた従業員の定年を、満60歳から満65歳までの間で従業員が選択したいずれかの年齢に達した月の末日に延長することとしました(以下、労働協約書等の改定後の従業員が選択した定年年齢を「選択定年年齢」といい、改定後の定年制度を「本件定年制度」といいます。)。
 当社は、これまで、定年年齢(60歳)に達した月の翌月末までに本件退職一時金を支給してきましたが、本件定年制度においては、原則として、選択定年年齢に達した月の翌月末までに本件退職一時金を支給することとしました。しかしながら、本件定年制度の制定前に入社した従業員のうち、満60歳に達した月の翌月末までに一時金の支給を希望する従業員(以下「本件希望者」といいます。)に対しては、選択定年年齢にかかわらず、本件退職一時金の代わりに一時金(以下「本件一時金」といいます。)を支給することとしました。
 この本件一時金は、引き続き勤務する従業員に対して支給するものであり、本来の退職所得とはいえませんが、所得税基本通達30-2(5)《引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの》に定める給与に該当し、退職所得として取り扱って差し支えないか照会いたします。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 本件一時金を支給することとした経緯

  本件定年制度の導入に当たり、一部の従業員から、「満60歳を迎えたときに本件退職一時金が支給されることを前提にマイホームローンや子の教育ローンの返済を計画する等の生活設計をしており、本件定年制度が導入され、選択定年年齢を61歳から65歳までのいずれかとすると、本件退職一時金の支給が延長され、不都合が生じること」(以下「本件支給事由」といいます。)を理由として、満60歳の時に本件退職一時金の支給を受けたいとの要望を受けました。
 当社としては、本件定年制度の導入前後において、本件退職一時金の支給金額が同額であるにもかかわらず、定年延長の結果、その支給時期が延期されるという不利益が従業員に生じる中で、本件支給事由に係る不都合に対して特に配慮する必要があったことから、本件希望者に対して、満60歳の時に本件一時金を支給することとしました。

(2) 本件定年制度について

  本件定年制度において、本件退職一時金及び本件一時金は、いずれも満60歳に達した月の末日までの期間を基礎として計算され、定年を延長した期間は計算の基礎に含めません。
 また、本件希望者は、満59歳に達した月の末日までに選択定年年齢を選択し、当社が指定した期日(満60歳に達した月の末日の2、3週間前)までに本件一時金の支給希望について、本件支給事由を申請書に記載し、当社に提出します。当社は、これを受け、本件希望者に対して本件一時金を支給します。
 そして、本件一時金を支給した後、本件希望者に退職を理由とした一時金を支給することはありません。
 なお、確定給付企業年金制度について、加入者の資格喪失の時期(60歳に達した日の翌日)及び老齢給付金の支給を請求できる年齢(60歳以上)に変更はなく、また、確定拠出年金制度についても、加入者の範囲(60歳未満)、加入者の資格喪失の時期(60歳に達したとき)及び老齢給付金の支給を請求できる年齢(60歳以上)に変更はありません。

3 事実関係に対して事前照会の求める見解となることの理由

(1) 法令等について

  所得税法第30条第1項《退職所得》は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」といいます。)に係る所得をいう旨規定しています。
 また、所得税基本通達30-2(5)は、引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給与のうち、1労働協約等を改正していわゆる定年を延長した場合において、2延長前の定年(以下「旧定年」といいます。)に達した使用人に対し旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与であり、3その支払をすることにつき相当の理由があると認められるもので、4その給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるものは、退職手当等とする旨定めています。

(2) 本件一時金の所得区分について

  上記1及び2(2)のとおり、当社は、労働組合との合意により労働協約等を改定して旧定年を延長し、本件希望者に対して旧定年である満60歳に達した月の末日までを基礎として本件一時金の計算をすることとしていますので、本件一時金は「旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与」であると考えます(上記(1)1及び2)。
 また、当社は、本件一時金を支給した後、本件希望者に退職を理由とした一時金を支給しないことから、本件希望者に対して旧定年時までの勤続期間を加味した一時金が支給されることもありませんので、本件一時金は、いわゆる打切支給の退職手当等であると考えます(上記(1)4)。
 そして、本件一時金は、次のイないしニのことからすると、その支払をすることにつき「相当の理由がある」ものと考えます(上記(1)3)。
 したがって、本件一時金は、退職手当等に該当し、退職所得として取り扱って差し支えないものと考えます。

  • イ 本件一時金は、入社時から、旧定年(満60歳)を迎えたときに本件退職一時金が支給されることを前提に生活設計をしてきた本件希望者の事情を踏まえ、旧定年時において精算を行うものであること。
  • ロ 本件定年制度導入前後において、本件退職一時金の支給金額が同額であるにもかかわらず、その支給時期が延期されるという不利益が従業員に生じる中で、本件支給事由に係る不都合に対して雇用主として特に配慮する必要があること。
  • ハ 本件一時金は、本件定年制度導入前に入社した従業員のうち希望者(本件希望者)に対して支給されるものであり、その支給時期も旧定年時に限られていること。
  • ニ 本件定年制度導入前において、旧定年時(満60歳)に支給されていた本件退職一時金は、長期間勤務したことに対する報償及び旧定年時以後の生活保障としての性格を有するものであるところ、本件一時金もその性格を有するものであることに変わりはないと考えられること。