別紙1-1 事前照会の趣旨

A社を退職した被相続人甲(以下「甲」といいます。)は、在職中に従事した業務により石綿に起因する傷病に罹患し、平成23年1月○日に死亡しました。甲の死亡後、甲の妻である乙(以下「乙」といいます。)は、A社との間で所定の手続を経た上で、A社の定める「じん肺等に関する弔慰金・見舞金支給取扱細則」(以下「本件取扱細則」といいます。)に基づき、特別見舞金(以下「本件見舞金」といいます。)及び業務上死亡弔慰金(以下「本件弔慰金」といいます。)を受給することとなりました。
 本件取扱細則に定める特別見舞金は、従業員又は退職者が、在職中の業務に起因して石綿による傷病に罹患し、業務上の負傷又は疾病により労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」といいます。)第12条の8第1項第2号に規定する休業補償給付を受給した場合に一時金として支給されるものです。
 また、本件取扱細則に定める業務上死亡弔慰金は、退職者が、在職中の業務に起因して石綿による傷病に罹患し、労災保険法第7条第1項第1号に規定する業務上の死亡と認定(以下「労災認定」といいます。)された場合に、その遺族に対して一時金として支給されるものであり、退職者が既に特別見舞金の支給を受けている場合には、本件取扱細則に定める業務上死亡弔慰金の金額から既に支給された特別見舞金との差額が支給されることとなります。
 以上のことからすると、乙が受給する本件見舞金及び本件弔慰金に係る相続税及び所得税の課税上の取扱いについては、次のとおりとなると解してよろしいか照会いたします。

【本件見舞金及び本件弔慰金に係る課税上の取扱い】

1 本件見舞金

(1) 相続税関係
 相続税の課税対象となる。
(2) 所得税関係
 非課税となる。

2 本件弔慰金

(1) 相続税関係
 相続税の課税対象とならない。
(2) 所得税関係
 非課税となる。

別紙1-2 事前照会に係る取引等の事実関係

1 本件取扱細則の定め

(1) 目的(第1条)
  1. イ 退職者が、在職中の業務に起因してじん肺症、じん肺との合併症又は石綿による疾病に罹患し、業務上死亡もしくは身体障害を受けた場合に業務上死亡弔慰金及び特別見舞金の補償を行う(第2項)。
  2. ロ 本件取扱細則は、「弔慰金・見舞金等支給規程」の特別取扱として定める(第3項)。
(2) 労災保険法等の準用(第3条)
法定給付の内容、業務上・外の認定、身体障害の等級及びその認定、弔慰金受給遺族の範囲及び順位等については、すべて労災保険法、同施行規則、労働者災害補償保険特別支給金支給規則並びに労働基準法、同施行規則に定めるところによる。
(3) 業務上死亡弔慰金(第4条)
退職者が石綿に起因する傷病に罹患し、業務上死亡したものとして労災認定された場合においては、死亡時点の年齢にかかわりなく○○○万円を支給する(第3項)。
(4) 特別見舞金(第5条)
従業員又は退職者が石綿に起因する傷病に罹患し、業務上の負傷・疾病により労災保険法上の休業補償給付を受給した場合には、○○○万円を支給する(第4項)。
(5) 差額補償(第8条)
退職者が補償を受けた後に死亡した場合は、既に支給している特別見舞金と業務上死亡弔慰金との差額を支給する。

2 本件の事実関係

(1) 時系列
平成15年9月○日
甲がA社を退職
平成21年3月○日
甲ががん摘出手術を受ける。その際、石綿被害によるがんであることが判明
平成22年12月○日
在職中に従事した業務により石綿に起因する傷病に罹患したものと認定されたことにより、甲に対し、労災保険法第12条の8第1項第2号に規定する休業補償給付の支給が開始
平成23年1月○日
甲が死亡
平成23年3月○日
乙がA社との間で本件見舞金及び本件弔慰金の支給に係る「合意書」を締結
(2) 本件見舞金について
  1. イ 上記(1)のとおり、甲は平成22年12月○日から労災保険法第12条の8第1項第2号に規定する休業補償給付を受けていましたが、生前に本件取扱細則に定める特別見舞金の支給に係る手続をとることなく平成23年1月○日に死亡したため、A社の手続に則り、乙がA社との間で、平成23年3月○日に本件見舞金の支給に係る「合意書」(以下「合意書」といいます。)を締結し、締結日から1か月以内に本件見舞金として一時金が支払われることとなりました。
  2. ロ 特別見舞金の支給に係る手続前にその支給要件を満たしている従業員が死亡した場合には、その遺族が特別見舞金の支給を受けることとなりますが、本件取扱細則においては、その支給を受けることができる遺族の範囲及び順位について、特段の定めは置かれていません。
(3) 本件弔慰金について
  1. イ 上記(1)のとおり、甲は在職中の業務に起因して石綿による傷病に罹患し死亡しましたが、甲の死亡が業務上の死亡であることについて、現在、乙が労災認定に係る所定の手続を進めているところです。
  2. ロ A社は、甲の業務上の死亡についての労災認定がされ次第、速やかに、本件取扱細則に定める業務上死亡弔慰金と本件見舞金との差額を本件弔慰金として乙に支払うこととしており、この内容については、乙とA社との間で締結された「合意書」に盛り込まれ、両者の間で合意しています。
  3. ハ 業務上死亡弔慰金の支給を受ける遺族の範囲及び順位は、上記1(2)のとおり、本件取扱細則第3条において、労災保険法の定めるところによることとされており、労災保険法は、遺族補償一時金を受けるべき者の範囲及び順位について、民法に規定する相続人の範囲及び相続人の順位決定の原則とは異なる定め方をしています(労災保険法16の7)。
(4) 本件見舞金及び本件弔慰金については、A社の定める退職給与規程に基づく退職金とは別個に支給されるものです。

別紙1-3 事前照会者の求める見解となることの理由

1 本件見舞金

(1) 相続税
別紙1-2の1(4)のとおり、本件取扱細則に定める特別見舞金は、従業員又は退職者が、在職中に従事した業務により石綿による傷病に罹患し、業務上の負傷又は疾病により労災保険法第12条の8第1項第2号に規定する休業補償給付を受給した場合に支給されるものです。
 そして、別紙1-2の2(1)のとおり、退職者である甲は、平成22年12月○日に労災保険法上の休業補償給付が開始されていることから、同日において甲は特別見舞金の支給要件を満たし、本件見舞金の支給請求権を取得しているものと考えられます。
 また、特別見舞金の支給に係る手続前にその支給要件を満たしている従業員又は退職者が死亡した場合には、その遺族が特別見舞金の支給を受けることとなりますが、別紙1-2の2(2)ロのとおり、本件取扱細則においては、その支給を受けることができる遺族の範囲及び順位について、特段の定めは置かれていません。このため、本件見舞金の支給請求権は、遺族が相続開始のときに、承継的に取得する財産であると考えられます。
 以上のことからすると、照会の場合においては、本件見舞金に係る請求権について、甲の本来の相続財産として相続税の課税対象となるものと考えます。
(2) 所得税
本件見舞金は、被相続人が生前に石綿に起因する傷病に罹患し、業務上の負傷・疾病により労災保険法上の休業補償給付を受給したことを支給要件とするものであり、被相続人が支払を受けるべきものです。
 したがって、本件見舞金は被相続人において所得税の対象となりますが、心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金及び相当の見舞金に該当し、非課税所得となるものと考えます(所得税法第9条第1項第17号、同法施行令第30条)。
 また、相続人に支払われる本件見舞金は、相続人においても、上記(1)のとおり相続によりその権利を取得することによるものであることから、非課税所得になるものと考えます(所得税法第9条第1項第16号)。

2 本件弔慰金

(1) 相続税
業務上死亡弔慰金の支給を受ける遺族の範囲及び順位は、別紙1-2の1(2)のとおり、本件取扱細則第3条において、労災保険法の定めるところによることとされています。そして、労災保険法は、遺族補償一時金を受けるべき者の範囲及び順位について、例えば、配偶者には婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者が含まれるなど、民法に規定する相続人の範囲及び相続人の順位決定の原則とは異なる定め方をしています(労災保険法16の7)。
 したがって、本件弔慰金は、甲の死亡に基因してその遺族が原始的に取得するものと認められるため、本来の相続財産には該当しないものと考えます。
 また、本件弔慰金は、別紙1-2の1(3)のとおり、退職者である甲が、在職中の業務に起因して石綿による傷病に罹患し、業務上の死亡と労災認定された場合に、その遺族に対して支給されるものであることからすれば、本件弔慰金は、相続税法基本通達3-23(13)の定めに該当するものであり、相続税法第3条第1項第2号に規定する退職手当金等には当たらないものと考えます。
 以上のことから、本件弔慰金は相続税の課税対象とならないものと考えます。
(2) 所得税
相続人が支払を受ける本件弔慰金については、退職者である甲の死亡が、在職中の業務に起因して石綿による傷病に罹患し、業務上の死亡であることについて労災認定がされた場合に、その遺族に対して支給されるものです。
 したがって、本件弔慰金は、心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金及び相当の見舞金に該当し、非課税所得となるものと考えます(所得税法第9条第1項第17号、同法施行令第30条)。