1 事前照会の趣旨

犯罪被害者等基本法第13条では、国及び地方公共団体は、犯罪被害者等が受けた被害による経済的負担の軽減を図るため、犯罪被害者等に対する給付金の支給に係る制度の充実等必要な施策を講ずることとされていますが、このたび、宮城県名取市では、犯罪被害者等に対する総合的な支援を推進し、犯罪被害者等が受けた被害の早期軽減を図ること等を目的として、「名取市犯罪被害者等支援条例」(以下「本件条例」といいます。)を制定しました。
 本件条例に基づき、犯罪被害者等に対して支払われる支援金(以下「本件支援金」といいます。)には、下記2(2)ロの表に記載の3種類の支援金がありますが、犯罪被害者等がそれぞれの支援金を受領した場合の課税関係について、下記3のとおり解して差し支えないか照会します。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 本件条例制定の背景

犯罪被害者等基本法第8条では、犯罪被害者等のための施策の推進を図るため、 犯罪被害者等基本計画を定めることとされ、令和3年3月に策定された第4次犯罪被害者等基本計画においては、重点課題に係る具体的施策の一つとして、警察庁において地方公共団体に対し犯罪被害者等に対する見舞金等の支給制度の導入を要請することが挙げられています。
 これを受け、宮城県警察より名取市に対し、この見舞金等の支給制度の導入について要請があったことから、本件条例を制定することとなりました。

(2) 本件条例の概要

イ 本件条例の目的

犯罪被害者等基本法の趣旨にのっとり、犯罪被害者等の支援に関し必要な事項を定めることにより、犯罪被害者等に対する総合的な支援を推進し、犯罪被害者等が受けた被害の早期軽減を図るとともに、市民が安全で安心して暮らすことができる地域社会の実現に寄与することを目的としています。

ロ 本件支援金の金額及び支給対象者

本件支援金の金額及び支給対象者については、本件支援金の種類に応じて次表のとおりです。

なお、本件支援金を支給することが適切でないと認められる事情等がある場合には、本件支援金を給付しないことができます。

本件支援金の種類 支給額 支給対象者
遺族一時支援金 30万円 犯罪行為により死亡した者の
遺族である市民
傷病一時支援金 10万円 犯罪行為により傷病
被害を受けた市民
死体検案費用支援金 上限10万円
(死体検案書料を除く
死体検案に要した費用)
犯罪行為により死亡した者の
遺族である市民

※ 傷病とは、医師の診断により療養の期間が1月以上を要する場合であって、3日以上病院に入院することを要した負傷又は疾病(当該疾病が精神疾患である場合にあっては、その症状の程度が3日以上労務に服することができない程度であったもの)をいいます。

(3) 死体検案費用支援金について

イ 支給額について

死体検案費用支援金は、遺族である市民が死体検案に要した費用のうち、死体検案書料を除く実費相当額について10万円を限度に支給するものです。
 なお、死体検案書料は、宮城県警察が公費で負担しており、死体検案費用支援金の支給金額の対象には含まれていません。

ロ 死体検案について

戸籍法第86条において、人が死亡した場合の届出には、やむを得ない事由によって診断書又は検案書を得ることができない場合を除き、診断書又は検案書を添付しなければならないことが規定されています。
 また、「令和4年度版 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」(厚生労働省)によれば、死亡診断書及び死体検案書は、人の死亡に関する医学的・法律的証明であり、死亡者本人の死亡に至るまでの過程を可能な限り詳細に論理的に表すものとされ、医師は、自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合には死亡診断書を交付しそれ以外の場合には死体検案書を交付することとされています。
 したがって、「死体検案書」は、「死亡診断書」と比べて死亡者を診察していない状況下でその死亡に至る過程の詳細を示して作成しなければならない分、書類作成に先立って行われる役務提供の内容も自ずと異なり、その費用も大きくなることが想定されます。

3 事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由

心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金及びこれに類するものは、事業所得等に係る収入金額に代わる性質を有するもの、役務の対価たる性質を有するもの及び必要経費に算入される金額を補填するためのものを除き、所得税を課さないこととされています(所得税法第9条第1項第18号、所得税法施行令第30条第3号)。また、災害等の見舞金で、その金額がその受贈者の社会的地位、贈与者との関係等に照らし、社会通念上相当と認められるものについては、所得税法施行令第30条の規定に基づき、課税しないものと取り扱われています(所得税基本通達9−23)。
 この点、本件支援金は、いずれも、犯罪被害者等が受けた被害の早期軽減を図ることを目的として支給するものであり、「見舞金」としての性格を有しており、また、それぞれ次のような損害が生じており、このような損害が生じたことに伴い地方公共団体がその市民に対して支払う見舞金として社会通念上相当であると考えます。

本件支援金の種類 損害の内容
遺族一時支援金 犯罪行為により被害者が死亡したことにより遺族に生じた精神的損害
傷病一時支援金 犯罪行為により被害者が受けた相当程度(療養期間1月以上、病院等への入院など)の傷病の被害
死体検案費用支援金 犯罪行為により被害者が死亡して、遺族が突発的に支出を余儀なくされた死体検案に要する費用

したがって、本件支援金は、いずれの支援金も、心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金に該当し、また、事業所得等に係る収入金額に代わる性質を有するもの、役務の対価たる性質を有するもの及び必要経費に算入される金額を補填するためのものでないことから、非課税所得に該当するものと考えます。