1 事前照会の趣旨

 個人甲は、上場会社である乙株式会社(以下「乙社」といいます。)の元代表取締役ですが、この度、乙社の業績悪化についての経営責任を明確にするため、乙社に対し甲が所有する乙社株式を相対取引により無償譲渡(贈与)しました。
 この無償譲渡については、当該無償譲渡時の時価により、乙社株式の譲渡があったものとみなされますが、乙社株式の無償譲渡時の時価が乙社株式の取得費及び譲渡費用の合計額に満たないため、譲渡損失が生じることとなります。
 この場合、甲の乙社株式の相対取引による無償譲渡は、乙社の自己の株式の取得であり、租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第37条の12の2《上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除》(以下「本件特例」といいます。)第2項第4号の「(措置法)第37条の10第3項又は第4項各号に規定する事由による上場株式等の譲渡」に該当し、本件特例の適用があると解して差し支えないでしょうか。
 なお、甲は、乙社株式の乙社への無償譲渡に当たり金銭及び金銭以外の資産のほか何らの経済的利益を受けていないことを申し添えます。

2 事実関係

(1) 乙社
 昭和○年 設立
 平成○年 ジャスダック市場 上場

(2) 甲の乙社株式一株当たりの取得価額
 1500円

(3) 無償譲渡時における乙社株式の一株当たりの株価(時価)
 1200円

3 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 個人が法人に対し、譲渡所得の基因となる資産を贈与した場合には、当該資産の贈与時における時価により、当該資産の譲渡があったものとみなされることとなります(所法591一)。このため、個人株主が株式発行法人に対し、当該法人の株式を無償譲渡した場合、当該無償譲渡時における時価により当該株式の譲渡があったものとみなされることとなります。
 また、譲渡所得の基因となる資産の贈与時の時価が当該資産の取得費及び譲渡費用の合計額に満たない場合には、譲渡損失が生じることとなります。

(2) 本件特例の適用対象となる上場株式等の譲渡として、措置法第37条の12の2第2項第4号は、「(措置法)第37条の10第3項又は第4項各号に規定する事由による上場株式等の譲渡」と規定しています。
 そして、措置法第37条の10第3項第4号は、法人の株主等がその法人の自己の株式又は出資の取得(金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の一定の取得を除きます。以下同じです。)により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額と規定し、当該合計額のうち所得税法第25条第1項の規定に該当する部分の金額(配当等とみなす金額)を除き、株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額とみなされます(措法37の103)。
 ところで、措置法第37条の12の2第2項第4号に規定する「(措置法)第37条の10第3項又は第4項各号に規定する事由」とは、同法第37条の10第3項第4号については「法人の自己の株式又は出資の取得」が該当することとなるものと考えます。
 したがって、個人が上場株式発行法人に対して当該上場株式を相対取引により無償譲渡した場合、当該法人の自己の株式の取得に当たるため、「(措置法)第37条の10第3項又は第4項各号に規定する事由」に該当し、また、上場株式等の譲渡に該当することから、当該法人から交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額がなかったとしても、措置法第37条の12の2第2項第4号の「(措置法)第37条の10第3項又は第4項各号に規定する事由による上場株式等の譲渡」に該当し、本件特例の適用があるものと考えます。

(3) 照会の場合、甲の乙社株式の相対取引による無償譲渡は、乙社の自己の株式の取得であり、また、上場株式等の譲渡に該当することから、措置法第37条の12の2第2項第4号の「(措置法)第37条の10第3項又は第4項各号に規定する事由による上場株式等の譲渡」に該当し、本件特例の適用があるものと考えます。