• 1 事前照会の趣旨
     当社では、平成21年から、投資一任(ラップ)口座を特定口座として開設することを予定しています(以下、特定口座として開設された投資一任口座を「特定ラップ口座」といいます。)。
     この場合、居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者(以下「居住者等」といいます。)が、既に当社において特定口座を開設している場合(以下、この特定口座を「既設特定口座」といいます。)における特定口座の取扱いについては、次のとおりとなると解して差し支えないか、ご照会申し上げます。
    • (1) 既設特定口座を保有している居住者等が特定ラップ口座を開設しようとする場合、既設特定口座と特定ラップ口座を同時に保有することはできません。
    • (2) 上記(1)で既設特定口座と特定ラップ口座とを同時に保有することができないため、既設特定口座を廃止する場合、特定ラップ口座の開設は、既設特定口座についての特定口座廃止届出書の提出があった日の翌日以降することができます。
       ただし、平成22年1月1日以後に特定口座廃止届出書を提出する場合は、特定ラップ口座の開設は、既設特定口座についての特定口座廃止届出書の提出があった日と同日にすることができます。
    • (3) 上記(2)の特定ラップ口座の開設を年の中途に行う場合において、廃止する既設特定口座で源泉徴収制度を選択している場合であっても、特定ラップ口座について、改めて源泉徴収制度の適用を受けるか否かを選択することができ、源泉徴収制度を選択する場合には、特定ラップ口座についての特定口座源泉徴収選択届出書を提出する必要があります。
  • 2 事前照会に係る取引等の事実関係
     ラップ口座とは、信託銀行や証券会社が顧客の大まかな指示に基づいて資金を運用管理する口座であり、株式や債券、投資信託などで運用するが、個別銘柄の選択や売買のタイミングなどは顧客の同意を逐一取り付けなくても済むため、機動的な運用ができるとされています。
  • 3 事前照会者の求める見解となることの理由
    • (1) 上記1(1)について
       居住者等が特定口座を設定する場合には、口座を設定しようとする金融商品取引業者等の営業所の長に対し、最初に上場株式等を当該口座に受け入れる時又は当該口座において最初に信用取引を開始する時のいずれか早い時までに、特定口座開設届出書を提出しなければなりません(措法37の11の33一、措令25の10の26)が、金融商品取引業者等の営業所の長は、当該金融商品取引業者等に既に特定口座を開設している居住者等から重ねて提出された特定口座開設届出書については受理することができない、いわゆる「1金融商品取引業者等1口座」とされています(措法37の11の35)。
       したがって、本件の場合、当社は、既設特定口座を開設している居住者等から、特定ラップ口座を開設するための特定口座開設届出書を受理することはできないため、既設特定口座と特定ラップ口座を同時に保有することはできないと考えます。
    • (2) 上記1(2)について
       上記(1)のとおり、居住者等が当社内に特定口座である既設特定口座と特定ラップ口座を同時に保有することはできないため、特定ラップ口座を開設するためには、いったん既設特定口座を廃止しなければなりません。
       ところで、特定口座開設届出書を提出した居住者等が、その提出後、提出に係る特定口座につき租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第37条の11の3《特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例》第1項及び第2項の規定の適用をやめようとする場合には、特定口座廃止届出書を当該口座が開設されている金融商品取引業者等の営業所の長に提出しなければなりません(措令25の10の71)が、その場合、特定口座廃止届出書の提出があった場合には、その提出があった日後にその口座において処理された上場株式等の譲渡又は信用取引等による所得については、措置法第37条の11の3から第37条の11の5《確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得》までの規定は適用されない(措令25の10の72)ことから、特定口座廃止届出書の提出があった日においては、当該届出書に係る特定口座において処理された上場株式等の譲渡等については、措置法第37条の11の3から第37条の11の5までの規定は適用され、特定口座として存在していることになります。
       本件の場合、当社が、既設特定口座についての特定口座廃止届出書の提出があった日に、既設特定口座に残存する株式等について一般口座に移管し廃止手続を行ったとしても、同日において既設特定口座は特定口座として存在しており、「1金融商品取引業者等1口座」を規定した措置法第37条の11の3第5項に反することになるため、当社は、既設特定口座に係る特定口座廃止届出書の提出があった日に、特定ラップ口座についての特定口座開設届出書を受理することはできません。
       したがって、特定ラップ口座の開設は、既設特定口座についての特定口座廃止届出書の提出があった日の翌日以降することができることになると考えます。
       ただし、平成22年1月1日以後に特定口座廃止届出書の提出があった場合には、その提出があった日以後にその口座において処理された上場株式等の譲渡若しくは信用取引等による所得又は同日以後にその口座に受け入れた上場株式等の配当等に係る配当所得については、措置法第37条の11の3から第37条の11の6《源泉徴収選択口座内配当等に係る所得計算及び源泉徴収等の特例》までの規定は適用されない(措令25の10の72、平成20年政令第161号附則22)ことから、特定口座廃止届出書の提出があった日以後は、既設特定口座は特定口座として存在していないものとみることができ、同日において特定ラップ口座の開設があったとしても、「1金融商品取引業者等1口座」を規定した措置法第37条の11の3第5項に反しないものと考えます。
       したがって、平成22年1月1日以後に特定口座廃止届出書を提出する場合は、特定ラップ口座の開設は、既設特定口座についての特定口座廃止届出書の提出があった日と同日にすることができると考えます。
    • (3) 上記1(3)について
       居住者等が、特定口座につき源泉徴収制度を選択する場合には、その年最初に当該特定口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡をする時又は当該特定口座において処理された上場株式等の信用取引等につきその年最初に差金決済を行う時のうちいずれか早い時までに、当該特定口座の特定口座源泉徴収選択届出書を提出しなければならず(措法37の11の41、措令25の10の111)、その選択は年単位であることから、いったん特定口座源泉徴収選択届出書を提出した特定口座については、年の途中でその選択を取り止めることはできません。また、特定口座は「1金融商品取引業者等1口座」であるとされていることからすれば、一の金融商品取引業者等内同一営業所内において、特定口座を廃止した後に、年の途中で新たに特定口座を開設した場合、廃止した特定口座について特定口座源泉徴収選択届出書が提出されていれば、新たに開設された特定口座について特定口座源泉徴収選択届出書が提出されなくても源泉徴収選択口座となるのではないかとも考えられます。
       ところで、源泉徴収制度を選択した特定口座に関する事務の全部が、同一の金融商品取引業者等の他の営業所へ移管された場合(措令25の10の42)又は金融商品取引業者等の事業の譲渡や合併等があったことにより事業の譲渡等を受けた金融商品取引業者等の営業所へ移管された場合(措令25の10の6)には、当該移管された日以後においては、移管前の営業所の長に提出された特定口座源泉徴収選択届出書は、当該移管先の営業所の長に提出されたものとみなされることとされているところ(措令25の10の1114)、このように当初の特定口座源泉徴収選択届出書が引き続き有効とされるのは、金融商品取引業者等内の営業所の移管や事業の譲渡等においては、特定口座自体が移管され同一性が認められるためであり、また、居住者等の手続上の負担を考慮したものと考えられます。
       本件の場合、年の途中で既設特定口座を廃止し、その後、同一の金融商品取引業者等において、特定口座を新たに開設する場合については、居住者等の特定口座廃止届出書又は特定口座開設届出書の提出は法の定めに基づき行われ、また、特定口座源泉徴収選択届出書が提出された特定口座について特定口座廃止届出書の提出があった場合、金融商品取引業者等は、当該特定口座に係る所得税を、当該特定口座廃止届出書の提出があった日の属する月の翌月10日までに、国に納付しなければならない(措法37の11の41、措令25の10の112四)ことからも、廃止される特定口座と新たに開設される特定口座は同一性があるとはいえず、さらには、この場合について、上記の金融商品取引業者等内の営業所の移管や事業の譲渡等の場合のような規定(特定口座について、移管前の営業所の長に提出された特定口座源泉徴収選択届出書を、移管先の営業所の長に提出されたものとみなして、移管先においても引き続き当該特定口座を源泉徴収選択口座として取り扱う旨の規定)は設けられていません。
       したがって、本件の場合、既設特定口座が源泉徴収選択口座であったかどうかにかかわらず、特定ラップ口座について、改めて源泉徴収制度の適用を受けるか否かを選択することができ、源泉徴収制度を選択する場合には、特定ラップ口座についての特定口座源泉徴収選択届出書を提出する必要があると考えます(このため、廃止する既設特定口座と特定ラップ口座との損益通算は、確定申告でなければできないことになります。)。