(1)

私の父(以下「被相続人」といいます。)は、不動産賃貸業を営む個人事業者でしたが、平成26年2月に亡くなりました。
 法定相続人は、私と妻と母(以下「私たち」といいます。)を含む7名(養子を含む。)ですが、その後、同年(平成26年)中に遺産分割協議が成立し、被相続人が営んでいた事業に係る相続財産については、私が3分の2、妻が3分の1の持分を相続し、事業を承継することになりました。
 なお、被相続人が営んでいた事業は、遺産分割協議が成立するまでは法定相続人の7人(以下「共同相続人」といいます。)が共同して営んでいました。

(2)

私は会社員、妻と母は専業主婦なので、いずれの者も平成24年分課税期間(以下「平成24年分」といい、他の年分(課税期間)も同様です。)の課税売上高はなく、この年分を基準期間とする平成26年分については、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定によれば免税事業者となります。

(3)

しかしながら、免税事業者である相続人が、一定規模以上の事業を承継した場合には、消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》により、納税義務は免除されないとされています。
 被相続人は、経常的に課税売上高が1,000万円を超える課税事業者であったことから、私たちは、この規定の適用を受けるものと考えます。
 遺産の分割が行われるまでは、共同相続人が共同して事業を営んでおりましたので、平成26年分に係る消費税の納税義務の有無を判定するに当たり、消費税法基本通達1-5-5《共同相続の場合の納税義務》を適用して被相続人の基準期間(平成24年分)における課税売上高を法定相続分(私と妻は1/12、母は1/2)であん分し、消費税法の規定に従い判定した結果、私たちは、3人とも免税事業者に該当すると判断しました。

(4)

ところで、民法第909条《分割の遡及効》では、遺産の分割は相続開始の時(相続があった日)に遡ってその効力を生ずることとされていますから、私は相続開始の時に遡って、被相続人が営んでいた事業について、私が3分の2、妻が3分の1を承継したことになります。
 私たちの平成26年分の消費税の納税義務の有無について、遺産分割の結果に基づき改めて判定すると、妻と母は免税事業者となりますが、私は課税事業者となります。
 しかし、私も、上記(3)のとおり消費税関係法令等に従い判定した結果、免税事業者に該当すると判定していますので、その判定をし直す必要はなく、免税事業者に該当すると取り扱って差し支えないか照会します。

(1)

本件相続に係る相続人は、被相続人の妻(私の母)、私及び私の妻を含む6人の子(養子を含む。)の計7人で、この相続に遺言はありません。
 共同相続人は、会社員あるいは無職の者であるため、いずれの者も平成24年分の課税売上高はありません。
 被相続人は平成26年2月に亡くなり、その後、同年(平成26年)中に遺産分割協議が成立し、被相続人が営んでいた不動産賃貸業(貸店舗等)を私が3分の2、私の妻が3分の1の持分で承継することとなりました。
 被相続人の平成24年分における課税売上高は、1,700万円です。
 なお、当該課税売上高は、貸店舗等に係る賃貸収入で構成されるものです。

(2)

遺産の分割が行われるまでの間、被相続人が営んでいた事業に供されていた不動産は被相続人名義のままであり、その管理は、遺産の分割前と同様に不動産管理法人に委託していました。
 この不動産賃貸業については、遺産の分割が行われるまでは、民法第898条の規定のとおり、相続財産は相続人の共有に属するという認識の下、共同相続人が共同して事業を営んでおり、不動産賃貸業から生ずる収入は、共同相続人の了承の下、便宜上、私の口座に入金していました。

(1)消費税法の規定等

1 消費税の納税義務者

事業者(個人事業者及び法人)は、国内において行った課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務がありますが、当該事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業者については、納税義務は免除されます(消法51、91)。
 ところで、消費税の納税義務の判定は当該事業者の「課税期間における課税売上高」でなく、「基準期間における課税売上高」という過去の一定期間における課税売上高により行うこととされています。
 これは、消費税は事業者が販売する商品やサービスの価格に含まれて転嫁していくものであることから、その課税期間が課税事業者に該当するかどうか、特に免税事業者から課税事業者となる場合には、事業者自身が事前に予知しておく必要があることによるものと理解しています。
 また、課税事業者となる場合には、消費税法に規定する帳簿の記載などが必要となりますので、これらに対する事前準備や簡易課税制度を選択する、あるいは免税事業者が課税事業者となることを選択する場合は、その課税期間の開始の日の前日までに所定の届出書を納税地の所轄税務署長に提出することなどからも、事前に予知しておく必要があると考えます。

1 その年に相続があった場合の納税義務の免除の特例

その年において相続があった場合において、その年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である相続人(課税事業者を選択している者を除きます。)が、当該基準期間における課税売上高が1,000万円を超える被相続人の事業を承継したときは、当該相続人の当該相続のあった日の翌日からその年12月31日までの間における課税資産の譲渡等については、納税義務を免除しないとされています(消法101)。
 なお、当該規定は、被相続人の基準期間における課税売上高だけで納税義務の有無を判定するものですが、相続があった年に、年の途中から、しかも相続の直後に煩雑な事務処理をしなければならないことにならないように配慮されたものと理解しています。

1 共同相続の場合の取扱い(消基通1−5−5)

上記1の規定を適用する場合において、2以上の相続人があるときには、相続財産の分割が実行されるまでの間は被相続人の事業を承継する相続人が確定しないことから、各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱うこととされています。この場合において、各相続人のその課税期間に係る基準期間における課税売上高は、当該被相続人の基準期間における課税売上高に各相続人の民法第900条各号《法定相続分》等に規定する相続分に応じた割合を乗じた金額とされています。
 なお、この取扱いは、相続人が数人あるときの相続財産は、その共有に属することとされている民法第898条《共同相続の効力》の規定を踏まえ、承継に係る事業についても、各相続人が共同して承継したものとすることが実情に合うことから、各相続人が共同してその事業を承継したものとして取り扱うことを示したものであると理解しています。

(2)納税義務の判定

私の平成26年分に係る納税義務の判定について、上記(1)の1及び1に基づき行いました。

1 私の基準期間(平成24年分)における課税売上高

0円 ≦ 1,000万円

1 私の法定相続分に係る被相続人の基準期間(平成24年分)における課税売上高

1,700万円 × 1/12 ≒ 141万円 ≦ 1,000万円
1及び1ともに1,000万円以下であることから、納税義務はありません(免税事業者)。

(3)相続の遡及効による納税義務の再判定の要否

民法第909条の規定により、遺産の分割は相続開始の時に遡ってその効力を生ずるとされていますから、私の場合、平成26年中に行った遺産の分割により、相続開始の時、すなわち被相続人が亡くなった平成26年2月に被相続人から3分の2の財産を相続により承継したこととなります。
 これに基づき、私の平成26年分の納税義務の再判定を行うと、
 私の相続分に係る被相続人の基準期間(平成24年分)における課税売上高
 1,700万円 × 2/3 ≒ 1,133万円 > 1,000万円
となることから、納税義務は免除されないことになります。
 しかしながら、消費税の納税義務者に該当するかどうかは、上記(1)の1のとおり、事業者自らが事前に予知しておく必要があり、また、上記(1)の1のとおり、相続財産が未分割の場合における納税義務の判定方法が示されています。
 このようなことから、消費税法第10条の適用に当たっては、事業者が、判定時点での適正な事実関係に基づき消費税関係法令等の規定に従って納税義務が判定されたものである場合にはその判定が認められるものと解するのが相当であると考えます。
 したがって、私の場合には、当初に判定したとおり免税事業者に該当するものと取り扱って差し支えないと考えます。