別紙1−1

1 照会の趣旨(法令解釈・適用上の疑義の要約及び事前照会者の求める見解の内容)

平成19年4月施行の改正医療法により、医療法人の非営利性の徹底の観点から、施行後に認可申請を行い設立される社団である医療法人(以下「社団医療法人」といいます。)については、出資持分のある医療法人は設立できないこととされました。これに伴い、持分の定めのない医療法人の活動の原資となる資金の調達手段として基金への拠出を募集することができることとされています(医療法施行規則30の371)。
 当法人は、このような基金を有する持分の定めのない社団医療法人ですが、この基金の税務上の取扱いについて、下記のとおり解して差し支えありませんか。
 なお、照会に係る事実関係及び下記の見解に至った理由は、別紙1−2及び別紙1−3のとおりです。

  • 1 当法人の基金は、法人税法第2条第16号《定義》に掲げる資本金等の額の算出基礎となる「資本金の額又は出資金の額」に該当しない。
  • 2 当法人の事業年度開始の日における基金の額は、消費税法第12条の2《基準期間がない法人の納税義務の免除の特例》に掲げる「資本金の額又は出資の金額」に該当しない。

別紙1-2

2 個別の取引等の事実関係

当法人は、基金を有する持分の定めのない社団医療法人となるべく、平成20年4月29日の設立総会を経て、知事に設立認可申請を行い、平成20年6月26日に設立されました。
 なお、当法人は基金への拠出を募集し、この募集に対して当法人の代表者が個人診療所を経営していた際に有していた資産など13百万円を平成20年5月末までに拠出する旨の申込みを行い、この拠出は申込みどおり履行されております。

別紙1-3

3 2の事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由

1 持分の定めのない社団医療法人における基金制度について

(1) 制度の概要

平成19年4月1日に施行された医療法の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)において剰余金の分配を目的としない医療法人の非営利性が徹底され、出資持分のある医療法人は設立できないこととされました。
 これに伴い、出資持分の定めのない医療法人に必要となるその医療活動の原資となる資金の調達手段として、定款に出資持分の定めのない医療法人に係る基金(以下「基金」といいます。)を引き受ける者の募集をすることができる旨を定めることができるものとされました(医療法施行規則30の371)。

(2) 医療法上の持分の定めのない社団医療法人における基金

医療法上の持分の定めのない社団医療法人における基金とは次のイからヘまでに掲げる特性を有しています。

  • イ 基金とは、社団医療法人に拠出された金銭その他の財産であって、当該社団医療法人が基金の拠出者(以下「拠出者」といいます。)に対して医療法施行規則第30条の37及び第30条の38並びに当該医療法人と拠出者との間の合意の定めるところに従い返還義務(金銭以外の財産については、拠出時の当該財産の価額に相当する金銭の返還義務)を負うものと規定されています(医療法施行規則30の371)。
  • ロ 基金制度は剰余金の分配を目的としないという医療法人の基本的性格を維持しつつ、その活動の原資となる資金を調達し、その財産的基礎の維持を図るための制度であるとされています(平成19年3月30日付医政発第0330051号「医療法人の基金について」(以下「通知」といいます。)第1(1))。
  • ハ 医療法人の議決権については、基金の拠出者が議決権を有する旨の規定はなく、社団医療法人の社員が各1個の議決権を有するものと規定されています(医療法48の4)。
  • ニ 基金制度における経理処理等については、基金の総額及び代替基金(基金の返還をする場合に、返還をする基金に相当する金額を計上するものをいう。以下同じ。)は、貸借対照表の純資産の部に「基金」及び「代替基金」の科目をもって計上することとされています(通知第3)。
  • ホ 社団医療法人が破産手続開始の決定を受けた場合においては、基金の返還に係る債権は、破産法第99条第2項に規定する約定劣後破産債権となることとされています(通知第2「14」)。
  • ヘ 基金の返還に係る債権には利息を付すことができないと規定されています(医療法施行規則30条の372)。

2 法令上の資本金の額又は出資金の額等について

(1) 税務上の資本金の額又は出資金の額等
  • イ 法人税法における資本金の額又は出資金の額
     法人税法第37条《寄附金の損金不算入》の規定など、法人の資本金等の額を基礎として損金算入限度額を算出するような制度において、資本金等の額は資本金の額又は出資金の額に政令で定める金額を加減算して算出することとされています(法法2十六、法令8)。
  • ロ 消費税法における資本金の額又は出資の金額
     消費税法第12条の2《基準期間がない法人の納税義務の免除の特例》の規定により消費税を納める義務が免除されない新設法人に該当するかどうかは、資本金の額又は出資の金額が1000万円以上であるかどうかにより判定することとされています。
(2) 会社法上における資本金又は出資の額
  • イ 株式会社の場合

    会社法上、株式会社における資本金の額は、別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が、当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とされています(会社法4451)。
     また、株式を所有する株主は、その有する株式の引受価額を限度として、一般的に有限責任を負っているとされています(会社法104)。
     さらに、株主は有限責任を負う一方で、次の@からBまでの権利を有することとされています(会社法1051)。

    • @ 剰余金の配当を受ける権利
    • A 残余財産の分配を受ける権利
    • B 株主総会における議決権
  • ロ 持分会社の場合

    持分会社における資本金の額は、社員が出資の履行をした場合には次の1及び2の合計額から3の額を減じて得た額の範囲内で持分会社が資本金の額に計上するものと定めた額が増加するものとされています(会社計算規則531一)。

    • 1 当該社員が履行した出資により、持分会社に対し払込み又は給付がされた財産の価額
    • 2 当該社員が履行した出資により、持分会社に対し払込み又は給付がされた財産の当該払込み又は給付の直前の帳簿価額の合計額
    • 3 当該出資の履行の受領に係る費用の額のうち、持分会社が資本金又は資本剰余金から減ずるべき額と定めた額

    また、持分会社における出資者たる社員は、当該持分会社の財産をもってその債務を完済することができないなどの場合には、連帯して、持分会社の債務を弁済する責任を負うものとして、一般的には、無限責任を負っているものとされています(会社法5801)。
     さらに、社員は無限責任を負う一方で、次の@からBまでの権利を有していることとされています。

    • @ 利益の配当を請求する権利(会社法621)
    • A 残余財産の分配を受ける権利(会社法666)
    • B 持分会社の業務を執行する権利(持分を有する社員が二人以上ある場合には、持分会社の業務は原則として社員の過半数をもって決定することとされています。)(会社法5902

3 検討

(1) 貸借対照表上における基金の経理処理

上記1(2)ニのとおり基金の総額及び代替基金は、出資金の額と同様に、貸借対照表の純資産の部に「基金」及び「代替基金」の科目をもって計上することが定められていることから、税務上も出資金の額に該当するとも考えられます。

(2) 資本金又は出資と基金との比較

上記2(2)のとおり株式会社の株主又は持分会社の社員は、その有する株式の引受価額を限度とした有限責任又は無限責任を負う一方で、次の@からBまでの権利を有しているところです。

  • @ 剰余金又は利益の配当を請求する権利
  • A 残余財産の分配を受ける権利
  • B 株主総会における議決権又は持分会社の業務を執行する権利

これに対して基金の拠出者は、上記1(2)の特性にかんがみると、医療法施行規則の規定及び医療法人との間の合意に基づき返還を受ける権利を有しているものの、有限責任又は無限責任を負っているものではなく、上記@からBまでの権利は有していないこととされています。
 一方、持分の定めのない社団医療法人は、拠出者に対して基金の返還義務を負っているとともに、基金は破産手続開始の決定を受けた場合、拠出者において約定劣後破産債権とされることから、債務と同様の性質を有しているものと認められます。
 したがって、基金の拠出者にとって、基金への拠出額は、出資金の額には該当しないものと考えられます。