大正時代から昭和の初期、都市部では夫婦と子供だけの世帯で会社勤めをするサラリーマン世帯が増加し、定収と定期的な休日を得られる人々が増えました。
 こうしたライフスタイルの中で、都市生活者を中心に余暇を楽しむ娯楽が発展しました。明治以来の歌舞伎や寄席、演劇などの他に、映画やラジオといった娯楽が登場し、昭和初期にはプロ野球の興行も始まりました。また休日には海水浴やハイキングなどの家族旅行も活発に行われるようになり、観光需要に対応した特別列車なども運行されるようになりました。
 インフラの面でも新たなエネルギーとして、電気やガスが都市部を中心に普及し、それに合わせて様々な家電が登場しました。
 こうした生活の都市化に反応したのは地方税でした。第一次世界大戦の影響による物価の上昇を受けて、各地の自治体では様々な地方税を作って財源としました。
 この時期、映画や演劇などの娯楽を対象とする観覧税や興行税など、さまざまな府県税が誕生しました。芸者の花代に課税する遊興税は、多くの府県で導入されました。
 また、まだ一般には普及していなかった物品を対象とする自転車税、扇風機税、ラジオ税、蓄音機税などもありました。地方税ではこの他にも、広告税、金庫税、電柱税など各地で特徴的な税金が多数出現し、課税されていました。
 昭和12(1937)年に日中戦争が始まると、国税にも新しい税金が登場しました。北支事件特別税法や支那事変特別税法により、物品特別税や入場税などが臨時に課税され、通行税も復活しました。これらは昭和15(1940)年に物品税や、入場税、通行税として独立しますが、奢侈品だけでなく地方税と同様に娯楽を対象とするものも含まれ、課税範囲は次第に拡大しました。

自転車鑑札
昭和29(1954)年

自転車鑑札
(画像をクリックすると拡大します。)

(七尾市教育委員会 寄贈)

 こちらのプレートは地方税の自転車税を納めた際に発行された鑑札です。今日一般的に見ることができる自動車のナンバープレートのように自転車の車体に貼り付けていました。
 自転車税は府県税雑種税に分類される車税の一つです。車税の中には自転車税の他にも、人力車税や自動車税などがありました。自転車税などの車税は車税規則に則って全都道府県で課税され、毎年決まった額の税金を納めていました。

俳優鑑札
昭和4(1929)年

俳優鑑札
(画像をクリックすると拡大します。)

(久米 幹男氏 寄贈)

 俳優鑑札は俳優税を納めると交付される免許に相当するものです。俳優税は地方税の一つで、俳優として営業するために納める税金でした。演劇や映画などの大衆娯楽に対する税金には、他にも主催者が納める興行税や、観客が納める観覧税などがありました。観覧税は、劇場や映画館、寄席などの入場券購入時に課税される税金で、府県税雑種税に分類されていました。観覧税は、後に国税の入場税になりました。

大日本俳優一覧
明治37(1904)年

大日本俳優一覧
(画像をクリックすると拡大します。)

(新潟税務署 移管)

 明治37(1904)年に発行された有名俳優の一覧です。
 「団菊左」と呼ばれ、当時絶大な人気を持っていた九代目市川団十郎、五代目尾上菊五郎、初代市川左団次といった歌舞伎俳優を中心に、「オッペケペ節」で有名になった川上音二郎とその妻川上奴(貞奴)など新派劇の俳優やその他の芸人なども掲載されていました。
 一覧は番付表の体裁で作成されており、名前の他に屋号や俳優の報酬、俳優税の等級などが確認できます。

興行税及び観覧税に関する調査
昭和4(1929)年

興行税及び観覧税に関する調査
(画像をクリックすると拡大します。)

(当館 購入)

 この冊子は各地の地方税として課税されていた興行税、観覧税、遊興税など娯楽に対する税金について調べたものです。遊興税は石川県金沢市で初めて導入されました。この税金は芸者の花代や芸者のいる宴会で飲食をした消費金額に対して課税され、多くの道府県で導入されました。

いろいろな地方税

図|いろいろな地方税
(画像をクリックすると拡大します。)

参考文献:『地方税総覧』内務省地方局(内務省地方局、昭和13年)
『現行国税地方税総覧』藤沢 弘(日本租税学会、大正14年)

 明治時代から昭和戦前期にかけて全国の地方自治体では様々な地方税が課税されていました。これらは各府県議会などで採択され、内務省と大蔵省の許可を得て課税されていました。特に雑種税では多種多様な税金が作られていました。

『物品税に就て』と物品税課税物品細目表
昭和13(1938)年

『物品税に就て』
(画像をクリックすると拡大します。)

物品税課税物品細目表
(画像をクリックすると拡大します。)

(蓼沼 堅壽氏 寄贈)

 物品税は昭和12(1937)年に北支事件特別税の一税目として創設されました。翌年の支那事変特別税法で課税範囲が拡大され、昭和15(1940)年に物品税法となりました。物品税は贅沢品や奢侈品とされる物品に課税されました。その後、戦時中には割り箸などにも課税され、税率も高く設定されました。

遊興飲食税のポスター
昭和16-20(1941-1945)年

遊興飲食税のポスター
(画像をクリックすると拡大します。)

(久米 幹男氏 寄贈)

 遊興飲食税は昭和14(1939)年の支那事変特別税の一税目として創設され、昭和15(1940)年に独立して遊興飲食税となりました。この税金は芸者の花代や、飲食料金に対して課税されました。芸者の花代の税率は徐々に引き上げられ、昭和19(1944)年の改正では最高300%になりました。この税の前身となったのが、大正時代に広く普及した地方税の遊興税でした。

取引高税のポスター
昭和23(1948)年

サイダーのラベル
(画像をクリックすると拡大します。)

(税務大学校図書館 移管)

 取引高税は昭和23(1948)年から昭和24(1949)年まで売上金額などに課税された税です。営業者は百分の一相当の印紙を消印して交付しますが、消印された印紙は学校などに集められ、額面に応じた交付金が支給されました。
 しかし印紙納付制度は、取引ごとに相当額の印紙を交付する必要があり、煩雑との批判を招きました。登場から約1年半後の昭和25年1月1日に廃止されました。

目次

はじめに

  1. 文明開化と税
  2. 都市化する生活と税
  3. 高度経済成長の中の税