Ⅰ 事前照会の趣旨・事実関係

1 事実関係の概要

甲は、自身が認知症及び要介護状態となった場合における財産管理等を目的として、甲の推定相続人のうちの一人である実子乙との間で、甲を委託者兼受益者、乙を受託者及び受益者の死亡により信託が終了したときの残余財産帰属権利者として、所有する建物、宅地(以下、建物と併せて「本件不動産」といいます。)及び金銭を信託財産(以下「本件信託財産」といいます。)とする信託契約(以下「本件信託契約」といいます。)を締結します(以下、本件信託契約に係る信託を「本件信託」といいます。)。

2 本件信託契約の概要

本件信託は、本件信託財産の管理、処分及び運用によって、甲の生活、介護、療養及び納税等に必要な資金を給付し、甲の幸福な生活及び福祉を確保すること並びに本件信託財産の円滑な承継を目的としています。
 本件信託契約の定めにおいて、委託者兼受益者である甲の死亡は、本件信託の終了事由の一つとされており、その場合、甲が有していた本件信託に関する委託者及び受益者としての地位及び権利については、以下(1)及び(2)のとおりとなります。

  1. (1) 本件信託に係る委託者の地位は、残余財産帰属権利者として指定されている乙が取得し、委託者の権利については、相続により承継されることなく消滅します。
  2. (2) 本件信託に係る受益者の地位及び権利は、相続により承継されることなく消滅します。

なお、本件信託の終了に伴い、信託の清算を行う清算受託者については、信託終了時点における受託者が指定されています。
 また、甲の死亡により本件信託が終了した場合、本件信託財産については、残余財産帰属権利者として指定されている乙が取得し、甲死亡時点で既に乙が死亡していたときには、乙の子が取得します。
 すなわち、甲死亡時点において乙が生存している場合、乙は、本件信託契約に基づき、甲より本件信託に係る委託者の地位を取得するとともに、本件信託に係る清算受託者及び残余財産帰属権利者となります。

3 照会事項

このような契約関係を前提として、甲の死亡により、甲の相続人である乙が本件信託財産を取得する場合、本件信託契約が終了したことに伴う本件不動産に係る所有権移転登記(以下「本件登記」といいます。)について、登録免許税法第7条《信託財産の登記等の課税の特例》第2項の規定が適用され、相続による所有権の移転の登記とみなして登録免許税が課されると解してよいか、照会します。

Ⅱ Ⅰの事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由

1 法令の規定

登録免許税法第7条第2項(以下「本件特例」といいます。)は、「信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合」(以下「要件1」といいます。)であって、「当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合」(以下「要件2」といいます。)において、「当該受益者が当該信託の効力が生じた時における委託者の相続人(……)であるとき」(以下「要件3」といいます。)と規定していることから、その適用に当たっては、各要件を満たす必要があると考えられます。

2 あてはめ

本件信託契約においては、甲の死亡により本件信託は終了し、受益者の地位及び権利は消滅します。そして、乙は、委託者の地位を取得するとともに、残余財産帰属権利者として本件信託財産を取得します。
 このように、甲の死亡により本件信託は終了し、乙が残余財産帰属権利者として本件信託財産を取得するので、本件登記は上記要件1を満たさないようにも思えます。
 しかしながら、登録免許税法には「受益者」の定義がないので、乙が「受益者」に当たるか否かについては、信託法の定義にて判断することとなります。
 信託法では、「受益者」とは、受益権を有する者をいい、また、「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権及びこれを確保するために信託法の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう旨規定されています。
 そしてまた、信託法では、信託が終了した場合においても、その清算が結了するまで信託はなお存続するものと擬制され、残余財産帰属権利者は当該清算中受益者とみなされる旨が規定されています。
 すなわち、残余財産帰属権利者である乙は、本件信託の清算中、受益者とみなされますので、乙は登録免許税法の「受益者」に該当することとなります。
 よって、本件登記は、本件信託の清算受託者である乙から、本件信託の受益者乙に対する所有権の移転登記であることから、上記要件1を満たすと解するのが相当です。
 また、上記要件2は、本件特例の対象となる信託として、委託者のみが信託財産の元本の受益者となる信託であることをその要件としているところ、本件信託においては、甲が死亡するまでは、委託者甲が受益者であり、また、甲の死亡後は、甲から委託者の地位を取得した乙のみが残余財産帰属権利者(受益者)であることから、同要件についても満たしていると解するのが相当です。
 そして、乙は、本件信託契約の効力が生じた時における委託者である甲の相続人であることから、上記要件3についても満たすこととなります。
 以上のとおり、本件登記については、本件特例の趣旨にも反しておらず、本件特例に係る各要件を全て満たしているものと解されることから、その適用があるものと考えられます。