1 事前照会の趣旨

当社は、平成27年の特許法の改正(平成28年4月1日施行)において設けられた職務発明に係る特許を受ける権利を使用者に原始的に帰属させる制度(以下「使用者原始帰属制度」といいます。)を導入することとし、当社の職務発明規程等(職務発明規程及び同規程の細則を定めた職務発明規程実施細則をいいます。以下同じ。)を改定した上で、職務発明を行った従業員等(社外取締役を除く取締役、正社員、準社員、嘱託社員、派遣社員及び臨時雇をいいます。以下同じ。)に対し、次の(1)から(5)までの区分に該当したときに、それぞれの区分に掲げる補償金(以下「本件各補償金」といいます。)を支給することとしました。

(1)当社が特許を受ける権利を原始取得し、これを特許出願したとき…出願補償金

(2)特許出願(1)に係る特許権の設定の登録がされたとき…登録補償金

(3)登録された特許(2)を当社が実施したとき…実績補償金

(4)登録された特許(2)を当社が他者に実施許諾したとき…実績補償金

(5)特許を受ける権利(1)又は登録された特許(2)を他者に譲渡したとき…譲渡補償金

本件各補償金について、支給を受けた従業員等及び当社における税務上の取扱いは、それぞれ下記3のとおり解して差し支えないか、伺います。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 職務発明制度の概要

イ 職務発明制度は、使用者等(使用者、法人、国又は地方公共団体をいいます。以下同じ。)が組織として行う研究開発活動が我が国の知的創造において大きな役割を果たしていることにかんがみ、使用者等が研究開発投資を積極的に行い得るよう安定した環境を提供するとともに、職務発明の直接的な担い手である個々の従業者等(従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員をいいます。以下同じ。)が、使用者等によって適切に評価され報いられることを保障することによって、発明のインセンティブを喚起しようとするものです。

ロ この職務発明制度は、平成27年の特許法の一部改正に伴い、制度の見直しが行われましたが、この改正前の特許法の規定においては、発明したことによって生ずる特許を受ける権利は自然人である発明者(従業者等)に原始的に帰属することを前提に、使用者等は、従業者等に帰属する特許を受ける権利について、事前に定めた契約・勤務規則等により、従業者等から承継することができるものとし、使用者等が契約・勤務規則等により職務発明に係る特許を受ける権利を承継した場合には、「相当の対価」の支払を受ける権利を従業者等が有するとされていました。

ハ 平成27年の特許法の改正により設けられた使用者原始帰属制度とは、従業者等がした職務発明について、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から使用者等に原始的に帰属することとし(特許法第35条第3項)、従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させたときは、使用者等から「相当の利益」の支払を受ける権利を有することとされています(特許法第35条第4項)。
 この「相当の利益」の内容については、契約、勤務規則その他の定めにおいて定めることができるとされており(特許法第35条第5項)、その定めたところにより支払うことが不合理であると認められない限り、その定めたところによる利益が特許法第35条第4項に規定する「相当の利益」となります(特許法第35条第5項)。
 また、「相当の利益」は、使用者等に対し、契約や勤務規則等に基づき、発明のインセンティブとして、発明成果に対する報いとなる経済上の利益を従業者等に付与する義務を課すものです。
 なお、この改正に係る特許庁の解説によれば、特許法第35条第3項の「契約、勤務規則その他の定め」と、同条第5項の「契約、勤務規則その他の定め」は、概念上別の定めであり、仮に、相当の利益についての定めについて同項の不合理性が肯定された場合でも、それだけをもって、使用者等に当該特許を受ける権利を取得させることについての定め及び同条第3項に基づく権利帰属の有効性が否定されることはなく、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定める場合、第35条第5項に規定されている協議等の手続を行う必要はないものとされています。

(2) 当社の職務発明規程等

当社は、上記(1)のハの使用者原始帰属制度を導入することとし、当社の職務発明規程等を見直した上で、以下のとおり、当社の従業員等がした職務発明に係る特許を受ける権利は、当社に原始的に帰属することとし、特許法第35条第4項の規定により、「相当の利益」の内容として、本件各補償金を支払うこととします。

イ 定義
 職務発明とは、発明がその性質上会社の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為が会社における従業員等の現在又は過去の職務に属する発明をいいます。

ロ 権利の帰属
 職務発明は会社が特許を受ける権利を取得します(ただし、会社がその権利を取得する必要がないと認めたときは、この限りではありません。)。
 なお、会社が取得するに当たっては当該職務発明の発明者に対し相当の利益を付与するものとし、次のハの区分に応じ本件各補償金を支払うものとします。

ハ 補償金の支払

(イ)会社が特許を受ける権利を原始取得し、これに基づき特許出願したときは「出願補償金」として1万円を支払います。

(ロ)上記(イ)の特許出願に係る特許権の設定の登録がされたときは「登録補償金」として3万円を支払います。

(ハ)会社が上記(ロ)の登録された特許を実施したとき又は他者に実施許諾したときは「実績補償金」として、会社が得た収益の額又は会社が受けた実施許諾料の額に応じて、発明者の貢献度を斟酌して決定した額を支払います。

(ニ)会社が上記(イ)の特許を受ける権利又は同(ロ)の登録された特許を他者に譲渡したときは「譲渡補償金」として、会社が受けた譲渡の対価の額に応じて、発明者の貢献度を斟酌して決定した額を支払います。

ニ 退職等したときの補償
 本件各補償金の支払を受ける権利は、当該権利に関わる発明者(従業員等)が退職した後も存続し、また、当該権利に関わる発明者(従業員等)が死亡したときは、当該権利は、その相続人が承継します。

3 照会者の求める見解となることの理由

本件各補償金は、当社の職務発明規程等に基づいて職務発明をした従業員等に対して支給するものであり、特許法第35条第3項(職務発明)に規定するいわゆる使用者原始帰属制度における同条第4項に規定する「相当の利益」として支給するものです。したがって、本件各補償金に係る税務上の取扱いは以下のとおりとなるものと考えられます。

[本件各補償金の支給を受けた従業員等に係る所得税の取扱い]

(1) 所得区分

現行の所得税基本通達23から35共−1(使用人等の発明等に係る報償金等)においては、使用人が発明等により支払を受ける報償金等について、特許を受ける権利の承継の際に一時に支払を受けるものは譲渡所得、特許を受ける権利を承継させた後において支払を受けるものは雑所得として取り扱う旨を定めているところです。
 しかしながら、本件各補償金は、従業員等から当社へ特許を受ける権利を移転させることにより生ずるものでないことから、譲渡所得には該当しません。また、本件各補償金は、発明者である従業員等が当社から支払を受けるものですが、使用人としての地位に基づいて支払を受けるものではなく、特許法の規定により「発明者」としての地位に基づいて支払を受けるものであり、当該従業員等が退職した場合や死亡した場合でも当該従業員等やその相続人へ継続して支払われることから、給与所得にも該当しません。更には、本件各補償金は、あらかじめ定めた当社の職務発明規程等に基づき、特許法第35条第4項に規定する「相当の利益」として支払を受けるものであり、当社に職務発明に係る特許を受ける権利を原始的に取得させることによって生ずるものであることから、臨時・偶発的な所得である一時所得にも該当しません。
 そうすると、本件各補償金は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないことから、雑所得に該当すると考えられます(所得税法第35条)。

(2) 源泉徴収の要否等

本件各補償金が工業所有権等の使用料として源泉徴収の対象となる報酬・料金等に当たるとも考えられますが、本件各補償金は、発明者である従業員等が特許権を有しない状態のもとで、特許法第35条第4項に規定する「相当の利益を受ける権利」に基づき支払を受ける金銭であり、使用料とはいえませんので、所得税法第204条第1項第1号(源泉徴収義務)に掲げる報酬・料金等に該当せず、本件各補償金の支払に際して、源泉徴収をする必要はないと考えられます。

[本件各補償金を支給した当社に係る法人税の取扱い]

(1) 出願補償金及び登録補償金について

イ 法人税法第2条(定義)第23号及びこれを受けた法人税法施行令第13条(減価償却資産の範囲)第8号ホは、減価償却資産中の無形固定資産の一つとして特許権を規定しています。また、減価償却資産の取得価額は、その取得の態様に応じて、同令第54条(減価償却資産の取得価額)第1項各号に規定されています。
 当社が取得する特許権は、上記2の(1)のハの使用者原始帰属制度の導入により、当社が原始的に取得した当該職務発明に係る特許を受ける権利に基づき、特許出願し登録を受けることにより取得する減価償却資産になりますので、その特許権の取得価額は、@その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額とA当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額となります(法人税法施行令第54条第1項第6号)。
 そして、法人税法施行令第54条第1項第6号の「資産の取得のために通常要する価額」とは、直接的な対価のほか、資産を取得したことに伴い生ずる必要な費用の額があり、その費用の額が実質的には取得した資産の代価と認められる限り、税法上、その必要な費用の額も「取得価額」と取り扱うこととなると考えます。

ロ また、特許権を含めた工業所有権に関し特許又は登録を受ける権利(出願権)を取得するための対価について、法人税基本通達7−3−15(出願権を取得するための費用)では、「法人が他から出願権(工業所有権に関し特許又は登録を受ける権利をいう。)を取得した場合のその取得の対価については、無形固定資産に準じて当該出願権の目的たる工業所有権の耐用年数により償却することができるが、その出願により工業所有権の登録があったときは、当該出願権の未償却残額(工業所有権を取得するために要した費用の額があるときは、その費用の額を加算した金額)に相当する金額を当該工業所有権の取得価額とする。」と取り扱われています。

ハ 上記2の(2)のハの事実関係を上記イ及びロに当てはめると、当社が支出する出願補償金は、職務発明規程等に基づき、当社が職務発明に係る特許を受ける権利を原始的に取得したことに伴って発明者である従業員等に支出する費用であり、実質的には取得した資産の代価と同様の性質をもった費用であると考えられますので、上記ロのとおり、特許権(無形固定資産)に準じて特許権の耐用年数(8年)で償却して差し支えないと考えます。
 また、登録補償金については、当社が原始的に取得した職務発明に係る特許を受ける権利に基づき、特許出願した発明が特許登録されたときに従業員等に支出する費用であり、上記ロのとおり、法人税基本通達7−3−15の「工業所有権を取得するために要した費用の額」に該当するものと考えますので、当該特許権の取得価額に算入することになると考えます。

(2) 実績補償金及び譲渡補償金について

イ 法人税法第22条(各事業年度の所得の金額の計算)第3項では、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、@当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、A当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額、B当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」と規定しています。

ロ 上記2の(2)のハの事実関係を上記イに当てはめると、実績補償金及び譲渡補償金は、特許法第35条第4項に規定する「相当の利益」として職務発明をした従業員等に支出するものであるところ、これらの補償金は、当社が職務発明の独占的な実施によって得られた利益を当該職務発明をした従業員等に還元することを目的とする支出、すなわち利益の分配であると考えます。具体的には、実績補償金は、特許権を自ら使用したことにより継続的に生ずる収益の額又は特許権を他者に使用させたことにより継続的に生ずる実施許諾料の額に応じて支出するものであることから、当該収益の額又は実施許諾料収入に対応する原価の額(法人税法第22条第3項第1号)に該当し、当該収益の額又は実施許諾料の額を収益の額に計上する事業年度の損金の額に算入することになると考えます。
 また、譲渡補償金は、当社が原始的に取得した特許を受ける権利又は登録された特許権を他者に譲渡したことに伴って従業員等に支出するものであることから、これらの権利の譲渡に要した経費(法人税法第22条第3項第2号)に該当し、その譲渡があった日の属する事業年度の損金の額に算入することになると考えます。

[本件各補償金の支給に係る従業員等及び当社の消費税の取扱い]

消費税法は、国内において事業者が行った資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除きます。)を課税の対象とし(消費税法第4条第1項)、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいい(消費税法第2条第1項第8号)、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供とは、資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対して反対給付を受けることをいいます(消費税法基本通達5−1−2)。
 当社が支出する出願補償金及び登録補償金は、当社の職務発明規程等に基づき、当社が職務発明に係る特許を受ける権利を原始的に取得し、これを特許出願したこと及び当該特許出願した発明が特許登録されたことに基づき支出するものです。
 また、当社が支出する実績補償金及び譲渡補償金は、当社が原始的に取得した特許を受ける権利に基づき登録された特許権を自ら使用することにより得られる利益等を、職務発明をした従業員等に還元することを目的として支出するもの(利益の分配)であると考えます。
 このように、本件各補償金は、いずれも職務発明をした従業員等から特許を受ける権利を譲り受けるなど何らかの資産の譲渡等を受けることの対価として支出するものではないことから、消費税の課税の対象とはならないと考えます。