別紙1 事前照会の趣旨及び事実関係

居住者である甲(以下「甲」といいます。)は、平成13年4月にA県B町に所在する土地(以下「本件土地」といいます。)の共有持分3分の1を父から相続により取得しました。なお、本件土地は、元々昭和30年代に、甲の父が売買により取得したものですが、取得時期が古いこともあり、その際の取得価額は明らかでありません。
 その後、甲は、平成18年3月に、本件土地の残りの共有持分3分の2を兄から適正な価額と認められる25,000,000円で売買により取得し、本件土地の単独所有者となりました。甲の兄は、甲と同じく父からの相続により本件土地の共有持分3分の2を取得していましたが、遠方である兄の妻の実家の近くで暮らすこととなったため、本件土地の管理が十分にできないことなどから、甲と話し合った結果、本件土地の共有持分を甲に譲り渡すこととしたものです。
 そして、甲は、本件土地の付近の開発を進める不動産業者からの強い依頼を受け、平成24年4月に、本件土地を当該不動産業者に60,000,000円で譲渡しました。
 このような場合、甲の本件土地の譲渡所得の金額の計算において、本件土地のうち甲が父から相続により取得した共有持分3分の1に対応する部分の取得費については、実際の取得価額が明らかでないことから租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項の規定及び租税特別措置法関係通達(以下「措置法通達」といいます。)31の4-1《昭和28年以後に取得した資産についての適用》の定めに基づき計算し、本件土地のうち甲が兄から売買により取得した共有持分3分の2に対応する部分の取得費については、甲が兄に取得の対価として実際に支払った25,000,000円として計算し、これらの合計額が本件土地全体の取得費の額となると解してよいか照会いたします。
 なお、本件土地に係る具体的な取得費の計算方法等は、次の計算式のとおりです。

〔計算式〕

1 本件土地のうち相続により取得した共有持分3分の1に対応する部分の取得費
 60,000,000円(本件土地の譲渡価額) × 1/3 × 5% = 1,000,000円

2 本件土地のうち売買により取得した共有持分3分の2に対応する部分の取得費
 25,000,000円

3 本件土地全体の取得費
 1 + 2 = 26,000,000円

別紙2 照会者の求める見解となることの理由

1 譲渡所得の課税の趣旨
 譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいい(所得税法第33条第1項)、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解されています(最高裁昭和43年10月31日判決)。
 すなわち、譲渡所得に対する課税の趣旨は、資産の所有者の「その所有期間中における当該資産の価値の増加益」を清算し課税することにあるということができます。

2 譲渡所得の基因となる資産の取得費について
 譲渡所得の金額の計算上控除すべき譲渡所得の基因となる資産の取得費は、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額とされています(所得税法第38条第1項)。
 そして、居住者が相続(限定承認に係るものを除きます。以下同じです。)により取得した譲渡所得の基因となる資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、当該相続に係る被相続人が当該資産を取得した時から当該居住者が当該資産を引き続き所有していたものとみなすこととされています(所得税法第60条第1項)。
 すなわち、居住者が譲渡所得の基因となる資産を相続により取得した場合における当該資産の取得価額及び取得の時期は、それぞれ被相続人の当該資産の取得価額及び取得の時期とされ、当該資産を相続により取得した居住者が当該資産を譲渡した段階で、当該資産について、当該資産の前所有者である被相続人が取得した時から当該居住者が譲渡した時までの期間中の価値の増加益に対する譲渡所得課税が行われることとなります。
 したがって、一筆の土地の共有持分を別個の時期に相続と売買により取得し当該土地の単独所有者となった居住者が当該土地を譲渡した場合においては、当該居住者に対して次のように譲渡所得の課税が行われることとなります。

1 当該土地のうち相続により取得した共有持分に対応する部分については、その前所有者である被相続人が取得した時の取得価額及び取得の時期に基づき、当該居住者に対して当該被相続人が取得した時から当該居住者が譲渡した時までの期間中の価値の増加益に係る譲渡所得の課税が行われる。

2 当該土地のうち売買により取得した共有持分に対応する部分については、当該居住者が売買により取得した時の取得価額及び取得の時期を基に、当該居住者に対して当該居住者の所有期間中の価値の増加益に係る譲渡所得の課税が行われる。

3 長期譲渡所得の概算取得費控除について
 措置法第31条の4第1項は、個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び第61条の規定に関わらず、当該収入金額の100分の5に相当する金額とする旨規定しています。
 そして、措置法通達31の4-1は、措置法第31条の4第1項の規定は、昭和28年1月1日以後に取得した土地の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えない旨定めています。
 したがって、個人がその年の1月1日において所有期間が5年を超える土地を譲渡した場合において、当該土地の実際の取得費が明らかでないときには、当該土地の譲渡に係る収入金額の5%相当額を当該土地の取得費として譲渡所得の金額を計算して差し支えないこととなります。

4 本件へのあてはめ
 本件の場合、甲は、一時期に本件土地の単独所有者となったものではなく、本件土地の共有持分をそれぞれ別個の時期に父からの相続と兄からの売買を原因として取得することにより単独所有者となったものです。
 上記のとおり、譲渡所得に対する課税の趣旨が、資産の所有者の「その所有期間中における当該資産の価値の増加益」を清算し課税することにあることからすれば、本件の場合のように、一筆の土地の共有持分を別個の時期に相続と売買により取得して当該土地の単独の所有者となった者が当該土地を譲渡した場合における譲渡所得の金額は、それぞれの当該土地の共有持分に係る所有期間中の価値の増加益の合計額として把握されるべきものと考えます。
 よって、本件の場合、本件土地のうち甲が父から相続により取得した共有持分3分の1に相当する部分については、上記のとおり、甲の父が本件土地を取得した際の実際の取得価額に基づき譲渡所得の金額を計算することとなりますが、実際の取得価額が明らかでないことから、措置法第31条の4第1項の規定及び措置法通達31の4-1の定めに基づき、本件土地の全体の譲渡価額を当該共有持分3分の1で按分した金額の5%相当額を取得費として、譲渡所得の金額を計算して差し支えないものと考えます。
 また、本件土地のうち甲が兄から売買により取得した共有持分3分の2に相当する部分については、上記のとおり、所得税法第38条第1項の規定により、甲が兄から当該共有持分3分の2を取得する際に支払った対価である25,000,000円を取得費として、譲渡所得の金額を計算することが相当であると考えます。
 したがって、本件土地全体の取得費は、これらの金額の合計額となると解することが相当であると考えます。