1 事前照会の趣旨

当社は、当社の取締役(監査等委員である取締役及び社外取締役を除く全ての業務執行役員。以下「対象取締役」といいます。)に当社の企業価値の持続的な向上を図るインセンティブを与えるとともに、対象取締役と株主との一層の価値共有を進めることを目的とした業績連動型譲渡制限付株式報酬制度(以下「本制度」という。)を導入することを予定しています。
 本制度は、対象取締役に対し譲渡制限付株式を割り当てるために、当社の各事業年度を評価対象期間とし、対象取締役の役位に基づいて定めた金額(以下「役位別基礎金額」という。)に業績支給率を乗じた金額を金銭報酬債権として付与し、当該金銭報酬債権の全部を現物出資財産として当社に現物出資させることで、対象取締役に譲渡制限を付した上で当社の株式を交付し、これを保有させるものです(以下、本制度に基づき対象取締役に交付される譲渡制限付株式を「本件株式」といいます。)。
 また、評価対象期間の終了後、最初に開催される定時株主総会の日までに任期満了その他正当な理由により対象取締役が取締役の地位を退任した場合は、上記と同様の算定式を用いて算出された数の譲渡制限が付されていない普通株式(以下「退任時交付株式」という。)を交付します。
 本制度により、当社が対象取締役から受ける役務の提供に係る費用の額については、法人税法上、業績連動給与として本件株式による給与については譲渡制限が解除されることが確定した日、退任時交付株式による給与についてはその支給すべきことが確定した日の属する事業年度の損金の額に算入すると解して差し支えないでしょうか。
 また、対象取締役において、譲渡制限が解除されることにより生ずる所得及び退任時交付株式の取得による所得は、所得税法上、いずれも退職所得に該当するものとして差し支えないかご照会申し上げます。
 なお、法人税法第34条第2項の規定の適用がないことを照会の前提とします。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

本制度の概要は、以下のとおりとなります。

  1. (1) 支給対象者
     監査等委員である取締役及び社外取締役を除く全ての業務執行役員が対象です。
  2. (2) 交付株式の算定方法
     各支給対象取締役に対して交付する業績連動型譲渡制限付株式の数は、次の算式のとおり、各支給対象取締役の役位別基礎金額(※1)に、直前に終了した評価対象期間の営業利益率(営業利益の売上高に占める割合をいいます。)に応じて定める業績支給率(※2)を乗じた金額を基準株式価格(※3)で除した数とします。

業績連動型譲渡制限付株式の数=役位別基礎金額×業績支給率÷基準株式価格

(※1)役位別基礎金額(評価対象期間末日時点における役位による)

代表取締役社長 〇〇〇〇〇円
取締役 △△△△△円

(※2)業績支給率

営業利益率 支給率
30%以上 200%
10%以上30%未満 100%
0%以上10%未満 50%
0%未満 0%

(※3)基準株式価格とは、対象取締役に対して交付する株式数を決定する取締役会決議の日の前営業日の〇〇証券取引所における当社の普通株式の終値をいいます。

  1. (3) 本件株式の譲渡制限について
     本制度の導入に当たり、当社と対象取締役との間で締結する譲渡制限付株式割当契約により、対象取締役は、本件金銭債権の給付期日から取締役を退任(退任と同時に再任する場合を除く。以下同じ。)する日までの間、本件株式について譲渡、担保権の設定その他の処分をすることができないこととします。
  2. (4) 無償取得事由について
     当社は、対象取締役に一定の非違行為があった場合又は正当な理由による退任若しくは当社がやむを得ないと認めた事由による辞任以外の事由により退任した場合には、本件株式を無償により取得します(支給後の業績指標により無償で取得する株式の数が変動するものではありません。)。
  3. (5) 取締役退任の場合の取扱い
     対象取締役が、評価対象期間の終了後、最初に開催される定時株主総会の日までに 任期満了その他正当な理由により取締役を退任した場合には、上記(2)と同様に計算される金額の譲渡制限が付されていない普通株式を交付します。
  4. (6) 損金経理
     評価対象期間の各事業年度の末日に株式報酬費用として損金経理をする予定です。

3 事前照会者の求める見解となることの理由

  1. (1) 関係法令
    • 〔法人税関係〕
    • イ 業績連動給与について
       業績連動給与とは、「利益の状況を示す指標…を基礎として算定される…数の…株式…による給与及び法人税法第54条第1項に規定する特定譲渡制限付株式による給与で無償で取得され…る株式…の数が役務の提供期間以外の事由により変動するもの」をいいます(法法345)。
       また、業績連動給与で同法第34条第1項第3号に規定する要件を満たさないものは損金の額に算入されません。
    • ロ 譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例
       内国法人が個人から役務の提供を受ける場合において、その役務の提供に係る費用の額につきその対価として特定譲渡制限付株式が交付されたときは、その役務の提供を受ける内国法人は、その個人においてその役務の提供につき給与等課税額が生ずることが確定した日においてその役務の提供を受けたものとして、法人税法の規定を適用することとされています(法法541)。
       また、特定譲渡制限付株式とは、譲渡制限付株式であって役務の提供の対価として個人に生ずる債権の給付と引換えにその個人に交付されるものその他その個人に給付されることに伴ってその債権が消滅する場合のその譲渡制限付株式をいうこととされています(法法541)。
       給与等課税額とは、所得税法その他所得税に関する法令の規定によりその個人の同法に規定する給与所得、事業所得、退職所得及び雑所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額とされています(法法541、法令111の23)。
    • 〔所得税関係〕
    • ハ 退職所得及び特定譲渡制限付株式の譲渡についての制限が解除された場合の所得に係る所得区分
       退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」といいます。)に係る所得をいい(所法301)、退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいいます(所基通30−1)。
       そして、特定譲渡制限付株式の譲渡についての制限が解除された場合の所得に係る所得区分については、その譲渡制限が、当該特定譲渡制限付株式を交付された者の退職に基因して解除されたと認められる場合には、退職所得とすることとされています(所基通23〜35共5の2(1))。
  2. (2) 当てはめ 
    • 〔法人税関係〕
    • イ 業績連動給与該当性について
       本件株式は、法人税法第54条第1項に規定する特定譲渡制限付株式に該当すると考えておりますが、同法第34条第5項において、業績連動給与に該当する特定譲渡制限付株式による給与として、「特定譲渡制限付株式…による給与で無償で取得され…る株式…の数が役務の提供期間以外の事由により変動するもの」が規定されています。
       この点、本件株式は、対象取締役に交付後における無償取得事由は上記2(4)のとおりであり、上記「無償で取得される株式の数が役務の提供期間以外の事由により変動するもの」には該当しません。また、同条第1項第1号の定期同額給与に該当しないことも明らかですので、同項第2号の事前確定届出給与や業績連動給与に該当しない退職給与の該当性の有無により損金算入の可否が判定されるのではないかとも考えられます。
       しかしながら、特定譲渡制限付株式による給与も株式による給与である以上、同条第5項に規定する、利益の状況を示す指標等を基礎として算定される数の株式による給与に該当するものは業績連動給与に該当すると考えられます。
       本件株式及び退任時交付株式は、上記2(2)のとおり、営業利益率の達成状況を基礎として交付される株式の数が決定されることから業績連動給与に該当し、法人税法第34条第1項第3号の要件に該当することを要件として、本制度に基づく給与は損金の額に算入されると考えます。
    • ロ 損金算入時期について
       内国法人が個人から役務の提供を受けた場合において、当該役務の提供に係る費用の額につき特定譲渡制限付株式が交付されたときは、当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の給与等課税額が生ずることが確定した日において当該役務の提供を受けたものとして法人税法の規定を適用することとされています。
       本制度においては、譲渡制限期間中に上記2(4)に掲げる事由が生じた場合には、無償取得されることとされていますので、給与等課税額が生ずることが確定するのは、役員を退任し譲渡制限が解除された日になると解されます。
       したがって、本件譲渡制限付株式の交付に要した費用の額は、役員の退任があった日の属する事業年度の損金の額に算入されると考えます。 また、退任時交付株式による給与については、その支給に係る債務が確定した日、すなわち、支給すべきことが確定した日の属する事業年度の損金の額に算入されると考えます。
    • 〔所得税関係〕
    • ハ 所得区分について
       上記2(3)のとおり、本制度において対象取締役に交付される譲渡制限付株式は、対象取締役の退任により譲渡制限が解除されることから、退職に基因して譲渡制限が解除されたものと認められ、本件株式の譲渡制限が解除されたことにより生ずる所得は退職所得に該当すると考えます。
       また、上記2(5)のとおり、退任時交付株式は、対象取締役が取締役を退任した場合に交付されることから、退職に基因して一時に支払われるものと認められ、退任時交付株式を交付されることにより生ずる所得についても同様に退職所得に該当すると考えます。