平成30年7月豪雨により被災した個人が市から家屋等の解体撤去費用の補助を受けた場合の課税関係について

1 事前照会の趣旨

A市は、平成30年7月豪雨により半壊以上の被害を受けた市内の被災建築物及び被災工作物等(以下「被災建造物」といいます。)並びに被災民有地内(個人又は事業者が所有するA市の区域内に存する土地で、住居又は事業のための建物の用に供する土地であり、災害等廃棄物が流入し、又は漂着した状態にあった土地をいいます。)に流入した災害等廃棄物(被災建造物と併せて、以下「被災建造物等」といいます。)について、A市が公費により解体、撤去及び処分(以下「撤去等」といいます。)を実施する制度(以下「本制度」といいます。)を設けています。
 本制度は、被災建造物又は被災民有地の所有者がA市に被災建造物等の撤去等を申請する場合(以下「公費解体」といいます。)と、A市が被災建造物等を撤去する前に、被災建造物等の撤去等を自ら実施した者が、その撤去等に要した費用の償還を申請する場合(以下「自費解体」といいます。)があります。
 この場合、公費解体の申請者である個人(以下「公費解体申請者」といいます。)又は自費解体の申請者である個人(以下「自費解体申請者」といいます。)がそれぞれ公費解体又は自費解体により受ける経済的利益の所得税の課税関係について、それぞれ下記3のとおり解して差し支えないか、照会いたします。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 本制度の目的

本制度は、平成30年7月豪雨により損壊(半壊以上)したA市内の被災建造物等について、A市が災害廃棄物として撤去等を実施することにより、生活環境を保全するとともに、二次災害の防止及び被災者の生活再建支援を図ることを目的としています。

(2) 本制度による撤去等の対象

イ 被災建築物
 平成30年7月豪雨により損壊した一定の建物(個人が事業の用に供する建物を含みます。)

ロ 被災工作物等
 平成30年7月豪雨により損壊した工作物、地下埋没物、がれき等で、早急に撤去をしなければ人的若しくは物的被害を引き起こすおそれがあったもの又は生活環境の保全上の支障を及ぼすと思料されたもの

ハ 災害等廃棄物
 平成30年7月豪雨により損壊し、若しくは変質し、本来の用をなさなくなったことを理由として廃棄せざるを得なくなったもので、土砂、流木、岩石その他の自然由来の物質が混然となったもの

(3) 本制度の申請者

イ 公費解体申請者
 被災建造物又は被災民有地の所有者

ロ 自費解体申請者
 A市が被災建造物等を撤去する前に、被災建造物等の撤去等を自ら実施した者

(4) 本制度の申請方法

イ 公費解体の場合
 公費解体申請者は、「被災家屋等の解体、撤去及び処分に関する申請書(公費解体)」(以下「公費解体申請書」といいます。)に、り災証明書又は被災証明書、身分証明書の写し、被災建造物の配置図などの一定の書類を添えて、平成31年3月31日までに市長に提出しなければなりません。

ロ 自費解体の場合
 自費解体申請者は、「損壊家屋等の解体撤去費用申請書」(以下「自費解体申請書」といいます。)に、り災証明書又は被災証明書、身分証明書の写し、被災建造物の配置図などの一定の書類を添えて、平成31年3月31日までに市長に提出しなければなりません。
 なお、自費解体申請書には、A市に対して、被災建造物等の解体撤去費用について、民法第702条《管理者による費用の償還請求等》の規定に基づき負担するよう申請する旨、A市が自費解体申請者に支払う費用は、A市で算定した基準額に照らし、被災建造物等の撤去等のために必要と認められる費用に限られることに同意する旨が記載されています。

(5) 本制度の実施方法

イ 公費解体の場合
 市長が、申請について審査し、公費解体を実施することが適当であると認めるときは、所定の決定通知書により公費解体申請者に通知した後、撤去等を実施し、A市が被災建造物又は災害等廃棄物の撤去等に係る費用を負担します。ただし、被災工作物等の撤去等に係る費用は、被災建築物の撤去等に伴い撤去するもの又は市長が被災工作物等のみの撤去が必要と認めたときに限って市が負担します。

ロ 自費解体の場合
 市長が、申請について審査し、自費解体に係る費用の償還を実施することが適当であると認めるときは、所定の償還決定通知書により自費解体申請者に通知し、償還決定通知書を受けた者は、速やかに所定の請求書により市長に償還金(以下「本件償還金」といいます。)の支払を請求し、市長はこれに基づき本件償還金を支払います。
 なお、本件償還金の金額は、A市が別に定める基準額を基礎として積算した額と、自費解体申請者が撤去業者に支払った撤去等の費用とを比較して、少ない方の額とされています。

3 2の事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 非課税となる見舞金

資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金及びこれに類するものは非課税とされています(所得税法第9条1項第17号、所得税法施行令第30条第3号)。
 また、災害等の見舞金で、その金額がその受贈者の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては、所得税法施行令第30条の規定により課税しないものと取り扱われています(所得税基本通達9−23)。

(2) 非常災害時における損壊家屋等の撤去の実施者

環境省環境再生・資源循環局災害廃棄物対策室が作成した「災害廃棄物対策指針(改訂版)平成30年3月」によれば、市町村は、非常災害時には災害廃棄物処理計画に基づき被害の状況等を速やかに把握し、災害廃棄物処理実行計画を策定し、災害廃棄物の処理を行うこととされています。また、当該指針において、損壊家屋の撤去(必要に応じて解体)は原則として所有者が実施することとされていますが、倒壊のおそれがあるなど二次災害の起因となる損壊家屋等については、市町村と損壊家屋等の所有者が協議・調整の上、市町村の負担において撤去(必要に応じて解体)を実施する場合があるとされています。

(3) 民法に規定する事務管理

義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下「管理者」といいます。)は、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理をしなければなりませんが(民法第697条)、管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができることとされています(民法第702条)。

(4) 公費解体の課税関係

非常災害時にあっても、損壊家屋の撤去等は原則として所有者が実施すべきものと考えられるところ(上記(2))、公費解体においては、A市が被災建造物等の撤去等を公費で行うことから、当該所有者に当該撤去等に要する費用に相当する額の経済的利益が生ずるものと考えられます。
 しかしながら、当該所有者にあっては、平成30年7月豪雨により建造物等が損壊する被害を受け、被災建造物等の撤去等の費用を支出する必要が生じていることから、「資産」に損害が生じているものと認められます。
 そして、上記(2)のとおり、非常災害時において倒壊のおそれがあるなど二次災害の起因となる損壊家屋等については市町村が撤去等を実施する場合があるとされていることからすれば、公費解体においてA市が被災建造物等の撤去等を実施することは社会通念上相当と認められ、また、公費解体による経済的利益の額は、当該撤去等に要する費用の実費そのものです。
 したがって、公費解体により被災建造物等の所有者である個人がA市から受ける経済的利益は、「資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」に類するものとして、非課税となると考えます。

(5) 自費解体の課税関係

自費解体の場合にあっても、公費解体と同様に、被災建造物等の所有者が当該被災建造物等の撤去等を実施すべきところをA市が実施するため、当該所有者に当該撤去等に要する費用に相当する額の経済的利益が生ずるものの、当該経済的利益については、「資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」に類するものとして、非課税となると考えます。
 なお、自費解体の場合、自費解体申請者は、被災建造物等の撤去等を自ら実施した者であり、必ずしも当該被災建造物等の所有者に限られませんが、自費解体申請者が当該被災建造物等の所有者であるか否かにかかわらず、当該申請者は、民法第697条に規定する管理者として同法第702条の規定に基づき当該撤去等に要した費用の額をA市に請求するものとされていることからすれば、当該申請者は、義務なくA市のために当該撤去等に係る費用を支出し、その後、A市から当該費用の償還を受けることになるものです。
 したがって、本件償還金は、当該申請者がA市のために立替払した撤去等に係る費用を償還するものですから、課税関係は生じないものと考えます。
 ただし、被災建造物等について雑損控除の適用を受ける場合においては、本件償還金相当額の支出はA市の費用を立替払したにすぎないことから、雑損控除の災害関連支出の計算上、自費解体申請者が支出した撤去等に係る費用のうち本件償還金相当額を控除した金額が災害関連支出に該当することとなると考えます。(所得税法第72条第1項、所得税法施行令第206条第2項)。
 また、被災建造物等の撤去等が個人の事業に関するものである場合においても、上記と同様に、本件償還金相当額の支出はA市の費用を立替払したにすぎないことから、各種所得の金額の計算上、自費解体申請者が支出した撤去等に係る費用のうち、本件償還金に相当する金額を控除した金額が必要経費に算入されることとなると考えます。