別紙

1 事前照会の趣旨

 当局が施行するA港のB航路の起業地外において、当該航路の整備に起因する船舶輻輳により生じる許可漁業に関する権利(慣習的漁業権)の被害については、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の施行について」(昭和37.6.29閣議了解)第3《事業施行に伴う損害等の賠償について》の趣旨にのっとり、社会生活上受忍すべき範囲を超える被害の発生が確実に予見されることから、当該漁業操業被害をてん補する費用負担をすべく措置を行っています。
 この漁業操業被害をてん補する費用負担(以下「漁業被害補てん金」といいます。)は、収用損失ではありませんが、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(以下「損失補償基準要綱」といいます。)(昭和37.6.29閣議決定)第22条《漁業権等の制限に係る補償》に基づく「国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準」(以下「損失補償基準」といいます。)第29条《権利の制限に係る補償》を援用し、対価補償金として判断されます。
 また、この漁業被害補てん金について、当局はC漁業の許可を受けている漁家(個人。以下漁家全員を「漁家グループ」といいます。)から当該漁業被害補てん金に関する一切の権限を委任されたD県漁業協同組合連合会(以下「県漁連」といいます。)に対して漁業被害補てん金を支払います。これを受けた県漁連は、漁家グループ内の調整をし、漁業操業被害を受ける漁家に支払うことになります。
 この場合の漁業被害補てん金は、所得税法施行令(以下「所令」といいます。)第95条に規定する譲渡所得の収入金額とされる補償金等に該当し、譲渡所得として総合課税の対象となると解して差し支えないか照会いたします。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

 事実関係は次のとおりです。

  • (1) C漁業は、E海域ほか10数箇所の海域において行われており、戦後から現在に至るまで、漁家グループの漁家によって、D県知事に対して申請が行われており、これに対してD県知事が許可しています。
     また、許可を受けた漁家グループにおいても、E海域ほか10数箇所の海域にて、慣習的に漁業を営んでいることから、これらの海域は、漁場として、漁業権のような権利とは言えないものの、反復継続によって慣習的な権利として扱うまで成熟しているものと認められます(以下「C漁業の許可漁業に関する権利」といいます。)。
     なお、許可は、代々漁家ごとに申請が認められ、個々の漁家における漁場の持分は認められていないことから、C漁業の許可漁業に関する権利は、漁家グループが総有していることとなります。
  • (2) 当局は、A港のB航路をX年度に完成させており、X+2年度に供用を予定しています。また、A港へ入出港する大型船舶の航行に必要な水深を満たすのはC漁業が行われているE海域です。これにより、A港へ入出港する大型船舶の航行ルートがC漁業が行われているE海域にシフトし、同海域に大型船舶が輻輳する新たな航路筋が形成されます。
  • (3) このため、操業中での移動が不可能なC漁業は、安全に操業するために必要な離隔距離を取ることを余儀なくされ、離隔距離内での操業は困難となることが確実に予見され、また、離隔距離外においても大型船舶輻輳の走航波によって操業の支障となることが確実に予見され、E海域で現状行われているC漁業は行うことができなくなると認められます。
  • (4) よって、当局は、E海域において漁家グループが総有するC漁業の許可漁業に関する権利の権利行使が永久的にできなくなる対価と権利行使が永久的に支障を受ける対価として補償することとしています。そして、このC漁業の許可漁業に関する権利を総有する漁家グループから漁業被害補てん金に関する一切の権限を委任された県漁連が、当該漁業被害補てん金に係る契約締結・請求受領をし、これを受けた県漁連は漁家グループ内の調整をし、漁業操業被害を受ける漁家に支払うことになります。

3 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 補償金等の課税関係

イ 所令第95条《譲渡所得の収入金額とされる補償金等》は、「契約(契約が成立しない場合に法令によりこれに代わる効果を認められる行政処分その他の行為を含む。)に基づき、又は資産の消滅(価値の減少を含む。以下この条において同じ。)を伴う事業でその消滅に対する補償を約して行なうものの遂行により譲渡所得の基因となるべき資産が消滅をしたこと(借地権の設定その他当該資産について物権を設定し又は債権が成立することにより価値が減少したことを除く。)に伴い、その消滅につき一時に受ける補償金その他これに類するものの額は、譲渡所得に係る収入金額とする。」と規定しています。
 この規定における「価値の減少」とは、事業の遂行等に伴い譲渡所得の基因となるべき資産の価値の一部が永久に失われる場合をいい、資産の利用が一時的に制限されるためその価値が一時的に低下するような場合は含まれないと考えます。

ロ そして、所得税基本通達33−1は、「譲渡所得の基因となる資産とは、法第33条第2項各号に規定する資産及び金銭債権以外の一切の資産をいい、当該資産には、借家権又は行政官庁の許可、認可、割当て等により発生した事実上の権利も含まれる。」と定めており、漁業法第66条又は都道府県漁業調整規則で定めるものを営もうとする者が船舶ごとに知事の許可を受けて行う漁業いわゆる許可漁業に関する権利も「譲渡所得の基因となる資産」に含まれるものと考えます。

ハ したがって、許可漁業に関する権利は、所令第95条に規定する「資産」に該当し、当該権利が契約、行政処分その他の行為又は資産の消滅、価値の減少を伴う事業でその消滅等に対する補償を約して行うものの遂行によって、消滅、価値の減少をしたことに伴い取得する補償金等は譲渡所得の収入金額に該当します。

(2) 漁業被害補てん金の課税関係

イ C漁業が航路の区域内にある場合には、収用損失に該当し、補償金の大綱を定めた損失補償基準要綱第22条《漁業権等の制限に係る補償》に基づく損失補償基準第29条《権利の制限に係る補償》が適用され、支払われる補償金は収益補償金又は対価補償金のいずれかに該当することとなるものと考えます。この場合、大型船舶の航行に伴ってC漁業は行うことができなくなり、C漁業の許可漁業に関する権利の価値の一部が永久に失われるものと認められるため、当該権利の価値の減少に相当し、対価補償金に該当することから(所令95)、収用等の場合の5,000万円控除の特例の適用対象(措法331七、33の41)となるものと考えます。

ロ 本件の場合は航路の区域外であり、収用損失でなく、航路設置事業施行後の事業損失であり、収用等の場合の5,000万円控除の特例の適用対象となりませんが、大型船舶航行に伴ってC漁業が受ける影響は収用の場合と何ら異なるものでなく、上記2の事実関係からすれば、新たな航路筋の形成によって、漁家グループが総有するC漁業の許可漁業に関する権利のうちE海域において操業することができる権利の価値が永久的に失われることとなると認められます。

ハ したがって、漁業被害補てん金は、契約に基づき、漁家グループが総有するC漁業の許可漁業に関する権利の一部の価値が永久に減少(E海域での当該権利の価値が永久に減少)をすることに伴い取得する補償金に該当すると認められることから、所令第95条の規定が適用されると解するのが相当と考えます。

ニ また、本件の漁業被害補てん金は、漁家グループが総有するC漁業の許可漁業に関する権利に対して漁業操業被害が生じるとして、当局から、漁家グループから当該漁業被害補てん金に関する一切の権限を委任された県漁連に対して支払われ、県漁連は漁家グループ内の調整をし、実際に漁業操業被害を受ける者に対して当該漁業被害補てん金が支払われることとなるとされています。
 このことからしますと、本件の漁業被害補てん金については、漁家グループから当該漁業被害補てん金に関する一切の権限を委任された県漁連を経由しているものの、実質的には、当局から漁業操業被害を受ける者に対して直接支払われたものとして、これらの者に対する課税関係を整理することが相当と考えます。

ホ 以上のことから、漁業被害補てん金は、所令第95条の規定により、譲渡所得に係る収入金額となり、当該漁業被害補てん金が漁業操業被害を受ける者に支払われた日の属する年分の譲渡所得として総合課税の対象となるものと考えます。
 この場合、当該漁業被害補てん金を受け取る者が有するC漁業の許可漁業に関する権利が、戦後から漁家グループが総有するものであることからすれば、原則として、総合長期譲渡所得となるものと考えます。
 また、取得費については、C漁業の許可漁業に関する権利が慣習的に構築されたものであることからすれば、原則として0円となります(所基通38−16)。

(注) 仮に、当該漁業被害補てん金を受け取る者が有するC漁業の許可漁業に関する権利が、他の漁家から5年以内に譲り受けたものである場合には、総合短期譲渡所得となります。
 また、他の漁家から当該権利を譲り受けている場合の取得費は、その権利の購入代金・購入手数料等の額の合計額から当該権利に係る償却費の額の累積額を控除した額となります。