1 事前照会の趣旨及び事実関係

(1) 当社(3月決算、以下「A社」といいます。)は、平成25年4月に、保有していたB社の株式(法人税法第61条の13に規定する譲渡損益調整資産に該当するもの。)をC社に譲渡していましたが、当該譲渡の時点においてA社とC社との間には完全支配関係があったことから、当該譲渡によりA社で生じた譲渡益については、平成26年3月期においていわゆるグループ法人税制(法61の13丸1)を適用し、課税の繰延べをしていました。
 その後、グループ内で株式の譲渡等が行われ、C社、A社及びB社における資本関係は、C社がB社及びA社の発行済株式の全部を保有する関係にあります。
 この度、B社は、平成29年12月1日に、C社を被合併法人とする吸収合併(以下「本件合併」といいます。)を行うことを予定していますが、本件合併は、100%子会社であるB社が親会社のC社を合併するものですから、B社(合併法人)は、C社が保有するB社株式(自己株式)を取得し、その後、直ちにその自己株式を消却する予定です。

(2) ところで、譲渡法人が、いわゆるグループ法人税制における譲渡損益額の繰延べの適用を受けた場合において、その譲渡を受けた法人(譲受法人)において、一定の事由が生じたときは、その譲渡法人はその譲渡損益額に相当する金額を益金の額又は損金の額に算入することとなりますが(法61の13丸2)、本件合併によりB社がB社株式(自己株式)を取得し消却することとなるため、上記の一定の事由が生じたものとして、A社で繰り延べたB社株式に係る譲渡益の額は、益金の額に算入する(戻入処理する)こととして差し支えないかご照会いたします。
 なお、照会の趣旨として、「自己株式の消却」は、法人税法第61条の13第2項に規定する一定の事由として明示的に列挙されていないことから、A社において譲渡益の戻入処理は必要ないのではないかとの疑義が生じたため、照会を行うものです。

2 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引に係る譲渡損益額の繰延べ等
 内国法人がその有する譲渡損益調整資産をその内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人に譲渡した場合には、その譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額は、損金の額又は益金の額に算入する(法61の13丸1)こととされています。
 その後、内国法人が譲渡した譲渡損益調整資産につき、譲受法人において次のイからリまでの一定の事由が生じた場合には、その内国法人は、その譲渡損益調整資産に係る譲渡損益調整額の全部又は一部を益金の額又は損金の額に算入する(法61の13丸2、法令122の14丸4)こととされています。

  • イ 譲渡、貸倒れ、除却、その他これらに類する事由(全部認識)
  • ロ 適格分割型分割による外部の分割承継法人への移転(全部認識)
  • ハ 譲受法人が公益法人等に該当することとなったこと(全部認識)
  • ニ 評価換え(全部認識)
  • ホ 減価償却資産の減価償却(部分認識)
  • へ 繰延資産の償却(部分認識)
  • ト 譲渡損益調整資産と同一銘柄の有価証券の譲渡(部分認識)
  • チ 償還有価証券の調整差損益の益金・損金算入(部分認識)
  • リ 連結納税開始・加入時の時価評価損益の認識(全部認識)

これは、グループ法人が一体的に経営されている実態に鑑みれば、グループ内法人間の資産の移転が行われた場合であっても実質的には資産に対する支配は継続していること、グループ内法人間の資産の移転の時点で課税関係を生じさせると円滑な経営資源再配置に対する阻害要因にもなりかねないことから、連結納税の選択の有無にかかわらず、その時点で課税関係を生じさせないことが実態に合った課税上の取扱いと考えられることから導入されたものです。
 そして、上記イの譲渡、貸倒れ、除却は、いずれも譲渡損益調整資産の譲受法人において、当該譲渡損益調整資産を有しなくなる事由が掲げられていると考えられます。

(2) 譲受法人の適格合併等による譲渡損益調整資産の移転
 内国法人(譲渡法人)が譲渡損益調整資産に係る譲渡損益額につき上記(1)による課税の繰延べの適用を受けた場合において、その譲渡損益調整資産に係る譲受法人が適格合併等により合併法人等にその譲渡損益調整資産を移転したときは、その移転した日以後に終了するその譲渡法人の各事業年度においては、その合併法人等をその譲渡損益調整資産に係る譲受法人とみなして、上記(1)の繰延べ制度を適用することとなります(法61の13丸6)。

(3) 当てはめ

イ C社(譲受法人)の適格合併による譲渡損益調整資産の移転
 上記(2)のとおり、譲受法人が適格合併等により合併法人等にその譲渡損益調整資産を移転したときは、その合併法人等をその譲渡損益調整資産に係る譲受法人とみなすこととされていますが、C社(譲受法人)は、上記1(1)のとおり、100%子会社であるB社に吸収合併(適格合併)され、C社が保有するB社株式(譲渡損益調整資産)は、B社に移転することから、そのB社(合併法人)がその移転した日以後に終了するその譲渡法人の各事業年度においては、譲受法人とみなされることとなります。
 なお、本件合併により、A社は、C社(譲受法人)との間に完全支配関係を有しないこととなりますが、上記のとおり、本件合併はC社との間に完全支配関係があるB社との間で行われるものですから、本件合併が適格合併であることを前提とすれば、法人税法第61条の13第3項の「完全支配関係を有しないこととなったとき」には該当しません。

ロ 本件合併時におけるB社(合併法人)の処理
 本件合併は、100%親子間で行われる合併であり、100%子会社であるB社が親会社のC社を合併するものですから、B社(合併法人)は、C社が保有するB社株式(自己株式)を取得し、その後、直ちにその自己株式を消却する予定です。
 具体的には、次の処理が行われることとなります。

(合併直前の被合併法人のB/S)
C社(被合併法人)
資産
B社株式
負債
(合併法人の合併時の受入仕訳)
B社(合併法人)
資産 負債
マイナス自己株式
(B社株式)

(注) B社は、自己株式取得後、直ちに自己株式の消却を予定していることから、その消却した株式数が減少し、会計上、上記の処理を経ず直接にその他資本剰余金の額を減算します。税務上は、取得時に既に資本金等の額を減算しているため(法令8丸1二十一ロ)、消却に伴う処理はありません。

ハ 自己株式の取得・消却による譲渡益の戻入れの要否
 法人税法施行令第122条の14第4項第1号イに列挙されている譲渡、貸倒れ、除却は、いずれも譲渡損益調整資産の譲受法人において、当該譲渡損益調整資産を有しなくなる事由が掲げられていると考えられますが、B社(合併法人)は、本件合併によりC社が保有するB社株式(自己株式)を取得し、その後、直ちにその自己株式を消却する予定ですから、A社がC社に平成25年4月に譲渡したB社の株式(譲渡損益調整資産)は消滅することとなるため、譲受法人とみなされたB社は、譲渡損益調整資産を有しないこととなります。
 このことからすれば、本件の「自己株式の消却」は、上記(1)の戻入処理の一定の事由として明示的に列挙されているものではありませんが、上記(1)イの「譲渡、貸倒れ、除却、その他これらに類する事由」の「その他これらに類する事由」として、一定の事由に該当すると考えられますから、A社において繰り延べた譲渡益の額は、本件合併の日を含む事業年度において益金の額に算入する(戻入処理する)こととなると考えます。