〜 消費税制度に対する信頼を守っていくために 〜
国の租税収入のうち、最も金額が大きい税目は消費税です。
多くの納税者の方々が正しく申告・納税をする一方、消費税の制度を悪用し、取引をしたように見せかけるなど虚偽の内容を申告して、消費税の還付を不正に受けようとする事案が後を絶ちません。このような消費税の不正還付事案は、消費税制度に対する納税者の信頼を著しく害するものであり、国税当局では重点課題と位置付けて対策に取り組んでいます。
イ 還付申告税額の推移
〜 消費税還付申告税額は年々増加傾向 〜
消費税還付申告税額は近年増加傾向が続いており、個人及び法人が提出した令和4(2022)年の消費税還付申告税額の合計額は7兆円を超えています。
消費税還付申告税額の推移
消費税還付申告税額の推移のグラフ
平成30年分は、4.4兆円。
令和がんねんぶんは、4.6兆円。
令和2年分は、4.9兆円。
令和3年分は、5.9兆円。
令和4年分は、7.1兆円。
ロ 消費税不正還付の主な手口
〜 不正の手口は多種多様〜
(イ) 架空の国内仕入れ及び架空の海外売上げを計上する事例
事業者が国内で商品を取引する際には、消費税が課されますが(課税取引)、国外に商品を販売(輸出)した場合には、消費税が免除されます(免税取引)。事業者は売上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を差し引いて申告を行いますが、差引後の金額がマイナスとなった場合は、消費税の還付を受けることができます。この仕組みを悪用し、国内で仕入れた商品を国外へ輸出したかのように虚偽の申告をして不正に還付金を受けようとしていた事例が把握されています。
(ロ) 免税購入物品の国内転売事例
免税店においては、一定の外国人旅行者等(免税購入対象者)に対して、所定の手続を行うことにより、商品を輸出する場合と同様に、消費税を免除して販売することができます(輸出物品販売場制度)。この場合、外国人旅行者等は免税価格で購入した商品を国外に持ち出す必要がありますが、近年、国内事業者(ブローカー)等の指示の下、多量・多額の免税購入を行った上で、国外に持ち出さずに国内転売することで不正に利益を得るなどの事例やこれを免税店が主導するといった悪質な事例が把握されています。
多額・多量の免税購入物品が国外に持ち出されず国内での横流しが疑われる事例が多発し、出国時に免税購入物品を所持していない外国人旅行者を捕捉し即時徴収を試みても、その多くが滞納となるなど、輸出物品販売場制度の不正利用は看過できない状況となっています。
このような実態を踏まえ、令和6年度税制改正大綱(令和5(2023)年12月22日閣議決定)において、「免税販売の要件として、新たに政府の免税販売管理システムを通じて取得した税関確認情報(仮称)の保存を求める」こととされ、これにより、出国時に税関において免税購入物品の持ち出しが確認された場合に免税販売が成立する制度へ見直す方向性が明示されました。
なお、具体的な制度の詳細については、令和7年度税制改正において結論を得ることとされています。
〜 不正な還付申告は見逃さない 〜
消費税不正還付を抑止するには、不審な申告を見逃さない、悪質な納税者を放置しないことが重要です。
国税庁では、消費税制度を悪用した事例に対して、申告〜行政指導・調査〜徴収まで各段階に応じた適切な対応を行えるよう、関係部署が連携して還付申告書の厳格な審査の実施、
悪質な手法等に着目した積極的な調査の実施(事例の分析・データ活用)、
組織体制の充実(専門部署の設置・拡充)、
広報活動を通じた未然防止の取組など、組織を挙げて取り組んでいます。
イ 還付審査の充実
消費税の還付申告の中には、上記のような不正還付事例以外にも、法令の適用誤りなどによるものも含まれています。そのため、国税当局としては、各種情報に照らして確認の必要がある場合は、還付金の支払いを一旦保留し、必要な書類の提出をお願いしたり、実地調査を行うことで、還付申告の原因や還付税額の確認をしています。これらの結果、還付税額に誤りがあれば適切に是正する一方で、誤りがないと判断した場合には速やかに還付を行っています。
ロ 実地調査の充実
不正還付の手口は、時代の変化とともに常に進化しています。国税庁では、必要なマンパワーを確保した上で、購入記録情報など、様々な資料の収集・分析を行い、必要な対象を見極め、厳正な調査を実施しています。その結果、令和4(2022)年7月から令和5(2023)年6月までに消費税還付申告者(個人・法人)に対して6,932件の実地調査を実施し、その追徴税額は、約577億円となっています。
また、特に悪質な不正受還付犯に対しては、査察調査を行った上で検察官に告発し、その刑事責任を追及しています。令和5(2023)年4月から令和6(2024)年3月までに、同一の高級腕時計のシリアルナンバーや不正に入手したパスポートの写しを用いて書類を偽造することで、架空の課税仕入れ及び架空の輸出免税売上を計上していた事案や、コンビニエンスストアで販売していた免税商品について、虚偽のパスポート情報を用いることで、架空の輸出免税売上を計上していた事案などの不正受還付事案16件を告発しており、これらの事案で不正に還付を受け、又は受けようとした金額は、合計で4億5,400万円に上っています。
なお、令和5(2023)年4月から令和6(2024)年3月までに、一審判決が言い渡された不正受還付事案には全て有罪判決が出されており、そのうち最も重いものは、懲役4年 (実刑)でした。
年度 | 令和元 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 |
---|---|---|---|---|---|
告発件数 | 11件 | 9件 | 9件 | 16件 | 16件 |
不正受還付額 | 323百万円 | 384百万円 | 434百万円 | 1,347百万円 | 454百万円 |
ハ 組織体制の充実
消費税不正還付事案への対応として、国税局統括国税実査官や税務署消費税専門官など、消費税調査を専門に担当する部署等の設置や定員を増員し、積極的に調査を実施しています。また、専門的な知識やノウハウを持つこれらの国税局職員や税務署消費税専門官が一般の税務署職員と連携し還付審査や消費税調査を実施することで、国税組織全体の調査能力向上にも取り組んでいます。
さらに、税関との間で人事交流を行い、国税・税関双方の人材育成にも取り組んでいます。
ニ 広報活動を通じた未然防止
国税庁では、厳格な還付審査や調査・徴収を行いつつ、国税庁ホームページ内のインターネット番組「Web-TAX-TV」に「消費税の不正還付を許さない!」を掲載するなど、広報・啓発活動に取り組み、不正還付の未然防止に努めています。
Web-TAX-TV「 消費税の不正還付を許さない!」
1件の消費税還付申告書の申告内容に疑問を抱いた国税調査官が税務調査に着手し、消費税不正還付を解明するまでを分かりやすいドラマ仕立てで配信しています。
是非ご覧ください。