新型コロナウイルス感染症による影響を受けられた皆様に心からお見舞いを申し上げます。
 新型コロナウイルス感染症の影響については予断を許さない状況が続いています。このため、国税庁においては、新型コロナウイルス感染症の影響により、納付が困難な方に対しては、納税の猶予制度を御案内するなど、今後も納税者の皆様の実情に耳を傾け、迅速かつ丁寧な対応に努めてまいります。

 国税庁の使命は「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」ことであり、納税者の皆様がよりスムーズ・スピーディに申告や納税の手続を行っていただけるよう、納税者サービスの充実に向けた施策を実施し、納税環境の整備に取り組んでいきたいと考えています。また、我が国は申告納税制度ですので、税制や税務行政に対する納税者の皆様の理解と信頼が何よりも大切です。
 こうした観点から、国税庁としては、目指すべき行政の姿についても明らかにしていくことが重要であると考えており、平成29年6月に「税務行政の将来像」を公表し、ICTの活用による「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」を2本の柱とする「スマート税務行政」を目指し、様々な取組を進めてきました。
 さらに、本年6月には、経済社会の変化やデジタル技術の急速な進展を踏まえ、目指すべき将来像の内容をアップデートした「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション−税務行政の将来像2.0−」を公表し、デジタルを活用して国税に関する手続や業務の抜本的な見直しに取り組んでいくこととしています。また、「将来像2.0」においては、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」を目指す方針を示しました。

 納税者の利便性の向上に向けた具体的な取組としては、e-TaxなどICTを活用した申告・納税等の税務手続について、サービスの充実に努めています。
 例えば、所得税の確定申告手続については、本年1月からマイナンバーカードを利用してマイナポータルを活用することにより、生命保険料控除証明書等の必要書類のデータを一括取得し、申告書へ自動入力することが可能となりました。今後、対象となる控除証明書等の種類は順次拡大していく予定です。また、スマートフォンによる申告・納税手続の拡充にも努めており、これらの取組により、e-Tax申告・納税等がますます便利になりますので、是非、皆様に御利用いただきたいと思います。

 また、納税者の皆様に税制について理解していただくためには、必要な情報を適時に提供していくことが重要であると考えています。
 令和5年10月から導入されるインボイス制度につきましては、本年10月から適格請求書発行事業者の登録申請の受付が開始されます。
 インボイス制度の円滑な導入に向けては、事業者の皆様に制度の理解を深めていただいた上で、それぞれの事業の実態に応じた対応や準備を進めていただけるように周知広報に取り組んでいるところです。
 このため、国税庁ホームページにインボイス制度の特設サイトを開設し、制度を解説した動画、各種パンフレットやQ&Aを掲載するほか、全国どこからでも参加できるオンライン説明会の開催や事業者向けの説明会への講師派遣などを実施しています。

 適正・公平な課税・徴収の実現への取組の面では、納税者の権利・利益の保護を図りつつ、適正な申告・納税を行った納税者が不公平感を抱くことのないよう、悪質な納税者に対しては組織的に厳正な対応を行っています。
 経済取引のグローバル化・デジタル化が一層進展する中で、課税・徴収は複雑・困難化していますので、資料・情報の積極的な収集・活用に努め、ICT等を活用しながら、課税・徴収の効率化・高度化を進めています。
 国際的な取引についても、租税条約などに基づく外国税務当局との情報交換の充実や執行体制の整備・拡充を図り、課税・徴収上、問題があると認められる租税回避行為などについては、積極的に調査・徴収等を行っています。

 このように、国税組織を取り巻く環境が大きく変化する中で、平成13年に「国税庁の組織理念(国税庁の使命)」が制定されてから約20年が経過したことから、国税庁では、新たな「国税庁の組織理念」を本年4月に制定しました。
 国税庁の使命・任務を果たすため、新たな組織理念の下、「信頼で 国の財政 支える組織」を目指し、国税職員が力を合わせて「使命感を胸に挑戦する 税のプロフェッショナル」として日々の職務を遂行してまいります。

 国税庁に課された使命は重大でありますが、この使命を今後とも着実に果たしていくために、将来の経済社会の在り方を十分に見据えながら、不断に業務改革を推進し、組織を進化すべく様々な課題に取り組んでまいりたいと考えています。
 この「国税庁レポート2021」が税務行政に対する皆様の御理解を深める一助になれば幸いです。

令和3(2021)年 6月

国税庁長官 可部 哲生