〈税務行政を取り巻く環境の変化〉

現在、我が国は、かつてない速さで少子高齢化が進んでいます。貯蓄率が著しく低下するとともに、労働力人口の減少が見込まれるなど、いわゆる「右肩上がり経済」が終焉を迎え、このような動きを背景に、さらなる行財政改革の要請が強まっています。また、このような社会を支えるための税制の見直しも進行しています。さらに、働き方や家族のかたちの多様化など、企業や家族のあり様が大きく変化する中、経済活動については、IT化が著しく進展し、アジア諸国の経済発展や経済のグローバル化により、個人や企業の国境を越えた活動が広がりを見せ、会計基準の国際的相互浸透も進んでいます。
経済社会のこのような動きを背景に、税務行政を取り巻く環境は大きく変化しています。消費税の事業者免税点の引下げや年金課税の見直しなどもあり、確定申告書の提出件数が著しく増加し、それらを処理するための税務署の事務が増加しています。また、経済社会のIT化・グローバル化が著しく進展し、租税回避の手口がますます巧妙になってきているため、税務調査や徴収の事案は従来に増して複雑かつ困難なものになってきています。このように税務行政を取り巻く環境は、質量ともに厳しさが増してきています。

〈環境の変化に向けた国税庁の対応〉

このような状況の中で、引き続き国民の負託に応えていくためには、人的資源・物的資源を効果的・効率的に配分しながら、メリハリのある税務行政を進めていく必要があります。これにより、十分な調査・徴収事務量を確保し、納税者のコンプライアンス〈法令遵守〉の維持・向上を図っていくとともに、納税者サービスにも配意していくことが肝要です。
このため、納税者が自ら税額を計算して申告・納税するという申告納税制度の趣旨に沿って、納税者サービスの再構築を行う必要があります。その上で、税務当局においては、税務署の内部事務について、システムやそれに関連する業務の見直し、職員以外でも実施可能な事務のアウトソーシング化を図り、事務の合理化・効率化を積極的に進めていくこととしています。また、調査・徴収事務についても、納税者のコンプライアンス〈法令遵守〉の維持・向上の観点から、ITの積極的な活用によるシステムの高度化や調査・徴収事務の在り方そのものの見直しを行い、さらなる充実を図っていくこととしています。

〈具体的施策〉

  1. 納税環境の整備

    納税者が自ら正しい申告と納税が行えるよう、納税者サービスの充実を図っています。
    具体的には、国税庁ホームページの掲載情報の充実などによる納税者の必要とする税務情報の提供、e-Taxの普及や国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」の充実など、ITを活用した申告・納税の推進、さらには、コンビニエンスストアでの納付の導入などにより、申告・納税の手段の多様化を図っています。また、現在、税務相談室や税務署がそれぞれ個別に対応している電話相談について、回答までの待ち時間の短縮など、納税者利便性のさらなる向上を図るため、今後も電話相談センターを各国税局に段階的に設置し、集中的に受理する取組を進めていきます。

  2. 内部事務の基本的見直し

    税務署における内部事務については、国税庁の事務が納税者の権利・義務に直接影響を及ぼすものであることに十分な配意をしながら、IT化に対応した事務の見直しを図っていくこととしています。
    具体的には、納税者の申告から納税までの一連の事務、納税者の異動に伴う事務、税務署の窓口対応事務などの現在税務署内の複数の部署で別々に処理している内部事務について、その相当部分を一つの部署で一体的に処理し、ITシステムを活用しながら、事務の効率化を図ることとしています(内部事務の一元化)。また、他の事務とは独立し、一時に大量に発生する事務の集中化や職員以外でも実施可能な事務のアウトソーシング化の推進にも取り組んでいくこととしています。

  3. 調査・徴収事務の基本的見直し

    経済社会の国際化・高度情報化が進展する中で、適正・公平な課税を確保するため、国際的租税回避スキームや電子商取引など先端分野への対応、広域的に事業展開する企業グループへの対応を充実させるとともに、国税組織全体を通じた調査・徴収事務の基本的な見直しを行っています。また、納税者に関する各種情報の相互活用など、システムの高度化を図ることとしています。
    他方、申告納税制度を支える税理士の公共的使命にかんがみ、税理士法に基づく書面添付制度の推進などを図っています。また、納税者が自己の経済活動についての税金の問題を事前に予測可能となるよう、事前照会への対応の充実や移転価格に関する事前確認制度の活用を推進しています。

  4. 国税職員の職場環境の整備

    職員が意欲と希望をもって職務に精励できる職場環境づくりを進めています。
    特に、国税庁における女性職員の在職割合が年々増加していることも踏まえ、国税庁では、平成15年7月に制定された「次世代育成支援対策推進法」の基本理念に基づき、子育てと仕事の両立の推進という視点に立った職場環境を整備するため、「国税庁特定事業主行動計画」を策定し、平成17年4月1日よりスタートさせました。また、環境の変化に対応した研修制度の見直しなども行うこととしています。

 以上の諸施策を推進するために、限られた定員の最適配分、定量的効果を踏まえた予算配分、適材適所の人事配置に、より一層図っていきます。

税務行政を取り巻く環境の変化と国税庁の対応についての図

納税環境の整備 内部事務(総務関係事務を含む)の基本的見直し 調査・徴収事務の基本的見直し 国税職員の職場環境の整備
 基本的視点
申告者数の増加に対応した申告納税制度の趣旨沿った納税者サービスの再構築
○ 基本的視点
適切な事務運営の確保に配意しながら、IT化に対応した事務の見直しや、職員以外でも実施可能な事務のアウトソーシング化の徹底等により効率化、スリム化を促進
○ 基本的視点
納税者のコンプライアンス〈法令遵守〉維持・向上のため、調査・徴収体系の基本的見直し等により、さらに効果的、効率的に調査・徴収事務を実施
○ 基本的視点
職員が意欲と希望をもって職務に精励できる職場環境づくり
  1. (1) 情報提供のIT化の推進
    国税庁HP やタックスアンサーの充実、メールマガジンの活用
  2. (2) 申告・納税手段の多様化、IT化の推進
    e-Tax の普及、HPの確定申告書等作成コーナーの充実、コンビニエンスストアでの納付の導入
  3. (3) 確定申告期の対応
    1. 1 申告相談における自書申告の一層の推進
    2. 2 申告相談の日曜日(2日間)実施(閉庁日対応)
  4. (4) 税務相談体制の効率化
    一般的な税務相談の電話相談センターへの集約化等
  1. (1) 内部事務の効率化
    1. 1 内部事務の一元化に向けた検討・試行
    2. 2 集中化の試行による内部事務効率化策の検討
  2. (2) 総務関係事務の効率化
    会計、厚生、給与等関係事務のIT化、局集中化、アウトソーシング化の推進
  1. (1) 調査・徴収事務の充実
    1. 1 局署の役割分担等を踏まえた調査・徴収体系の基本的見直しの検討
    2. 2 各種情報の相互活用などシステムの高度化
  2. (2) 公共的使命を有する税理士の役割
    新書面添付制度の推進等
  3. (3) 先端分野等に対する対応
    1. 1 国際的租税回避スキームへの対応等の国際課税の充実、企業活動等の高度情報化への的確な対応
    2. 2 納税者の予測可能性の確保
      • ・事前照会に対する対応の充実
      • ・移転価格課税に関するAPA(事前確認制度)の活用
    3. 3 連結納税制度への的確な対応
  1. (1) 男女共同参画社会実現のための取組
    1. 1 女性職員の能力適性を生かせる人事政策の推進
    2. 2 子育てと仕事の両立の観点から「国税庁特定事業主行動計画」の推進
  2. (2) 若手職員に対する指導育成策の充実
  3. (3) 取り巻く環境の変化に対応した研修制度の見直し
  4. (4) 執務環境の整備

諸施策の推進のために、限られた定員の最適配分 定量的効果を踏まえた予算配分 適材適所の人事配置を図っていく。
また、政府全体の取組として「国税関係業務の業務・システム最適化計画」(平成18年3月)の決定(平成19年5月改定)同計画は、平成22年度までに順次実施

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