国税庁は、酒類業の健全な発達を目指して施策を展開しています。
酒税は、明治政府設立以降、地租とともに大きな財源となり、一時地租を抜き国税収入の中で首位となったこともありました。その後、所得税・法人税等の直接税のウエイトが高まり、平成16年度においては、租税収入等の合計に占める割合は3.6%(1兆6,599億円)となっています。しかし、景気の影響を受けにくく、安定した税収が見込まれることから、現在でも我が国の税体系において重要な役割を果たしています。
酒類業界は、2,841の製造業者と16万3,658の販売業者(平成16年度末)からなり、その95%超が中小企業により構成されています。酒類業を取り巻く環境は、人口減少社会の到来、国民の健康・安全性志向の高まりや生活様式の変化、さらには規制緩和の進展などに伴い、大きく変化しています。
国税庁では、こうした社会経済情勢の変化に対応して、業界・飲食店・消費者との意見交換などを積極的に行い、そこで得られたご意見を踏まえつつ、酒類産業全体を展望した総合的な視点から、酒類業の健全な発達のためのさまざまな取組を行っています。
酒類業の体質改善を図るためには、消費者の視点に立ち、良質で安全な酒類を生産し、流通段階において適切な品質管理を行い、適切な情報とともに消費者に提供することができるよう、酒類の製造から、卸売、小売、さらには飲食店、消費者を含めた酒類産業全体及び行政が連携して取り組んでいくことが重要です。
このため、消費者の意見に積極的に耳を傾け、酒類業界に情報提供するとともに、小売段階における酒類の表示及び品質・安全性のチェックを行っています。また、適切な商品情報の提供及び清酒の地域ブランド確立に向けた業界の取組を支援するため、平成17年10月に、ぶどう酒及び蒸留酒のみを対象とする「地理的表示に関する表示基準」に、清酒の地理的表示を保護する規定を追加し、同年12月に「白山」を清酒としては初めて産地指定いたしました。
さらに、海外において、日本食に対する関心の高まりなどに伴って日本産酒類の需要が増加してきていることから、酒類業者に対して輸出に必要な手続等の情報を提供するなど、輸出の拡大を側面的に支援しています。
このほか、酒類業者に対して、自らの経営上の問題点の認識を促す取組や、経営上の成功事例を情報提供するなどの取組を行っています。
中小酒類業者の経営改善を促進するため、酒類小売業については、経営改善計画の実施、研修会・個別相談会の開催、設備資金の低利融資制度の創設、経営相談サイトの開設、モデル事業の指定などを実施しています。また、酒類製造業をはじめとした経営 革新計画への取組や、中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律に基づく酒類卸売業の経営基盤強化事業などに対し、各種支援を行っています。
酒類業の健全な発達のためには、公正な取引環境の確保が重要であることから、酒類の取引に関する公正なルールを示した国税庁の「公正な競争による健全な酒類産業の発展のための指針」(指針)1の広報活動を行うとともに、取引状況の調査を行い、指針に示した公正なルールに則していないと認められる酒類業者に対して指導等を行っています。
こうした中、酒類業界でも、自主的にコストオン方式による合理的な価格設定、取引条件に係る自社基準の策定などの公正な取引を推進するための取組を行っています。
「指針」を積極的に広報するとともに、取引状況の調査を充実させるほか、公正取引委員会と連携して公正な取引環境の整備に取り組みます。
国税局鑑定官室では、酒造メーカーへの技術指導や酒類の安全性のチェックなどを行っています。さらに、酒類の品質の向上や安全性の確保のために必要な新しい醸造技術や分析手法に関する研究・開発など、国税庁だけでは対応できない高度な技術的問題については、独立行政法人酒類総合研究所2と情報交換しながら対応し、酒類業の健全な発達のために連携して取り組みます。
酒類総合研究所は、明治37年に大蔵省醸造試験所として東京・滝野川に設立され、平成13年4月に国税庁醸造研究所から独立行政法人に移行し、さらに、平成18年4月には、民間及び大学等との人事交流等の連携を促進する観点から非公務員型の独立行政法人としました。酒類にかかわる我が国唯一の総合的研究機関として、酒税の適正かつ公平な賦課の実現のための高度な分析・鑑定とともに、酒類に関する研究・調査や中小酒造メーカー向けの講習、消費者向けの教養講座なども行っています。詳しくは、独立行政法人酒類総合研究所ホームページhttp://www.nrib.go.jpをご覧ください。
未成年者の飲酒防止等の社会的な要請に応えるため、平成15年、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」等の改正により導入された酒類販売管理者の選任義務、酒類販売管理研修の受講、酒類の陳列場所における表示義務の遵守について、その徹底を図りました。また、平成17年9月から酒類の適正な販売管理体制が構築されることを審査するため、酒類販売業免許等の申請書の記載事項に「酒類の販売管理に関する事項」を追加するとともに、酒類の陳列場所における表示の基準について、より説得力、実効性のある表示とし、未成年者の酒類へのアクセスを未然に防止するため、平成17年9月に「未成年者の飲酒は法律で禁止されている」旨の表示を「20歳以上の年齢であることを確認できない場合には酒類を販売しない」旨の表示に改正しました。
また、平成17年5月の世界保健総会3の決議を受け、国税庁では酒類の不適切な摂取による健康や社会に与える影響の低減のための取組について、関係省庁や業界と検討しています。
社会的要請への対応については、酒類業界だけではなく、家庭、学校、地域社会、行政、それぞれの取組が重要であり、関係省庁、酒類業者等との連携・協調を図りつつ取り組んでいます。
●最近10年間の酒類の課税数量の推移(国産・輸入の合計)
酒類業では、酒税の確実な徴収と消費者への円滑な転嫁のために免許制が採用されています。最近、消費者の利便性の向上等を図るため免許要件について一部見直しを行いました。
日本の社会経済情勢の変化 | 現状 | 行政や業界における取組 | 将来像 | ||||
社会情勢の変化 人口減少社会の到来 健康・安全性指向の高まり 食生活の変化 生活様式の変化 |
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製造 ●品質水準の確保の問題 |
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製造 |
●品質水準の確保・向上への対応策 ・高付加価値化のための研究 ・地域ブランドの確立のための地理的表示の活用 ・適切な情報提供のための表示の検討 ●構造・経営戦略上の問題への対応策 ・過剰設備の解消、業界における合理化・効率化の取組に対する支援 ・経営の自己診断、分析指導 ・輸出の振興 |
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量から質への転換 |
製造 高品質・付加価値の高い酒類の製造 |
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卸売 マージンの低下(収益構造の変化) |
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製造 |
●製造・卸売・小売の生販三層を通じた指導 ・公正取引の推進 ・市販酒の事後チェックの強化 ・専門家による研修 ・意見交換会の開催 |
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卸売 卸売機能の発揮による適正マージ |
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経済情勢の変化 規制緩和の進展 デフレ化・賃金の伸び悩み 国際化 |
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小売 組織小売業の台頭 |
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卸売 |
●販売業の課題への対応策 ・大規模小売業者告示の周知等による優越的地位の濫用行為の防止 ・品質管理・サービス等の向上 ・経営支援措置の充実・利用促進等 ・社会的要請への的確な対応 (厳格な酒類販売管理、年齢確認を徹底するための表示基準の改正、酒類自動販売機の撤廃への取組、酒類と健康に係る取組の強化) |
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小売 多様なサービス提供等による差別化 |
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飲食店 酒類の不適切な管理 |
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飲食店 |
●消費者の視点に立った対応策 ・安全でおいしい飲み方提案等の情報発信・啓発活動 ・料飲店における品質管理等の実態把握 ・消費者サイドに立った酒類の品質チェック・表示 ・消費者窓口の設置等 ・きき酒会等の開催 |
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飲食店 安全でおいしい酒類の提供 |
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消費者 品質・価格への疑問 |
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消費者 酒類に対する正しい知識 |