4 各税目の概要

  1. (1) 所得税
    1. イ 申告

       所得税は、個人が1月から12月までの1年の間に稼得した所得に課される税金であり、一定額以上の所得を得ている個人は、給与所得の年末調整等によって納税が完結している場合を除き、確定申告期(課税年分の翌年2月16日から3月15日)に確定申告書を提出しなければならない。

       平成14年(2002年)分の確定申告者数は、平成15年(2003年)3月31日現在で、2,087万人である。その内訳は、申告納税額のある者が687万人、還付申告者が1,063万人、その他の者が337万人となっている(表12参照)。

       この申告納税額のある者は、実務上、事業所得の金額と事業以外の所得の金額とを比較して、事業所得者(商工業者や農業者、医師、弁護士等をいう。)とその他の所得者に大別し、更に、事業所得者については、営業等所得者及び農業所得者に区分される。これらの区分に従って平成14年分の申告納税額のある者の人数をみると、事業所得者が196万人(営業等所得者183万人、農業所得者13万人)、その他所得者が491万人となっている。また、申告納税額は全体で2兆3,891億円であり、その内訳は、事業所得者が5,277億円(営業等所得者5,053億円、農業所得者224億円)、その他所得者が1兆8,614億円となっている(表13参照)。

    2. ロ 確定申告

       所得税の確定申告期は、国民の税への関心が最も集まる時期であり、広く税務行政全般に対する信頼感、ひいては国民一般の納税道義に大きな影響を持つものであるとの認識の下に、従来から、事務の適切な運営に配意してきた。

       平成10年分の確定申告から全国的に推進してきた自書申告は、「納税者が自ら税法の規定に従って自己の正しい課税標準と税額とを計算して申告する。」という申告納税制度の本旨に沿った、新しい時代における納税者サービスであることから、その定着に向けた環境整備に努めている。

       平成15年分の確定申告期は、休日における税務署での相談等の納税者ニーズに的確に応えるため、2月22日と29日の日曜日に、248の税務署で確定申告の相談・申告書の受付を行うこととした。

       また、国税庁ホームページの「所得税の確定申告書作成コーナー」に入力データの一時保存機能及び株式等の譲渡所得や退職所得に対応する機能を追加したほか、タッチパネル方式による自動申告書作成機については操作時間短縮のため画面構成を分かりやすく変更するなど、サービスを拡充している。

    3. ハ 調査・指導

      (申告審理)

       大多数の納税者は、翌年3月の確定申告期限までに適正に確定申告をしているが、一部には申告義務があるにもかかわらず無申告の者、不注意等により誤った申告書を提出する者、又は故意に過少な申告を行う者もいる。

       このため、税務署では申告額の適否の検討と無申告者の把握を目的に、申告審理を行っている。これは所得税法の規定によって提出された支払調書、税務署が収集した課税上参考となる各種の資料などすべての資料情報を各納税者ごとに分類整理し、これらの資料情報と申告内容を照合して申告内容について検討を行うものである。

      (調査)

       申告審理の結果、申告額に明らかな誤りがあるなど何らかの非違があるものについては、納税者にその誤りを指摘して修正申告書の提出を、また、申告義務があるにもかかわらず申告しなかった者に対しては期限後申告書の提出を求めている。納税者がこれに応じないときには、税務署長は申告に誤りがある者には更正を、無申告者には決定を行っている。

       高額・悪質な不正計算等が想定される者など、調査を行う必要性の高い者については調査対象に選定し実地調査(所得税、消費税及び源泉所得税の同時調査)を行う。この中で、特に多額の脱漏所得があると認められる者など、数日間の調査では的確な調査を行い難いと認められる者に対しては、十分な日数を掛けた調査を行う。更に、調査先が複数署の管轄区域にまたがるもの、不正の手口が極めて複雑なものなどについては、関係部門や他局署と連携調査を行ったり、税務署の特別国税調査官や国税局の資料調査課などによる徹底した調査を行っている。

       更に、経済取引の国際化・高度情報化に対応するため、国際税務専門官や情報技術専門官等を中心に、海外取引やIT関連の調査事案についても積極的に取り組んでいる。

       また、調査の際には、納税者に非違事項を指摘してそれを是正することは無論であるが、調査の内容を納税者に分かりやすく説明し、納税者の理解が得られるよう配意し、これを契機に納税者が税務の知識を深め、将来にわたって自主的に適正な申告と納税ができるよう努めている。

       なお、平成14事務年度における申告所得税の実地調査件数は7万件、申告漏れ所得金額5,033億円、追徴税額1,059億円、消費税の実地調査件数は、調査件数3万件、追徴税額155億円となっている。

  2. (2) 法人税

     法人税は、法人の所得に対して課される税金であり、法人が納税義務者となる。

     我が国の法人数は、平成15年(2003年)6月30日現在で約290万社となっているが(表8参照)、これらの法人に対する法人税の調査及び指導を通じて適正な申告納税制度を推進していくため、税務署においては、すべての法人をその事業規模、営む業種、実態等により区分して管理し、大口、悪質な不正計算が想定される法人や故意に赤字に仮装していると認められる法人など調査必要度の高い法人を重点的に調査するなど、その態様に即した適切な調査を行うこととしている。 法人税の調査は、原則として、資本金1億円以上の大法人と外国法人については国税局の職員が、それ以外の法人については税務署の職員が担当して行う。

     税務調査により、申告額が正しくないことが判明した場合又は申告書が提出されていなかった場合には、税務署長はその調査額に基づいて更正・決定の処分又は修正申告・期限後申告のしょうようを行う。

     また、適正な申告を推進するため、税務知識の普及、申告に関する具体的な計算と申告手続の指導、税務の取扱いについての相談など納税者の指導についても力を注いでいる。

     なお、公益法人等に対する収益事業課税の適正化を図る観点から収支計算書提出制度が導入されており、収益事業を営んでいない公益法人等のうち原則として平成9年1月以後に開始する事業年度で当該事業年度の年間収入金額が8千万円を超える法人については、収支計算書の提出が義務付けられている。

    (注) 企業グループが連結納税の承認を受けた場合には、その親法人を納税義務者として、連結所得に対して法人税が課税される。

    1. イ 申告

       法人税は、各事業年度の所得及び清算所得に対し課税されるものであり、法人は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内に税務署長に申告書を提出しなければならない。法人税法上の事業年度とは、原則として法人が定款等に定める営業年度その他これに準ずる期間をいう。

       申告の状況をその件数からみると、申告義務のある法人のうち申告書を提出した法人の割合は、昭和25年(1950年)度には58.5%であったものが、昭和30年(1955年)度には85.1%に上昇し、現在までほとんどの法人が自主的に申告書を提出している(表14参照)。

       次に、法人税の総税額を納税者が申告した税額(申告税額)と調査に基づき税務署長が追徴した税額とに分けると、総税額のうち申告税額の占める割合は、昭和25年(1950年)度には68.9%であったものが、昭和40年(1965年)度には91.6%、昭和50年(1975年)度には94.2%と増加し、現在ではその大部分は納税者が自主的に申告した税額である(表15参照)。

       昭和22年(1947年)に申告税額制度を採用してから、50年以上を経た現在では、おおむね適正な自主申告の実を挙げているといえる。これは、税務署の適切な指導と徹底した調査に負うところが大きく、加えて、昭和25年(1950年)から青色申告制度を採用し、青色申告法人に税法上の特典を付与したこと及び法人会、税理士会等の関係民間団体の協力があったことによるものと考えられる。

    2. ロ 調査
      1. (イ) 税務署所管法人

        (申告書の審理)

         法人から提出された申告書は、調査担当部門に回付され、適切な申告であるかどうかの審理を行う。申告内容の審理は、同一業種で同規模程度の法人の申告内容との比較、法人の過去の課税状況、資料情報、代表者の生活状況等あらゆる角度から、また、国税庁のコンピュータシステムを最大限に活用している。

         この申告内容の審理を的確に行うため、調査担当部門は、法人を業種別・地域別に分担し、分担法人についてはその業種、業態の景況等について分析を行うとともに、個々の法人の情報等の収集に努めている。

        (実地調査)

         このように審理した結果、申告が過少で調査する必要があると認めたものについては実地調査を行う。この実地調査の内容は、必ずしも一律ではないが、まず調査時における帳簿の記帳状況、書類の保存状況、在庫品の状況などを把握し、次に詳細な帳簿調査を行う。近年、経済取引の国際化、広域化、複雑化に伴って、不正が巧妙化してきており、必要な場合には取引先に対する調査や取引銀行に対する預貯金等の調査も行っている。

         調査は、税務署の法人課税部門の調査官が行うが、特に大規模な組織を有する法人については税務署の特別国税調査官が、大口かつ悪質な事案で多角的な調査が必要なものについては、税務署に設けられた特別調査班や国税局の資料調査課が調査する体制を採っている。

         また、取引の国際化、コンピュータ化及び事業活動の広域化に対処するため、平成3年(1991年)度から国際取引調査の専門家、平成8年(1996年)度からコンピュータ調査の専門家、平成9年(1997)度から比較的大規模な同族法人グループに対する組織力を生かした調査のための専門家を全国の主要な税務署に配置している。

         調査に際しては、法人税及び源泉所得税に消費税を加えた三税の同時調査を実施しており、大口・悪質な不正計算が想定される法人など調査の必要度が高い者に重点をおいて効果的な調査展開を図るとともに、法人の申告状況、資料情報等に照らし幅広い観点から調査が必要と認められる者に対しても的確な調査を実施している。

        (指導)

         税務署においては、法人が適正な申告と納税を自主的に行えるよう、個々の法人の実情に即して個別指導及び集合指導を実施し、申告内容の向上を図っている。

         これらの指導には、新設法人を対象としたもの、改正法令等の説明会、決算期別の指導等のような啓もう指導と特定の業種(地域)等に共通する税務上の問題点に対する業種別(地域別)指導とがあり、指導の時期、場所、回数等についても、きめ細かい配慮を行って実施している。

        (調査実績)

         税務署での実地調査は、平成14年(2002年)度においては、約11万7千件について実施した。

         この調査の結果、更正・決定等をした件数は、約8万5千件、また、不正計算を行っていたものは約2万4千件となっている。

      2. (ロ) 国税局所管法人

         法人から提出された申告書のうち国税局で所管する大法人に係るものは、税務署長から国税局長あてに送付され、国税局担当部門に回付される。

         国税局所管法人の場合は、国内外に多数の支店、工場等及び関連会社を有し、かつ企業活動も国際取引をはじめ複雑、広範となっている。また、高度情報処理システム等の導入も進んでいる。

         このようなことから、担当部門では申告内容について十分な審理を行うとともに、企業グループの一体的な管理やその的確な実態把握に努めている。

         また、実地調査の実施に当たっては、より調査必要度の高い法人を調査対象に選定し、十分な日数を投下して、国際取引の実態の解明等を含めた深度ある調査の実施に努めている。

        (注) 連結グループに対する調査に当たっても、単体法人への調査と同様、調査必要度の高いグループから実施し、個々の法人とグループとの管理を並行して行い、親法人所轄部署と子法人所轄部署、国税局と税務署との間で緊密な連絡・協調体制を確立して一体的な調査に努めている。

  3. (3)  相続税及び贈与税
    1. イ 相続税及び贈与税の概要

       相続税は、被相続人から相続や遺贈(相続時精算課税の適用を受ける贈与を含む。)により財産を取得した者に対して、その取得した財産の価額を基として課される。具体的には、財産を取得した者について、その取得した財産の価額から負担することとなった被相続人の債務及び葬式費用の金額を控除した金額(課税価格という。)を算出し、各人の課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額(5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)を超える場合に納付すべき税額が算出される。

       贈与税は、個人から贈与により財産を取得した者に対して、1年間(1月1日から12月31日まで)にその取得した財産の価額を基として課される。具体的には、財産を取得した者の選択(原則としてその財産を贈与した者ごとに課税方式を選択)に従い、暦年課税方式を選択した場合には、その贈与を受けた財産の価額の合計額(その年中に2人以上の人から贈与を受けた場合や同じ人から2回以上にわたり贈与を受けた場合は、それらの財産の価格の合計額)が基礎控除額(110万円)を超える場合に納付すべき税額が算出され、また、相続時精算課税方式を選択した場合(その贈与を受けた財産の価額にかかわらず贈与税の申告が必要)には、特定の者から贈与を受けた財産の価額の合計額が特別控除額(2,500万円)を超える場合に納付すべき税額が算出される。

    2. ロ 申告及び調査

       相続税の申告書は、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の死亡の時における被相続人の住所地を所轄する税務署長に提出しなければならない。平成13年(2001年)中に相続又は遺贈により財産を取得した者に係る相続税の課税価格は11兆7,035億円、納付税額は1兆4,771億円、相続税の申告対象となった被相続人数は4万6千人となっている(表16参照)。

       また、贈与税の申告書は、贈与を受けた日の翌年の2月1日から3月15日までに住所地の所轄の税務署長に提出しなければならない。平成13年(2001年)中に贈与により財産を取得した者に係る贈与税の取得財産価額は1兆3,457億円、納付人員は30万7千人、納付税額は811億円となっている(表17参照)。

       なお、調査に当たっては、あらゆる機会を利用して収集した各種資料情報を活用し、申告のないもの又は申告額が過少であると認められるものについて、的確な調査を実施して是正を図っている。

    3. ハ 財産の評価

       相続税及び贈与税の課税の基となる財産の価額は、相続税法第22条の規定により相続、遺贈又は贈与により財産を取得した時における時価により評価することとされている。

       これを受けて国税庁では財産評価基本通達を定め、各財産の評価方法や評価の方法に共通する原則を具体的に定め、その内部的な取扱いを統一している。

       また、各国税局で路線価等の土地評価基準や立木の標準価額などを定め、各国税局及び税務署の窓口並びに国税庁のホームページで公開し、納税者の便に供している。

       なお、平成15年(2003年)分の宅地に係る標準地(約41万地点)の路線価等の評価基準額の圏域別の平均額及びその変動率は表18のとおりである。