1 国税庁の事務の実施基準及び準則と実績の評価

  1. (1) 「国税庁の事務の実施基準及び準則に関する訓令」(財務省訓令第12号)

     平成13年1月6日に、財務大臣により、「国税庁の事務の実施基準及び準則に関する訓令」が制定された。この訓令は、中央省庁等改革基本法第16条第6項第2号により、府省の長が実施庁の長に権限が委任された事務の実施基準その他当該事務の実施に必要な準則を定めて公表することとされていることに基づき、制定されたものであり、財務省設置法第19条に規定された国税庁の任務を中心にまとめられた実施基準及び実施基準の内容について具体的に記述した準則により構成されている。

     なお、財務大臣は、実施基準及び準則に則した行政が行われるよう、国税庁を監督することとなっている。

    「国税庁の事務の実施基準及び準則に関する訓令」(抜粋)

    (事務の実施基準)

    第3条 国税庁は、その所掌する事務の実施に当たり、納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現するため、納税環境を整備し、適正かつ公平な税務行政を推進することにより、内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現を図るとともに、酒類業の健全な発達及び税理士業務の適正な運営の確保を図ることを基準とする。

    (準則)

    第4条 国税庁は、前条の基準にのっとり、次の各号に掲げる事項を準則とし、透明性と効率性に配意しつつ事務を行うものとする。

    1. 一 内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現を図ることについては、次に掲げるところによる。
      1. イ 納税環境の整備
        1. (イ) 申告及び納税に関する法令解釈及び事務手続等について、納税者に分かりやすく的確に周知すること。
        2. (ロ) 納税者からの問い合わせ及び相談に対して、迅速かつ的確に対応すること。
        3. (ハ) 租税の役割及び税務行政について幅広い理解及び協力を得るため、関係省庁等及び国民各層からの幅広い協力及び参加の確保に努めていくこと。
      2. ロ 適正かつ公平な税務行政の推進
        1. (イ) 関係法令を適正に適用すること。
        2. (ロ) 適正申告の実現に努めるとともに、申告が適正でないと認められる納税者に対しては的確な調査及び指導を実施することにより誤りを確実に是正すること。
        3. (ハ) 期限内収納の実現に努めるとともに、期限内に納付を行わない納税者に対して滞納処分を執行するなどにより確実に徴収すること。
        4. (ニ) 納税者の正当な権利利益の救済を図るため、不服申立て等に適正かつ迅速に対応すること。
    2. 二 酒類業の健全な発達を図ることについては、次に掲げるところによる。
      1. イ 酒類業の経営基盤の安定を図るとともに、醸造技術の研究及び開発並びに酒類の品質及び安全性の確保を図ること。
      2. ロ 酒類に係る資源の有効な利用の確保を図ること。
    3. 三 税理士業務の適正な運営の確保を図ることについては、次に掲げるところによる。

     税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図るという使命を負っている。これを踏まえ、税理士が申告納税制度の適正かつ円滑な運営に重要な役割を果たすよう、その業務の適正な運営の確保に努めること。

  2. (2) 「国税庁の使命」

     「国税庁の使命」は、今後における税務行政や平成13年度から導入された実績の評価を念頭に置き、実施基準及び準則の内容に、事務を遂行するための行動規範等を加えて、分かりやすく取りまとめたものである。

  3. (3) 国税庁の実績の評価

     財務省の実施庁である国税庁の実績の評価については、財務大臣が、国税庁が達成すべき目標を設定し、その目標に対する実績を評価して公表することとされており、「平成15事務年度国税庁が達成すべき目標に対する実績の評価に関する実施計画」(以下「実施計画」という。)については、平成15年6月に策定・公表された。

     この「実施計画」では、「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収」、「酒類業の健全な発達の促進」、「税理士業務の適正な運営の確保」の3つの実績目標の下に、「申告・納税に関する法令解釈や事務手続などについて、分かりやすく的確に周知・広報を行います」等9つの業績目標が掲げられるとともに、目標の達成度等を測定するため64の業績指標等が設定されている。

     なお、平成15年10月に「平成14事務年度国税庁が達成すべき目標に対する実績の評価書」が、財務大臣により作成・公表された。

     作成にあたっては、評価の客観性を確保するとともにその質を高めるため、有識者の方々からなる「財務省の政策評価の在り方に関する懇談会」(座長西室泰三東芝取締役会長、日本経済団体連合会副会長)において議論され、講評を得ている。

     国税庁としては、この評価結果を今後の事務運営に的確に反映することとしている。

2 税務組織の概要

 国税庁は、戦後の税務行政の混乱状態に対処するため急速に機構が拡大した大蔵省(当時)主税局から、税務執行面を分離し、内国税(関税、とん税及び特別とん税を除く)に関する賦課徴収を担当する行政機関として設置された。これにより、国税庁−国税局−税務署という系統的な税務機構が確立されることとなった。

(注) 財務省主税局は租税制度の調査、企画、立案を担当する機関であり、また、関税、とん税及び特別とん税に関する制度の調査、企画、立案及びその賦課徴収を担当する機関として、財務省の関税局と税関がある。

  1. (1) 国税庁の機構

     国税庁は、本庁とその下に設置されている全国に11(札幌・仙台・関東信越・東京・金沢・名古屋・大阪・広島・高松・福岡・熊本)の国税局、沖縄国税事務所と524の税務署から構成される(表1参照)。

     国税庁(本庁)は、長官官房、課税部、徴収部及び調査査察部の4部局に分かれ、税務行政を執行するための企画・立案や税法解釈の統一を行い、これを国税局に指示し、国税局と税務署の事務を指導監督する官庁である。また、税務行政の中央官庁として、各省庁その他の関係機関との連絡に当たっている(図1参照)。

     国税局は、国税庁とほぼ同様の機構を持ち、国税庁の指導監督を受けて、管轄区域内の税務署を指導監督するとともに、特定の事務について、自らも賦課徴収に当たっている。例えば、調査査察部では大法人の法人税及び消費税の調査や内国税の犯則事件の調査(査察)を行い、課税部の一部では大規模事業者の酒税、揮発油税などの調査を行い、徴収部の一部では大口滞納者等の滞納整理に当たっている(同上参照)。

     沖縄国税事務所は、沖縄の復帰に伴って昭和47年5月15日に創設され、国税局とほぼ同様の機能を有しているが、その規模は国税局より小さく、部は置かれていない(図2参照)。

     税務署は、内国税の賦課徴収を行う第一線の行政機関で、納税者と最も密接なつながりを持つところである。各税務署長はそれぞれの管轄区域内で、内国税の賦課徴収を行う権限を持っている。その機構は規模の大小によって異なっているが、一般的には署長の下に、1税務署内の調整、庶務、会計事務を担当する総務課、2内国税の債権管理事務、滞納整理事務を担当する管理・徴収部門、3所得税、個人事業者の消費税及び資料情報事務を担当する個人課税部門、4相続税、贈与税を担当する資産課税部門、5法人税、法人の消費税、源泉所得税及び間接諸税を担当する法人課税部門が置かれている(最も小規模な税務署においては、総務課と調査部門の1課1部門制が採られている)。各部門は、統括国税調査官(統括国税徴収官)を筆頭に数名の職員で構成されている。

     また、全国の主要署には、広報・広聴事務を担当する税務広報広聴官や酒税、酒類産業行政事務を担当する酒類指導官が置かれている。更に、規模の大きい税務署には、課や部門のほかに署長を補佐する副署長が、また、大規模納税者等の調査や大口の滞納整理等を専担する特別国税調査官や特別国税徴収官が置かれている。

     以上のほか、施設等機関として、税務職員の教育機関である税務大学校、また、特別の機関として、納税者からの審査請求の裁決を行う国税不服審判所がある。税務大学校及び国税不服審判所は、各国税局及び沖縄国税事務所の所在地に、それぞれ地方研修所(支所)及び支部(事務所)を置いている(図1図2参照)。

     なお、平成13年1月以降中央省庁再編に伴い、国税庁についても、課税総括課の新設、広報課から広報広聴官への名称変更等が行われるとともに、国税審査会、税理士審査会及び中央酒類審議会の3審議会が統合され、国税審議会が設置されるなど、所要の機構改革が行われた。

     また、平成13年4月に、施設等機関であった醸造研究所が、独立行政法人酒類総合研究所に移行した。

  2. (2) 国税庁の定員

     国税庁の定員は、第二次世界大戦後の激烈なインフレーションと新しい税制に不慣れであることなどによって、税務行政が混乱し、一種の緊急的状態にあった時期(昭和25年)には6万2,000人近くまで増えたこともあったが、行政整理等により昭和29年には5万300人にまで縮小した。その後昭和40年代後半から昭和50年代にかけては厳しい行財政事情をも反映して5万2,000人台で推移していたが、平成元年に消費税が、また、平成3年に地価税が導入されたことに伴い定員増が認められ、平成4年に5万6,000人台となり、平成15年度末現在の定員は5万6,315人となっている。

     組織の配置状況は、全体の97.4%に当たる5万4,827人が国税局・税務署に配置され、そのほか国税庁655人(1.2%)、税務大学校355人(0.6%)、国税不服審判所478人(0.8%)、となっている。

     職員の事務別配置状況をみると、全職員の68%が所得税、法人税、消費税などの賦課の事務に、15%が国税債権の管理や徴収の事務に、残りの17%が総務事務等に従事している。

3 徴税費

 徴税費(人件費、旅費、物件費等税務の執行に要する一切の費用)は、すべて一般会計の歳出予算に計上される。

 平成15年(2003年)度の徴税費当初予算総額は7,219億円で、その内訳は、人件費が5,686億円で大部分を占め、その他では物件費1,286億円、旅費142億円などとなっている。

 また、国税庁が扱っている租税及び印紙収入に対する徴税費の割合を税収100円当たりでみた金額(徴税コスト)は、昭和25年(1950年)度に2.79円であったものが、平成15年(2003年)度には1.78円となっている。

 このように徴税コストが低下したのは、国民経済の伸長に伴って租税収入が著しく増加したのに対し、税務執行を担当する人員はほぼ一定で、かつ、年々増加する事務量に対処するため効率的運営に努力してきた結果、徴税費がそれほど増えなかったためである(表2参照)。

 徴税コストの低下は、一定金額の税収をあげるためのコストを低下させるという意味で、税収確保の効率化という面では好ましいことではあるが、徴税費は公平確保のための原価でもあり、単に税収額との比較だけでは評価し得ない面も有している。 

4 日本の歳入構造と租税収入

  1. (1) 一般会計歳入における租税及び印紙収入

     我が国の予算は、基本的な一般会計予算と、国が特定の事業を営む場合や特定の資金を保有してその運用を行う場合等に設定される特別会計予算とに分かれている(このほかに国そのものではないが国と密接な関係にある政府関係機関の予算も作成される。)。

     国の財政活動の基幹となる一般会計についてみると、その歳入の主なものは、租税及び印紙収入であるが、戦前の昭和9〜11年(1934〜1936年)度では、一般会計歳入の約23億円に対し租税及び印紙収入は約10億円(44.7%)程度に過ぎなかった。

     戦後我が国は、財政法において国の歳出は公共事業費などを除いて、公債又は借入金以外の歳入をもってその財源としなければならず、公債を発行する場合にも、原則として、日本銀行引受による公債発行を禁止する、いわゆる健全財政主義を採っていたので、歳入の中に占める租税及び印紙収入の割合は高くなった。昭和35年(1960年)度では、歳入の1兆9,610億円に対し、租税及び印紙収入は1兆6,183億円(82.5%)となった。その後、昭和40年代に入って、歳入の不足を補うために建設公債の発行による公債政策が導入されてからも、一般会計歳入に占める租税及び印紙収入の割合は、ほぼ75〜85%の水準で推移していた。

     ところが、昭和48年(1973年)秋の第一次石油危機に端を発した有数の不況の結果昭和50年度には租税及び印紙収入が、法人税収入を中心として、大幅に減少し、一般会計歳入に占める租税及び印紙収入の割合は、64.0%と大きく落ち込んだ。昭和51年度以降も、歳入面が伸び悩む中で景気回復と国民生活の安定、向上のため、歳出面において各般の施策が講ぜられた結果、一般会計はその30%前後を特例公債を含む公債発行に依存することとなり、租税及び印紙収入は60%前後という低い割合で推移した。

     しかし、昭和55年度より公債発行額の圧縮が図られ、昭和57年度には概算要求の段階で一律ゼロシーリングとされ、一般会計歳出も低い伸びに抑えられた。こうして、租税及び印紙収入の一般会計に占める割合は徐々に上昇し、平成2年度には83.8%に達したが、その後、景気後退に伴う税収の低迷に加え、厳しい経済・金融情勢を踏まえ講じられた大幅な公共投資等の追加や減税等により、平成15年(2003年)度補正後予算では、一般会計歳入に占める租税及び印紙収入の割合は51.0%となっている(表3参照)。

  2. (2) 租税及び印紙収入の概要

     平成15年(2003年)度補正後予算額(一般会計分)における租税及び印紙収入41兆7,860億円の内訳をみると、内国税が39兆8,410億円、関税及びとん税が8,160億円、印紙収入が1兆1,290億円となっている。

     租税及び印紙収入のうち主なものをあげると、直接税では、源泉所得税11兆2,410億円(租税及び印紙収入の25.6%)、法人税9兆1,140億円(同20.8%)、申告所得税2兆5,690億円(同5.9%)、間接税等では、消費税9兆4,890億円(同21.6%)、酒税1兆7,330億円(同4.0%)となっている(表4参照)。

  3. (3) 国税の租税体系(所得・消費・資産等)

     我が国における国税の所得・消費・資産等の税収構成比の推移をみると、戦後、所得課税中心の税体系が確立されたことに加え、経済の高度成長に伴って、累進税率が採られている所得税収はもとより法人税収も大幅に増加したため所得課税の比率が次第に高まり、昭和49年度には72.0%となった。その後、我が国の経済が安定成長へ移行したことに伴い、高度成長期に見られたような所得税収の著増がなくなり、所得課税の割合は平成3年度頃までは70%前後で推移したが、近年、昭和63年前後の抜本的税制改革から平成6年秋の税制改革を経て、我が国の税体系は所得課税を税制の中心に据えつつ消費課税にウエイトをやや移してきている。なお、足元においては、所得税及び法人税の減税の実施と景気低迷による税収減もあって、平成15年度における所得課税の比率は52.3%となっている。(表5参照)。(図3参照)

  4. (4) 国民所得に対する租税負担率

     国民所得に対する租税負担率は表6のとおりである。国税と地方税を合計した租税負担率は、戦前においては13%程度(昭和9〜11年(1934〜1936年)度12.9%)であったが、戦後は、昭和20年代前半の混乱期を除いて20%前後で推移してきた。

     しかし、昭和51年(1976年)度以降、租税負担率は次第に上昇しはじめ、平成2年(1990年)度は27.4%となったが、その後、おおむね20%台前半で推移し、平成15年(2002年)度は21.0%となっている。

     つぎに、国民負担率(租税負担率と社会保障負担率の合計)を諸外国と比較してみると、図4のようになっている。