1 国税不服審判所の概要

2 事例の紹介

国税不服審判所について

  1.  組織: 国税庁の特別の機関
  2.  機能: 国税庁長官の持つ権限のうちから、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に関する裁決権を分離し、その裁決権を国税不服審判所長に与え執行権を行使する機関から独立した第三者的立場を有する機関
  3.  目的: 審査請求人の正当な権利利益の救済を図るとともに、併せて税務行政の適正な運営を確保する。

裁決権: 国税不服審判所長が裁決権を有する(国税通則法第98条)

例外: 国税庁長官通達と異なる解釈で裁決(国税通則法第99条)
法令解釈の重要な先例となる裁決  (   同上  )

↓

国税不服審判所長が国税庁長官へ意見を申出

↓

請求人の主張を認容するもの
かつ
長官が相当と認めるもの

↓

請求人の主張を認容しないもの
または
長官が相当と認めないもの

↓諮問

裁決
国税審議会

理由: 同一法令について、執行機関と権利の救済機関とが異なる解釈をとることにより、税務行政の統一ある運用が阻害されるのを防止するため。

〈一般的な審理の進め方〉

(1)形式審査

一般的な審理の進め方

〈一般的な審理の進め方〉

(2)実質審査

一般的な審理の進め方

国税不服審判所長の裁決は、行政内部における最終判断であり、原処分庁は裁決に不満があっても、訴えを提起することができない。(国税通則法102条) 他方、審査請求人は訴訟を提起することができる。


事例の紹介

外注費事例

〔概要〕

 請求人(土木建築業)が帳簿に計上した外注費には、水増し計上及び架空取引に係るものが含まれているとし、その損金算入を認めなかった事例

〔請求人の主張〕

 原処分庁が架空取引等として認定した取引は、審判所に提出した証明書類のとおり、いずれも正当な取引であり、架空の取引ではない。

〔原処分庁の主張〕

 次のことから、架空外注費等の計上が認められる。

  1.  1 領収書の住所地に実在しない。
  2.  2 工事をした事実を明らかにする書類が作成されていない。
  3.  3 外注費として振り出した小切手を請求人の代表者が取り立てている。
  4.  4 外注先が給与所得者である。

〔審判所の判断〕

 次のことから、架空外注費等の計上が認められる。

  1.  1 原処分庁の主張する事実は審判所の調査においても確認される。
  2.  2 請求人は、架空取引等とされた取引につき、外注先が実際に請負い、工事代金も収受していることを証明した書類を審判所に提出している。

 当該外注先に確認したところ、当該証明書類に署名はしたが、記載された工事名などは自分が記載したものではなく、工事代金も記載金額の一部しか受取っていない旨の回答を得た。

(図解)
外注費の水増し

  • 実際工事代金 100
  • 帳簿記載金額 500

外注費の水増し

架空の外注費

  • 実際工事代金  なし
  • 帳簿計上額   100

架空の外注費

国際取引事例(適正仕入額)

〔概要〕

 請求人が輸入業者・ブローカーを通じて仕入れた家具の仕入金額について、輸入業者から入手した輸入申告書の金額をもって仕入過大額を算定した原処分は誤りであると認定した事例

〔請求人の主張〕

 家具の輸入、代金決済等の業務をブローカーの甲氏に委託したものであり、甲氏から受取った納品書に基づき計上した仕入額は適正である。

〔原処分庁の主張〕

  1. 1 甲氏及び納品書の発行者となっているB社はいずれも所在が確認できず、請求人は、仕入先の名称を仮装して本件輸入家具の仕入金額を過大に計上したものと認められる。
  2. 2 正しい仕入金額は、請求人に納品された輸入家具の輸入を代行したA社が、輸入申告書に添付したインボイスの金額に手数料を加えたものであると認められる。

〔審判所の判断〕

 次の事実から判断すれば、請求人の主張を覆す事実は確認できないので、原処分庁の主張は認められない。

  1. 1 A社はB社からの輸入手数料を収入に計上していること、A社の代表者は甲氏なる人物がB社の担当者にいる旨述べていること、さらに、甲氏なる人物が請求人の所在地近くのホテルに宿泊していることが確認されることからすれば、甲氏はB社の名義を使用してA社と取引をしたのであり、請求人は甲氏から仕入れたものであると推認される。
  2. 2 同じ現地法人から同様の輸入家具を仕入れている国内同業者の仕入価格水準は、B社名義の納品書の金額に近い。

(図解)

国際取引事例(適正仕入額)

(注) 取引図内の各矢印は、それぞれ次の事柄を示す。

  • 「発注」…………請求人の答述
  • 「物流」…………税関、A社への調査結果
  • 「決済」…………請求人の答述
  • 矢印「支払手数料」…A社への調査結果
  • 矢印「証憑」…………請求人が保管していたもの

相続税事例

〔概要〕

 相続した土地の価額は、借地権に係る売買実例を基に評価すべきであるとの請求人の主張を採用しなかった事例

〔請求人の主張〕

 相続した土地のうちに、借地権の売買実例があるのであるから、当該売買価額を基礎として算出した修正路線価を基に評価すべきである。

〔原処分庁の主張〕

  1. 1 当該売買実例は限定当事者間の取引であり、これにより成立した価額は借地権の時価とはいえず、また、個別事情のある借地権の売買価額を借地権割合で割り戻した修正路線価がその売買実例に係る土地の時価を示すものとはいえない。
  2. 2 本件は、相続開始時における路線価が時価を上回っているという特別な事情が認められないから、路線価を基礎として評価すべきである。

〔審判所の判断〕

 請求人の主張する修正路線価について、採用した売買実例が借地権者と底地所有者との間の限定された取引であり正常取引とは認められないこと及び売買金額の一部とみるべき「解決金」を除外したものを売買金額としていることなど、修正路線価の算定根拠に不合理な点があり、当該修正路線価を基に評価することは相当ではないことから、請求人の主張は採用できない。

(図解)

相続財産:甲土地(地積300m2 路線価100)

1 請求人の評価額

借地権の売買実例(限定取引)からの還元方式により評価

請求人の評価額

 1m2当たりの評価額(修正路線価)
 3,000÷60%÷100(m2)=50
 甲土地 : 50×300=15,000

2 原処分庁の評価額

路線価方式により評価
甲土地:100×300=30,000

特別な事情の存否の検証

甲土地:125×300=37,500 >30,000


推計課税事例

〔概要〕

 中華そば店を営む請求人が、一部の帳簿しか保存せず、帳簿に記載した売上金額も出前売上金額の30から40%を除外し、さらに、麺の仕入先と共謀して仕入数量と金額を実際の取引の2分の1となるよう納品書や領収書を作成させていたもので、原処分庁は推計課税により5年間遡及して所得金額を算出し、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした事例
 事業所得の金額の申告もれは、5年間で6千万円以上に上り、個人の推計課税事件としては非常に多額の不正事例であり、原処分庁の行った推計の合理性が争点となったもの

〔原処分庁の推計方法〕

  1. 1 最終年分
     仕入れのうち麺の仕入れしか把握できず、仕入金額全体を基とした推計は困難であったことから、まず、調査の最終年分についての資産負債の増減から最終年分の所得金額を推計した。
  2. 2 前4年分
     最終年分の麺の仕入れ1単位当りの所得金額を基にして、これを前4年分の調査額による麺の仕入数に乗じて各年分の所得金額を推計した。

〔審判所の判断〕

 審査請求の段階においても、請求人は各年分の事業所得の金額の計算に必要な証拠書類の提出をしなかったことから、審判所においても推計課税を採用し、原処分庁の推計の合理性及びその計算の適否を検討した結果、原処分庁の一部の認定誤りを除き、大部分の認定を適正であると判断し、課税処分の大部分を維持した。
 なお、請求人は、ガス・電力の使用量を基に事業所得の金額を推計すべきであると主張したが、審判所は、請求人の推計方法には合理性がないとして採用しなかった。

(図解)
最終年分

最終年分の図

認定所得
純資産増加額 1,300 + 生活費 400 = 1,700 1

前4年分
最終年分の麺の仕入数 :380   ・・・・・・・・・・・・・2

麺の仕入れ1単位当りの所得:1,700(1)÷380(2)=4.5 3

年度 麺の仕入数 麺仕入れ1単位当りの所得(3) 認定所得
X4年 400 4.5 1,800
X3年 430 4.5 1,935
X2年 350 4.5 1,575
X1年 310 4.5 1,395