以上、酒類業全体について論じてきたが、酒類業は小売業だけでなく、卸売業、製造業もある。以下では、酒類業のうち小売業について論じることにするが、関係する部分については必要に応じ卸売業及び製造業についても言及した。

2. これまでの規制緩和等の評価について

(1) 新規参入による消費者アクセスの増加、市場の活性化

  1. イ 消費者の利便性の増大
    1. (イ) 平成10年度以降、規制緩和推進3か年計画(閣議決定)に基づき、5年間で需給調整要件である人口基準(地域人口を一定数で除して免許枠を設定する)の段階的緩和を実施している。既存酒販店から一定の距離(50〜150m)には免許しないとした距離基準は平成13年1月に廃止され、平成15年9月には人口基準が廃止される予定である。
      • (注) 平成7年2月には、その用途が主として料理用であるみりんに限った小売業免許が付与できるよう手当てしている。
    2. (ロ) その結果、現在主要スーパーマーケット及びコンビニエンスストアの6割以上が、また、薬品、家庭電化製品、ホーム用品等の量販店の一部についても一般免許(全酒類を販売できる)を取得している。これらの店舗を含め、一般免許を受け酒類を販売している酒販店は約15万店となっている。
       一方、例えば、食品取扱スーパーマーケットが新規に出店をしても免許枠がないとして一般免許を受けられない場合があり、消費者利便に資するため希望する店全てに早急に一般免許を付与すべきとの意見がある。
  2. ロ 市場の活性化
    1. (イ) このような小売市場への新規参入、特に新業態店の大幅な参入増加により、激しい販売競争が繰り広げられており、市場はかつてなく活性化している。
       具体的には
      • ・ 小売業者によるチラシ利用の価格訴求が顕著
      • ・ 製造者による多量のTVコマーシャル、景品等を使った販促活動、低価格・若者向け商品等多くの新商品の開発などである。

      また、酒販店の一部において、宅配、品揃え、ITの活用等により商品や地域性での個性化を活かし、消費者サービスの向上が図られていることも評価できる。

      なお、言うまでもなく、価格面でも競争が進んでいることも評価すべきものである。

    2. (ロ) 一方、次のような問題が生じてきているとの指摘がある。
      • ・ 酒類の流通段階で、製造・卸売・小売業者間において不当廉売や差別対価等に繋がるような多額で不透明な値引き・リベート等の動きがある。
      • ・ 競争に敗れ、あるいは競争に参加もできずに退出する一般酒販店が増大する等、小売業者の経営状況からみて急激・過度の参入による乱売等の競争の弊害が目立ってきている。
      • ・ 過度の競争で、コストの引き下げや売上高の増大に向かう余り、酒類の商品特性に配慮した実効性のある販売管理体制が取られなくなる懸念がある。
    3. (ハ) 他方、あくまでも競争は制限すべきではなく、例えば、通信販売免許など販売できる酒類が制限された特殊酒類小売業免許の条件緩和を急ぐべきなど規制緩和は未だ不十分との意見がある。

(2) 公正取引問題、未成年者飲酒問題への取組みの推進

  1. イ 公正取引問題への取組み
    1. (イ) 公正取引問題の現状
       国税庁は、平成4事務年度以降酒類の取引に問題(不当廉売、差別対価等)があると考えられた販売場を中心に取引実態調査を実施しているが、平成12事務年度においては1,393場に対して調査を行い、その結果、調査した取引の中のいずれかに、総販売原価を下回る価格で販売するなど、合理的な価格の設定がなされていないと考えられた販売場は1,277場(調査実施場数に対する割合91.7%)であった。
       公正取引確保の問題は、規制緩和による新規参入も原因の一つと考えられるが、既述したように食・家庭生活の変化、地域の変容(コミュニティの喪失)、更にはモータリゼーションなども影響していると考えられる。
    2. (ロ) 公正な取引の確保のため、政府においては、以下の取組みを行ってきている。
      1. 1 公正な競争による健全な酒類産業の発展のための指針 (国税庁の指針)の発出(平成10年4月)
      2. 2 独占禁止法の改正(平成13年4月)
         独占禁止法違反行為に対する私人による差止め訴訟制度の創設
      3. 3 酒類流通における不当廉売、差別対価等への対応について(公正取引委員会の酒類ガイドライン)の発出(平成12年11月及び平成13年4月)
      4. 4 酒類の取引実態調査の実施及び結果の公表(国税庁、公表は平成11年以降)
    3. (ハ) また、酒類業界においても以下の取組みを行ってきている。
      1. 1 酒類業組合による「リベート供与基準など社内基準の整備」の啓発(平成12年12月〜)
      2. 2 大手製造者や卸売業者を中心として、リベートの社内基準の整備、取引先等に対する社内基準に基づくリベートの見直し等(平成13年10月〜)
    4. (ニ) 価格・販売・商品開発競争は市場原理に任せるとしても、取引自体は公正であるべきで、これらの取組みについては一層の実効性ある対応が競争政策当局に求められる。
  2. ロ 未成年者飲酒問題への取組み
    1. (イ) 未成年者飲酒問題の現状
       厚生省(現厚生労働省)による平成12年度の「未成年者の喫煙および飲酒行動に関する全国調査」によれば、月1回以上飲酒をする者の割合は高校3年生男子で49.9%であった。
       改めてかなりの子供(飲酒年齢の低年齢化が進んでいるとの指摘がある)が酒類を飲んでいるという現状を認識すべきである。また、未成年者に酒類を売ってはいけないということは知っていても、注意した場合の反動が怖くて断れないという酒販店主、従業員の声も聞く。
    2. (ロ) 未成年者の飲酒防止のため、政府においては、以下の取組み等を行ってきている。
      1. 1 酒類業組合法に基づく酒類の自動販売機及び容器に対する表示の基準の制定(告示)(平成元年11月(自動販売機)、平成9年2月(容器))
      2. 2 酒類小売業界の酒類の自動販売機撤廃への取組み支援(平成7年7月〜)
      3. 3 未成年者飲酒防止のための年齢確認、販売体制の整備等7項目の推進(平成12年8月〜)

      また、以下の法律改正が議員立法で行われている。

      1. 1 未成年者飲酒禁止法の改正(平成12年12月及び平成13年12月)
         罰則の強化及び年齢確認その他の義務規定の追加
      2. 2 酒税法の改正(平成12年12月)
         未成年者飲酒禁止法違反の酒類小売業免許の取消事由への追加
    3. (ハ) 酒類業界においても以下の取組み等を行ってきている。
      1. 1 酒類の自動販売機の撤廃(酒類小売業界)(平成13年3月末で、従来型の自動販売機は約10万台が撤廃されている。)
        • (注) 運転免許証やIDカード等により、購入者の年齢を確認した上で、酒類を販売する機能を持った自動販売機を改良型機、そのような機能を持っていないものを従来型機と呼んでいる。
      2. 2 酒類の広告に関する自主基準の制定(酒類業界)(平成元年1月)
      3. 3 低アルコールリキュール類の「酒」マークの自主基準の制定(日本洋酒酒造組合)(平成12年6月)
      4. 4 未成年者飲酒防止のための年齢確認、販売体制の整備等7項目への取組み(平成12年8月〜)
    4. (ニ) このように未成年者飲酒防止の実効性確保に向けた取組みは近年目覚しいものがある。しかし、その一方で飲酒ぐらい大目に見てもという社会的風潮や販売管理面でのルーズさもないとはいえず、国民的問題喚起が十分にできているとは言い難い。

(3) 評価と今後の課題

  1. イ これまでの数次の規制緩和により、消費者利便は確実に拡充してきており、市場の活性化が進んでいると高く評価できる。一方、未だ新規参入希望者は多く、早急に規制緩和を希望する声も高く、規制緩和は着実に実施されて然るべきである。
  2. ロ しかしながら、酒類へのアクセス機会の増加に伴い、適切な酒類販売についての社会的要請が高まっている。この点、これまで経済的規制の側面に重心を置いて捉えられてきた酒類小売業免許についてもこれらの要請に応えられるような対応が求められてきている。
     また、新規参入の増加により競争が加速しており、酒税確保の見地からも、公正な競争を推進し、健全な市場を形成すべきとの要請も高まってきている。なお、平成15年9月以降について人口基準を廃止することは決定されているが、これに伴うその後の酒類小売業免許の運用のあり方についての検討が各方面から求められている(平成13年12月の与党税制改正大綱など)。
  3. ハ 以上、酒類業を取り巻く環境の変化及びこれまでの規制緩和の評価を踏まえ、以下で今後必要と考えられる諸手当てについて検討した。

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