3. 酒類小売業に関わる今後必要な手当て等について

(1) 消費者の利便性の確保等の観点

  1. イ まず、規制緩和の推進は、経済の活性化、国民生活の多様化、利便性の向上などの面で重要である。特に、酒類は国民の消費生活に関係の深い飲料であり、消費者重視の観点から、今後も規制緩和を着実に進めていくことが必要である
  2. ロ 次に、酒類小売業免許の規制緩和により酒販店は大幅に増加しており、現在既に参入可能な免許枠があっても希望者がいない飽和状態と考えられる地域も存在する。一方で、新規参入希望が依然として多い地域がある。このように地域ごとに大きな違いがあり、規制緩和、新規参入を考える上で「地域」の状況を踏まえる必要がある。
     また、未成年者飲酒問題対策で販売管理を考える際にも、これが地域コミュニティ内での過度の競争との関わりで考える必要がある。
     更に、最近の地域商店街の衰退に見られるような地域の住民生活に密着した酒販店の急激な退出による弊害にも一定の配慮が必要である。

(2) 消費者ニーズ、情報の提供、飲酒教育等の観点

  1. イ 酒類小売業者は、商品知識を身につけ、品質の維持、安心の観点から消費者利益の増進を図るとともに、これらの情報を消費者に的確に提供することが必要である。また、消費者の求めるサービスは、価格をはじめ、品揃え、配達、情報、開業時間と様々である。小売業者においては、商圏の広域化、高度情報化などの変化に対応するとともに、自己の地域・商圏の消費者のニーズを的確に把握し、これに応えていく必要がある。
     なお、製造者においては、酒類の飲料としての安全性に万全を期することは当然であるが、消費者のニーズに適切に応え得るような商品の品質・特色などの情報を、ラベル表示を含め多様な手段により、直接に又は小売業者を通じ積極的に消費者へ提供することにより、消費者の的確な商品選択に資することが重要である。
  2. ロ 現在の商品情報は、酒類業組合法や食品衛生法などに基づく表示事項・基準をベースに容器のラベル等に記載する情報を中心に位置付けている。これに加えて、消費者に対する情報の提供方法としては、パンフレットやカタログ等により製造者から販売チャネルを通じてダイレクトに、また、TVコマーシャル等の広告宣伝媒体(イメージ的なものが多い。)などで行われている。
     今後更に、商品情報の提供が消費者とのコミュニケーションの有効な手段として充実されるべきであり、TVコマーシャルについてはマナー広告の実施、ラベルやパンフレット等については更なる表示の適正化、また、製造者から小売業者への情報の適切な提供等について十分な配慮が求められる。
  3. ハ 酒類が社会全体に特別な飲料という認識が希薄化し、一般商品化してきているとの指摘が多い。政府及び酒類業界においては、未成年者を含む国民全般に対して、後述する販売管理体制の整備に加え、アルコールが身体に与える影響等の適切な情報の提供による啓発の充実など飲酒教育の充実を図ることが必要である。
     特に、未成年者に対しては、未成年者の飲酒が法律で禁止されていることだけにとらわれない幅広い観点からの啓蒙を行うべきである。

(3) 公正取引の観点

  1. イ 酒類業が健全に発達するためには、自由かつ公正な取引の実現が不可欠であり、独占禁止法、公正取引委員会の酒類ガイドライン及び国税庁の指針の遵守について一層の取組みを行うべきである。現状では国税庁による取引実態調査により是正を指導しているほか、公正取引委員会の調査による注意・警告が行われているが、実効性が弱いと指摘されている。
  2. ロ 不当廉売、差別的取扱いのおそれがあると思われる取引の存在と、そのことが酒類業界全体ひいては消費者利益にも反すること(公正な取引の確保は、消費者の商品選択の自由を保障するものである。)となる点を認識し、公正取引への取組みの必要性をより啓発するとともに、実効性確保の観点から、独占禁止法に関わる違反行為に対するペナルティのあり方等必要な手当てを検討すべきである。
  3. ハ 酒類製造・卸売業者については、現在進められている各社毎の社内基準の整備を踏まえ、各企業で不当なリベートの供与・差別的な取扱いを行わない旨を公式に表明し、毎年その結果及び評価を自主的に公表するなどにより透明性を高めその実効性を担保すべきである。

(4) 酒税確保の観点

  1. イ 現在の酒類小売業免許は、酒税の確保を目的とするものであり、酒税法を根拠としている。
     消費者利便の更なる向上等の見地から、今後の酒類小売業免許の運用において、原則として、人的・設備要件を満たせば小売業への新規参入を認めることが適当である。
     また、販売できる酒類が制限された特殊酒類小売業免許などを受けている者からの条件緩和希望も多いが、この点は社会的要請を満たした上で一層の緩和と制度の簡素合理化を進める必要がある。
  2. ロ 過当な競争が行われている地域の事後的な是正のための臨時の需給調整措置の検討

(5) 販売管理等の観点(8つの手当て)

  1. イ 規制緩和により消費者の酒類へのアクセス機会が増加してきていることに伴い、未成年者飲酒や飲酒運転防止等への実効性のある対応の必要度が大きくなってきている。酒類については、品質の維持、安全性の観点を含め適切な形で販売されるべきものであり、販売管理は消費者利益の増進に寄与するものでもある。
  2. ロ 未成年者飲酒防止等に関し、販売管理体制に関する法的枠組みがないため、その是正を求める手段としてはあくまでも行政指導に止まっており、実効性の確保の点で不十分となっている。
  3. ハ 酒類という飲料の特性に鑑み、適切な販売管理体制を構築するため、酒類小売業免許の機能を拡大することが効果的・効率的であり、整備が必要な販売管理体制として、以下の手当てを検討することが必要と考えられる。
    1. 1 販売管理上の要件整備(ミニマムリクエスト)
      • ・ 売場での酒類と他の商品の完全な分離・陳列
      • ・ 適切に販売管理を行える者の配置、夜間販売における販売責任者の配置
      • ・ 地域の特殊性を踏まえた管理方法として、自治体による酒類の自動販売機の設置禁止や出店制限区域指定等が可能となるような措置の導入
      • ・ ガソリンスタンド等での酒類の販売制限
      • ・ 大学などの構内にある物販施設における20歳未満の者(未成年者)への販売の厳格な防止策
    2. 2 自動販売機の撤廃
      • ・ 目標時期を明確にした従来型自動販売機の完全撤廃、改良型自動販売機への移行、そのための条件整備
         より長期的には自動販売機そのものを撤廃するアクションプログラムの策定
    3. 3 酒類に関する研修の実施
      • ・ 小売業者(従業員を含む。)に対する酒類に関する研修の実施
         なお、小売業者等に対して求める一定の研修の受講は、資格付与的な性格のものであるべきではなく、必要な商品知識や酒類の特性を踏まえた飲酒教育の啓蒙に資するものとすべきである。
         また、研修の実施に当たっては、独立行政法人酒類総合研究所や小売酒販組合等の役割の発揮が求められる。
    4. 4 リサイクル関係施策の充実
      • ・ 家庭や料飲店からのリターナブル容器の回収体制の確保のための取組みの一層の充実
    5. 5 免許の人的要件の整備等
      • ・ 未成年者飲酒防止等の要請に配意した資格要件(=人的要件)の見直し
    6. 6 免許の目的の見直し等
      • ・ 適切な酒類の販売管理体制を求める社会的要請を踏まえた免許の目的の見直し
      • ・ 不適格者による販売を効率的・効果的に防止するための更新制の導入等
      • ・ 免許に条件を付すことができる場合の規定の整備
    7. 7 販売管理のモニタリング
      • ・ 行政が地域毎の市場の動向、販売管理等の実態を把握し、その適切性を効率よくモニタリングするための体制の整備
      • ・ なお、モニタリングは、価格や売場などの市場環境が大きく変化している現状を踏まえ、当分の間の措置として上記の要件等に販売量の最低基準等の要件を加えて行うことが適当である。
    8. 8 小売酒販組合の活性化、役割の発揮
      • ・ 未成年者の飲酒及び飲酒運転の防止、リサイクル社会への貢献などの社会的要請に対応するための実施主体としての小売酒販組合の活性化及び役割の発揮
      • ・ なお、小売酒販組合未加入者に対しては、組合員外への事業を実施するなどの組合が中心となった取組みを推進することにより、組合への加入促進を図ることが効果的である。

(6) 15年9月以降の酒類小売業に関するスキーム

  1. イ 平成15年9月以降の酒類小売業に関するスキームについて整理すると、一定の要件を満たすことにより新規参入は認められ、その小売業者は適切な販売体制の整備などの要請を法的な枠組みの中で果たしており、行政はこれをモニタリングし、必要な場合には事後的に是正措置を講ずることとなる。
     上記で述べた諸手当てについては、これまでの酒類業者の自主的な取組みを一層推進するものや現行法体系下での通達整備で可能なものも含まれている。しかし、販売体制の整備などの要請に対応し、その実効性を確保するためには法整備が必要なものもある。例えば、免許の更新制などの従来の制度を大きく見直す必要のあるものも含まれている。検討はこれから迅速に進められるべきものであるが、平成15年9月に向けて残された期間は短い。以上述べてきた必要な手当てを整理し、人口基準廃止以降の酒類取引や販売管理などの適正性を確保するための措置の整備を段階的に進めることが必要である。
  2. ロ なお、安易に法的規制によることなくできるだけ酒類業界の自主的な取組みによる必要があることに留意すべきである。また、法整備については、その内容(社会的コスト)とその効果(消費者のメリット)が十分バランスのとれたものにする必要がある。

4. 酒類(小売)業の健全な発達のための取組み

  1. イ 改めて整理すると、酒類業の健全な発達とは、個々の企業においては、消費者ニーズや社会的要請に適切に対応することにより適正利潤を確保し、もって酒類業全体として効率化・高度化が図られることであろう。
  2. ロ 酒類小売業においては、既に述べたように消費者ニーズや社会的要請に的確に対応するとともに、取引・販売環境の整備に努める必要がある。
  3. ハ 一方、行政においては、酒類(小売)業の健全な発達のための取組みに対し、小売酒販組合、独立行政法人酒類総合研究所等と協力して、例えば、以下のサポートが求められる。
    1. 1 飲酒教育・啓発についての情報発信への助言
    2. 2 未成年者飲酒防止対策についての指導・助言
    3. 3 活性化事業(酒類の販売技術・ノウハウの構築、情報ネットワーク化等)の推進
    4. 4 専門知識、販売サービスの研修

5. 終わりに

  1. イ これまで検討してきたように、酒類業の特性や社会的要請の高まり、規制緩和についての評価などを踏まえると、新しい時代に社会的要請に応え得る酒類業のフレーム作りが喫緊の課題となっている。本意見を参考に政府において、上記で述べた諸手当てを速やかに検討し、必要な法令、通達等について手当てを進めることを望むものである。
  2. ロ 本懇談会は昨年12月から○回にわたり、酒類(業)の特性、あるべき姿、酒類小売業免許等を中心に議論を行った。時間的制約が大きく、全体として不十分な面もあるが、消費者の利便性の確保を酒類小売業免許の規制緩和で進める一方で、社会的要請の高まりへの対応として、消費者への情報提供や販売管理の充実をはじめとするいくつかの取組の必要性について一定の答を示したつもりである。
  3. ハ なお、酒類業は小売業だけでなく、卸売業、製造業についても環境の変化の只中にあることは変わりがない。今後、事業のあり方、行政の関わり方について引き続き関係者が検討することを望むものである。

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