第1 はじめに

 近年パソコンやインターネットの普及拡大に伴い、社会全体の情報化及びペーパーレス化が急速に進展している。このような状況に対応して、現在、政府全体として電子政府の実現に向けた各種の取組が行われているところである。
 国税庁は、これまでも、情報化に対応して納税者の利便性の向上を図っていくため、インターネット上でのタックスアンサーの利用、帳簿書類の電子データによる保存制度の導入、会社事業概況書のフロッピーディスクによる提出など、納税者との情報のやりとりに係る分野に重点をおいて様々な対応を行ってきているが、更に進んで、納税申告を、現在の書面の提出による方法に加え、電子データの形で送信する方法によることを可能とする電子申告を早急に実現することが求められている。
 なお、欧米諸国では、1990年頃から、主に所得税を中心に納税者の利便性の向上、税務行政の効率化、高度化を目的として、いわゆるパソコン通信を利用した電子申告制度が導入されている。また、近年、納税者がインターネットを利用して税務当局に直接電子申告できる方式を導入する国々もある。

 当研究会は、平成11年6月からこれまでの間10回の会合を持ち、電子申告の導入に当たって問題となり得る種々の課題について、技術的・専門的な観点から検討を行った。
 本書は、この研究会における検討結果を取りまとめたものである。

第2 基本的な考え方

 社会全体の高度情報化・ペーパーレス化の急速な進展を踏まえると、外国の例を見るまでもなく、従来書面により行われてきた行政手続の電子化は、時代の要請というべきものであり、その意味で納税申告手続の電子化、すなわち電子申告も、高度情報化社会の実現を目指すとの大きな流れの中で積極的に推進するべきであると考える。
 これを前提に、当研究会は、望ましい電子申告の在り方について、以下の基本的な考え方に立って検討を行った。

(1) 納税者の利便性
 電子申告導入の目的は、従来の納税申告書を税務署への持参又は郵送により提出する申告方法に加え、申告内容を電子データの形でオンラインで送信するという、より簡便な申告方法の選択肢を納税者に提供することにある。したがって、電子申告は、所得計算そのものを含む納税者における申告に要する手間や時間など申告手続負担を可能な限り軽減することにより、納税者の利便性の向上に資するものでなければならない。

(2) 納税者の信頼
 納税申告は、納税者の権利・義務に大きな影響を与える手続であり、その内容は納税者のプライバシーそのものであることに鑑み、電子申告は納税者の秘密が完全に保たれることを含め、セキュリティの確保について納税者の信頼を得られるものでなければならない。

(3) 適正・公平な課税
 電子申告の導入は、現在の申告水準の低下を招くものであってはならず、税務行政の基本である適正・公平な課税に資するものでなければならない。

(4) 税務行政の効率化・高度化
 電子申告は、税務当局にとっても、書面処理等の省力化による事務の効率化や、電子申告データの多角的な分析、活用などによる税務行政の高度化に資するものでなければならない。

第3 個別の論点について

1 電子申告の対象税目

(1) 基本的な考え方
 電子申告が、納税者の利便性の向上の観点から導入するものである以上、基本的には、できる限り多くの税目をその対象とすることにより、多くの納税者が電子申告のメリットを享受し得るものとするべきであると考える。
 その上で、以下のように考えるのが妥当である。

 多数の納税者が反復継続して申告するような税目(例えば申告所得税、法人税及び消費税)については、多くの納税者が電子申告という簡便な申告手続を利用することにより、申告書の作成及び申告手続負担の軽減メリットを享受できること、また、税務当局にとっても申告書の処理事務等の効率化や税務行政の高度化の効果が大きいことから、最も電子申告の対象として適していると考える。
 他方、毎月反復継続して申告するような税目であるが対象となる納税者数が少ない税目(酒税、揮発油税など)は、納税者にとっては手続負担の軽減効果は大きく電子申告に対するニーズは高いと思われるが、電子申告システム構築の費用対効果の観点から、電子申告導入の優先度は相対的に高くないと考えられる。また、申告の起因となる事実の発生が臨時・偶発的であって、継続して申告書が提出されるものではない税目(相続税、贈与税など)は、電子申告に対するニーズは相対的に高くないのではないかと考えられる。
 欧米諸国においても、個人所得税及び法人税において電子申告が導入される例が多いのは、このような考え方によるものであると言える。

 なお、源泉所得税についても、毎月反復継続して手続(計算書の提出)がなされるものであり、これが電子化されることによる利便性の向上は大きいものと考えられることから、これについても将来において、手続の電子化の検討を進めるべきであると考える。

(2) 導入税目の優先順位
 実際に電子申告を導入する場合には、税務当局としてもシステム構築や事務処理体制の整備の必要性及び予算上の制約等があり、これらを十分勘案した上で、導入税目に何らかの優先順位をつける必要があると思われるが、基本的には主要税目である申告所得税、法人税及び消費税への導入を優先するべきであると考える。
 欧米諸国においては、給与所得者の年末調整制度がなく、膨大な還付申告を迅速に処理し、納税者に対し還付金を早期に支払う必要があることなどから、個人所得税から導入する例が多いが、我が国においては、大部分の給与所得者は年末調整により納税手続が完結し、申告を行う必要がないことに加え、諸外国に比べ還付金の支払いは早期になされていることから、申告所得税と法人税との間に導入の優先度の差は特にないと考えられる。
 また、消費税は、納税者や申告書の提出時期など申告所得税及び法人税と共通する面が多いことから、単独で導入するよりも、申告所得税あるいは法人税とともに導入するのが、納税者利便の観点から望ましいと考える。
 したがって、今後税務当局において、申告所得税及び消費税、法人税及び消費税について、併行して導入準備を進めつつ、導入可能となったものから順次導入していくべきであると考える。

 なお、主要税目である申告所得税、法人税及び消費税において、具体的にどのように納税者の利便性の向上に資するかということについては、以下のように考える。

イ 申告所得税では、給与所得者の還付申告や公的年金等受給者の申告などは、申告書が1〜2枚程度で申告自体が簡易であり、電子申告が導入されれば、家庭にいながらにして納税申告ソフトウェアに従って計算誤りのない申告ができることとなることに加え、技術的には24時間送信が可能であり、納税者の利便性は向上するものと考えられる。

ロ 法人においては、大企業と中小企業との間に電子申告に対する関心に温度差があるが、総じて経理処理の電子化が進展していることに加え、電子帳簿保存法の適用法人の増加もあり、今後更に経理処理の電子化が加速されると見込まれる。このような状況の下で、法人税に電子申告が導入されれば、企業の会計処理と税務申告データの作成、送信といった一連の作業を電子的に処理できることとなり、納税者の事務の省力化とペーパーレス化が可能となると考えられる。

ハ 消費税は、申告書と明細書のみでデータ量が少なく、画面上の処理になじむことに加え、確定申告のほか年3回四半期毎に中間申告しなければならない手間が電子申告により省力化されることから、電子申告に適していると考えられる。

2 添付書類の取扱い

(1) 問題の所在
 所得税法等は、税務執行の円滑化を図るとともに、適正・公平な課税を目指すため、申告書の提出に当たり、種々の書類の添付(又は提示)を求めている。添付(又は提示)するべき書類については、その真実性を確保する見地から原本によることとされているが、電子申告の場合、書面による申告のように原本を同時に提出することが困難である。また、仮に電子データで送信するとした場合、特別な対策を講じなければ、電子データは、改ざん、消去等の加工及びその痕跡の消去が容易であるという特性を有している。そのため、電子申告において添付書類の取扱いをどうするかが問題となる。

(参考1)現行添付書類の制度
 各税法では、申告内容が適正であるかどうか確認するため、納税者が申告書を提出する際、必要に応じて添付書類の提出又は提示を求めている。添付書類は、次の二種類に大別される。

イ 申告所得税における青色申告決算書、白色申告者の収支内訳書や、法人税における損益計算書、貸借対照表など納税者自ら作成した添付書類

ロ 申告所得税における源泉徴収票、生命保険料及び損害保険料控除証明書、医療費の領収書、住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書など第三者が作成した証明書類

 また、第三者作成の証明書類には、源泉徴収票など、申告された課税標準などの金額を確認するためのものや、所得税における住宅借入金等特別控除に係る証明書類や所得税・法人税における租税特別措置法関係等の規定に係る証明書類など、証明書類の提出が個別の特例措置を適用するため一定の事項を確認するためのもの(証明書類の添付がない場合は、やむを得ない事情がない限り特例措置の適用を受けることができないという法律的構成がとられているもの)などがある。

(参考2)「電子帳簿保存法」の考え方
 「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(「電子帳簿保存法」という。)においては、相手方から紙で受け取った領収書、請求書等の証拠書類を電子データで保存することは、その電子データの性質上、真実性の確保が困難であるとして認められていない。

(2) 検討の視点
 電子申告において添付書類をどのように取り扱うかという問題については、電子申告の導入目的である納税者利便の観点に加え、添付書類制度が、適正・公平な課税と税務行政上の効率性の観点から、税制及び税務行政上重要な柱と位置付けられていること、また電子申告における添付書類の取扱いが、書面による申告を含め、添付書類制度全体の在り方、更には申告時点において申告内容と添付書類を突合するという税務行政の在り方にも大きな影響を与えるものである点に十分留意しつつ検討を行った。

(3) 電子申告における添付書類の取扱い
 電子申告は、納税者の申告手続負担の軽減を図るとの観点から導入するものである以上、申告書を電子化するにとどまらず、添付書類についてもできる限りの電子化・ペーパーレス化を志向するべきものと考える。
 しかし、社会全体の電子化が進展しつつあるとはいうものの、現時点では公的機関や民間企業がデジタル署名を利用して電子的な方法で証明書類を発行する例は稀であり、このような現状も十分認識する必要がある。
 添付書類は、申告内容が適正かどうかを確認するための必要性から、納税者に対し提出を求めているものであり、電子申告においてこれを提出不要とするためには、税務当局が同じ情報を別途の方法で入手し、申告内容と突合できることが必要である。このような担保がない状況の下で、納税者利便の理由のみをもって添付書類の提出を不要としペーパーレス化を図ることは、税務行政に対する基本的要請である適正・公平な課税の観点から適当ではない。
 このような点を踏まえると、将来的にはともかくとして、当分の間、別途提出を求めるべき添付書類があることもやむを得ないと考える。
 以上のような基本的な考え方に立って、電子申告における添付書類の取扱いに関して、以下のように考える。

イ 納税者自らが作成する添付書類は、電子データの形で提出を求めても課税上問題はないことから、申告データと併せて電子的に送信することを認めるべきである。

ロ 第三者作成の証明書類は、基本的には、全ての証明書類を同じ取扱いにするのではなく、今後の社会全体の電子化の進展状況を踏まえ、適正・公平な課税の観点から個々の添付書類の必要性を含めて検討を行い、電子的に提出可能なもの、提出不要とし納税者保管とするもの、申告内容の確認のため別途提出が必要なものに区分して考えるべきである。

ハ 納税者から提出を求めている第三者作成の証明書類の中には、法定資料を拡充する等の方法で、税務当局が納税者以外の者から情報を入手することにより、申告内容との突合が可能となるものもあるのではないか。したがって、このような観点からは、納税者から提出を求めるべき書類の簡素化に努めていくことが望ましい。
 また、これらの法定資料の提出についても、提出義務者の負担の軽減の観点から、より一層の電子化を図ることにも配意する必要がある。

 なお、第三者作成の証明書類を提出不要とし納税者保管とすることについては、(1) 提出不要となることによる利便性と長期間保管するという新たな負担を勘案した場合、むしろ、後者の負担が大きく、提出不要とすることが必ずしも納税者の利便性の向上に資するとは考えられないのではないか、(2) 納税者が別途提出することを選択できることも可能とするべきではないか、(3) 納税者が書類をきちんと保管することが担保されるような制度を整備する必要があるのではないか、との意見があった。
  また、書面で申告する者と電子申告する者において、添付書類について取扱いを異にしても良いのではないかとの意見があるが、他方、取扱いに大きな差をつけることは公平性の観点から妥当ではないのではないかとの意見もあった。

3 電子申告の方法

(1) 問題の所在
 欧米諸国において1990年代初頭以降導入されている電子申告では、納税者の申告データを送信する者である仲介者が、税務当局にいわゆるパソコン通信によって接続(税務当局固有の電話番号へダイアルアップ)する方式を採用し、納税者が直接税務当局へ接続することを認めていない例が多い。
 我が国の電子申告においては、税務当局に対する接続方式をどのように考えるか、何らかの仲介者を設け申告に当たってその仲介者を通すことを義務付けるかどうかという点が問題となる。
 これについては、税務当局のコンピュータに対する侵入や通信途上での申告データの漏洩を防止する観点、通信に係る技術的トラブル防止という観点、更には納税者利便の観点からの検討が重要である。
 また、我が国においては、税理士法により、原則として、税理士以外の者は税務代理、税務書類の作成及び税務相談を行うことができないこととされていることに留意する必要がある。

(2) 税務当局への接続方式
 税務当局への接続方式についての選択肢としては、いわゆるパソコン通信とインターネットの利用が考えられる。一般的にセキュリティの確保の面ではパソコン通信が優れていると理解されている。しかし、現状においても適切な暗号化措置を講じることにより、インターネット上に安全なネットワークを作ることは十分可能と考えられる。更に、諸外国が電子申告を導入した1990年代初頭の通信方法は、いわゆるパソコン通信が主流だったと考えられるが、現在はインターネットの普及拡大が著しく、この流れは今後も加速されると考えられる。我が国においてもその世帯普及率は平成17年度には40パーセントを超えるとも言われており、インターネットは納税者にとって最も利便性の高い通信手段になりつつある。このような点を考慮すれば、電子申告の通信方法としては、原則として、インターネットを利用するべきであると考える。

(3) 納税者の直接申告
 欧米諸国で仲介者介在方式を採用した理由は、インターネットはもちろん、パソコンの普及もそれほど一般的ではなかった状況の下で、通信上のセキュリティの確保やトラブル対応の効率化、更には仲介者を介することにより納税者の本人確認が容易になることも考慮し、専門業者に申告データの電子化や送信といった技術的な手続を委ねることとしたと考えられる。しかし、この様な仲介者の役割はインターネットの普及していなかった旧い時代のものであり、むしろ最近諸外国においても、納税者利便の観点から、インターネットを利用して納税者が税務当局に直接送信する方式を採用しつつある。
 また、申告納税制度の下では、納税者が自ら所得及び税額を計算し申告する自書申告が基本であり、電子申告においても書面による申告の場合と同様に考えるべきこと、電子申告導入の意義は、納税者の申告手続負担の軽減にあると考えられるが、インターネットの利用を前提とする場合、納税申告ソフトウェアの利用により納税者自らが申告できることが利便性の向上に繋がること、を考慮すれば、電子申告のための特別な仲介者を設けこれを通すことを義務付けることは適当ではなく、納税者が直接税務当局に送信できる方法を基本と考えるべきである。
 他方、我が国では、税理士法において、税理士は税務に関する専門家として、独立した公正な立場で、申告納税制度の理念に沿って、納税者の納税義務の適正な実現を図ることを使命としており、税理士は、守秘義務を負った上で、添付書類を確認して、申告内容が適正かどうかについて一定のチェック機能を果たしている。実際の書面による納税申告においても、中小企業の場合は、税務署に対する申告書の提出も税理士を通じて行っている例が多い。このようなことを考慮すると、電子申告においても、書面による納税申告の場合と同様、税理士を通じて申告することができるのは当然である。

 なお、納税者が作成した申告データを単に送信するだけの業務であれば税理士業務に当たらないと考えられる。これに対しては、税理士資格を有しない者が送信業務に付随して税理士法に抵触する行為を行う懸念があるので、税理士法違反の取締りには十分留意するべきであるとの指摘があった。

4 納税者等の認証とセキュリティの確保

(1) 問題の所在
 納税者等の本人確認と申告意思の確認等を行うため、国税通則法及び税理士法等は、申告書の提出に際し、納税者等の記名(署名)・押印を求めている。申告手続をインターネット等のネットワークを通じて行う場合には、当該申告手続が真にその名義人によってなされたものであるかどうか(他人によるなりすましがないかどうか)、申告内容が改ざんされていないかどうかについて、電子的に確認する仕組みを講じる必要がある。
 また、納税申告の内容は納税者のプライバシーそのものであるため、通信途上の内容を秘匿できる仕組みを含め、セキュリティを確保し得る措置を講じる必要がある。
 これらの点に関しては、暗号技術をはじめとするセキュリティ技術の進展や今後の認証制度の整備状況、セキュリティ対策の費用対効果に加え、どのような措置を講じれば電子申告全体に対する納税者の信頼を確保できるかという視点からの検討が必要である。

(2) 電子申告を開始するための手続
 インターネットを利用した電子申告における大きな課題が本人確認であり、不正アクセスの防止、事後の機械処理の効率化をも考慮すると、まず納税者本人であることを確認し、送信された申告データが誰のものであるかを識別するための電子申告整理番号やパスワード等を付与する何らかの事前手続は必要と考えられる。この手続については、本人確認の要請と納税者の手続負担とのバランスを十分に勘案する必要があるが、将来的に書面による開始手続が不要となる環境が整うまでの間は、電子申告を行う旨の書面による簡便な手続を採用するのが適当である。

(3) 納税者等の認証
 書面による申告における記名(署名)・押印に代わる納税者等の認証の方法については、公開鍵暗号方式によるデジタル署名を採用することが考えられる。デジタル署名を利用する場合には、(i)税務当局が電子申告のシステム内で電子的な認証基盤を備える方法、又は、(ii)税務当局以外の認証機関が発行した公開鍵証明書を利用する方法が考えられるが、いずれを採用するべきであるかは、本人確認の要請と納税者の使い勝手の良さとのバランス、更には電子申告導入時の電子認証システムをめぐる社会環境を勘案する必要がある。
 現在、商業登記制度に基礎を置く電子認証制度や電子署名及び認証業務に関する法制度の整備が進みつつあり、電子申告導入時に、行政手続に利用可能な信頼性の高い電子認証システムが納税者に容易に利用可能な状況になっている場合には、(ii)の方法を採用することが納税者利便の観点等から望ましいと考える。 
  しかし、電子申告導入時に、社会一般の電子認証システムの利用状況がそこまで至らないような場合には、技術的に汎用性のあるものにした上で(i)の方法を採用し、将来デジタル署名が現在の印鑑と同様に日常生活において普通に使用されるような状況になった場合に(ii)の方法に移行することが適当である。
 また、日本税理士会連合会が税理士の認証を行うため認証機関を設置するとの動きがあるが、これが本人確認の厳密性等認証機関が満たすべき要件を充たし、適切に運用されるならば、電子申告において税理士の認証方法として利用することも可能ではないかとの意見があった。

(4) セキュリティの確保
 インターネットを利用した電子申告におけるセキュリティの確保に関する課題は、(i) ネットワーク上での申告情報の盗み見や漏洩の防止、(ii)申告データを受け取る税務当局のシステムにおける情報の適切な管理、すなわち納税者の申告情報の処理・保存・管理における一貫性(完全性)及び秘密保護、並びにシステム全体の耐障害性、耐侵入性である。
 安全確保技術に関して厳密に100%のセキュリティが確保されるまで電子申告を導入しないとすると、いつまで経っても導入することができないこととなる。現状において全て技術的には相当のレベルで安全性確保が可能と考えられることを考慮すると、納税者の利便性と安全性確保に係るコストとのバランスを十分考慮しつつ、暗号化措置を含め適切な安全確保策を講じることにより、現段階で可能な限りのセキュリティレベルを確保する必要がある。その上で、導入後の環境や技術の変化に応じて納税者のセキュリティの確保に対する要求が高度化してくることも見通しながら、適切な技術を採用し、必要に応じてこれに改良を加えていくことが必要である。
 最近、各省庁のホームページに対し、ハッカーが侵入し、情報を書き換えるという、行政手続の電子化に対し国民の不安感を惹起させるような事例が発生している。納税申告が広範な国民を対象とする手続であることに鑑みると、電子申告が受け入れられるためには、セキュリティの確保について適切な措置を講じることにより、納税者の信頼を得られるシステムを構築することが、何よりも重要であると考える。

5 その他

(1) 電子申告の提出時期
 申告の効力の発生時期を判定する一般的基準は、民法上の原則たるいわゆる到達主義により、納税申告書の提出(到達)の時にその効力が発生するものとされており、電子申告も同様に考えるべきである。
 申告を含む届出手続において、いつ到達したと考えるべきかは、行政手続法上、届出が行政庁等の事務所に物理的に到着し了知可能な状態に置かれる、すなわち届出が当該部局の支配圏内に置かれる時点と解されていることを勘案すれば、電子申告における到達時期も、これと同様の考え方に立って、納税者から送信された申告データが税務当局の受付システムに入った時点で当局としていつでもその内容を見ることが可能となることから、その時点で到達したと考えるべきである。
 なお、税関手続(NACCS)、特許出願手続等のオンライン手続においては、法律上「電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時」と規定され、到達主義によっている。
 また、電子申告の場合、納税者が期限内に送信し、通常であれば期限内に到達したにもかかわらず、通信の混雑やトラブルなど納税者の責めに帰することのできない理由により期限後申告となり、納税者にとって不利益な結果を招く場合が有り得ることなど電子申告特有の問題があり、これに対する何らかの措置が必要ではないかと考えられる。

(2) 電子申告の到達確認
 書面による申告の場合、希望する納税者に対しては、納税者の便宜のため、申告書の控えに税務署の受付印を押印するなどの方法により、申告書が提出されたことの確認を行っている。
 電子申告においても、書面による申告と同様、納税者利便の観点から、税務当局に到達したことを納税者が確認できる仕組みを講じる必要がある。
  到達確認の方法は、(1)税務当局が納税者等に対し申告データが到達したことをオンラインで通知する方法、(2)納税者等が税務当局にオンラインでアクセスし確認する方法、が考えられる。これについては、確認の内容をどのようなものとするかを含め、納税者利便の観点、更には技術的な可能性とこれに係るコスト等を勘案し、適切な方法を採用するべきであると考える。

(3)  電子申告の導入に向けての環境整備等

イ 電子申告においては、納税申告のためのソフトウェアを納税者にとって使い易いものに工夫することによって、納税者は書面の申告書を作成するよりも容易に申告書を作成することが可能である。納税申告ソフトウェアがどのような形で提供されるべきであるかについては、例えば、税務当局が作成する場合には、当局にとって管理がし易いという利点があり、また、給与所得者の還付申告や公的年金等受給者の申告などのソフトウェアは、申告書の作成自体が簡便なものであることから、税務当局のホームページ上で対話型のソフトウェアを提供する方法が、納税者にとって使い勝手が良いとも考えられる。他方、現在、申告所得税や法人税について多くの納税申告ソフトウェアが民間企業により開発され、利用されていることを踏まえると、税務当局がデータ形式を公表して、民間企業の開発競争に委ねるほうが、ソフトウェア開発会社の創意工夫により納税者の使い勝手のよいソフトウェアの提供が期待できるとも考えられる。更に、各税目において、こうした種々の方法を複数採用し、納税者が自らの状況に応じて適宜選択できる形にすることも考えられないわけではない。
 いずれにしても、電子申告ソフトウェアの提供方法については、対象税目や納税者の態様に応じて、納税者利便の観点や、納税申告ソフトウェアの現状等を十分踏まえ適切に対応する必要がある。

ロ 税務当局は、現在、納税者が自ら申告書を作成し、提出する自書申告の定着に向け諸施策を実施している。更に、最近においては、確定申告期に、タッチパネル方式の自動申告書作成機を税務署や還付申告センターに設置している。電子申告は自書申告の次のステップとも考えられることから、例えば、パソコンが得意でなく、税の知識も詳しくない人も電子申告ができるよう、税務署にパソコンを設置するなど納税者が気軽に電子申告ができるコーナーを設けたり、税務職員が電子申告の指導を実地に行うなど、納税者が無理なく電子申告に習熟していく仕組みを考えていくことが必要である。また、今後納税者サイドの情報化が急速に進展することに対応し、現在税務当局がインターネットにおいて提供しているタックスアンサーを更に拡充するなど、電子申告の円滑な導入とその普及に向けて、積極的な広報、相談活動に加え、情報化時代にふさわしいインターネットを活用した多様なサービスの提供に努めることが必要である。
 なお、国と地方団体との税務行政運営上の協力関係については、電子申告が導入された場合にも、これまでの取扱い等も踏まえつつ、納税者利便に十分配意しながら、一層の推進に努めることが望ましい。

第4 結び

 インターネット等情報技術を活用した電子商取引の急拡大は、取引コストの大幅な低減効果を通じ企業経営の効率化を促し、産業、経済構造に大きな変革をもたらしつつあるが、これらの技術を国民が行政手続を行う場合に活用することにより、国民の利便性が著しく向上する可能性がある。
 とりわけ、納税申告手続は、広く国民一般に及ぶ最も基本的な手続の一つであり、それだけにこれが電子化されることにより国民が享受できる利便性の向上は大きなものがある。
 また、電子政府の実現という流れの中で、国庫金事務の電子化を推進する動きもあり、これが実現すれば、国税の申告と納付の電子化が相まって、納税者の利便性が更に向上することが期待される。
  政府全体の政策においても、本研究会開催中に、「経済新生対策」(平成11年11月11日経済対策閣僚会議決定)において、「国税の電子申告については、必要な実験を行うなど、その実現に向けての基盤の整備を推進する。」との内容が盛り込まれ、また、「ミレニアム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)について」(平成11年12月19日内閣総理大臣決定)において、「2003年度までに、国税の申告手続等をインターネット等のネットワークで行うことの出来る電子申告システムを構築し、一部の税目等について運用を開始」するとして、電子申告の実現目標が設定されるなど、電子申告は電子政府の実現に向けての先導的な取組と位置付けられている。
  税務当局においては、本取りまとめで示された考え方を十分踏まえ、平成12年度中に実施が予定されている実験の結果も十分勘案しながら、望ましい電子申告制度について更に総合的な見地から検討を行った上、国民の理解と信頼を得て、法令等により必要な措置が講じられることを切望するものである。