(問65)

通算法人S社がX1年3月31日にT1社の発行済株式の全部を、X2年3月31日にT2社の発行済株式の全部を取得したことにより、T1社及びT2社は、Pグループに加入しました。その後、T1社及びT2社は、X4年4月1日に、T1社を合併法人、T2社を被合併法人とする通算内適格合併(無対価合併)を行いました。この度、S社がX6年4月1日に、T1株式の40%を通算グループ外のA社へ譲渡したことにより、T1社はPグループから離脱することとなりました。
 ところで、S社は、通算内適格合併による解散により通算グループを離脱するT2社の株式に係る投資簿価修正において資産調整勘定対応金額等の加算措置の適用を受けており、今回のT1株式の譲渡により通算グループを離脱するT1社の株式に係る投資簿価修正においても資産調整勘定対応金額等の加算措置の適用を受ける予定ですが、具体的には、どのような計算を行うのでしょうか。

解読図

【回答】

被合併法人であるT2社の株式に係る投資簿価修正において資産調整勘定対応金額等の加算措置の適用を既に受けている場合で、合併法人であるT1社に通算終了事由が生じた際にS社がこの加算措置の適用を受けるための一定の要件を満たしているときは、T1株式の投資簿価修正において、T1社を合併法人とする通算内適格合併に係る被合併法人調整勘定対応金額をT1株式に係る調整勘定対応金額の合計額に加算した金額をT1社の離脱時の簿価純資産価額に加算します。

【解説】

  1. 1 通算内適格合併が行われた場合の調整勘定対応金額の計算
    1. (1) 投資簿価修正における資産調整勘定対応金額等の加算措置
       通算法人が有する株式を発行した通算子法人(初年度離脱通算子法人(※)を除きます。以下同じです。)について通算制度の承認がその効力を失う場合(以下、この承認の効力を失うこととなる事由を「通算終了事由」といいます。)、その通算子法人の株式の帳簿価額をその通算子法人の簿価純資産価額に相当する金額(※)に修正を行うとともに、自己の利益積立金額につきその修正により増減した帳簿価額に相当する金額の増加又は減少の調整を行います(投資簿価修正)(法2十八、令9六、119の35、119の41)。
       なお、この場合において、その通算子法人の株式を有する全ての法人がその通算終了事由が生じた時の属する事業年度の確定申告書等に調整勘定対応金額の合計額等の計算に関する明細を記載した書類(別表十四(五))を添付し、その通算子法人の株式を有する法人のうちいずれかの法人が調整勘定対応金額の計算の基礎となる事項等を記載した書類を保存しているときは、その通算子法人の株式の帳簿価額は、調整勘定対応金額の合計額を加算して計算した簿価純資産価額(※)となります(以下、この措置を「本加算措置」といいます。)(令119の36)。
      1. (※) 初年度離脱通算子法人については問40、簿価純資産価額に相当する金額については問60、調整勘定対応金額の合計額を加算して計算する簿価純資産価額については問63を参照してください。
    2. (2) 通算内適格合併が行われた場合
       通算終了事由が生ずる他の通算法人を合併法人とする通算内適格合併(注1)が行われた場合において、その通算内適格合併に係る被合併法人調整勘定対応金額(注2)があるときは、上記(1)の調整勘定対応金額の合計額にその被合併法人調整勘定対応金額に相当する金額を加算することとされています(令119の36二括弧書)(注3)。
       なお、通算内適格合併が行われた場合において、被合併法人である通算子法人の株式につき本加算措置の適用を受けることを選択しなかったときには、その後、合併法人である通算法人に通算終了事由が生じた際に本加算措置の適用を受けたとしても、被合併法人調整勘定対応金額に相当する金額を合併法人株式に係る調整勘定対応金額の合計額に加算することはできません。
       また、被合併法人である通算子法人の株式につき本加算措置の適用を受けていた場合であっても、合併法人である通算法人に通算終了事由が生じた際に本加算措置の適用を受けることを選択しなかったときには、被合併法人調整勘定対応金額を含め、合併法人(離脱法人)の簿価純資産価額に加算される金額はないこととなります。
      計算例
      1. (注1) 通算内適格合併とは、通算グループ内の他の通算法人の通算終了事由が生じた時前に行われた適格合併のうち、その適格合併の直前の時において当該他の通算法人に係る通算親法人との間に通算完全支配関係がある法人を被合併法人及び合併法人とするもの並びにその通算親法人との間に通算完全支配関係がある法人のみを被合併法人とする合併で法人を設立するものをいいます(令119の37五)。
      2. (注2) 被合併法人調整勘定対応金額とは、通算内適格合併に係る被合併法人の対象株式(令119の37二)につき本加算措置の適用を受けた場合におけるその適用に係る調整勘定対応金額の合計額に相当する金額をいいます(令119の37六)。
      3. (注3) 通算内適格合併に係る被合併法人の株式についての本加算措置の適用に当たり、その被合併法人を合併法人とする他の通算内適格合併に係る被合併法人調整勘定対応金額がある場合には、その通算内適格合併に係る被合併法人調整勘定対応金額は、その被合併法人の株式に係る調整勘定対応金額の合計額に当該他の通算内適格合併に係る被合併法人調整勘定対応金額に相当する金額を加算した金額となります。
         例えば、T1社を合併法人、T2社を被合併法人とする通算内適格合併(後続合併)より前に、T2社を合併法人、T3社を被合併法人とする通算内適格合併(先行合併)があり、T3株式の投資簿価修正において本加算措置の適用がある場合には、後続合併に係る被合併法人調整勘定対応金額は、後続合併に係る被合併法人の株式に係る調整勘定対応金額(T2株式に係る調整勘定)に先行合併に係る被合併法人の株式に係る調整勘定対応金額(T3株式に係る調整勘定)を加算した金額となります。
         すなわち、複数の通算内適格合併があった場合には、各通算内適格合併に係る被合併法人調整勘定対応金額は最終的な合併法人の株式に係る投資簿価修正の計算上簿価純資産価額に加算されることとなります。
    3. 2 本件における計算例
      1. (1) 通算内適格合併に伴うT2社の離脱時に行うT2株式の投資簿価修正
        計算例
         T2株式に係る調整勘定対応金額の計算については下表を参照ください。
         なお、被合併法人株式(T2株式)は、通算内適格合併(無対価合併)により消滅し、合併法人株式(T1株式)の帳簿価額は、その通算内適格合併の直前の帳簿価額(150)に被合併法人(T2社)のその通算内適格合併の直前の帳簿価額(投資簿価修正後の帳簿価額200)を加算した金額(150+200=350)となります(令119の320)。
      2. (2) T1社の離脱時に行うT1株式の投資簿価修正
        計算例
         T1株式に係る調整勘定対応金額の計算については下表を参照ください。
      3. (3) T1株式の譲渡損益
         譲渡対価100 − 譲渡原価148(370×40株/100株)=▲48(譲渡損失)
        計算例
    4. 3 経過措置
      1. (1) 経過連結法人に関する経過措置
         通算グループ内の他の通算法人(離脱法人)が、連結納税制度から通算制度への移行に係る経過措置(令2改正法附則29@)により通算承認があったものとみなされた内国法人(連結親法人であったものに限ります。以下「経過連結親法人」といいます。)の令和4年3月31日の属する連結事業年度終了の日においてその経過連結親法人との間に連結完全支配関係があった内国法人(以下「経過連結子法人」といいます。)である場合における当該他の通算法人に係る通算完全支配関係発生日は、その通算承認があったものとみなされた日ではなく、当該他の通算法人がその経過連結親法人との間に連結完全支配関係を有することとなった日とされています(令4改正令附則62)。
      2. (2) 経過適格合併に関する経過措置  経過連結親法人が、令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度終了の日までに、経過適格合併(注4)に係る対象金額(注5)につき「投資簿価修正における簿価純資産価額の特例計算に関する経過措置を適用する旨の届出書」(注6)を納税地の所轄税務署長に提出した場合には、その経過適格合併に係る合併法人の株式に係る本加算措置の適用については、その経過適格合併を通算内適格合併と、その対象金額を被合併法人調整勘定対応金額と、それぞれみなすこととされています(令4改正令附則63)。
         すなわち、連結納税制度からグループ通算制度に移行した法人が連結グループ内で適格合併を行っていた場合の被合併法人の株式に係る調整勘定対応金額も、本加算措置の対象とされます。
        1. (注4) 経過適格合併とは、令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日以前に行われた適格合併のうち、経過対象子法人を被合併法人及び合併法人とするもの並びに経過対象子法人のみを被合併法人とする合併で法人を設立するものをいい、経過対象子法人とは、その適格合併の日の前日において上記の経過連結親法人との間に連結完全支配関係があった法人をいいます。
        2. (注5) 対象金額とは、経過適格合併に係る被合併法人を通算グループ内の他の通算法人(離脱法人)と、その経過適格合併が行われたことを通算終了事由と、その被合併法人がその経過連結親法人との間に連結完全支配関係を有することとなった日を通算完全支配関係発生日と、それぞれみなして本加算措置を適用するものとした場合に調整勘定対応金額の合計額として計算される金額をいいます。
        3. (注6) 対象金額はこの届出書の記載事項とはされておらず、合併法人である通算法人に通算終了事由が生じた際に、その通算法人の対象株式に係る資産調整勘定対応金額及び負債調整勘定対応金額の計算の明細とともにその対象金額及びその計算の明細を確定申告書等に添付することとなります。
           なお、被合併法人調整勘定対応金額と同様、経過適格合併に係る対象金額について届出書を提出していた場合においても、合併法人である通算法人に通算終了事由が生じた際に本加算措置の適用を受けることを選択しなかったときは、対象金額を含め、加算される金額はないこととなります。

      (参考)
       初年度離脱通算子法人、簿価純資産価額に相当する金額、調整勘定対応金額の合計額を加算して計算する簿価純資産価額、対象株式及び通算完全支配関係発生日については、次のQ&Aを参照してください。

      1. 問40 通算制度からの離脱等に伴う時価評価を要する法人
      2. 問60 投資簿価修正(原則法)の概要
      3. 問63 投資簿価修正における資産調整勘定対応金額等の加算措置