(問63)

通算法人S社(3月決算)がT社(3月決算)の発行済株式の全部を取得したことにより、T社は、Pグループに加入しました。その後、S社は、T株式の50%を通算グループ外のA社へ譲渡したことにより、T社はPグループから離脱することとなりました。

解読図

この場合、S社は、保有するT株式の帳簿価額をT社の離脱時の簿価純資産価額に修正することとなりますが(投資簿価修正)、一定の場合には、T株式の取得価額に含まれる買収プレミアム(のれん相当額)を加算して計算した金額を簿価純資産価額とすることができる措置があると聞きました。具体的にはどのようなものでしょうか。また、T株式の取得及び譲渡に関する事項は次のとおりですが、のれん相当額(調整勘定対応金額)の計算及び投資簿価修正は、どのように行うのでしょうか。

  1. 1  S社は、X1年3月31日に、T株式の100%(2,000株)を2,000で購入しました。この2,000は、購入手数料などの付随費用が含まれた金額です。 同日にT社の有する資産の帳簿価額の合計額は3,000で、このうちには帳簿価額1,000(時価1,200)の土地が含まれています。また、同日にT社の有する負債の帳簿価額は1,600で、このほかにT社のX1年3月期の貸借対照表には退職給付引当金300と賞与引当金100が計上されています。
  2. 2  S社は、X4年4月1日に、T株式の50%(1,000株)を通算グループ外のA社へ1,100で譲渡しました。同日におけるT社の簿価純資産価額は1,800です。

【回答】

離脱法人の株式を有する全ての法人が離脱時の属する事業年度の確定申告書等に別表十四(五)を添付し、いずれかの法人が調整勘定対応金額の計算の基礎となる事項等を記載した書類を保存している場合には、離脱法人株式の離脱直後の1単位当たりの帳簿価額の計算における簿価純資産価額は、離脱法人の離脱時の簿価純資産価額に調整勘定対応金額の合計額を加算した金額に持株割合を乗じて計算した金額となります。調整勘定対応金額の具体的な計算及び投資簿価修正の方法については、「4 本件における投資簿価修正」を参照してください。

【解説】

  1. 1  投資簿価修正における資産調整勘定対応金額等の加算措置の概要
     通算法人が有する株式を発行した通算子法人(初年度離脱通算子法人(※1)を除きます。以下同じです。)について通算制度の承認がその効力を失う場合(以下、この承認の効力を失うこととなる事由を「通算終了事由」といいます。)に、その通算子法人の株式の帳簿価額をその通算子法人の簿価純資産価額に相当する金額(※1)に修正を行うとともに、自己の利益積立金額につきその修正により増減した帳簿価額に相当する金額の増加又は減少の調整を行います(投資簿価修正)(法2十八、令9六、119の35、119の41)。
     なお、この場合において、その通算子法人の株式を有する全ての法人がその通算終了事由が生じた時の属する事業年度の確定申告書等に調整勘定対応金額の合計額等の計算に関する明細を記載した書類(別表十四(五))を添付し、その通算子法人の株式を有する法人のうちいずれかの法人が調整勘定対応金額の計算の基礎となる事項等を記載した書類を保存しているときは、その通算子法人の株式の帳簿価額は、次の算式により計算した簿価純資産価額とされます(令119の36)。すなわち、簿価純資産価額とされる金額は、いわゆる買収プレミアムに相当する調整勘定対応金額の合計額を加算して計算した金額となります。
    計算例
    1. (※1) 初年度離脱通算子法人については問40、簿価純資産価額に相当する金額については問60を参照してください。
  2. 2  調整勘定対応金額の合計額
     上記1の算式中の調整勘定対応金額の合計額とは、1通算グループ内の各法人が通算完全支配関係発生日(注1)以前に取得をした他の通算法人(離脱法人)の対象株式(注2)に係る各取得の時における資産調整勘定対応金額の合計額からA通算グループ内の各法人が同日以前に取得をした当該他の通算法人(離脱法人)の対象株式に係る各取得の時における負債調整勘定対応金額の合計額を減算した金額をいいます(令119の36二)。
    1. (注1) 通算完全支配関係発生日とは、当該他の通算法人(離脱法人)がその通算親法人との間に通算完全支配関係を有することとなった日をいいます(令119の37一)。
    2. (注2) 対象株式とは、法人税法施行令第119条第1項の規定の適用がある同項第1号又は第27号に掲げる有価証券に該当する株式とされています(令119の37二)。具体的には、その購入の代価が取得価額となる購入した有価証券又はその取得の時におけるその有価証券の取得のために通常要する価額が取得価額となる交換等により取得した有価証券に該当する株式です。
  3. 3  資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額
     上記2の資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額とは、通算グループ内の他の通算法人(離脱法人)の対象株式の取得の時において、当該他の通算法人を被合併法人とし、その取得をした法人を合併法人とし、その取得に係る対象株式の取得価額をその対象株式の数で除し、これに当該他の通算法人のその取得の時における発行済株式の総数を乗じて計算した金額に相当する金額を非適格合併等対価額(注3)とする非適格合併が行われたものとみなして、法人税法第62条の8第1項又は同条第3項の規定を適用する場合に資産調整勘定の金額(注4)又は負債調整勘定の金額(注5)として計算される金額に、当該他の通算法人のその取得の時における発行済株式の総数のうちにその取得に係る対象株式の数の占める割合を乗じて計算した金額をいいます(令119の37三・四)。
     すなわち、他の通算法人(離脱法人)の株式の時価による取得を当該他の通算法人を被合併法人等とする非適格合併等とみなした場合の資産調整勘定の金額又は差額負債調整勘定の金額に相当する金額であり、当該他の通算法人の株式の取得の対価に含まれるその取得の時の当該他の通算法人の時価純資産価額を超える部分の金額(すなわち、未実現の正ののれん相当額)又は時価純資産価額に満たない部分の金額(未実現の負ののれん相当額)に対応する金額を計算するものです。
    計算例
    解読図
    1. (注3) 非適格合併等対価額とは、法人税法第62条の8第1項に規定する非適格合併等対価額をいい、具体的には、非適格合併等により被合併法人等から資産又は負債の移転を受けた内国法人がその非適格合併等により交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額とされています。
       なお、資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額は、対象株式の取得価額を基礎として計算した金額を非適格合併等対価額とみなして計算するところ、その取得に係る付随費用がある場合には、付随費用を加算した金額が対象株式の取得価額となるため(令1191一、法基通2−3−21の8)、付随費用込みの取得価額をその対象株式の数で除し、これに当該他の通算法人のその取得の時における発行済株式の総数を乗じて計算した金額に相当する金額が非適格合併等対価額とみなされます。
    2. (注4) 資産調整勘定の金額とは、法人税法第62条の8第1項に規定する資産調整勘定の金額をいい、具体的には、非適格合併等に係る非適格合併等対価額がその非適格合併等により移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額(※2)を超える場合におけるその超える部分の金額(その移転を受けた資産の取得価額の合計額がその移転を受けた負債の額の合計額に満たない場合には、その満たない部分の金額を加算した金額)のうち資産等超過差額に相当する金額以外の金額とされています。
      1. (※2) 時価純資産価額とは、非適格合併等により移転を受けた資産の取得価額の合計額からその非適格合併等により移転を受けた負債の額の合計額を控除した金額をいいます。移転を受けた資産は、営業権にあっては、独立取引営業権(法人税法施行令第123条の10第3項に規定する独立取引営業権をいいます。)に限ることとされています(法62の81、令123の103)。
         なお、法人税法第62条の8第1項の規定においては、時価純資産価額の計算上、移転を受けた負債の額には、退職給与債務引受額及び短期重要債務見込額を含むこととされていますが、資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の計算上は、これらの金額は負債の額に含まれません(法基通2−3−21の6)。また、賞与引当金など税務上は負債として取り扱われないものも含まれません。
    3. (注5) 負債調整勘定の金額とは、法人税法第62条の8第3項に規定する負債調整勘定の金額(差額負債調整勘定の金額)をいい、具体的には、非適格合併等に係る非適格合併等対価額がその非適格合併等により移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額に満たない場合におけるその満たない部分の金額とされています。
     なお、他の通算法人(離脱法人)の株式の時価による取得の時において、当該他の通算法人が、1資産調整勘定の金額又は負債調整勘定の金額に係る資産又は負債、2独立取引営業権以外の営業権を有する場合には、一定の金額を法人税法第62条の8第1項に規定する資産の取得価額又は負債の額の合計額に加算するものとして資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額を計算します。すなわち、これらの金額について資産調整勘定対応金額を減額し、又は負債調整勘定対応金額を増額します。
     おって、他の通算法人(離脱法人)を被合併法人等とする非適格合併等が行われた場合には、その非適格合併等前に取得した対象株式に係る調整勘定対応金額はないものとされます(令119の36二、7三・四)。
  4. 4 本件における投資簿価修正
     S社が離脱時の属する事業年度(自X3年4月1日至X4年3月31日)の確定申告書等に別表十四(五)を添付し、かつ、下記(1)の調整勘定対応金額の計算の基礎となる事項等を記載した書類を保存している場合には、T株式の投資簿価修正は、下記(2)のとおりとなります。
    1. (1) 調整勘定対応金額の計算
        資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額は、非適格合併等対価額に相当する金額と対象株式の取得の時における他の通算法人(離脱法人)の時価純資産価額との差額に、その取得時の取得株式数割合を乗じて計算します。
      1. イ 非適格合併等対価額に相当する金額
         T株式の取得価額2,000÷2,000株×2,000株=2,000
      2. ロ T株式取得時におけるT社の時価純資産価額
        (3,000+200)− 1,600 = 1,600
        資産の額には、土地の評価益の額200が含まれます。他方で、負債の額には退職給付引当金300及び賞与引当金100は含まれません。
      3. ハ 資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額
        計算例
    2. (2) T株式の投資簿価修正(投資簿価修正後の帳簿価額)
      計算例
    3. (3) T株式の譲渡損益
       譲渡対価1,100 − 譲渡原価1,100(2,200×1,000株/2,000株)=0
      解読図

    (参考)
     初年度離脱通算子法人、簿価純資産価額に相当する金額及び株式の取得が段階的に行われる場合の資産調整勘定対応金額等の計算については、次のQ&Aを参照してください。

    1. 問40 通算制度からの離脱等に伴う時価評価を要する法人
    2. 問60 投資簿価修正(原則法)の概要
    3. 問64 株式の取得が段階的に行われる場合の資産調整勘定対応金額等の計算