1 事前照会の趣旨

当社は、人工衛星を所有する顧客より発注を受け、ロケットによる人工衛星打上げ輸送サービス(以下「本件サービス」といいます。)を提供する予定です。
 当社の提供する本件サービスは、人工衛星の打上げに必要なロケットの準備から顧客が所有する人工衛星を国内の射場(人工衛星の打上げ用ロケットを発射する機能を有する施設)より宇宙空間における所定の軌道に投入するまでの各工程をパッケージしたものとなっています。
 本件サービスに係る事実関係は次の2のとおりであるところ、この場合の当社が顧客から対価を得て行う本件サービスは、国内において行われる課税資産の譲渡等に該当するとともに、輸出免税が適用されると解してよいか照会します。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

  1. (1) 本件サービスについて
     当社が顧客に提供する本件サービスの概要は、要旨次のとおりです。
    1. イ ロケットの準備
       人工衛星の打上げが可能なロケットを調達する。
    2. ロ インターフェース調整
       ロケットと人工衛星間のインターフェース調整(注1)を実施する。
    3. ハ ロケット打上げの準備
       ロケット打上げの準備作業及びロケット打上げのために必要な官公庁に対する申請手続(注2)を実施する。
    4. ニ ロケットと人工衛星の結合
       射場でのロケットと人工衛星の結合作業等を実施する。
    5. ホ 打上げの実施
       打上げ時の安全確保に必要な業務を行い、国内の射場から人工衛星を搭載したロケットの打上げを実施する。なお、本件サービスにおいて「打上げ」とは、第一次意図的点火(注3)を発出してから、人工衛星を宇宙空間の所定の軌道に投入するまでをいう。
    6. (注)1 「ロケットと人工衛星間のインターフェース調整」とは、ロケットと人工衛星を接続する構造部分(人工衛星を固定するための接続部や衝撃を吸収するためのダンパー等)、ロケットから人工衛星への電源供給や制御信号の伝達を可能にする部分(ケーブル等)、ロケットと人工衛星との間で交換される情報に関する部分(通信規格等)の設定や調整をいう。
      2 人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(平成28年法律第76号)第4条の規定に基づき、国内の射場から人工衛星等の打上げを行おうとする者は、内閣総理大臣の許可を受けなければならないとされている。
      3 「第一次意図的点火」とは、ロケットのエンジンを正常に作動させ、推力を発生させるために意図的に行う点火であり、通常、打上げ前の最終段階で行われる。第一次意図的点火が成功すると、ロケットは上昇を開始する。
  1. (2) 本件サービスの契約について
     当社が顧客と締結する本件サービスの提供に係る契約(以下「本件契約」といいます。)は、要旨次のとおりです。
    1. イ 契約の目的
       当社が、顧客の所有する人工衛星を顧客の指定する宇宙空間の所定の軌道まで輸送するサービスを提供し、その代金を顧客が支払う。
    2. ロ 対価
       契約金額をもって対価とする。なお、契約金額については、上記(1)のイないしホの本件サービスの業務ごとに区分されていない。
    3. ハ 本件サービスの実施
       当社は顧客が定める仕様書(以下「仕様書」といいます。)に従い本件サービスを実施する。なお、本件サービスの内容は上記(1)のとおり。
    4. ニ 顧客による完了検査
       当社による第一次意図的点火の発出後、顧客の検査担当者により、ロケットの打上げが仕様書に従い行われているかの検査(以下「完了検査」といいます。)(注1)が行われる。
       人工衛星が仕様書に定める宇宙空間の所定の軌道に投入されていることが完了検査により確認された場合は、ロケットの打上げに成功したとして合格判定がなされ、合格と判定された場合は、後述ホのとおり対価が支払われる。
       なお、第一次意図的点火の後、ロケットが爆発若しくは破壊、ロケットと人工衛星の分離ができない、人工衛星を宇宙空間の所定の軌道に投入することができない又は人工衛星にロケットが衝突するといった事象が生じた場合は、ロケットの打上げに失敗(注2)したとされるが、この場合は第一次意図的点火の発出の時をもって本件サービスは終了したものとみなされるとともに、仕様書に従って第一次意図的点火が発出されたことをもって完了検査は合格と判定され、後述ホのとおり対価が支払われる。
    5. (注)1 具体的には、上記(1)のイないしホの各業務が仕様書に定める方法(仕様)により行われているか、人工衛星が仕様書に定める宇宙空間の所定の軌道に投入されているかを検査することとされている。
      2 再度ロケットが打上げ可能な場合は失敗とされず、改めてロケットを打ち上げることとなる。
    6. ホ 対価の支払
       上記ニの顧客による完了検査によって合格と判定された場合、当社は顧客に対し対価の支払を請求する旨の請求書を発送し、顧客は当該請求書を受領後30日以内に、当社に対し、対価を支払うこととなる。
  1. (3) その他の事実
    1. イ 本件サービスにおいて打ち上げられる人工衛星は、顧客が調達したものであり、当社において製造又は調達したものではありません。
    2. ロ 本件サービスのうち、上記(1)のイないしニの各業務はいずれも、ロケットによる人工衛星の宇宙空間までの輸送業務に付随する業務です。
    3. ハ ロケットの打上げに成功した場合と失敗した場合とで、対価の額に差異はありません。
       対価の額に差異がないのは、事業の特性上、本件サービスは失敗のリスクが非常に大きく、打上げに関する保証等(人工衛星が宇宙空間の所定の軌道に投入されるまでロケットの打上げを繰り返す旨、あるいは失敗した場合は対価を支払わない旨等)を契約に付すこととなると、事業として成り立たなくなってしまうからであり、業界としてはこのような契約形態とするのが通例です。
    4. ニ 上記(2)ニのとおり、打上げに失敗した場合の完了検査についても、第一次意図的点火の発出をもって合格と判定していますが、これは飽くまで打上げに失敗した場合の完了検査の合格基準を定めたものにすぎず、本件サービスの役務の提供の完了時点は「人工衛星を宇宙空間の所定の軌道に投入した時点」です。

3 上記2の事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由

  1. (1) 消費税法の規定
     消費税法上、事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、国内及び国内以外の地域にわたって行われる貨物の輸送については輸出免税が適用される(消費税法第7条第1項第3号、消費税法基本通達5−7−13)。
  2. (2) 本件サービスへの当てはめ
    1. イ 本件サービスは「貨物の輸送」に該当するか
       本件サービスは、当社がロケットの準備から人工衛星を国内の射場より宇宙空間の所定の軌道(以下「軌道」といいます。)に投入するまでの各業務を実施するものであり(上記2(1))、本件契約により、顧客による完了検査により人工衛星が軌道に投入されたことが確認されたことをもって本件サービスに係る対価が支払われるものとされています(上記2(2)ニ及びホ)が、一方で、本件契約では、本件サービスにおいて人工衛星を搭載したロケットの打上げに失敗し、人工衛星を軌道に投入できなかった場合であっても、第一次意図的点火の時をもって本件サービスは終了したものとみなすとともに、ロケットの第一次意図的点火が仕様書に従って発出されたことをもって完了検査は合格と判定され(上記2(2)ニ)、それによりロケットの打上げに成功して人工衛星を軌道に投入した場合と同額の対価が支払われることとされています(上記2(2)ホ)。
       この点、契約当事者である当社と顧客との間において、ロケットの打上げ作業の実施自体を目的とする契約ではなく、「人工衛星の宇宙空間への輸送業務(所定の軌道への投入)」を目的とする契約であると合意しており、本件サービスの役務の提供の完了時点は「人工衛星を宇宙空間の所定の軌道に投入した時点」としています(上記2(3)ニ)。
       また、再度ロケットが打上げ可能な場合は打上げ失敗とされず、改めてロケットを打ち上げることとされています(上記2(2)ニ(注)2)。
       これらのことを踏まえると、本件契約は、総じて本件サービスにより人工衛星を国内の射場から宇宙空間の所定の軌道に投入することを目的とし、本件サービスの提供に対して対価を支払う輸送契約に該当すると解されるものと考えます。
       したがって、本件サービスは「貨物の輸送」に該当するものと考えます。
    2. ロ 宇宙空間は「国内以外の地域」に該当するか
       消費税法における「国内」とは同法の施行地をいうところ(消費税法第2条第1項第1号)、原則として国の法令の効力は領空及び領海を含むその国の領土全域に及びそれ以外の地域に及ばないとされていることから、同法における「国内」とは日本の領空及び領海を含む領土全域を指し、換言すれば、日本の主権の及ぶ地域を指すものと考えられます。
       一方、宇宙空間は、1966年12月19日に国連総会で採択(日本における発効は1967年10月10日)された「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」(以下「宇宙条約」といいます。)において、宇宙空間は全ての国が自由に探査及び利用できるものであり(宇宙条約第1条)、宇宙空間は主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない(宇宙条約第2条)こと等が定められています。
       そうすると、宇宙空間には、宇宙条約第2条の規定により、国家の主権が及ばないことから、宇宙空間は、消費税法における「国内」に該当せず、「国内以外の地域」に該当するものと考えます。
    3. ハ 本件サービスは「国内において行う課税資産の譲渡等」に該当するか
       「国内及び国内以外の地域にわたつて行われる貨物の輸送」については、国内を出発地又は到着地としているものは国内において行う課税資産の譲渡等に該当することとされています(消費税法第4条第3項第2号、消費税法施行令第6条第2項第1号、消費税法基本通達5−7−13)。
       この点、本件サービスは、国内の射場を出発地としていることから、「国内において行う課税資産の譲渡等」に該当するものと考えます。
    4. ニ 本件サービスには輸出免税の適用があるか
       本件サービスは、上記イないしハのとおり、国内の射場を出発地とし国内以外の地域(宇宙空間)を到着地とする人工衛星の輸送であることから、「国内及び国内以外の地域にわたつて行われる貨物の輸送」に該当するものとして、国内において行う課税資産の譲渡等に該当するとともに輸出免税の適用があるものと考えます。

以上

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