1 事前照会の趣旨

当社は、非同族会社の内国法人であり、業績連動の役員報酬として業績連動型株式報酬制度を導入していますが、昨今の環境・社会・企業統治に配慮することを目的とするESG経営に対する社会的な関心の高まりから、当該業績連動型株式報酬制度に係る報酬として各業務執行役員(以下「対象役員」といいます。)に対して交付する株式(以下「本件株式」といいます。)の数について、業績等の財務情報の指標以外の指標である非財務指標としてESG対応状況を示す指標を組み入れて算定することとしました。
 具体的には、当社は、対象役員との間で業績連動型株式割当契約を締結し、当該契約に基づき、次の算式で算定される数(以下「交付株式数」といいます。)の株式による給与(以下「本件株式報酬」といいます。)を支給することとします。

[算式]
 基準交付株式数(注1)× 株式交付割合T(注2)× 株式交付割合U(注3)× 役務提供期間比率(注4)

 (注1) 役位ごとに定められた交付株式数の基準となる株式の数(下記2(3))
 (注2) 当社の株式成長率を示す指標(0〜150%)(下記2(4))
 (注3) 対象役員のESG対応状況を示す指標(80〜120%)(下記2(5))
 (注4) 役務提供期間における在任月数の割合(下記2(6))

 この場合において、一義的には、法人税法第34条第1項第3号イに規定する利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標又は売上高の状況を示す指標(以下「業績連動指標」といいます。)に該当しない指標(以下「非業績連動指標」といいます。)を算定方法の基礎に組み入れているような給与は同条第5項に規定する業績連動給与(以下「業績連動給与」といいます。)で同条第1項第3号に掲げるもの(以下「損金算入業績連動給与」といいます。)に該当しませんが、業績連動指標を基礎として客観的に算定された部分がある場合における当該部分、すなわち、本件株式報酬のうち上記[算式]の「株式交付割合U」を80%(最小値)として算定するとしたならば算定される部分(以下「本件業績連動部分」といいます。)(下記[算式a])の額については、損金算入業績連動給与の額として取り扱っても差し支えないか照会申し上げます。

[算式a]本件株式報酬のうち本件業績連動部分
 基準交付株式数 × 株式交付割合T × 80% × 役務提供期間比率

[算式b]本件株式報酬のうち本件業績連動部分以外の部分
 基準交付株式数 × 株式交付割合T ×(株式交付割合U−80%)× 役務提供期間比率

 なお、本照会は、本件業績連動部分について、その算定方法が業績連動指標を基礎とした客観的なものであることの要件を満たすかという点のみを照会の対象とするものであり、次の(1)から(3)までのことを照会の前提とします。
(1) 株式交付割合Tは、業績連動指標であること。
(2) 株式交付割合Uは、非業績連動指標であること。

(3) 本件業績連動部分は、その算定方法が業績連動指標を基礎とした客観的なものであること以外の損金算入業績連動給与に係る要件(法人税法第34条第1項第3号イ(1)から(3)までに掲げる要件を含みます。)を満たすものであること。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

 本件株式報酬に係る制度の概要は、以下のとおりとなります。

(1) 本件株式の交付

 本件株式の交付の方法は、評価期間(役務提供期間(定時株主総会の終結の日から翌年の定時株主総会の終結の日までの期間をいいます。)の開始する日の属する年の6月1日からその3年後の6月30日までの期間をいいます。)満了の日の属する月の翌月に開催する取締役会の決議に基づき対象役員に対する交付株式数を決定し、その決定された交付株式数に本件株式の発行又は処分に係る払込金額を乗ずることにより算定された額の金銭報酬債権を対象役員に付与するとともに、その金銭報酬債権を現物出資財産として当社に出資させることにより、当社株式の発行又は処分を行う方法とします。
 なお、本件株式の発行又は処分に係る払込金額は、当該決議の日の前営業日の東京証券取引所における当社株式の普通取引の終値等を基礎として対象役員に特に有利とならない額とします。

(2) 交付株式数の算定方法

 交付株式数は、以下の算定式に従って算定されます。ただし、計算の結果、一単元株未満の端数が生ずる場合には、これを切り捨てるものとします。
 交付株式数 = 基準交付株式数×株式交付割合T×株式交付割合U×役務提供期間比率

(3) 基準交付株式数

 基準交付株式数は、役位に従い定める基準金額を、評価期間開始月の東京証券取引所における当社株式の終値の単純平均値で除した株式数とします。

(4) 株式交付割合T

 株式交付割合Tは、以下の算定式のとおり、評価期間における当社株式に係る株価増減率を当該評価期間における東証株価指数(株価は終値平均を使用します。)の増減率と比較し、その割合(以下「当社株式成長率」といいます。)に応じて確定します(以下の算定式により算出された当社株式成長率が50%未満の場合は0%、50%以上150%以下の場合は当該当社株式成長率、150%を超える場合は150%とします。)。
 当社株式成長率= ( B ÷ A )/( D ÷ C )
A:評価期間開始月の東京証券取引所における当社株式の終値の単純平均値
B:評価期間終了月の東京証券取引所における当社株式の終値の単純平均値
C:評価期間開始月の東証株価指数の単純平均値
D:評価期間終了月の東証株価指数の単純平均値

(5) 株式交付割合U

 株式交付割合Uは、当社の取締役会から委任を受けた指名・報酬諮問委員会が事業年度ごとに非財務指標であるESG対応状況を示す指標の評価を決定し、評価期間に対応する3事業年度(役務提供期間の開始月の属する事業年度から起算して3事業年度)の評価を考慮し、80〜120%の範囲で算出します。ESG対応状況を示す指標は、「気候変動問題対応」に関する指標、「女性活躍推進」に関する指標及び「従業員エンゲージメント」に関する指標とし、各指標につき80〜120%の範囲で評価を決定し、事業年度ごとに各指標の評価の平均値を当該事業年度の評価とします。その上で、評価期間に対応する3事業年度に含まれる事業年度ごとの評価の平均値を当該3事業年度の評価とします。

(6) 役務提供期間比率

 役務提供期間比率は、役務提供期間中に対象役員として在任した月の合計数を12で除して計算した割合です。

3 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 損金算入業績連動給与について

 内国法人(同族会社にあっては、非同族会社による完全支配関係があるものに限ります。)が業務執行役員に対して支給する業績連動給与(金銭以外の資産が交付されるものにあっては、適格株式又は適格新株予約権が交付されるものに限ります。)で、その交付される金銭の額若しくは株式若しくは新株予約権の数又は交付される新株予約権の数のうち無償で取得され、若しくは消滅する数(以下「支給額等」といいます。)の算定方法が、次の指標を基礎とした客観的なものであることその他一定の要件を満たすもの(他の業務執行役員の全てに対してこれらの要件を満たす業績連動給与を支給する場合に限ります。)の額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入するものとされています(法法34@三、D、法令69H〜㉑)。

イ その給与に係る職務を執行する期間の開始の日(以下「職務執行期間開始日」といいます。)以後に終了する事業年度の利益の状況を示す指標のうち一定の要件を満たすもの
ロ 職務執行期間開始日の属する事業年度開始の日以後の所定の期間又は職務執行期間開始日以後の所定の日における株式の市場価格の状況を示す指標のうち一定の要件を満たすもの
ハ 職務執行期間開始日以後に終了する事業年度の売上高の状況を示す指標のうち一定の要件を満たすもの

(2) 当てはめ

 イ 業績連動指標に加えて非業績連動指標を組み入れて支給額等を算定する給与の取扱いについて

 原則として、その算定方法の基礎とされた指標に非業績連動指標が組み入れられているような給与は、その算定方法が業績連動指標を基礎とした客観的なものといえないことから、損金算入業績連動給与に該当しません。他方で、役員給与については、お手盛り的な支給が懸念されることから、支給の恣意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠であるとの考えの下、業績と連動する役員給与について適正性や透明性が担保されていることを条件に損金算入を認める趣旨で、法人税法第34条第1項において、業績連動給与で支給額等の算定方法が業績連動指標を基礎とした客観的なものであること等の要件を満たすものの額が損金の額に算入しない役員給与の額から除かれているものと考えられます。
 そのため、内国法人がその役員に対して支給する給与に非業績連動指標を組み入れて算定される部分があったとしても、支給の適正性・透明性が担保されている部分がある場合には、その担保されている部分については損金算入業績連動給与に該当するものとして取り扱っても差し支えないものと考えられます。
 したがって、業績連動指標に加えて非業績連動指標を組み入れて支給額等が算定される給与であっても、その給与について業績連動指標を基礎として客観的に算定された部分がある場合には、その部分は損金算入業績連動給与として取り扱っても差し支えないものと考えられます。

 ロ 本件株式報酬の取扱いについて

 本件株式報酬の算定方法は、上記1[算式]のとおり株式交付割合T(業績連動指標)と株式交付割合U(非業績連動指標)が混在しますが、株式交付割合Uが80〜120%の範囲で設定されることからすれば、本件株式報酬のうち、株式交付割合Uの最低割合である80%で算定するとした場合に算定される部分(上記1[算式a])については、株式交付割合Uにかかわらず確定した部分であり、株式交付割合Tを当てはめさえすれば自動的に算出されるといえるため、株式交付割合Tを基礎として客観的に算定された部分と認められます。
 したがって、本件株式報酬のうち本件業績連動部分の額は、損金算入業績連動給与の額として取り扱っても差し支えないものと考えられます。

以上

←上記照会の内容に対する回答はこちら