1 事前照会の趣旨

当社は、アイルランド共和国の法律に基づいて設立された法人であり、法人税法第2条《定義》第4号に規定する外国法人に該当します。また、当社は、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアイルランドとの間の条約」(以下「日愛租税条約」といいます。)第4条第1項に規定する居住者に該当し、同条約の適用を受ける法人となります。
 当社は、オンラインマーケットプレイスを運営する事業(以下「本件事業」といいます。)を行っているところ、当社の行う日本のユーザー向けの本件事業は、電気通信事業法に規定する電気通信事業に該当する可能性が高いことから同法第16条《電気通信事業の届出》第1項に基づく届出をしています。当社は日本において電気通信事業として届け出た本件事業を継続して行っていることから、会社法第817条《外国会社の日本における代表者》第1項に規定する「日本において取引を継続してしようとするとき」に該当し得るとして、法務省から、同項の規定に基づき日本における代表者を定めるとともに、同法第933条《外国会社の登記》第1項の規定に基づき登記の申請をすることを検討するよう要請を受けました。
 このため、当社は、外部の弁護士(以下「本件弁護士」といいます。)との間で役務提供契約(以下「本件契約」といいます。)を締結し、本件弁護士を日本における代表者として定め、外国会社の登記(以下「本件登記」といいます。)をしました。
 この場合、当社が本件弁護士を日本における代表者として定め、本件登記をし、本件弁護士が当社に対して本件契約に基づく役務提供をしたとしても、当社は、日本において日愛租税条約上の恒久的施設を有することとはならないと解して差し支えありませんか。
 なお、当社は、本件登記前には日愛租税条約第6条第1項に規定する「恒久的施設」を有しておらず、本件登記の前後で本件事業の内容には変更がないことを本照会の前提とします。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

当社及び本件弁護士との間で締結した本件契約には、次の(1)及び(2)の内容が含まれており、本件弁護士は、本件契約に基づき、次の(2)の行為を行う権限のみを有することとなり、また、実際にも当該行為のみを行うこととなります。

(1) 当社及び本件弁護士との間で、以下の内容を確認し、合意する。

イ 当社は、法務省の要請に応えるべく本件弁護士を日本における代表者とし、当社を外国会社として登記するものであること。

ロ 本件弁護士は、これまで本件事業に従事又は関与したことがなく、今後も従事又は関与せず、また、その権利又は権限を付与されないこと。

(2) 本件弁護士は、当社を当事者とする裁判書類の送達がされた場合に、当社又はその指定する者に対し、当該送達のあった事実を伝えるとともに、当該裁判書類の写しを送付する(以下これら一連の行為を「本件送達等行為」という。)。

なお、当社は、本件弁護士が本件契約に基づいて本件送達等行為を行うこととなる場所を当社の事業のために使用する権限を有しません。

3 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 法令の規定等

イ 国内法上の恒久的施設とは、法人税法第2条第12号の19イからハまでに掲げるものをいいます。ただし、我が国が締結した租税条約において同号イからハまでに掲げるものと異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける外国法人については、その租税条約において恒久的施設と定められたものを国内法上の恒久的施設とすることとされています(法法2十二の十九ただし書)。

ロ 日愛租税条約には、法人税法第2条第12号の19イからハまでに掲げるものと異なる定めがあることから、当社の恒久的施設の有無の判定に当たっては、同条約の規定を踏まえて判定することとなります。

ハ 日愛租税条約第6条第1項では、「『恒久的施設』とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っているものをいう」とされています。

ニ 日愛租税条約第6条第5項では、一方の締約国内で他方の締約国の企業に代わって行動する者は、「当該一方の締約国内で、当該企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、これを常習的に行使する場合」(その者の行動が当該企業のために物品又は商品を購入することに限られる場合を除きます。)又は「当該企業に属する物品又は商品の在庫で通常これにより当該企業に代わって注文に応ずるためのものを当該一方の締約国内に保有する場合」には、当該一方の締約国内の恒久的施設に該当することとされています。

(2) 当てはめ

イ 上記2のとおり、当社は、本件弁護士が本件契約に基づき本件送達等行為を行うこととなる場所をその事業のために使用する権限を有していないとすれば、本件送達等行為を行う場所は、上記(1)ハの「事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っているもの」には該当しないものと考えられます。

ロ 本件登記により本件弁護士が当社の「日本における代表者」となることで、本件弁護士が当社に代わって行動する者として恒久的施設に該当するか否かについては、上記2のとおり、本件弁護士は、本件契約において本件事業に従事又は関与せず、本件送達等行為を行う権限のみを有することとされ、実際にも本件弁護士は本件契約に基づき本件送達等行為のみを行い、それ以外の行為を行わないとすれば、上記(1)ニの「当該一方の締約国内で、当該企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、これを常習的に行使する場合」や「当該企業に属する物品又は商品の在庫で通常これにより当該企業に代わって注文に応ずるためのものを当該一方の締約国内に保有する場合」に該当しないものと考えられます。

以上のことから、当社が本件弁護士を日本における代表者と定め、本件登記をし、本件弁護士が当社に対して本件送達等行為を行ったとしても、当社は、日本において日愛租税条約第6条第1項又は第5項に規定する恒久的施設を有することとはならないと考えられます。