(問54)

P社、S1社及びS2社(同一の通算グループ内の通算法人で、いずれも3月決算です。)は、前期において生じた次の欠損金額を有しており、また、当期の期限内申告における欠損金額を控除する前の所得の金額(法571。以下「所得金額」といいます。)はそれぞれ次のとおりです。

  前期 当期
特定欠損金額 特定欠損金額
以外の欠損金額
欠損金額
の合計
所得金額
P社 0 150 150 220
S1社 50 70 120 80
S2社 0 300 300 180
合計 50 520 570 480

この場合の当期におけるP社、S1社及びS2社の欠損金額の損金算入額の計算はそれぞれどのように行うのでしょうか。
 なお、P社、S1社及びS2社は、中小法人等などの法人には該当しません。

【回答】

本件における欠損金額の損金算入額の計算は、まず、各通算法人の特定欠損金額の損金算入額の計算を行い、次に、特定欠損金額以外の欠損金額の通算グループ全体の合計額を各通算法人に配賦して各通算法人の非特定欠損金額を計算し、非特定欠損金額の損金算入額の計算を行います。
 各通算法人の欠損金額の損金算入額は、特定欠損金額の損金算入額と非特定欠損金額の損金算入額の合計額となります。
 その結果、P社、S1社及びS2社の損金算入額は、それぞれ104、50及び86となります。

【解説】

  1. 1 通算法人の過年度の欠損金額の損金算入額の計算
     通算法人の過年度の欠損金額の損金算入額の計算は、欠損金の繰越控除の規定(法571)の適用を受ける事業年度(以下「適用事業年度」といいます。)開始の日前10年以内に開始した各事業年度(以下「10年内事業年度」といいます。)のうち最も古い事業年度から順番に、その10年内事業年度ごとに計算を行い、その10年内事業年度ごとに計算した損金算入額の合計額が、その通算法人の過年度の欠損金額の損金算入額となります(法64の71)。
     その10年内事業年度ごとの欠損金額の損金算入額の計算は、まず、特定欠損金額の損金算入額の計算を行い(法64の71三イ)、次に、特定欠損金額以外の欠損金額の通算グループ全体の合計額を各通算法人に配賦して、各通算法人の非特定欠損金額を計算し(法64の71二ロ〜ニ)、その非特定欠損金額の損金算入額の計算を行います(法64の71三ロ)。
     その10年内事業年度ごとの通算法人の欠損金額の損金算入額は、特定欠損金額の損金算入額と非特定欠損金額の損金算入額の合計額となります(法64の71三)。

  2. 2 10年内事業年度ごとの特定欠損金額の損金算入額
     10年内事業年度ごとの特定欠損金額の損金算入額は、その10年内事業年度の特定欠損金額のうち、特定欠損金額の損金算入限度額(以下「特定損金算入限度額」といいます。)に達するまでの金額となります(法64の71三イ)。
    1. (1) 特定損金算入限度額の計算(法64の71三イ)
       特定損金算入限度額は、次の算式により計算した金額となります。
      解読図

      なお、上記算式における2の金額が3の金額に占める割合が1を超える場合には、その割合を1として計算し、3の金額が零の場合には、その割合は零として計算します。
       すなわち、通算グループ全体の損金算入限度額の合計額を上限とした各通算法人の特定欠損金額(欠損控除前所得金額を限度)の合計額を、各通算法人のそれぞれの特定欠損金額(欠損控除前所得金額を限度)の比で配賦した金額が、この特定損金算入限度額となります。

      1. (注1) 損金算入限度額とは、法人税法第57条第1項ただし書に規定する損金算入限度額、すなわち、その通算法人の所得金額の50%に相当する金額(中小法人等、更生法人等及び新設法人については、所得金額)をいいます。
      2. (注2) この合計額からは、その10年内事業年度より古い10年内事業年度で生じた欠損金額とされた金額で法人税法第57条第1項により損金算入される金額の合計額を控除します。
      3. (注3) 欠損控除前所得金額とは、法人税法第57条第1項の規定等を適用しないものとして計算した場合における適用事業年度の所得金額から、その10年内事業年度より古い10年内事業年度で生じた欠損金額とされた金額で法人税法第57条第1項により損金算入される金額を控除した金額をいいます。
    2. (2) 本件の特定欠損金額の損金算入額の計算
       次のとおりとなります。
        P社 S1社 S2社 合計
      損金算入限度額
      (所得×50%)
      110 40 90 240
      特定欠損金額 50 50
      特定損金算入限度額
      (上記(1))
      50
      =50×1
      (240/50>1)
      50
      特定欠損金額
      の損金算入額
      50 50
  3. 3 10年内事業年度ごとの非特定欠損金額の損金算入額
     10年内事業年度ごとの非特定欠損金額の損金算入額は、その10年内事業年度の非特定欠損金額のうち、非特定欠損金額の損金算入限度額(以下「非特定損金算入限度額」といいます。)に達するまでの金額となります(法64の71三ロ)。
    1. (1) 各通算法人の非特定欠損金額の計算
       非特定損金算入限度額の計算を行う場合には、まず、その10年内事業年度に生じた欠損金額のうち特定欠損金額以外の金額の通算グループ全体の合計額を各通算法人に配賦して、各通算法人の非特定欠損金額を計算します(法64の71二)。
       この非特定欠損金額とは、その10年内事業年度に通算法人で生じた特定欠損金額以外の欠損金額に、1次の(2)の算式により計算した金額(以下「非特定欠損金配賦額」といいます。)がその特定欠損金額以外の欠損金額を超える場合にはその超える部分の金額(以下「被配賦欠損金額」といいます。)を加算し、2非特定欠損金配賦額がその特定欠損金額以外の欠損金額に満たない場合にはその満たない部分の金額(以下「配賦欠損金額」といいます。)を控除した金額をいいます(法64の71二)。
       すなわち、通算グループ全体の特定欠損金額以外の欠損金額の合計額を、各通算法人のそれぞれの損金算入限度額(注4)の比で配賦した金額が、この非特定欠損金額となります。
    2. (2) 非特定欠損金配賦額
       非特定欠損金配賦額とは、次の算式により計算した金額をいいます。
      解読図
      1. (注4) 上記(1)及び(2)の損金算入限度額からは、(@)その10年内事業年度より古い10年内事業年度で生じた欠損金額とされた金額で法人税法第57条第1項により損金算入される金額及び(A)その10年内事業年度に係る対応事業年度で生じた特定欠損金額で法人税法第57条第1項により損金算入される金額を控除します。
    3. (3) 本件の各通算法人の非特定欠損金額の計算
       本件の各通算法人の非特定欠損金額の計算は次のとおりとなります。
        P社 S1社 S2社 合計
      繰越欠損金額
      【内 特定欠損金額】
      150【0】 120【50】 300【0】 570【50】
      損金算入限度額
      (所得×50%)
      110 40 90 240
      損金算入される
      特定欠損金額
      50
      上記2(2)
      50
      損金算入される
      特定欠損金額控除後の
      損金算入限度額
      110
      上記(2)2
      0
      上記(2)2
      90
      上記(2)2
      200
      上記(2)3
      特定欠損金額以外の
      欠損金額
      150 70 300 520
      上記(2)1
      非特定欠損金配賦額
      (上記(2))
      520×110/200=286 520×0/200=0 520×90/200=234 520
      被配賦欠損金額
      (上記(1))
      286>150
      286−150
      =136
      136
      配賦欠損金額
      (上記(1))
      0<70
      70−0=70
      234<300
      300−234
      =66
      136
      非特定欠損金額 150+136
      =286
      70−70
      =0
      300−66
      =234
      520
    4. (4) 非特定損金算入限度額の計算(法64の71三ロ)
       非特定損金算入限度額は、次の算式により計算した金額となります。
      解読図

      なお、この計算において、上記算式における2の金額が3の金額のうちに占める割合(以下「非特定損金算入割合」といいます。)が1を超える場合には、その割合を1として計算し、3の金額が零の場合には、その割合は零として計算します。
       すなわち、通算グループ全体の損金算入限度額の合計額を、各通算法人のそれぞれの非特定欠損金額の比で配賦した金額が非特定損金算入限度額となります。

      1. (注5) この合計額からは、(@)その10年内事業年度より古い10年内事業年度で生じた欠損金額とされた金額で法人税法第57条第1項により損金算入される金額の合計額及び(A)その10年内事業年度に係る対応事業年度で生じた特定欠損金額で法人税法第57条第1項により損金算入される金額の合計額を控除します。
    5. (5) 本件の各通算法人の非特定欠損金額の損金算入額の計算
       次のとおりとなります。
        P社 S1社 S2社 合計
      非特定欠損金額
      (上記(3))
      286 0 234 520
      非特定損金算入割合
      (上記(4)の23
      (240−50)/520=190/520 
      非特定損金算入限度額
      (上記(4)の1×23
      104
      =286×190/520
      0 86
      =234×190/520
      190
      非特定欠損金額
      の損金算入額
      104 0 86 190
  4. 4 10年内事業年度ごとの欠損金の損金算入額
     本件の10年内事業年度ごとの欠損金の損金算入額は次のとおりとなります。
      P社 S1社 S2社 合計
    非特定欠損金額の
    損金算入額(上記3(5))(X)
    104 0 86 190
    特定欠損金額の
    損金算入額(上記2(2))(Y)
    50 50
    欠損金額の損金算入額
    (X+Y)
    104 50 86 240
  5. 5 通算法人の損金算入欠損金額及び翌期以後の繰越欠損金額の計算
     各通算法人の当期における欠損金額の損金算入額は上記4のとおりとなりますが、翌期以後に繰り越す欠損金額は、次の(1)の損金算入欠損金額が各通算法人の損金の額に算入されたものとして計算を行います(法64の71四)。
    1. (1) 損金算入欠損金額
       損金算入欠損金額とは、次のイ及びロの金額の合計額をいいます。
      1. イ その通算法人のその10年内事業年度において生じた特定欠損金額のうち特定損金算入限度額に達するまでの金額
      2. ロ その通算法人のその10年内事業年度において生じた特定欠損金額以外の欠損金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額
    2. (2) 本件の各通算法人の損金算入欠損金額及び翌期以後の繰越欠損金額の計算
       次のとおりとなります。
        P社 S1社 S2社 合計
      繰越欠損金額
      【内 特定欠損金額】
      150【0】 120【50】 300【0】 570【50】
      特定欠損金額の損金算入額
      (上記(1)イ)(1
      50 50
      特定欠損金額以外の欠損金×
      非特定損金算入割合
      (上記(1)ロ)(2
      54
      =150×190/520
      26
      =70×190/520
      110
      =300×190/520
      190
      損金算入欠損金額
      (上記(1))(12
      54 76 110 240
      翌期繰越欠損金額
      【内 特定欠損金額】
      96【0】
      =150−54
      44【0】
      =120−76
      190【0】
      =300−110
      330【0】

(参考)
 特定欠損金額及び修正申告等があった場合の過年度の欠損金額の損金算入額の計算方法については、次のQ&Aを参照してください。

  1. 問53 過年度の欠損金額を通算制度適用後に損金算入することの可否
  2. 問55 修正申告等があった場合の通算法人の過年度の欠損金額の損金算入額の計算方法