(問55)

P社、S1社及びS2社(同一の通算グループ内の通算法人で、いずれも3月決算です。)は、前期において生じた次の欠損金額を有しており、また、当期の期限内申告における欠損金額を控除する前の所得の金額(法571、以下「所得金額」といいます。)は次のとおりです。

  前期 当期
特定欠損金額 特定欠損金額以外の欠損金額 欠損金額の合計 期限内申告の所得金額 修正申告後の所得金額 期限内申告における過年度の欠損金額の損金算入額
P社 0 150 150 220 600 104
S1社 50 70 120 80 180 50
S2社 0 300 300 180 - 86
合計 50 520 570 480 - 240

その後、税務調査によりP社及びS1社の所得金額がそれぞれ600及び180となったため、P社及びS1社は修正申告を行うこととなりました。
 この場合のP社及びS1社の欠損金額の損金算入額の計算はそれぞれどのように行いますか。また、S2社は、P社及びS1社の修正申告に伴い、損金算入額を再計算する必要はありますか。
 なお、P社、S1社及びS2社は、中小法人等などの法人には該当しません。

【回答】

期限内申告において通算グループ内の他の通算法人との間で欠損金額を固定する調整をした上で、P社及びS1社はそれぞれの法人のみで損金算入額を計算することとなります。
 本件については、P社及びS1社の期限内申告における損金算入額は、それぞれ104及び50ですが、修正申告に伴いそれぞれ200及び94となります。
 一方、S2社において損金算入額の再計算を行う必要はありません。

【解説】

  1. 1 他の通算法人の修正申告等による通算法人(自社)への影響の遮断
     他の通算法人の次の(1)から(6)の金額が修正申告等により期限内申告書に添付された書類に記載された金額と異なることとなった場合には、通算法人の欠損金の通算の規定(法64の71)による損金算入額の計算上は、その書類に記載された金額を次の(1)から(6)までの金額とみなすこととされています(法64の74)。
     すなわち、修正申告等により通算グループ内の他の通算法人の損金算入限度額等が増減したとしても、その増減がなかった通算法人は、当該他の通算法人の損金算入限度額等を期限内申告書に添付された書類に記載された金額に固定して損金算入額を算出することにより、他の通算法人の修正申告等による影響を遮断することとしています。
    1. (1) 他の通算法人の損金算入限度額(注1)
    2. (2) 他の通算法人において生じた欠損金額
    3. (3) 他の通算法人において生じた特定欠損金額
    4. (4) 上記(2)のうち他の通算法人の損金の額に算入される金額
    5. (5) 上記(3)のうち他の通算法人の損金の額に算入される金額
    6. (6) 他の通算法人の所得金額

    本件については、P社及びS1社の修正申告によりそれぞれの所得金額が増加することに伴い、P社及びS1社の損金算入限度額等が変動することとなりますが、S2社は、その損金算入限度額等をP社及びS1社の期限内申告書に添付された書類に記載された金額に固定して損金算入額を算出するため、原則として、これらの修正申告によりS2社の損金算入額が変動することはありません。このため、S2社において損金算入額の再計算を行う必要はありません。

    1. (注1) 損金算入限度額とは、法人税法第57条第1項ただし書に規定する損金算入限度額、すなわち、その通算法人の所得金額の50%に相当する金額(中小法人等、更生法人等及び新設法人については、所得金額)をいいます(法64の71二ハ(2))。
  2. 2 修正申告等を行った通算法人の過年度の欠損金額の損金算入額の計算
     1通算法人の修正申告等により損金算入限度額等の金額が期限内申告書に添付された書類に記載された金額と異なることとなった場合には、その通算法人の損金の額に算入される過年度の欠損金額は、次の(1)及び(2)の金額の合計額とされます(法64の75)。
    1. (1) 期限内申告書に添付した書類に次のイからホまでの金額として記載された金額を修正申告等後のイからホまでの金額とみなした場合における被配賦欠損金控除額(注2)(法64の75一)。
       すなわち、当初申告において他の通算法人から配賦された欠損金額で通算法人の所得金額から控除した金額は、損金の額に算入される金額となります。
      1. イ 通算法人の損金算入限度額
      2. ロ 通算法人において生じた欠損金額
      3. ハ 通算法人において生じた特定欠損金額
      4. ニ 通算法人の特定損金算入限度額
      5. ホ 通算法人の非特定損金算入限度額
    2. (2) その通算法人の過年度の欠損金額のうち次のイの金額をないものとし、その通算法人の損金算入限度額を次のロの金額とし、かつ、欠損金の通算の規定(法64の71二・三)を適用しないものとした場合に欠損金の繰越しの規定(法571)により損金の額に算入される金額(法64の75二)。
       すなわち、通算法人の過年度の欠損金額のうち、当初申告において他の通算法人に配賦した欠損金額で他の通算法人の所得金額から控除した金額(次のイの金額)を、その通算法人の過年度の欠損金額から控除したうえで、その控除後の欠損金額のうち損金算入限度額とされる金額(次のロの金額)に達するまでの金額が、損金の額に算入される金額となります。
      1. イ 過年度の欠損金額のうち、ないものとされる金額
         その通算法人において生じた欠損金額のうち、期限内申告書に添付した書類に上記(1)のイからホまでの金額として記載された金額を修正申告等後のイからホまでの金額とみなした場合における配賦欠損金控除額(注3)(法64の75二イ)。
      2. ロ 損金算入限度額とされる金額
         通算法人の修正申告等後の損金算入限度額に、次の1の金額がある場合にはその金額を加算し、次の2の金額がある場合にはその金額を控除した金額から、上記(1)の金額(被配賦欠損金控除額)を控除した金額(法64の75二ロ)。
         すなわち、修正申告等後の損金算入限度額に、期限内申告書で他の通算法人から配賦を受けた損金算入限度額(次の1の金額)がある場合にはその金額を加算し、他の通算法人に配賦をした損金算入限度額(次の2の金額)がある場合にはその金額を控除し、更に上記(1)で損金の額に算入される金額を控除した金額が、損金算入限度額とされる金額となります。
        1. 1 当初損金算入超過額(注4)(法64の75二ロ(1))
          1. (@) 期限内申告書に添付された書類に法人税法第57条第1項の規定により損金の額に算入される金額として記載された金額
          2. (A) その通算法人の期限内申告書に添付された書類に記載された損金算入限度額
        2. 2 当初損金算入不足額(注5)に損金算入不足割合(注6)を乗じて計算した金額(法64の75二ロ(2))
      1. (注2) 被配賦欠損金控除額とは、非特定欠損金配賦額が特定欠損金額以外の欠損金額を超える場合のその超える部分の金額(法64の71二ハ、以下「被配賦欠損金額」といいます。)に非特定損金算入割合(法64の71三ロ)を乗じて計算した金額をいいます。
      2. (注3) 配賦欠損金控除額とは、非特定欠損金配賦額が特定欠損金額以外の欠損金額に満たない場合のその満たない部分の金額(法64の71二ニ、以下「配賦欠損金額」といいます。)に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額をいいます。
      3. (注4) 当初損金算入超過額とは、(2)ロ1(@)の金額が(A)の金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいいます。
      4. (注5) 当初損金算入不足額とは、(2)ロ1(@)の金額が(A)の金額に満たない場合におけるその満たない部分の金額をいいます。
      5. (注6) 損金算入不足割合とは、次の算式により計算した割合をいいます。
        解読図
  3. 3 P社及びS1社の修正申告における過年度の欠損金額の損金算入額の計算
    1. (1) 期限内申告における過年度の欠損金額の損金算入額の計算
        P社 S1社 S2社 合計
      繰越欠損金額
      【内 特定欠損金額】
      150【0】 120【50】 300【0】 570【50】
      損金算入限度額
      (所得×50%)
      110 40 90 240
      損金算入される
      特定欠損金額
      50 50
      損金算入特定欠損金額
      控除後の損金算入限度額
      110 0 90 200
      特定欠損金額以外の欠損金額 150 70 300 520
      非特定欠損金配賦額 520×110/200=
      286
      520×0/200=
      0
      520×90/200=
      234
      520
      被配賦欠損金額 286−150
      =136
      136
      配賦欠損金額 70−0=70 300−234=66 136
      非特定損金算入割合 36.5%=(240−50)/520
      非特定損金算入限度額 104
      =286×36.5%
      0 86
      =234×36.5%
      190
      欠損金額の損金算入額
      【内 特定欠損金額】
      104 50【50】 86 240【50】
    2. (2) 修正申告におけるP社の損金算入額の計算
        P社 S1社 S2社 合計
      被配賦欠損金控除額(X)上記2(1) 50
      =136×36.5%
      配賦欠損金控除額
      上記2(2)イ
      当初損金算入超過額
      上記2(2)ロ1
      10
      =50−40
      10
      当初損金算入不足額
      上記2(2)ロ2
      6
      =110−104
      4
      =90−86
      10
      損金算入不足割合 100%=10/10
      損金算入不足額×損金算入不足割合
      (上記2(2)ロ2
      6
      配賦欠損金控除額控除後の繰越欠損金額
      (上記2(2))
      150
      =150−0
      損金算入限度額とされる金額(上記2(2)ロ) 244
      =300−6−50
      上記2(2)の損金算入額(Y) 150
      150<244
      P社の損金算入額
      (X+Y)
      200
    3. (3) 修正申告におけるS1社の損金算入額の計算
        P社 S1社 S2社 合計
      被配賦欠損金控除額(X)上記2(1)
      配賦欠損金控除額
      上記2(2)イ
      26
      =70×36.5%
      当初損金算入超過額
      上記2(2)ロ1
      10
      =50−40
      10
      当初損金算入不足額
      上記2(2)ロ2
      6
      =110−104
      4
      =90−86
      10
      損金算入不足割合 100%=10/10
      損金算入不足額×損金算入不足割合(上記2(2)ロ2
      配賦欠損金控除額控除後の繰越欠損金額
      (上記2(2))
      94
      =120−26
      損金算入限度額とされる金額(上記2(2)ロ) 100
      =90+10
      上記2(2)の損金算入額(Y) 94
      100>94
      S1社の損金算入額
      (X+Y)
      94

    (参考)
     過年度の欠損金額の当初申告における損金算入額の計算方法については、次のQ&Aを参照してください。

    1. 問54 通算法人の過年度の欠損金額の当初申告における損金算入額の計算方法