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酒類業の活性化支援の取組
酒類卸売業者の経営改善への取組み効果に関する調査報告書
(5) 情報ネットワークの基盤整備・活用促進事業
第2章 相談事例に見る経営基盤強化事業実施上の問題点と対応方向等
1. 事業種類別の問題・課題と対応方向
(5) 情報ネットワークの基盤整備・活用促進事業
具体的事業の内容
新商品開発・販売戦略分野に関して、酒類卸売業者が実施する具体的事業としては、以下の7つがある。
1) 取引先との情報ネットワーク化
POS,EDI等の情報化をすすめ高コスト体質の削減と情報共有・活用のレベルを高める。
中小酒類メーカーの商品データベース整備を支援する。
2) 社内の情報化
販売管理・利益管理・情報分析等のシステムのバージョンアップあるいは導入を促進し経営管理に活用する。
3) 情報発信
ホームページを開設し情報発信を充実する。
4) 大手量販店における販売動向に左右されやすい。
人気商材に関しては、取引先の一般酒販店が扱う商品を、大手量販店がすぐ扱うようになる。
大手量販店との取引では、カット商品(売上げ不振等により、小売業で販売しなくなった商品)の返品も多い。
事業の効果
情報化の種類別に効果をまとめると以下の通りである。特に効果が大きいのは社内の情報化である。
1) 社外との情報ネットワーク化の効果
EDI,EOSにより、受発注の労力を削減することができ、同時に入力・転記ミス等の削減につながった。
取引先小売業が税務署に提出する資料の作成代行を行うシステムを導入することによって、取引先小売業の経営状況を把握しリテールサポートを行いやすくなると共に信頼感が強くなった。
2) 社内の情報化の効果
取引先別商品別の販売金額、利益管理が可能となった。これにより、特に営業担当の従業員が数量だけでなく利益を志向した取引を考えるようになった。
担当者別の利益管理を実現することによって、担当者の意識改革、公平な人事考査のための基盤ができる。
複数の営業拠点の情報が集約化されることによって在庫を大幅に削減することができた。
社内システムにより在庫の把握が容易に行えるようになり、在庫削減目標をたてて削減することが可能となった。
一定以上の売り掛け発生に警告が出るシステムとなっており、債権管理が緻密に行えるようになった。
社内LAN当が整備され情報の共有が進み、社内の風通しがよくなった。
リテールサポートの一つとして、店内用の棚割りソフト、POP作成システムを導入し、取引先に評価されている。
3) 情報発信の効果
ホームページで中小酒類メーカーの商品を取引先小売業に紹介し、評価されている。
小売部門をもっているためホームページで販売している。
実施上の問題点/実施しない理由
本事業項目については「効果があまりない」、「コストに対するメリットが小さい」等の否定的な認識をもつ酒類卸売業者が多数見られる。特に「情報ネットワーク化」と「情報発信」については顕著である。
1) メーカーとの情報ネットワーク化
大手メーカーとの取引においてはメーカー主導で情報化が進んでおり、EDI、EOSが導入されている。情報化という観点からは最も進んでいる分野の一つである。しかし、メーカー主導であるため、情報化が進むことが酒類卸売業の経営にとってどの程度の効果があるかは疑問の残る点である。電子化による作業効率化は見込めるものの、社内システムの整備状況にも依存する。またメーカーによってシステムが異なる場合、酒類卸売業者の側にデータ変換等の手間とコストが発生するものもある。
中小酒類メーカーとの情報ネットワーク化は、中小酒類メーカーにとってどのようなメリットがあるのかをあまり明確に示せないこと、中小酒類メーカー側の体制が整わないこと等がネックとなり進んでいない。
2) 小売業者との情報ネットワーク化
大手小売業者の場合、POS,EDI,EOS等の情報整備が進んでいるため卸売業者としてはこれに対応せざるを得ない。しかし、小売業者側のシステムへの対応となるため、卸売業者側で変換の手間がかかる等の問題が発生している。
中小小売業者の場合、取引量が小さいためにFAX、電話で間に合っていること、ネットワーク化するための人材、資金的余裕が無いこと、EDI、EOSを実施するメリットが見えないことが最大の問題点である。具体的にリベート等の優遇策をとっても導入が進まないとの例もあった。
また、中小小売業者の場合、受発注のルール化が進みにくいことも一因である。EOSを導入すると発注締め時間を設定することとなるが、これを守れるような取引ができていないと情報化を進めることはできない。
3) 社内の情報化
販売管理、物流管理等の社内情報化が進んでいない理由は、経営基盤整備事業共通の課題としてすでに指摘したところであるが、社内で実施できる人材がいないこと、投資するだけの余裕を有していないことが最大の要因である。別の言い方をすれば効果を確信できないと言うことであり、情報化により得られる様々な計数値の利用方法や利用価値を十分に理解していないと言える。
4) 情報発信
一般消費者への販売を行わない酒類卸売業者にとって個別の企業が情報発信する意義が明確となっていない。
メーカー、小売業者とは通常取引の中で対面での情報交換が行われており、コストをかけてまでホームページを通じて情報交換する必要性は薄い。
対応の方向
1) 情報ネットワーク化の認識の向上
なぜ、新たな投資をしてまで情報ネットワーク化を進める必要があるのか、という問いに答えることが必要である。情報化に関しては、経営基盤強化事業の一環として、全国酒類卸売業協同組合が「酒類卸売業経営基盤強化計画情報ネットワーク研究導入促進」(平成16年12月)をとりまとめている。このなかでは情報化の課題等が整理されており、情報ネットワーク化に関しては、「酒販店の店内情報システムとのネットワーク化によって情報収集の迅速化をはかる」ことが示されている。しかし、酒類卸売業者の取引先である一般酒販店が疲弊しており、その影響が酒類卸売業者にも及んでいる状況下では説得力に欠ける。情報ネットワーク化が酒類卸売業者、一般酒販店の双方の経営に投資以上の大きなプラスをもたらすか、あるいはネットワーク化しない限り将来の展開があり得ないというところまでの認識を持ってもらうことが不可欠となる。
酒類卸売業者に対する説明では、情報ネットワークの導入モデルを作成して具体的な数値を示す、具体的な成功事例を紹介する等が有効である。
情報ネットワーク化の目的の一つは、販売情報等を収集・分析することによって、的確な販売促進策を取ることにある。その意味からは、新商品開発や得意先強化を進めようという意識がなければ進みにくいと言える。
以上は、個別企業が情報ネットワーク化を進めるという前提の対応方向となるが、酒類産業、特に中小卸売業者や中小小売業者を取り巻く状況を考えると、個別企業の努力にゆだねていたのでは限界がある。複数の企業が共同であるいは全国酒類卸売業協同組合等の業界団体がどこまで取り組むかを再度検討する必要がある。
2) 社内情報化の推進
社内情報化は比較的メリットが見えやすいため、効果が正しく認識されれば進みやすい分野である。
したがって、情報システムがない場合にどのように経営判断を間違う可能性があるのか、情報システムによってどのような経営指標が得られどのような経営改善効果に結びつくのか、そのために必要な投資は回収できるのか、等の点を具体的に認識させていくことが必要である。パンフレットや冊子、集合研修のみならず、重点的に個別診断を実施することも考えられる。
3) 情報発信
酒類卸売業として、誰に何を発信するのかという目的を明確にする必要がある。目的を明確に持たずにホームページを開設しても、アクセスも伸びずコストがかかるだけになってしまう。情報発信の目的としては以下の内容が考えられる。
人材募集のツールとして
(小売を行っている場合)小売の手法として
取引先小売業者への商品情報の提供方法として
酒類に関する知識や情報を一般消費者に伝えるため
会社概要を知ってもらうため
しかし、以上の内容は必ずしもホームページという形で実施する必要はなく、従来の手法でも十分に目的を達成できるのではないかと考える。無理にホームページを使おうとすると逆に経営に悪影響を及ぼす可能性もある。したがって、情報ネットワークの基盤整備・活用促進の中でも情報発信については目的と内容を慎重に判断して高い優先順位とはならないであろう。
4) その他
情報技術の進展は極めて早く、経営基盤強化事業が開始された時点と異なった状況が発生している。
たとえば、携帯電話等のモバイル端末の発達、Edy、Suica等の電子マネーの普及、ワンセグ放送の開始等である。このような変化の評価については個別企業では限界があるため、業界団体による情報収集と構成員へのフィードバックが必要となろう。
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