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第1章 モデル事業の研究・サポート報告

第4項 組合ビジョン策定により求心力向上を図るD酒販協同組合

1. モデル事業の具体的取組み内容
 D組合は、PB商品開発と共同仕入の2つの経営改善事業を実施してきた。
 PB商品開発では、第一弾として、地元産のブドウを使って、地元ワイナリーとPBワインを共同開発した。しかし、ワインブームが下火になったことや、ワイナリーの経営悪化など予期せぬ事態が重なり、現在、ワインの新たな生産・販売は見合せている。
 PB商品開発の第二弾として、地元蔵元に生産委託したPB清酒(純米酒)を開発した。これもワイン同様、販売面で問題があり生産を見合せている。
 経営改善事業が円滑に進んでいないのは、組合員の意識格差が取組みに温度差を生んでいるためである。

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2. モデル事業の取組みに至った外部環境と経営環境
 当初は、メーカー、卸の目が組合員に向いていなかったこと、卸価格の上昇により、利益率が低下していたこと及び新規顧客が少なく、客数が減少していたことにより組合員は利益確保に苦慮していた。。
 組合の長所は、研修会の実施や組合員同士で情報交換ができること、卸売免許により、商品開発や共同購買ができること、共同仕入により、仕入コストの低減を図ることができること及び個店情報を集約できるとともに、内外に対する情報発信基地となることであった。
 一方、問題点は、個店単位の取組みに継続性がなく、徹底されていないこと、組合員は低単価商品に依存し、客単価が低いこと、組合員の品揃えに変化がなく、顧客に飽きられている可能性があること、組合員自身に、他人任せの意識が強いこと及びPB商品を開発しても、販促物や販促方法の提示が不十分であることが挙げられた。

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3. モデル事業の取組み状況
 組合員間の意識格差を是正するため、中小企業診断士の支援のもと、D組合のビジョンづくりと中期経営計画策定をゴールとして、ビジョン策定プロジェクト(以下、プロジェクト)を発足した。
 そこで本事業の目標を、組合員の他人任せ意識を払拭し、自らビジョン策定に参画することを通して、組合の経営改善・活性化を図ることにした。

(1) 実施体制
組合地区の地区代表や意欲の高い若手を中心に、組合事務局を加え、プロジェクトを発足した。

(2) 取組みステップ

イ ビジョン策定プロジェクトの発足
理事長・各支部長等の組合幹部と中小企業診断士が会合を持ち、ビジョン策定プロジェクトを発足させた。

ロ 組合活動の現状分析と今後の課題抽出
プロジェクト参加者で、活動別・事業別の上手くいった点、上手くいかなかった点等、組合活動の現状分析と今後の課題を抽出した。

ハ 課題解決の方向性、組合への期待及び個店の活動を検討
前回抽出した課題解決の方向性及び、組合活動を通して組合員自身が享受したいメリットを検討した。

ニ 組合の新たな事業理念・3年後のビジョンの検討
組合の新たな事業理念、3年後の事業ビジョンを明確にした。

ホ 3年間の実行計画を明確化
組合ビジョン実現に向けて、3年間の実行計画(何を、誰が、どのように、いつまでに)を明確にした。

へ 組合ビジョン・中期経営計画発表会の開催
組合役員等を対象としたビジョン・中期経営計画発表会を行い、正式決定を経て、当組合全体の取組みとして共有化した。

(3) 克服すべき問題点と課題(中小企業診断士のアドバイス)
 一点目は、意思決定や情報伝達の中間層提案型への移行である。上層部から与えられた事業では、組合員自身が受身になる。受身の姿勢を打開するため、組合員の要望を吸い上げ、要望を具現化した商品企画や販促企画を立案し、上層部に提案する中間層の主導者が求められる。
 二点目は、組合員間の連絡・周知徹底体制の確立である。研修会の開催等の告知が徹底されていない。各支部を経由して、情報伝達されているが、会合に参加していない組合員には、情報が行き渡らない。これが、参加意識を低下させる要因の1つになっている。
 三点目は、商品開発と販売、商品知識・売り方研修の連動である。商品開発は、誰を対象に、どのように販売するのか、明確な方針や考え方の確立が必要である。その上で、組合員の販売力向上の仕掛けを反映した販売計画や、商品知識向上研修を連動させる必要がある。

(4) 取組み後の効果
 第一は、参加者が受動的な姿勢から能動的な姿勢へ転換が見られたことである。将来の組合活動の中核になる人材基盤が整備できた。
 第二は、組合理念と組合ビジョンをプロジェクト参加者全員で検討し、確立したことで、「我が組合」という求心力を生む源泉になることである。
 第三は、数値目標の設定と実行計画を策定したことである。
 第四は、組合ビジョン発表会を開催し、提案に対する決意表明と責任意識の醸成、実行促進を図ったことである。

(5) 今後の課題
 全組合員が、組合理念を共有することが最も重要である。理念を作った参加者全員が、自ら組合理念を実践することである。
 D組合の事業は、商品事業、研修事業、情報事業の3つに分かれている。3つの事業は委員会制を敷き、委員会のリーダーが各事業を主導していかなければならない。3つの事業は、連携を図りながら展開する。
 各事業は、限られた人材・人手の中で優先順位を付けて実施する。実行後の成果を確認した上で、年間計画の更なる改善・刷新が重要である。

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◆D酒販協同組合の事例に見る活性化のポイント◆

■ポイント1 中核となる組合員の参画意識
 当組合は、過去にPB商品開発・販売や共同仕入で経営改善を図っており、活性化に向けての素地はあった。低迷を打破するには、組合員の前向きな取組みと意欲に掛かっている。今回は、意欲的な組合員を厳選してプロジェクトを再編制し、活性化を試みた。将来、組合活動の中核となる組合員が、自ら組合事業を真剣に考える場を作り、参画しながら議論することが組合活性化の原点である。

「参画意識とは」

  • 当事者意識  他人任せではなく、自らの事として積極的に関与
  • 主体的行動  受身ではなく、自ら能動的に行動
  • 自律性    自らを律していこうとする意識・行動

■ポイント2 組合理念、ビジョンの明確化
 組合員全員が、同じ方向を向いて順調に業績を維持向上できる時代は去った。考え方や事情が異なる組合員が、同じ方向を向いて求心力を保つためには、価値観の共有が欠かせない。その上で、組合のあるべき姿を明らかにする。しかし、全員の共感や共鳴は難しい。まず、真に相互信頼できる者同士が率先する。その後、成功体験を周囲に波及させ、組合全体の活性化を図る。

「理念、ビジョンの意義」

  • 価値観の共有 組織の価値観を明らかにすることで拠り所が生まれる
  • 方向性の共有 組織の方向性を明示することで求心力が生まれる
  • 行動促進   共有の価値観のもとビジョン実現へ行動が促進される

■ポイント3 実行するための組織体制と計画作り
 最終的な活性化のポイントは、実行し続けることができるかどうかである。実行と継続性が重要である。そのためには、中核になる人材が実行できる組織体制と、具体的行動レベルに落とし込んだ計画作りが欠かせない。計画を実行し、成果を検証することで、更なる改善に結び付ける。こうした繰り返しが、組合の事業力を確実に向上させる。

 「実行するための組織体制の条件」

  • 意欲的な若手の登用 リーダーシップをとれる若手人材の登用
  • 役員の積極支援   若手人材が積極的に行動できる環境づくり
  • 事務局の実務能力  連絡・相談・実行フォロー等の実務能力

 「計画作りの要点」

  • 何を    実施する項目内容
  • 誰が    実施体制と責任者
  • どのように 実施する方法
  • いつまでに 実施する期限
  • どこで   実施する場所
  • いくらで  実施に要する費用

(中小企業診断士 豊田 信)

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