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第1章 モデル事業の研究・サポート報告

第5項 PB商品開発で若手組合員のやる気を引き出すE酒販協同組合

1. モデル事業の具体的取組み内容
 E市の酒販協同組合の若手組合員有志6名が「安定して供給でき、量販店と差別化できる地元向けの焼酎を造ろう」と、高付加価値商品を企画・開発し、地域限定のオリジナル芋焼酎(PB商品)の販売を開始した。発売されるとたちまち人気商品となり、商品開発の成功事例として注目された。

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2. モデル事業の取組みに至った外部環境と経営環境
 E市周辺の中小酒類小売業者を取り巻く環境は、他地域と同様に規制緩和による酒類小売店舗数の増加、消費者の購買行動の変化による中小酒類小売業者離れ、低価格化の進行等の影響を受けている。組合員の中には売上高が年々低下し、経営難に陥り、転業や廃業を検討する店や実際に転業や廃業をする店も出てきている。
 E組合は平成16年2月に酒類卸売業免許を取得し、共同購買事業の計画に着手した。事業の中身は付加価値商品の共同購買であり、E県の市場性を考え、第一弾として、芋焼酎のPB商品を開発、平成17年3月1日に販売を開始し、年間の販売予定本数を1万本(1,800ml瓶換算)とした。

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3. モデル事業の取組み状況
 メンバーは、成功するためにやる気と自信を持っており、これが更なる組合員の販売力強化支援と協同組合の組織力強化策として、酒類の共同購買事業につながった。
 酒類の共同購買事業について、当初は規模の利益を生かして、NB商品をより安い価格で仕入れようと検討していたが、中小企業診断士のアドバイスにより、「規模の利益を生かして『安く仕入れる』」という方針を、差別化商品を持つ方向に転換した。

(1) 実施体制
 若手組合員6名がプロジェクト・チームを結成し、業務を遂行していった。組合は、プロジェクト・チームに大幅な権限を与え、企画や蔵元との交渉を行った。

(2) 取組みステップ

イ 基本方針の検討
 協同組合理事会により、基本方針を検討した。

ロ プロジェクト・チームの編成、具体的方針の検討
 若手組合員によりプロジェクト・チームを編成した。

ハ 蔵元商談、味の決定・物流システムの決定

ニ 全組合員に対する告知および説明会の開催

ホ 商品名およびラベルデザインの決定、商標登録

へ 参加者に対する最終説明会の開催
 参加費3万円の参加条件を設け、33名の参加者が集まった。

ト 受注⇒発売

チ 販売店の販売状況確認
 中小企業診断士が会員の店舗を視察し、問題点を把握、各店を指導。

リ 情報共有化のためアンケートと意見交換会の実施
 参加組合員にアンケートを実施し、情報共有に努めた。

(3) 克服すべき問題点と課題(中小企業診断士のアドバイス)
 PB焼酎開発にあたっては、人材面、実際にPB商品を造る製造業者、物流の3点が大きな問題となった。人材面では、企画を担当する人材が不足していたが、若手組合員によるプロジェクト・チームを結成し、PB商品の企画・開発にあたった。
 製造は、県内の蔵元に依頼し、交渉の結果、了解を得た。物流面は、M酒類販売株式会社に委託し、毎月1回、月初めに配送することにした。
 PB商品は、利益率は高いが、消費者からみて認知度が低いので、ただ並べているだけでは売れない。意欲のない中小酒類小売業者が取扱う場合、「売れない」という悪評が立ち、グループ事業にとって逆効果となりかねない。
 参加者を選別することにより、共同購買事業のグループを結成し、参加意欲を判断する基準として1店あたり3万円の参加費を徴収し、のぼり等の販促物製作費用及び取引保証金に当てた。

(4) 取組み後の効果
 プロジェクト・チームのキャンペーン策が成功し、開発したPB商品は一時品切れを起こすほど大変好調なスタートを切った。この成功が参加組合員に更なる自信とやる気を与え、次の取組みへの足がかりとなった。

(5) 今後の課題
 発売後3ヶ月経過し、売れている店と売れていない店との二極化が進行している。
 PB商品の育成には、計画(Plan)→実行(Do)→検証(Check)→改善実行(Action)のサイクルが不可欠である。PDCAサイクルを継続的に回し続けることにより、効果的に目標達成に近づけるようになる。しかし、各個店の売上状況の分析や効果的な販売促進は、検証されることなく終わっている。
 そこで、平成18年1月にPB商品の勉強会を開催した。プロジェクト・メンバーや共同購買事業に参加している組合員のほか、中小企業診断士も入って情報交換を行った。「なぜ、PB商品が自分たちの組合に必要なのか」、「自店にとって、PB商品はなぜ必要なのか、品揃えの中でどのような位置づけを持つ商品なのか」というPB商品開発の原点を確認し、PB商品に対して理解を深めていく必要がある。そのため、勉強会などを定期的に開催し、より深く、突っ込んだ話し合いを行う場を設けなければならない。
 プロジェクト・メンバーの6名の店は、価格競争に巻き込まれず、利益がとれ、競争力のある中小酒類小売業者を目指している。このため、第二弾、第三弾のPB商品を開発し、戦略的にPB商品を品揃えの大きな柱として育てることが重要であると認識、現在は第二弾の商品開発に取組んでいる。

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◆E酒販協同組合の事例に見る活性化のポイント◆

■ポイント1 若手組合員への大胆な権限委譲
 PB商品の開発は、メーカーとの交渉、容量や価格体系の検討、商品名やラベルの決定、受発注システムや販売促進策の検討等、企画段階において解決しなければならない様々な業務が発生する。本格的に企画を担当する人材が不可欠であるが、当組合には専従の役員はいない。
 そこで、意欲の高い若手6人の組合員からなるプロジェクト・チームを結成し、柔軟で意思決定の迅速な組織を作った。
 プロジェクト・チームが中小企業診断士の指導のもとで、PB商品の企画・開発にあたった。メンバーは毎週火曜日の午後、組合事務所に集まり、検討会議を実施し、蔵元との交渉やホームページ作成にあたった。
 重要事項は協同組合理事会で最終決定するが、「プロジェクトの決定事項は、基本的に組合の決定事項とする」旨の根回しが行われた。この点が、高い動機づけの源泉となっている。チーム内の雰囲気は良好で、楽しみながら活動している。

「権限委譲の留意点」

  • 方針を決定し、手法は任せる
  • 丸投げにならないこと

■ポイント2 PB商品の売れ行きを定期的にチェック
 PB商品は、企画・開発よりも、むしろ売れる商品として育成することの方が難しい。当組合においてPB商品の勉強会を開催したが、PB商品の売れ行きを定期的にチェックする場を設け、情報交換を行っていくことは不可欠である。もし、組合内部に勉強会を適切に導いていける人材がいなければ、中小企業診断士等外部ブレーンの活用を積極的に検討していくべきである。

「PB商品育成の留意点」

  • やりっ放しでなく、その都度活動を振り返る機会を設ける
  • 各店の販売ノウハウを組合で蓄積する

■ポイント3 スタート段階で売れる自信
 スタート段階では、意欲ある小売店を中心に販売して、「売れる」という自信を持たせることが重要である。
 当組合では、発売前から消費者を巻き込んだコミュニケーション活動を展開し、商品認知度の向上に努めた。商品名募集キャンペーンや、街頭での先行試飲会、ホームページでの告知など積極的な宣伝で、スタートで弾みをつけた。
 このことが地元メディア(新聞、テレビ等)の注目を集めた。メディアへは、プロジェクト・メンバーが積極的に出演・掲載されるような仕掛けをつくった。

「スタート段階での成功がもたらす効果」

  • 有力な組合員の協力が得られやすくなる
  • 注目されることで、メンバーのモチベーションが上がる

(中小企業診断士 松井 正明)

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