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第1章 モデル事業の研究・サポート報告

第3項 PBの再活性化により組合員の結束を図るC小売酒販組合

1. モデル事業の具体的取組み内容
 C組合は、PB商品を地域の酒造メーカー4社の協力を得て造った4種類の地酒を、300mlリターナブル瓶に詰めた「地酒セット」の販売を展開してきた。
 PB商品の販売を契機に、参加店平均で1年目10%、2年目20%の売上高増を目指した。PB商品で売上高を稼ぐよりは、差別化された商品を持つことによって、顧客からみて魅力的な店になり、顧客の来店頻度を高め、関連購買を増加させることを狙った。
 しかし、発売から一年経った時点での累積出荷数は約400セットと振るわず、発売当初は積極的に販売していた組合員も、時間が経つと次第に熱が冷め、店頭に商品すら置かなくなった。

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2. モデル事業の取組みに至った外部環境と経営環境
 外部環境の状況は、平成15年の小売酒販免許の緩和以来、新業態といわれるディスカウントストア、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター、ギフトショップ、ドラッグストア、宅配ピザ店等の新規参入が急増した結果、酒類業界の過当競争は急速に進展している。その結果、管内の中小酒類小売業者の経営は危機的状況に陥り、経営活性化が急務となっていた。また、新業態店は小売酒販組合への加入率が低く、組合として社会的規制の未成年者の飲酒防止、消費税完納、容器包装リサイクル等の組織的活動が困難になりつつある。
 管内の中小酒類小売業者の経営環境は、売上高が最盛期の70%程度に落ち込んでおり、競合店に対し価格対応ではない差別化戦略を早急に打ち出す必要があった。さらに、商圏内に大型ショッピングセンターの進出計画があり、組合員は売上高が減少するのではないかと不安になっている。

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3. モデル事業の取組み状況
 「地酒セット」の販売を促進する景品をつけたキャンペーンを実施し、キャンペーンを通じて組合員同士の結束を強め、組合活動の活性化を狙った。

(1) 実施体制
キャンペーンのリーダーはC組合理事長が務め、全体の取りまとめを行う。実行委員は、C組合青年部部員の8名である。事務局は、C組合事務所内に置く。

(2) 取組みステップ

イ 組合活動の方向性を確認、体制の整備
 取組みの目的を確認し、実施メンバーと運営方法を決定した。

ロ PB商品の開発・販売
 PB商品の開発と販路の拡大を行うために、組合員が結束し取組んだ。

ハ 新たな活動計画の策定
 若手の組合員が中心となり、今後の課題を確認し、課題解決に向けての活動計画を策定した。

(3) 克服すべき問題点と課題(中小企業診断士のアドバイス)
組合活動における課題は、中小酒類小売業者の士気をいかに鼓舞するかである。そのため、「ヤル気のある中小酒類小売業者」に絞って活動を実施し、まず、コアメンバーで成功事例を作った方が、他の組合員の意識改革につながるのではないかという考えで取組んだ。「地酒セット」キャンペーンは、「ヤル気のある若い店主達」で結成された「C組合青年部」のメンバーが実施することにした。キャンペーン実施の手順の共有化が図れ、また、キャンペーンへの取組みは他の組合員へ刺激を与えることになり、ひいては、C組合の活性化につながることを期待した。
 PB商品の開発・販売に関する課題は、ターゲット顧客の決定である。今回は、観光客の土産および、歳暮用商材として位置づけることにし、キャンペーンの内容を計画した。

(4) 取組み後の効果
キャンペーンを実施することで「地酒セット」の販売が活発になった。これは、「地酒セット」の特徴が顧客に訴求できたことが大きな要因である。定期的にキャンペーンを実施して、拡販を継続していくほか、他の販売促進の方法も考えていく。
 組合活動に積極性が出てきたことが、キャンペーンの最大の成果といえる。

(5) 今後の課題
組合活動を更に活性化させていくことが今後の課題である。
 第一の解決策は、「地酒セット」の販売量の増加である。「地酒セット」の動きが活発になれば、組合員の活動に加速がつく。今回は、期間限定で現在のチャネル内での販売量を増加させることが狙いであったが、もう一つの方法としては、取扱店を増加させることが考えられる。取扱店を増やすことで、消費者の目にとまりやすくなり、「地酒セット」の地名度が向上する。そのためには、現在、組合員のみの取扱になっている「地酒セット」の取扱を非組合員にも開放することが考えられる。新たに取扱店を増やすことで、年間3,000セットの販売を目指す。
 組織として動くためには、もう少し多くの協力者を得て、役割を分担の上、集中的に企画を推進していかなくてはならない。そのためには、3年後や5年後のビジョンを明確に打ち出し、その達成に関わる戦略を構築することが求められる。
 第二の解決策は、酒類に合った食品のPB商品の開発である。「売れる食品」の開発によって更に組合活動を活性化させる。C組合が取組む「売れる食品」は、酒に合い、地元の特産物で、他の地域で手に入りにくいものを開発する予定である。既に組合員からは、「いわしの味醂干」や「サバの糠漬け」などの食材を検討したいという声が上がっている。しかし、PB商品は開発までは皆熱心に議論するが、発売後数ヶ月が経つと、当初の熱意が覚めてしまう。今後、現状認識も含めて、委員会を月に1回開催し、進捗のチェックとその後の対策を検討することにした。

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◆C小売酒販組合の事例に見る活性化のポイント◆

■ポイント1 あきらめないで新たな行動を起こす
中小酒類小売業者は、あきらめムードに陥っているところが多い。しかし、今回試みた景品キャンペーンにより、1店舗ではなく複数店で結束すれば、何かできるという意識が芽生えたことは大きい。応募者からのはがきを、ワクワクしながら待つことの喜びをともに分かち合えた。今まで一人で悩んでいた中小酒類小売業者も、組合員同士で知恵や汗を出し合えば一歩前に進むことが出来ることを知った。あきらめないで、新たなアクションを起こすことが重要である。暗闇の中に一筋の光が見えた。この光を大きなものにしていくことが重要である。

 「新たな取組みを行う際のポイント」

  • 行動力  行動力のあるメンバーに明確な役割を与える
  • 組織化  組織全体で目的や方針を共有化する
  • 計画性  理想論ではなく、実現可能な計画を立てる

■ポイント2 若手による非公式組織が公式組織へ発展
現在の組合活動に物足りなさを感じている若い世代の店主たちの集まりが、「C小売青年部」として公式組織化したことは、高く評価すべきである。このメンバーが今後、C組合のコア人材として牽引力を発揮することで、組合活動の活性化につながる。非公式組織は、自然発生的に同じ目的や考えを持つ者同士が集まったものである。本来、公式組織が推進力となる組合の活動であるが、今回のように非公式組織が組合を引っ張っていった。このような公式組織と非公式組織の連携が、組合活性化には有効である。

 「組織活性化のポイント」

  • コア人材  ヤル気のある人材をコア人材とし、組織を牽引させる
  • 成功事例  成果を公表する
  • 若手の登用 若手のアイデアや行動力がメンバーに刺激を与える

■ポイント3 継続的な委員会の開催と外部資源の活用

 継続的な委員会の実施が、PDCAの管理サイクルを回すことになり、委員会の質を向上させた。委員会の開催にあたっては、次回開催までにやるべきことを明確にし、毎回進捗を確認した。また、中小企業診断士等の外部コンサルタントの意見を聞きながら、継続的に委員会を開催することにより、委員会メンバーに魅力的なアイデアと行動力が生まれ、結果として組合の活性化につながった。また、外部コンサルタントの意見をそのまま利用するのではなく、メンバー内の実現可能性を考え、再度自分たちで練り直すことが実施段階での行動力を後押しする。組合活動の活性化には、組合の内部資源の活用ばかりでなく、外部資源を積極的に活用することが重要である。

 「継続的な活動を行うためのポイント」

  • PDCA     計画・実行・確認・対策のサイクルを回す
  • 外部資源   外部コンサルタントの意見をヒントに、練り直す
  • 参加者の確保 参加者を一人でも増やし、活動を盛り上げていく

(中小企業診断士 田中 秀一)

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