【照会要旨】

 当社は、X事業その他事業を営む法人ですが、今後、X事業を分社化することを検討しています。具体的には、以下の2案を検討しています。

  1. 【A案】 単独新設分割(分社型分割に該当し、以下「本件分割A」といいます。)により当社の100%子会社としてX社を設立するもの
  2. 【B案】 単独新設分割(分割型分割に該当し、以下「本件分割B」といいます。)によりX社を新設して当社から独立させるもの(本件分割Bの後は、当社とX社との間には(完全)支配関係が生じません。)

 上記の【A案】又は【B案】のいずれかを実行する時の当社で常時使用する従業員の見込人数は、14,000人であり、上記の【A案】又は【B案】のいずれかを実施するとしても、当社からX社に13,000人の従業員が移籍し、当社の従業員の数は残りの1,000人となることが見込まれています(当社とX社の決算日は同日となる予定です。)。
 ところで、令和6年度税制改正により、給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(以下「賃上げ促進税制」といいます。)の見直しがされ、中堅企業向けの措置が追加されましたが、その措置の適用対象となる特定法人の該当性の判定における「常時使用する従業員の数」について、上記の【A案】又は【B案】のいずれかの分割を行う場合に何か影響があるのでしょうか。

〔概要図〕
概要図

【回答要旨】

 賃上げ促進税制のうち中堅企業向けの措置を適用しようとする事業年度以前の組織再編成の有無にかかわらず、当該措置を適用しようとする法人及びその法人との間にその法人による支配関係がある他の法人の事業年度終了の時における常時使用する従業員の数の合計数で一律に判断することとなります。
 なお、ご質問の【A案】による場合には、貴社は特定法人に該当しませんが、ご質問の【B案】による場合には、貴社は特定法人に該当することになります。

(理由)

  1. 1 令和6年度税制改正により、賃上げ促進税制の見直しがされ、中堅企業向けの措置が追加されました。具体的には、青色申告書を提出する法人で事業年度終了の時において特定法人に該当するものが、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、継続雇用者給与等支給増加割合が3%以上であるときは、控除対象雇用者給与等支給増加額の10%(上乗せ措置の適用により、最大で35%)の税額控除(調整前法人税額の20%が上限)ができる措置が加えられました(措法42の12の5丸2)。
  2. 2 上記1の「特定法人」とは、常時使用する従業員の数が2,000人以下の法人(その法人及びその法人との間にその法人による支配関係がある他の法人の常時使用する従業員の数の合計数が10,000人を超えるものを除きます。)をいうこととされています(措法42の12の5丸5十)。
  3. 3 賃上げ促進税制においては、一定の組織再編成が行われた場合には、例えば、比較雇用者給与等支給額(措法42の12の5丸5十一、措令27の12の5丸14丸20)を調整計算することとされています(参考:分割を2回行った場合の給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(租税特別措置法第42条の12の5)における比較雇用者給与等支給額の計算について)が、上記2の特定法人の判定において、組織再編成を行われた場合の判定の基礎となる「常時使用する従業員の数」について一定の調整計算を行うとする規定はありません。このため、同税制のうち中堅企業向けの措置を適用しようとする法人が事業年度終了の時において「特定法人」に該当することが当該措置の適用要件の1つとされ、この「特定法人」とは上記2の法人をいうこととされていますので、当該措置を適用しようとする事業年度以前の組織再編成の有無にかかわらず、事業年度終了の時における当該措置を適用しようとする法人及びその法人との間にその法人による支配関係がある他の法人の常時使用する従業員の数の合計数で一律に判断することとなります。
  4. 4 そうすると、貴社が【A案】により、本件分割Aで100%子会社としてX社を新設した場合には、特定法人の該当性の判定における「常時使用する従業員の数」について、貴社とX社との間には貴社による完全支配関係があることとなりますので、貴社とX社の事業年度終了の時における常時使用する従業員の数を合計することとなります。したがって、賃上げ促進税制のうち中堅企業向けの措置を適用しようとする事業年度終了の時の貴社の従業員の数1,000人にX社の従業員の数13,000人を合計すると、その合計数である14,000人は10,000人を超えることとなりますので、貴社は、特定法人に該当しないこととなります。X社についても、自社で常時使用する従業員の数が2,000人を超えることとなりますので、特定法人に該当しないこととなります。
  5. 5 また、貴社が【B案】により、本件分割BでX社を独立させた場合には、特定法人の該当性の判定における「常時使用する従業員の数」について、貴社とX社との間には貴社による支配関係がありませんので、貴社の特定法人の該当性は、貴社のみで事業年度終了の時における常時使用する従業員の数で判定することとなります。したがって、賃上げ促進税制のうち中堅企業向けの措置を適用しようとする事業年度終了の時の貴社の従業員数は1,000人であり、その数が2,000人以下の法人に該当することとなりますので、貴社は特定法人に該当することとなります。一方、X社については、自社で常時使用する従業員の数が2,000人を超えることとなりますので、特定法人に該当しないこととなります。

【関係法令通達】

 租税特別措置法第42条の12の5第2項、第5項第10号 

注記
 令和6年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。