第2章 適用要件

(スキャナの意義)

4−19 規則第3条第4項に規定する「スキャナ」とは、書面の国税関係書類を電磁的記録に変換する入力装置をいう。したがって、例えば、スマートフォンやデジタルカメラ等も、上記の入力装置に該当すれば、同項に規定する「スキャナ」に含まれることに留意する。

【解説】

 平成28年度の税制改正前においては、スキャナについて「原稿台と一体となったものに限る。」ことが要件とされていた。これは、社内において経理担当者等が経理処理の際に領収書等の書面を確認した上でスキャナによる読み取りを行うことを念頭においた仕組みとされていたことによるものである。また、この「スキャナ」については法令上の定義はなく、一般的な用語を指しているものとしていたところであるが、「原稿台と一体となったものに限る。」とする要件があったため、いわゆる「スキャナ」として販売されている機器が用いられていた。
 平成28年度の税制改正において、スマートフォン等を使用して社外において経理処理前に国税関係書類の読み取りを行い、そのデータによる経理処理を行えるよう、この「原稿台と一体となったものに限る。」とする要件が廃止され、用いることができる機器の選択肢が広くなった。
 このため、本通達は、スキャナについて、書面の国税関係書類を電磁的記録に変換する入力装置であることを明らかにするとともに、スマートフォンやデジタルカメラ等の機器についても規則第3条第4項に規定する「スキャナ」に含まれることを例示的に明らかにしたものである。

(対面で授受が行われない場合における国税関係書類の受領をする者の取扱い)

4−22 規則第3条第5項の規定の適用に当たり、郵送等により送付された国税関係書類のうち、郵便受箱等に投函されることにより受領が行われるなど、対面で授受が行われない場合における国税関係書類の取扱いについては、読み取りを行う者のいずれを問わず、当該国税関係書類の受領をする者が当該国税関係書類をスキャナで読み取る場合に該当するものとして差し支えないものとする。

【解説】

 規則第3条第5項第2号ロに規定する「受領」については、特段の定めがないため、対面で国税関係書類の授受が行われる場合は、外部の者から国税関係書類を受け取ることを意味し、同号ロに規定する「受領をする者」については、具体的に国税関係書類を受け取った者をいうものと考えられる。
 一方、対面で国税関係書類の授受が行われない場合、例えば、郵送等により国税関係書類が送付され、郵便受箱等に投函された場合は、民法における隔地者に対する意思表示が、「その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」とされ(民法97条)、到達については「意思表示の書面が…いわゆる勢力範囲(支配圏)内におかれることを以て足るもの」と解されている(最判昭36.4.20)ことを踏まえれば、郵便受箱等に投函されたことをもって受領が行われたと考えられ、この場合、具体の者がなく受領が行われており、受領をする者がいないこととなる。
 したがって、郵送等により送付され、郵便受箱等に投函された国税関係書類については、受領者が存在しないため、同号ロ括弧書の規定の適用はないと考えることもできるが、例えば、一人で事業を行っている個人事業者においては、郵送された国税関係書類を郵便配達人等から直接受け取れたか否かで、スキャナ保存の要件が変わることとなり、不合理なこととなる。また、同号ロ括弧書の規定の適用については、基本的には、受領者等以外の者が読み取りを行う場合より要件が厳しくなるため、郵送等により送付され、郵便受箱等に投函された国税関係書類に限り任意で適用し得るとしても差し支えないと考えられる。
 本通達は、このような考えの下、規則第3条第5項の規定の適用に当たっては、郵送等により送付された国税関係書類のうち、郵便受箱等に投函されることにより受領が行われるなど、対面で授受が行われない場合における国税関係書類の取扱いについては、読み取りを行う者のいずれを問わず、当該国税関係書類の受領をする者が当該国税関係書類をスキャナで読み取る場合に該当するものとして差し支えないことを明らかにしたものである。

(特に速やかに行うことの意義)

4−23 規則第3条第5項第2号ロ括弧書に規定する「特に速やかに」の適用に当たり、国税関係書類の作成又は受領後3日以内にタイムスタンプを付している場合には、特に速やかに付しているものとして取り扱う。

【解説】

 平成28年度の税制改正前においては、営業担当者等が作成又は受領(以下4−23において「受領等」という。)した国税関係書類について、社内において経理担当者等が経理処理の際に領収書等の書面を確認した上でスキャナによる読み取りを行っていたが、平成28年度の税制改正により、スキャナについて「原稿台と一体となったものに限る。」とする要件が廃止され、スマートフォン等を使用して社外において経理処理前に国税関係書類の読み取りを行うことが可能となった。
 一方、これまで国税関係書類の受領者等以外の者が読み取りを行ってきたことによるけんせい効果が失われること、電磁的記録にタイムスタンプを付すまでの期間を長く設定すれば、電磁的記録上の改ざんも容易となってしまうことから、受領者等が読み取る場合には、特に速やかにタイムスタンプを付すこととされたところである。
 スマートフォン等を使用して社外において経理処理前に国税関係書類の読み取りを行うことができる以上、受領等の当日に読み取りを行い、ネットワークを利用し、当日中にタイムスタンプを付すことも可能ではあるが、実際には、他の業務との関係上、受領等の当日中には読み取りを行うことができない場合もあり得る。しかしながら、例えば、受領等の後、土曜日・日曜日を挟むこととなっても3日あれば基本的には対応が可能であることや、これまで入力については、受領等の日の翌日から起算して1週間以内に行っていれば、「速やかに」入力しているものと取り扱っていることなども踏まえ、本通達は、受領等の日の翌日から起算して3日以内にタイムスタンプを付している場合には、特に速やかに行っているものとして取り扱うことを明らかにしたものである。

(日本工業規格A列4番以下の大きさの書類の解像度の意義)

4−28 規則第3条第5項第2号ハ括弧書に規定する「当該国税関係書類の作成又は受領する者が当該国税関係書類をスキャナで読み取る場合において、当該国税関係書類の大きさが日本工業規格A列4番以下であるとき」における、規則第3条第5項第2号ハ(1)に規定する「解像度に関する情報」の保存については、当該国税関係書類の電磁的記録に係る画素数を保存すれば足りることに留意する。

【解説】

 平成28年度の税制改正により、スキャナについて「原稿台と一体となったものに限る。」とする要件が廃止され、社外などで経理処理前にスマートフォンやデジタルカメラ等を使用して書面の国税関係書類の読み取りを行うことが可能となった。
 スマートフォンやデジタルカメラ等の機器は、走査によって書類を読み取るスキャナとは異なり、一般的には、書類を読み取った際に解像度に関する情報を取得することが困難であり、どのように解像度に関する情報を保存するのかが問題となる。
 本通達は、この点について、解像度が書類の大きさと画素数によって決まり、解像度の要件(「25.4ミリメートル当たり200ドット以上」)が満たされていることについては、画素数が保存されていれば判断できることを踏まえ、規則第3条第5項第2号ハ括弧書に規定する「当該国税関係書類の作成又は受領する者が当該国税関係書類をスキャナで読み取る場合において、当該国税関係書類の大きさが日本工業規格A列4番以下であるとき」における、規則第3条第5項第2号ハ(1)に規定する「解像度に関する情報」の保存については、画素数を保存すれば足りることを明らかにしたものである。

(定期的な検査を行う体制の意義)

4−35 規則第3条第5項第4号ロに規定する「定期的な検査を行う体制」とは、定期的な検査が行われるまでの間は、スキャナ保存を行った国税関係書類の書面を管理する体制がとられている必要があることに留意する。
 なお、スキャナ保存を行った国税関係書類の書面については、当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項の確認等に際して原本確認が必要となった場合に、速やかに確認できるよう、定期的な検査が行われるまでの間、本店、支店、事務所、事業所その他これらに準ずるものにおいて管理する必要があることに留意する。

【解説】

 平成27年度の税制改正前は、契約書・領収書等のいわゆる重要書類(法第4条第3項に規定する国税関係書類のうち、規則第3条第6項に規定する国税庁長官が定める書類以外の書類をいう。)については、スキャナで読み取る前の紙段階で行われる改ざんの問題点等を踏まえ、3万円未満のものに限ってスキャナ保存が認められていたが、平成27年度の税制改正により、この3万円未満の金額基準が廃止された。
 この紙段階での改ざんに対処することを踏まえ、重要書類については、規則第3条第5項第4号(適正事務処理要件)を新たに設けることにより、事務担当者間でチェック機能を働かせる仕組み(担保措置)を講じることとされた。
 スキャナで読み取る前の紙段階で行われる改ざんを防止するための要件であるから、仮に、スキャナ保存を行った国税関係書類の書面がなければ、この書面とスキャナで読み取った画像とが同等であることを確認することができないこととなる。このため、本通達は、定期的な検査を行うまでの間はスキャナ保存を行った書面の管理が必要となることを留意的に明らかにしたものである。
 なお、事業規模が大きな場合や事業形態によっては、保存義務者が1年に1回、定期的な検査を行うとした場合、スキャナ保存を行った国税関係書類の書面の量が膨大になることも考えられるが、事業規模に合わせて、例えば、検査を1月に1回行う、また、四半期に1回行うことで、検査を行ったものについては、廃棄することができる。
 また、平成28年度の税制改正により、スキャナについて「原稿台と一体となったものに限る。」とする要件が廃止された。これにより、例えば、営業担当者がスマートフォン等を使用して社外において経理処理前の領収書の読み取りを行うことが可能となったが、領収書が読み取りを行った営業担当者の自宅で管理されることとなっては、経理担当者による原本確認や定期的な検査により書面が必要になった際に速やかに行えず、その実効性が確保されないこととなる。このため、営業担当者の自宅等ではなく、「本店、支店、事務所、事業所その他これらに準ずるもの」といった確認・検査を速やかに行える場所で管理する必要があることを本通達は留意的に明らかにしたものである。


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