第4章 電子取引

(電磁的記録等により保存すべき取引情報)

10−1 法第10条((電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存))の規定の適用に当たっては、次の点に留意する。

(1) 電子取引の取引情報に係る電磁的記録は、ディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明りょうな状態で出力されることを要するのであるから、暗号化されたものではなく、受信情報にあってはトランスレータによる変換後、送信情報にあっては変換前のもの等により保存することを要する。

(2) 取引情報の授受の過程で発生する訂正又は加除の情報を個々に保存することなく、確定情報のみを保存することとしている場合には、これを認める。

(3) 取引情報に係る電磁的記録は、あらかじめ授受されている単価等のマスター情報を含んで出力されることを要する。

(4) 見積りから決済までの取引情報を、取引先、商品単位で一連のものに組み替える、又はそれらの取引情報の重複を排除するなど、合理的な方法により編集(取引情報の内容を変更することを除く。)をしたものを保存することとしている場合には、これを認める。

(注) いわゆるEDI取引において、電磁的記録により保存すべき取引情報は、一般に「メッセージ」と称される見積書、注文書、納品書及び支払通知書等の書類に相当する単位ごとに、一般に「データ項目」と称される注文番号、注文年月日、注文総額、品名、数量、単価及び金額等の各書類の記載項目に相当する項目となることに留意する。

【解説】

 法第2条第6号において、電子取引とは、「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」と定義され、その取引情報の具体的な内容は、「取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項」とされている。
 本通達においては、この電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に関して、EDI取引を例に取りながら、留意すべき事項を明らかにしたものである。
 なお、通達の(1)から(4)に掲げる事項を説明すれば次のとおりである。

(1) 暗号化されたデータの取扱い
 規則第8条第1項では、法第10条に規定する保存義務者は、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を規則第3条第1項第4号及び第5号の要件に従って保存しなければならないとされている。このことからすれば、保存すべきデータは、暗号化されたデータではなく、トランスレータと呼ばれる汎用ソフトウェアにより、各企業のシステムに適合する固有のフォーマットのデータに変換したものということとなる。
 なお、このデータ変換時に、受信したデータのうち使用しない部分を破棄しているような場合は、その部分の保存は要しない。また、受信データを自己の複数の各業務システムに分割して引き継いでいるような場合は、その分割前の変換直後のものが保存すべきデータとなる。

(2) メッセージの交換過程で発生する訂正又は加除のデータの取扱い
 EDI取引では、当初送受信したデータ項目の訂正又は加除のデータも順次やり取りされているが、これらのデータは作成過程のものであるということができ、最終的に確定データとなるものであることから、これらの訂正又は加除のデータを個々に保存することなく、確定データのみを保存することも認められる。
 この場合における訂正又は加除のデータとは、確定データに至る前の情報をいうのであるから、例えば、見積書の場合、前の見積り金額を変更して、新たな見積り金額として確定する場合には、各々の見積り金額が確定データとなるのであるから、最終的に合意に至った見積りデータのみを保存するのではなく、各々の見積りデータを保存することに留意する。

(3) 単価データ等のマスター情報の取扱い
 個別の見積りや発注ごとに送受信せずに、あらかじめ合意した内容のデータ(例えば、単価データ)を最初にまとめて送受信し、双方でデータ変換をするときにこれをマスター情報として利用している場合には、取引情報に係る電磁的記録はマスター情報により補完された状態でディスプレイ等の画面及び書面に出力されることを要す。

(4) 編集されたデータの取扱い
 データ保存の形態としては、例えば、見積り依頼データと見積り回答データについて別々に保存する場合又は双方を一緒にして保存する場合あるいは見積り回答データのみを保存する場合、更には、見積りから決済までのデータを取引先や商品単位で一連のものに組み替えて保存する場合など、種々の形態が考えられるが、合理的な方法により編集(取引内容を変更することを除く。)をしたものを保存することとしている場合には、これも認められる。
 ただし、業務システムのデータを編集して送信している場合にその編集前の業務システムのデータを保存する方法又は受信後の業務システムに引き継がれた後のデータを編集して保存する方法は、相手方と送受信したデータとはいえないことから認められない。

参考)

メッセージ
 EDI取引で交換されるデータの単位。通常1件の取引が1つのメッセージとしてやりとりされる。メッセージは、データ項目の種類、各項目の文字数、使われる文字の種類、並び順などにより組み立てられ、先頭のメッセージヘッダと最後尾のメッセージトレーラで1つの区切りとなる。

データ項目
 データ要素(データエレメント)ともいい、業務処理上での意味ある情報の最小単位。

トランスレータ(CIIトランスレータ)
 CIIシンタックスルールに基づいて開発されたメッセージと、各企業の情報処理システムに固有なフォーマットのデータを、相互に変換するソフトウェア。

(訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程)

10−2 規則第8条第1項第2号((電子取引の取引情報に係る電磁的記録の訂正削除の防止))に規定する「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」とは、例えば、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める内容を含む規程がこれに該当する。

(1) 自らの規程のみによって防止する場合

1 データの訂正削除を原則禁止

2 業務処理上の都合により、データを訂正又は削除する場合(例えば、取引相手方からの依頼により、入力漏れとなった取引年月日を追記する等)の事務処理手続(訂正削除日、訂正削除理由、訂正削除内容、処理担当者の氏名の記録及び保存)

3 データ管理責任者及び処理責任者の明確化

(2)取引相手との契約によって防止する場合

1 取引相手とデータ訂正等の防止に関する条項を含む契約を行うこと。

2 事前に上記契約を行うこと。

3 電子取引の種類を問わないこと。

【解説】
 規則第8条第1項第2号では、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を定めることとされているが、これは、当該規程によって電子取引の取引情報に係る電磁的記録の真実性を確保することを目的としたものである。
 したがって真実性を確保する手段としては、保存義務者自らの規程のみによる方法のほか、取引相手先との契約による方法も考えられることから、これらの方法に応じて規程に必要な内容を例示したものである。
 なお、(2)の場合における具体的な規程の例としては「電子取引の種類を問わず、電子取引を行う場合には、事前に、取引相手とデータの訂正等を行わないことに関する具体的な条項を含んだ契約を締結すること。」等の条項を含む規程が考えられる。


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