問9

当社(9月決算法人、金融業)は、インボイス制度導入後である令和8年10月1日に免税事業者から国内にある店舗用の建物を取得し、その対価として1,320万円を支払いました。当社は税抜経理方式で経理しており、本件取引について支払対価の額の110分の10相当額を仮払消費税等の額として経理しました。また、当社の消費税の課税期間は事業年度と一致しており、当課税期間の課税売上割合は50%で、仕入税額控除の計算は一括比例配分方式を適用しているところ、当該事業年度において仮払消費税等の額として経理した金額は本件取引に係る120万円のみで、このほか仮受消費税等の額として経理した金額が120万円ありました。決算時において、納付すべき消費税等の額が90万円算出されたため、仮受消費税等の額から仮払消費税等の額を控除した金額との間に差額が90万円生じることとなり、その差額を雑損失として計上しました。この場合の課税仕入れに係る法人税の取扱いはどうなりますか。
 なお、この建物は取得後直ちに事業の用に供しており、耐用年数20年で定額法により減価償却費を算出しています。

〔取得時〕
(借方)建物12,000,000円(貸方)現金13,200,000円
仮払消費税等1,200,000円
〔決算時〕
(借方)減価償却費600,000円(貸方)建物600,000円
仮受消費税等1,200,000円仮払消費税等1,200,000円
雑損失900,000円未払消費税等900,000円

【回答】

以下のような申告調整を行います。

・別表四 所得の金額の計算に関する明細書

区分 総額 処分
留保 社外流出
加算 減価償却の償却超過額 570,000円 570,000円  
控除対象外消費税額等の損金算入限度超過額 270,000円 270,000円  

・別表五(一) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書 

T 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在
利益積立金額
当期の増減 差引翌期首現在
利益積立金額
建物減価償却超過額     570,000円 570,000円
繰延消費税額等     270,000円 270,000円

【解説】

インボイス制度導入後、令和8年10月1日から令和11年9月30日までの間に行われた適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、当該課税仕入れに係る支払対価の額に110分の7.8(軽減税率の対象となる場合は108分の6.24)を乗じて算出した金額に100分の50を乗じて算出した金額が仕入税額控除の対象となる課税仕入れに係る消費税額となります(28年改正法附則531)。すなわち、インボイス制度導入前の課税仕入れに係る消費税額の50%相当額について仕入税額控除の適用を受けることができます。
 このため、法人が税抜経理方式で経理をしている場合において、免税事業者からの課税仕入れについては支払対価の額のうちインボイス制度導入前の仮払消費税等の額の50%相当額を仮払消費税等の額として経理し、残額を資産の取得価額として法人税の所得金額の計算を行うことになります(新経理通達3の2、経過的取扱い(2))。
 本事例においては、法人の会計上、120万円を仮払消費税等の額として建物の取得価額と区分して経理していますが、税務上は仮払消費税等の額は60万円となりますので、120万円のうち60万円を超える部分の金額である60万円は、建物の取得価額に算入することになります。
 ところで、本事例においては、決算時に仮受消費税等の額の合計額から仮払消費税等の額の合計額(建物の取得時に仮払消費税等の額として経理した金額)を控除した金額と納付すべき消費税等の額(未払消費税等の額)との清算の結果生ずる差額を雑損失として計上しています。この雑損失の金額のうち60万円は、前述のとおり本来は建物の取得価額に算入すべきものですが、「償却費として損金経理をした金額」として取り扱い、結果として償却限度額を超える部分の57万円を減価償却の償却超過額として所得金額に加算することになります(新経理通達3の2(1)(注))。
 また、本事例では、課税売上割合が50%ですので控除対象外消費税額等が生ずることになります。この控除対象外消費税額等は、仕入税額控除の適用を受ける課税仕入れに係る消費税等の額のうち新消法第30条第1項の規定による控除をすることができない金額(地方消費税相当額を含みます。)となりますので、地方消費税も加味したところで計算すると、仕入税額控除の適用を受ける課税仕入れに係る消費税等の額(支払対価の額1,320万円×10/110×50%=60万円)のうち、控除をすることができない金額は60万円×(1−課税売上割合50%)=30万円となります(法令139の456、30年改正法令附則144)。本事例の控除対象外消費税額等は、法令第139条の4第3項及び第4項の規定により、損金経理を要件として5年以上の期間で損金の額に算入します。本事例ではこの控除対象外消費税額等について決算時に雑損失として損金経理をしており、当該事業年度の損金算入限度額は資産に係る控除対象外消費税額等を60で除して12(当該事業年度の月数)を乗じた金額の2分の1に相当する金額となりますので、結果として、27万円を繰延消費税額等として当該事業年度後の各事業年度において、損金の額に算入することになります(法令139の43)。

※ 建物減価償却超過額の計算

  • (12,000,000円+600,000円)×0.050=630,000円(償却限度額)
  • (600,000円+600,000円)−630,000円=570,000円

※ 控除対象外消費税額等の損金算入限度超過額の計算

  • 300,000円÷60×12×1/2=30,000円(損金算入限度額)
  • 300,000円−30,000円=270,000円