第2節 現在納付能力調査

現在納付能力調査は、調査日における納税者の現金、預貯金等の直ちに支払に充てることができる当座資金のほか、当面の事業の継続又は通常の生活の維持のために真に必要と認められるつなぎ資金の額とを把握し、それらを勘案して納付すべき国税のうち、直ちに納付することができる額(以下この章において「現在納付可能資金額」という。)及び納付困難な額を判定するための調査である。

63 当座資金

当座資金の額は、調査日現在における現金、預貯金その他換価の容易な財産であって、直ちに支払に充てることのできる資金の合計額とする。

なお、「換価の容易な財産」とは、事業の継続又は生活の維持のために必要と認められない財産のうち、売却等により金銭に換えることが容易なものをいう(徴収令第53条第3項第2号柱書、徴基通第152条関係2)。

この場合に「売却等により金銭に換えることが容易なもの」とは、おおむね次に掲げる財産をいう。

(1) 取引所のある株式、公社債その他の有価証券であって、速やかに売却等の処分をすることができるもの

(2) 投資信託契約に係る解約金であって、容易にその投資信託契約を解除できるもの

(注) 当座借越契約がある場合には、限度額までの借入可能額を当座資金に算入する。

64 つなぎ資金

つなぎ資金の額は、納税者が法人である場合には調査日からおおむね1月以内の期間(以下「計算期間」という。)における下記(1)の額、納税者が個人の場合には計算期間における下記(1)及び(2)の合計額とする。

なお、計算期間において、資金繰りが最も窮屈になると見込まれる日が明らかである場合(納税者が個人である場合は、下記(2)ロにより計算する場合に限る。)は、調査日からその日までの期間を計算期間として差し支えない。

また、計算期間における下記(1)の額又は下記(1)及び(2)の合計額が0円に満たない場合は0円とする。

(1) 事業の継続のために当面必要な運転資金の額

下記イからロを控除した残額をいう。

なお、見込納付能力調査において算出した納税者の事業等による収入などの状況を踏まえ、商品の仕入から販売までの期間が長期にわたる場合、事業維持に必要不可欠な資産の買換えのための資金の積立てを要する場合その他支出が収入を超過するため収支状況にそごを来す時期があると見込まれる場合等において、計算期間後のために資金手当てをしておかなければ、事業を継続することができなくなると認められるときは、必要最小限度の所要資金を算定して、事業の継続のために当面必要な運転資金の額に加算することができる(徴基通第152条関係3)。

  • イ 計算期間における納税者の事業の継続のために必要不可欠な支出の額
  • ロ 計算期間における事業収入その他の収入に係る金額

(注) 次に掲げるような支出は、「事業の継続のために必要不可欠な支出」には該当しない。

  1. 1 不要不急の財産の取得のための支出
  2. 2 事業等の拡張のための支出(今後の納税の能力を増加させ、早期完納が見込まれるなど、国税の徴収上有利であると認められるものを除く。)
  3. 3 役員給与のうち、法人税の申告において過大な役員給与として否認された額に相当する支出
  4. 4 交際費、寄附金その他の経費のうち、過去の決算における支出額を著しく超える支出
  5. 5 期限の定めのない債務の弁済のための支出

 (2) 生活の維持のために通常必要とされる費用の額

計算期間に支出する納税者及び納税者と生計を一にする配偶者その他の親族の生活費として、下記イ又はロのいずれかにより算出した金額とする。

なお、見込納付能力調査において算出した納税者の事業等による収入などの状況を踏まえ、納税者の生活を維持することができなくなるおそれが生じないよう、計算期間を超える期間における納税者の生活の維持のために、通常必要とされる資金の額をつなぎ資金として留保する必要がある場合は、その所要資金の額を下記イ又はロにより算出した額に加算することができる(徴基通第152条関係4)。

また、納税者と生計を一にする配偶者その他の親族の中に生活費を負担している者がいる場合は、その負担額を下記イ又はロにより算出した額から控除する。

  • イ 基準額算定法
    下記(イ)の金額に(ロ)の金額を加算する。
    なお、納税者及び納税者と生計を一にする配偶者その他の親族の年齢、所有資産、収支の状況、職業、健康状態等の個別事情を勘案して、養育費、教育費、治療費に係る支出その他社会通念上生活の維持のために必要不可欠な支出として下記(イ)及び(ロ)の金額の合計額を超える金額を計算期間の生活費として見込む必要がある場合には、必要最小限度の所要資金の額を下記(イ)及び(ロ)の金額の合計額に加算することができる。
    • (イ) 10万円(配偶者その他の親族があるときは、これらの者一人につき4万5千円を加算した金額)
    • (ロ) 手取り額から上記(イ)の金額を控除した金額の百分の二十に相当する金額(その金額が上記(イ)の金額の二倍に相当する金額を超えるときは、当該金額とする。)
  • ロ 実績額算定法
    納税者が実際に支払った食費、家賃、水道光熱費などの金額を把握している場合において、それらの金額のうち、計算期間の生活費として通常必要と認められる金額を積算する。

(注)

  1. 1 個人のつなぎ資金は、納税者の個別事情をよりよく反映させるために、「生活の維持のために通常必要とされる費用」として、生活が維持できなくなるおそれがあると認められる場合等には、複数月分の資金をつなぎ資金に含めることが可能とされていることに留意する。
  2. 2 上記の「配偶者その他の親族」とは、民法第725条各号《親族の範囲》に掲げる六親等内の血族、配偶者及び三親等内の姻族をいう。
    なお、婚姻又は縁組の届出はしていないが、事実上、滞納者と婚姻関係又は養親子関係にある者は、親族と同様に取り扱うものとする(徴基通第152条関係5)。
  3. 3 「手取り額」とは、給与所得者については、直近の1月分の給与収入から源泉所得税、地方税及び社会保険料等を控除した額、個人事業者及び不動産所得者のうち青色申告者については、直近の年分の確定申告における青色申告決算書の青色申告特別控除前の所得金額、白色申告者については、直近の年分の確定申告における収支内訳書の専従者控除前の所得金額に相当する計算期間における額をいう。
    なお、複数の所得がある者については、それぞれの所得金額について上記のとおり計算したものの合計額をいう。

[個人のつなぎ資金の具体的な計算例](単位:万円)

個人のつなぎ資金の具体的な計算例は、次の1から4までのとおりである。

なお、下記の事例を含め、計算期間を超えて生活費が事業収益を上回る場合など、計算上、分割納付金額が算出されない月も考えられるが、そのような場合であっても、計算期間を超えてつなぎ資金に配慮して猶予をすることができるのは、過去の収支状況等により、今後、一定程度の入金によって分割納付金額が算出されることが見込まれるものの、当分の間、納税者が経費の節約等に適切に努めても、なお分割納付金額が算出されないような「やむを得ない」場合であることに留意する。

  • 1 事業収入のみを有する者
    • A 計算期間における事業支出見込金額:60
    • B 計算期間における事業収入見込金額:90
    • C 計算期間における生活費:25
    • ⇒ 「当面必要な運転資金の額」=A−B=▲30…D
      「生活の維持のために通常必要とされる費用の額」:C(25)
      つなぎ資金の額:C+D=▲5<0 →0
  • 2 1か所からの給与収入のみを有する者
    このような者であれば「資金繰りが最も窮屈になると見込まれる日」は、通常、給与の受取日の前日となる。その結果、計算期間における事業支出・事業収入はともに0円となり、「当面必要な運転資金の額」も0円となるため、「生活の維持のために通常必要とされる費用の額」がそのままつなぎ資金の額となる。
  • 3 事業収入と給与収入を併有する者
    • A 算期間における事業支出見込金額:75
    • B 計算期間における事業収入見込金額:60
      その他、計算期間において10の給与を受ける。
    • C 計算期間における生活費:20
    • ⇒ 「当面必要な運転資金の額」=A−B(:60+10)=5…D
      「生活の維持のために通常必要とされる費用の額」:C(20)
      つなぎ資金の額:C+D=25
      見込納付能力調査において算出した納税者の事業等による収入などの状況を踏まえ、つなぎ資金の計算期間を超える期間における生活の維持のために、通常必要とされる資金の額をつなぎ資金として留保する必要がある場合は、その所要資金の額(一定程度の入金が見込まれるまでの複数月分)をつなぎ資金に加算することができる。
      なお、所要資金の額をつなぎ資金に加算する場合の猶予の適否は、つなぎ資金の加算の対象とした期間後において見込まれる収入の状況、納税者による経費の節約等の取組状況、猶予期間中に納期限が到来する国税の納付の可否などを踏まえて判断することに留意する。
  • 4 計算期間を超える期間のための所要資金をつなぎ資金に含める場合
    例えば、災害により店舗に損害を受けたため、営業を休止して店舗を復旧するために3月を要するような場合は、次のように計算する。
    • A 計算期間における事業支出見込金額:100
    • A' 計算期間を超える期間(計算期間の終期から店舗の復旧を完了するまでの2月間。4において同じ。)における事業支出見込金額:150
    • B 計算期間における事業収入見込金額:0
    • C 計算期間における生活費:20
    • C' 計算期間を超える期間における生活費:40
    • ⇒ 「当面必要な運転資金の額」=(A+A')(:100+150)−B=250…D
      「生活の維持のために通常必要とされる費用の額」:C+C'=60
      つなぎ資金の額:C+C'+D=310

65 現在納付可能資金額及び納付困難な額の算定

(1) 現在納付可能資金額

現在納付可能資金額は、当座資金の額からつなぎ資金の額を控除した金額とする。

調査の結果、現在納付可能資金額がある場合には、納付の手続に通常要すると認められる期間を指定してその金額を納付するよう指導する。

(2) 納付困難な額

「納付困難な額」は、納税の猶予若しくは換価の猶予の申請に係る国税又は職権による換価の猶予をしようとする国税の額から、現在納付可能資金額を控除した金額とする。

66 現在納付能力調査表を作成する場合

現在納付能力調査において、次のいずれかに該当する場合には、現在納付能力調査表(様式307010-001-1)を作成する。

(1) 通則法第46条第2項若しくは第3項の規定による納税の猶予又は徴収法第151条の2第1項の規定による換価の猶予の申請があった場合において、納付を困難とする金額がないことによりその申請を不許可とするとき又は猶予を受けようとする金額よりも少ない猶予金額でその申請を一部許可とするとき

(2) 徴収法第151条第1項の規定による換価の猶予をする場合(滞納者から提出された財産目録等により、現在納付能力調査が可能な場合を除く。)

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