この節は、換価執行決定の取消し及び換価執行決定の取消しに伴う手続について定めたものである。
173 次に掲げる場合には、換価執行決定の取消しをする。
(1) 特定参加差押えを解除したとき(徴収法第89条の3第1項第1号)。
(注) 2以上の参加差押えに基づき換価執行決定をした場合において、そのうちの一部の参加差押えのみを解除したときは、換価執行決定を取り消す必要はないことに留意する(徴基通第89条の3関係1)。
(2) 特定差押えが解除されたとき(徴収法第89条の3第1項第2号)。
(注)
(3) 特定参加差押不動産の価額が特定参加差押えに係る滞納処分費及び特定参加差押えに係る国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を超える見込みがなくなったとき(徴収法第89条の3第1項第3号)。
(4) 特定参加差押えに係る滞納者につき換価の執行をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあると認められるとき(徴収法第89条の3第1項第4号、徴収令第42条の3第2項)。
174 次に掲げる場合には、換価執行決定の取消しをすることができる。
(1) 特定参加差押えに係る国税の一部の納付、充当、更正の一部の取消し、特定参加差押不動産の価額の増加その他の理由により、その価額が特定参加差押えに係る国税及びこれに先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を著しく超過すると認められるに至ったとき(徴収法第89条の3第2項第1号、徴基通第89条関係6、7)。
(2) 滞納者が他に差し押さえることができる適当な財産を提供した場合において、その財産を差し押さえたとき(徴収法第89条の3第2項第2号、徴基通第89条の3関係8)。
(3) 特定参加差押不動産について、3回公売に付しても入札等がなかった場合において、その特定参加差押不動産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に公売に付しても買受人がないと認められ、かつ、随意契約による売却の見込みがないと認められるとき(徴収法第89条の3第2項第3号、徴基通第89条の3関係9)。
(注) 上記の公売の回数には、換価執行決定前に換価同意行政機関等において行った公売の回数を含める(徴基通第79条関係10)。
(4) 特定参加差押えに係る国税につき納税の猶予又は換価の猶予をしたとき。
(5) 国税に関する法律の規定により換価することができない期間が終了するまでに長期間を要すると認められるとき(徴基通第89条関係6、徴基通第89条の3関係10(1))。
(6) 換価執行行政機関等が納付受託をしたとき(通則法第55条、徴基通第89条の3関係10(2))。
(7) 次に掲げる場合において、換価執行行政機関等が換価執行決定を取り消すことを相当と認めるとき(徴基通第89条の3関係10(1))。
イ 換価同意行政機関等が納税の猶予をしたとき。
(注) 換価同意行政機関等が換価の猶予をしたときは、換価執行決定の取消しは要しない。
ただし、滞納者の現況に鑑み、換価手続の継続の適否について検討すること。
ロ 換価同意行政機関等の処分に対する不服申立て又は訴訟が提起された場合において、その争点が差押財産の帰属など、換価執行行政機関等の参加差押えの違法事由となりうるものであるとき。
(8) 他の法律で定める納税の猶予又は換価の猶予をしたとき(会社更生法第169条第1項、租税特別措置法第40条の3の4等)。
(9) 換価執行行政機関等が徴収の猶予をしたとき(通則法第23条第5項、第105条第2項、第6項)。
(10) 換価執行決定に係る国税に関する訴訟の終了まで長期間を要すると見込まれるとき(徴収法第90条第3項)。
(11) 換価執行決定に係る国税に関する不服申立てについての決定又は裁決まで長期間を要すると見込まれるとき(通則法第105条第2項、第6項)。
(12) 会社更生法の規定により換価が制限される期間が終了するまで長期間を要すると見込まれるとき(会社更生法第50条第6項)。
(13) 行政事件訴訟法の規定により、換価執行行政機関等の換価が制限される期間が終了するまでに長期間を要すると見込まれるとき(行政事件訴訟法第25条第2項)。
(注) 不服申立てなどにより、換価が一定期間制限された場合であっても、制限期間を経過すれば再び換価を行うことができるため、換価制限期間が長期間に及ぶと見込まれる場合でなければ取消しをする必要はない。
なお、不服申立てに続き訴訟が提起された場合には、換価は制限されないため、換価執行行政機関等による換価を行うことができる。
ただし、行政事件訴訟法第25条第2項の規定により処分の執行の停止を命ぜられた場合は、換価手続を停止することに留意する。
175 換価執行決定を取り消した換価執行行政機関等は、速やかに、次に掲げる者に対し、その旨を「換価執行決定取消通知書」(様式306020-061〜063)により通知する(徴収法第89条の3第3項)。
(1) 換価同意行政機関等(特定差押えが解除されたことによる取消しの場合を除く)
(2) 滞納者
(3) 特定参加差押不動産につき交付要求をした者
(注)
176 換価執行決定の取消しをする場合において、特定参加差押不動産につき当該換価執行決定の取消し前に交付要求を受けているとき(徴収法第89条の4の規定により換価を続行する場合を除く)は、次に掲げる書類を各行政機関等へ引き渡す(徴収令第42条の3第4項、第5項)。
(1) 特定差押えの解除以外の事由により換価執行決定を取り消す場合
交付要求書等及び差押関係書類(徴収令第42条の3第4項第1号に規定する差押関係書類をいう。以下同じ。)を換価同意行政機関等に引き渡す(徴収令第42条の3第4項第1号)。
(2) 特定差押えが解除されたことにより換価執行決定を取り消す場合
参加差押書(特定差押えの解除により差押えの効力を生ずべき参加差押えに係る参加差押書を除く。)及び差押関係書類を特定参加差押えの解除により差押えの効力を生ずべき参加差押えをした行政機関等に引き渡す(徴収令第42条の3第4項第2号)。
(注)
〔設例1〕
次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第1号、徴収令第42条の3第4項第2号該当)
〔書類の引渡し等〕
乙税務署長は、丙市長及び丁市長から提出された交付要求書を甲市長に引き渡す。
この場合、丙市長による交付要求はの時、丁市長による交付要求はの時に、それぞれ甲市長に対してされたものとみなされる。
〔設例2〕
次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第2号、徴収令第42条の3第4項第2号該当)
〔書類の引渡し等〕
乙税務署長は、自署の参加差押書を丙市長に引き渡す。
(注) 丙市長から提出された参加差押書は引渡しを要しない(徴収令第42条の3第4項第2号の中欄かっこ書)。
この場合、乙税務署長による参加差押えは、の時に丙市長に対してされたものとみなされる。
なお、丁市長及び戌市長による交付要求は、効力を失う。
〔設例3〕
次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第2号、徴収令第42条の3第4項第2号該当)
〔書類の引渡し等〕
乙税務署長による換価が続行するため、書類の引渡し等は不要。
なお、丙市長による参加差押えはの時、丁市長による交付要求はの時、戌市長による交付要求はの時に、それぞれ乙税務署長に対してされたものとみなされる。
〔設例4〕
次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第2号、徴収令第42条の3第4項第2号該当)
〔書類の引渡し等〕
乙税務署長は、自署の参加差押書を甲市長に引き渡す。
なお、乙税務署長による参加差押えは、の時に甲市長に対してされたものとみなされる。
また、丙市長及び丁市長による交付要求は効力を失う。
〔設例5〕
次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第2号非該当、徴収令第42条の3第4項参照)
〔書類の引渡し等〕
換価執行決定を取り消す必要がなく、乙税務署長による換価が継続するため、書類の引渡し等は要しない。
177 特定差押えが解除された場合において、換価執行決定の取消しに係る特定参加差押えにつき差押えの効力が生ずるときは、換価執行決定の取消しをした換価執行行政機関等は、当該換価執行決定に基づき行った換価手続を、当該差押えによる換価手続とみなして、換価を続行することができる(徴収法第89条の4、173(2)(注)2参照)。
(注)
178 換価の続行をする場合は、換価執行行政機関等は、速やかに、次に掲げる者に対し、その旨を「換価執行決定取消通知書兼公売手続の続行通知書」(様式306020-065・066)により通知する(徴収法第89条の3第3項、徴収令第42条の4後段)。
(1) 滞納者
(2) 特定参加差押不動産につき交付要求をした者
(注)
179 換価の続行があった場合には、換価執行決定を取り消した行政機関等が、特定参加差押不動産につき換価執行決定の取消し前に交付を受けた交付要求書等に係る交付要求は、次に掲げる時に、それらの交付要求書等に係る交付要求の順序に従い、当該行政機関等に対して交付要求をしたものとみなされる(徴収令第42条の4前段)。
なお、差押えの効力を生ずる参加差押えの解除がされるまで、その交付要求の効力は維持されることに留意する。
(1) その交付要求が換価執行決定前にされたものである場合は、交付要求書等が換価同意行政機関等に送達された時
(2) その交付要求が換価執行決定以後にされたものである場合は、交付要求書等が換価執行行政機関等に送達された時