第2節 建物の類型ごとの評価

1 自用の建物の評価

自用の建物の評価は、本章第1節2《建物の評価の原則》により行う。
 なお、空家は、自用の建物として評価する。

2 貸家の評価

貸家の評価は、本章第1節2《建物の評価の原則》により算出した評価額と収益還元法により算出した評価額とを比較検討して行う。この場合において、買受人に対抗できる借家権がある貸家の評価に当たっては、借家契約の内容、賃料、一時金の有無、占有状況等を総合勘案し、必要に応じて建物価格から、借家権価格を控除する。ただし、収益還元法の適用に当たっては、借家権による減価は行わない。
 なお、収益還元法の適用に当たっては、次に掲げる事項に留意する。

(1) 純収益の算定方法

公売財産の純収益は、当該建物の賃貸収入及び敷金等の運用益から維持管理費、公租公課(固定資産税、都市計画税等)、損害保険料、減価償却費(賃貸用不動産の場合)等の諸経費を控除して算定する。

(2) 還元利回り等の決定

還元利回り又は割引率は、建物の所在する地域、建物の種類、構造等により異なるものであるから、同種の財産における事例、精通者等の意見を参考に、公売財産の具体的事情に応じて決定する(第2章第2節2《収益還元法の適用方法》参照)。
 なお、純収益の算定において減価償却費を控除した場合は、還元利回り又は割引率についても、減価償却後の率を使用することに留意する。

(3) 収益還元法を用いた場合の借地権及び借家権の取扱い

収益還元法により評価した建物の試算価格には、通常、当該建物に係る借地権価格が含まれていることに留意する。

(4) 敷金の取扱い

敷金債務は、原則として買受人が承継することになる(平成11.3.25最高判)から、敷金債務があるときには、当該敷金相当額を公売特殊性減価後に控除する。

3 借家権の評価

(1) 借家権の評価方法

借家権の評価は、財産評価基準に定める借家権割合及び精通者の意見を参考として評価する。ただし、適当な取引事例がある場合には取引事例比較法によることとし、この場合には、1借家権の対抗要件の具備の有無、2家賃、借家期限その他の借家条件、3建物の種類及び構造、4立地条件等を検討し、所要の調整を行う。

(2) 借家権評価の留意事項

借家権の価格は、建物自体の価格及び借地権価格に一定割合を乗じた価格で示されるのが通常であるが、1平方メートル当たり又は1畳当たりで示される場合もあるため、その地域の慣行によって評価する。

(注) 借家権の経済的性質は必ずしも明らかではなく、場所により、また具体的契約により異なり、しかも、借地権以上に個別的性格が強く、一般に評価が難しいが、通常その価格は家賃の前払的要素と場所的利益(営業権的要素も含む。)の対価の要素とを包含しており、更に、立退料的な性格を有する場合もある。

(参考)
 使用貸借に対する補償価格について、公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日付用地対策連絡会決定)第13条では通常の借家権価格の3分の1程度とされている。

4 区分所有建物の評価

区分所有建物の評価は、原則として取引事例比較法により行うこととし、次に掲げる事項に留意する。

(1) 区分所有建物の取引価格

区分所有建物は、その敷地の持分と一括して取引されるのが通常であり、規約によって「区分所有建物と敷地の持分とは同時に処分されなければならない」旨定められているときには、必ず一括取引され(区分所有法第22条参照)、当該取引の価格には、双方の部分が含まれる。

(2) 共有部分の取扱い

区分所有建物の共有部分の持分は、専用部分の持分の処分に従うこととされている(区分所有法第15条)から、通常は、取引の価格にその部分の価格も算入されているものとして差し支えない(例えば、エレベーターの設置費用)が、取引成立後に新たに設置された共有部分がある取引事例を使用する場合は、共有部分が取引価格に含まれていないため、当該取引事例価格に所要の調整を加える。

(3) エレベーター及びバルコニーの取扱い

エレベーターと建物の付合(民法第242条)に関して、相反する裁判例があり(昭和47.12.21大阪地判、昭和54.8.7熊本地判参照)、また、バルコニーは共用部分であるとする裁判例(昭和47.5.30東京高判参照)があることから、区分所有建物の評価に当たって留意する。

(4) 共用部分の使用、管理及び保全に要する費用の取扱い

共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権(管理費、修繕積立金、組合費等)については、区分所有建物の特定承継人(公売財産である区分所有建物の買受人)に対して承継されるため、差し押さえた区分所有建物を評価する場合には、未納管理費等相当額を、公売特殊性減価後に控除する。

5 建物及びその敷地の評価

建物所有者とその敷地の所有者が同一であり、建物と敷地を一括して評価する場合の評価は、建物及びその敷地の利用形態及び権利関係の態様に応じ、原則として次に掲げる方法により行う。

(1) 自用の建物及びその敷地

自用の建物及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者が同一であり、所有者による不動産の使用収益を制約する権利の付着していない場合における当該建物及びその敷地をいう。
 自用の建物及びその敷地の評価は、原則として取引事例比較法により行うこととし、必要に応じて収益還元法及び原価法による評価額と比較、検討を行うものとする。この場合において、建物との関係で建付地が最有効使用の状態にないと認められるときは、その程度及び更地化の難易度に応じて建付減価を行う。
 なお、建付減価は、取引当事者の申立て又は精通者の意見を基にして行うが、次に掲げる事項に留意する。

  • イ 建物の用途を転換し又は建物の構造等を改造して使用することが妥当と認められる場合においては、用途変更後の最有効使用及び改造に要する費用等を考慮して評価する。
  • ロ 最有効使用の観点から建物を取り壊すことが妥当と認められるときは、建物の解体により発生する資材の価格を建物価格とし、建物の取り壊し、除去、運搬等に必要な経費を減額する。

(2) 貸家及びその敷地

貸家及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者が同一であるが、建物が賃貸借の用に供されている場合における当該建物及びその敷地をいう。
 貸家及びその敷地の評価は、原則として収益還元法により行うこととし、必要に応じて取引事例比較法及び原価法による評価額と比較、検討を行うものとする。
 なお、収益還元法の適用に当たっては、次に掲げる事項に留意する。

  • イ 将来における賃料の改定の実現性及び程度
  • ロ 賃貸借契約の締結に当たって授受された一時金の額及び契約条件
  • ハ 将来見込まれる一時金の額及び契約条件
  • ニ 賃貸借契約締結の経緯及び経過期間、残存期間並びに建物の残存耐用年数
  • ホ 不動産の存する地域における貸家及びその敷地の取引慣行
  • ヘ 賃貸借の目的及び契約形式、登記の有無並びに転借の有無
  • ト 借家権価格

(3) 借地権付建物

借地権付建物とは、借地権に基づく建物が存する場合における当該建物及び借地権をいう。
 借地権付建物の評価は、当該建物の利用方法が自用又は賃貸の別により、次に掲げる方法により行う。

  • イ 建物が自用の場合
     当該建物を借地権者が使用している場合の借地権付建物の評価は、原則として自用の建物及びその敷地の評価に準じて行うこととする。
  • ロ 建物が賃貸されている場合
     当該建物が賃貸借の用に供されている場合の借地権付建物の評価は、原則として貸家及びその敷地の評価に準じて行うこととする。

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