第2節 宅地の評価

1 更地の評価

更地の評価は、本章第1節2《土地の評価の原則》により行う。

2 建付地の評価

建付地のみを公売する場合の評価は、法定地上権の成立の有無(民法第388条、徴収法第127条第1項、徴基通第127条関係1参照)を調査の上、底地の評価方法に準じて行う。

3 底地の評価

底地の評価に当たっては、次に掲げる事項に留意する。

(1) 更地価格を基として評価する場合

底地について、更地価格を基として評価する場合には、更地価格から借地権価格(本節4《借地権の評価》)を控除する方法により行う。この場合において、底地上の建物が当該底地の最有効使用の状態にないと認められるときは、更に建付減価を行っても差し支えない。

(2) 収益還元法等による確認

底地の評価に当たっては、必要に応じその底地の賃貸収入に基づく収益還元法による評価を行いこれにより評価額が適正なものであるかの確認を行う。
 なお、収益還元法による評価は、不動産市場が安定し、賃貸借等の事例や収益事例が多く、不動産の純収益と還元利回り及び割引率とを的確に把握できる場合には有効であるが、不動産価格の高騰に見合う賃料の引上げが困難なため、不動産の収益性が低下しているような場合には、他の評価方法による評価額に比べて低額な評価額となる場合があるため、収益還元法のみでなく他の評価方法も併用することに留意する。

4 借地権の評価

(1) 借地権の評価の原則

  • イ 借地権の評価に当たっては、1借地権の法律上の対抗要件の具備の有無、2地代、借地期限その他の借地条件、3建物の種類、構造等を検討し、所要の調整を行う。
  • ロ 借地権の取引事例価格は、それ自体を直接把握できる場合は少なく、敷地と分離した建物のみの売買に付随して取引され、建物の取引価格に包含されていることが多い。この場合において、当該取引事例の取引事情、契約の内容、建物自体の価格の把握が的確に行えるときは、その建物の取引価格から建物自体の価格を控除することにより求める(第2章第2節1《取引事例比較法の適用方法》参照)。
  • ハ 適当な取引事例を収集することが困難な場合には、財産評価基準に定める借地権割合及び精通者の意見に基づき評価するものとする。
     なお、必要に応じ、当該土地を賃借した場合の適正な利潤(適正利潤)に公租公課及び管理費用等の諸経費を加えた金額から実際に支払われている地代を差し引いた金額を還元利回りで除して求めた金額により評価額が適正なものであるかどうかの確認を行う。

    (適正利潤+公租公課+諸経費-契約地代)/還元利回り

(2) 借地権の範囲

  • イ 法律上の対抗要件を具備している借地権の範囲は、その借地契約によって貸借の目的となっている宅地の全部である。
     なお、借地借家法制定前の建物保護法に関し、1登記のある建物の存在する土地が分筆され、一方の土地には登記のある建物が存在しなくなった場合でも、双方の土地に建物保護法第1条(借地借家法第10条)の対抗力が及ぶ(昭和30.9.23最高判参照)が、2二筆の土地を貸借し、一方の土地のみに建物を登記した場合には、他方の土地には建物保護法第1条(借地借家法第10条)の対抗力は生じない(昭和44.10.28最高判、昭和44.12.23最高判参照)とする裁判例があることから、これらの裁判例に類似する事例においては、第三者に対抗できる借地権の及ぶ土地の範囲を的確に判定する必要がある。
  • ロ 法定地上権は、その建物利用に適当な範囲の土地に及ぶ(大正9.5.5大判参照)が、この範囲は、建築基準法第53条に規定する建ぺい率に基づき計算する。この場合において、法定地上権の範囲が及ばない部分が独立した利用価値を有しないと認められるときは、その全部につき法定地上権が及ぶものとして取り扱う。
  • ハ 法律上の対抗要件を具備していない借地契約の目的である宅地の上に建物がある場合の借地権の範囲は、上記ロに準ずるものとする。

(3) 借地権の調整

借地権の評価に当たっては、法律上の対抗要件の具備の有無その他の条件によって評価に及ぼす影響が異なるから、次の点に留意して所要の調整を加える。

  • イ 借地権が法律上の対抗要件を具備するのは、1地上権又は賃借権に登記があるとき(民法第177条、第605条)、2貸借地上に存在する建物に登記があるとき(借地借家法第31条)、3同一所有者に属する土地又は建物のいずれか一方又は双方につき抵当権又は担保仮登記の設定がある場合において、土地又は建物のいずれか一方又は双方が各別に競落されたとき(民法第388条、仮登記担保法第10条、昭和37.9.4最高判参照)及び4同一所有者に属する土地又は建物が、滞納処分による換価のため所有者を異にすることとなったとき(徴収法第127条)に限られ、その他の場合は、当該宅地の上に存在する建物の所有者は宅地の使用につき法律上の保護を受けない。したがって、この場合には、宅地の所有者は借地契約の締結について権利金の請求、地代の決定等に関して有利な地位に立ち、それだけ建物に付随する借地権はその価値が低下するものと考えられる。
     なお、普通建物(非堅固建物)の所有を目的とする土地の賃貸借において期間を3年と定めても、その借地権の存続期間は、借地借家法第9条及び第3条により契約の時から30年である(昭和44.11.26最高判参照)とする裁判例があることに留意する。
  • ロ 建物が存在する宅地の借地契約について期限が到来し、借地契約を更新するときは、更新料を支払うのが通常である。したがって、残存借地期間が少ないとき(おおむね5年未満)は、当該更新料相当額を参酌(例えば、受け取るべき更新料相当額から、公売による買受代金の納付の期限から借地期間満了の日までの法定利息分相当額を控除する。)して、借地権価格から当該更新料相当額を控除する。
     なお、この場合における借地権の残存期間は、必ずしも契約書上の期間に捕らわれることなく、慣行上の期間も参考とする。
     また、更新料は、新たに借地権を設定する場合の価格に比較すると、一般に低額であることに留意する。
  • ハ 借地上にある建物を売買する場合(地上権が設定されている場合を除く。)においては、土地の所有者に対し名義書換料(承諾料)を支払う事例が一般に多いが、この名義書換料(承諾料)を要する場合においては、借地権価格から名義書換料(承諾料)相当額を控除する。
     (注) 更新料及び名義書換料(承諾料)は、各地域により異なることに留意する。
  • ニ 使用貸借に係る借地権等の法律上の対抗要件を具備していない借地権については、当該土地の借地権価格(法律上の対抗要件を具備している場合の価格。以下この項において同じ。)から、建物の所有者が借地契約をするに当たり土地所有者に対して支払うと見込まれる権利金等の額を控除して求める。
     なお、上記の方法により評価することが困難な場合は、建付地価格又は借地権価格に対する一定割合により評価して差し支えない。この場合において、その割合の算定に当たっては、財産評価基準に定める借地権割合を参考とするほか、精通者の意見を聴取するなどしてその適正性を確保する。

5 特殊な宅地の評価

(1) 私有道路等の評価

イ 公売財産が私有道路の用に供されている場合には、当該私有道路に隣接する宅地の価格を基とし、付近住民の日常生活との密接の度合い、公共的性格の強弱の程度に応じ、精通者の意見、財産評価基本通達の定め及び国土交通省において定める土地価格比準表等を参考として、適宜減額して評価する。
 なお、公売財産が排水溝、下水処理槽の用に供されている場合は、私有道路に準じて評価して差し支えない。

(注) 上記の場合において、滞納者が私有道路等に隣接する宅地を有しているときは、当該宅地と私有道路等を一括換価するものとする。

(参考)
 財産評価基本通達では、私道の用に供されている宅地の価額は、当該宅地の価額の100分の30に相当する価額をもって評価すると定められている。

ロ 差押財産等が私有道路等のみである場合において、その私有道路等の公共性が高く、かつ、次のいずれかに該当する場合において、公売することが妥当でないと認められるときは、当該財産は価値がないものとして取り扱って差し支えない。

  • (イ) 付近住民が宅地等を購入の際、私有道路等を含めて購入したことが契約書(契約書はないが、その住民多数の申立て、取引の状況等を総合的に判断すると私有道路等を含めて購入していると認められる場合を含む。)により確認できること。
  • (ロ) 登記簿上は滞納者名義となっているが、実質上、地方公共団体に帰属していると認められること。
  • (ハ) 換価に付しても地方公共団体又は付近住民から買受人を求めることが困難であること。

(2) 土地区画整理事業施行区域内の宅地の評価

イ 評価の対象となる宅地

  • (イ) 仮換地の指定(土地区画整理法第98条)があった場合の宅地については、原則として、当該仮換地について評価する。ただし、工事の進行の度合いにより、仮換地について評価することが困難又は不適当であると認められるときは、従前の宅地について評価する。
     なお、従前の土地の所有者が所有する仮換地上の建物が抵当権の実行により競落されたときは、従前の土地について法定地上権が成立し、競落人は法定地上権に基づき仮換地の使用収益が許される(昭和41.11.4最高判参照)こととなるから、仮換地上に滞納者が建物を所有している場合において、その建物又は仮換地のみを公売するときは、徴収法第127条の法定地上権が成立するものとして取り扱うことに留意する(徴基通第127条関係1)。
  • (ロ) 換地処分があった場合においては、その換地は従前の宅地とみなされる(土地区画整理法第104条第1項)から、当該換地について評価する。
  • (ハ) 仮換地指定前の宅地については、当該宅地について評価する。

ロ 清算金等の調整

  • (イ) 清算金の帰属については、換地処分(同法第103条から第109条まで)確定前に仮換地が売買されたときは、特約等により清算金を含めた売買であることが明らかでない限り、売主と買主との関係では、買主に当然に移転するものではない(昭和37.12.26最高判参照)が、土地区画整理事業の施行者との関係では、買主に帰属する(昭和56.9.30福岡高判参照)。したがって、仮換地について評価した場合の清算金の調整は、次により行う。
    • A 清算金が交付されると見込まれる場合において、施行者が買受人に清算金を交付する取扱いをしているときは、清算金相当額を見積価額に加算するものとする。
    • B 清算金を施行者に支払わなければならない場合において、施行者が買受人に請求する取扱いとしているときは、清算金相当額を見積価額から控除し、公売公告に「清算金○○円は、買受人が負担する」旨を掲載する。
    • (注) 換地処分がされると、その公告の日の翌日から換地は従前の宅地とみなされ(土地区画整理法第104条1項)、その後に換地が売買されても清算金交付請求権は従前の土地所有者にある(昭和48.12.21最高判参照)から、仮換地について評価した財産を換地処分後に公売する場合には、清算金相当額の調整は行わない。
       なお、この場合においては、必要に応じ清算金交付請求権を差し押さえることに留意する。
  • (ロ) 減価補償金(土地区画整理法第109条)の交付がある場合において、仮換地について評価し、換地処分前に公売する場合には、その補償金相当額を加算する。
  • (ハ) 賦課金で今後支払うこととなるものがある場合において、仮換地について評価し、換地処分前に公売する場合には、その賦課金相当額を控除する。

(3) 無道路地

無道路地とは、建築基準法第42条に定める道路に面していない土地をいい、例えば、通路開設又は隣接宅地と一体利用による場合のみ宅地として利用可能な土地をいう。
 無道路地の評価に当たっては、鑑定人による評価又は精通者の意見を参考とするほか、財産評価基本通達の定めにより評価するものとする。

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