別紙

法務省民二第805号
平成22年3月29日

国税庁課税部審理室長 山川 博樹 殿

法務省民事局民事第二課長 小野瀬 厚

1 照会の趣旨

 民法第905条第1項は、「共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは(後略)」と規定し、遺産分割前までは相続分の第三者への譲渡が認められています。また、相続人がその相続分を第三者に譲渡したときは、当該第三者は当該相続人が有していた相続分すなわち包括的な相続財産全体に対する持分あるいは法律的な地位を取得すると解されています。
 そのため、相続分の譲渡により相続人の法律的な地位を取得した第三者は、相続財産の管理はもちろん遺産分割の手続にも参加できることとなります。
 そして、登記手続においても、これを前提として、相続財産である不動産について、法定相続分による相続人への所有権の移転の登記(以下「共同相続の登記」という。)がされている場合において、遺産分割前に相続人から第三者への相続分の譲渡があったときは、「相続分の売買」又は「相続分の贈与」を登記原因として、相続分を譲渡した相続人から第三者への当該相続人の持分全部移転の登記をすることができることとしています。
 そこで、このように相続財産に土地が含まれており、遺産分割前に相続人から共同相続人以外の第三者への相続分の譲渡(売買)があった場合に、当該土地について「相続分の売買」を登記原因として、相続人から当該第三者への当該相続人の持分全部移転の登記の申請をする際の登録免許税について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第72条《土地の売買による所有権の移転登記等の税率の軽減》の適用がないと解してよろしいか照会いたします。

2 照会に係る取引の概要

 相続財産である不動産について共同相続の登記がされている場合において、共同相続人の一人が遺産分割前に、自己の相続分を第三者に譲渡(売買)したときは、当該相続人を登記義務者とし、第三者を登記権利者として、その相続人の持分の全部について、「相続分の売買」を登記原因とする持分全部移転の登記をすることとなります。
 なお、登記実務においては、共同相続の登記をする前に共同相続人の一人が遺産分割により当該不動産を取得したときは、共同相続の登記をすることなく遺産分割により当該不動産を被相続人から取得した当該相続人へ相続を登記原因とする所有権の移転の登記を認めていることとの比較などから、相続分の譲渡を受けた者が共同相続人の一人であり、かつ、当該相続人が遺産分割により当該不動産を取得した場合は、便宜、共同相続の登記を省略して、被相続人から相続分の譲渡を受けた当該相続人へ相続を登記原因とする所有権の移転の登記をすることを認めています。ただし、相続分の譲渡を受けた者が共同相続人以外の第三者である場合は、このような便宜的な取扱いは認められておらず、必ず、原則のとおりにいったん共同相続の登記を経た後に相続分の売買等を登記原因とする持分全部移転の登記をしなければなりません。

3 照会者の求める見解となることの理由

(1) 不動産取引により「売買」を登記原因とする土地の所有権の移転の登記に係る登録免許税の税率は、原則として1,000分の20ですが(登録免許税法第9条、別表第一の一(二)ハ)、措置法第72条の規定により軽減税率(平成23年3月31日までに登記を受ける場合は、1,000分の10等)の適用を受けることができます。

(2) 措置法第72条の制定趣旨は、土地取引の活性化等を目的として登録免許税の軽減をするものであり、同条の対象となる「土地の売買」とは、土地そのものを売買の目的とする場合に限られるべきものであると考えられます。
 しかし、相続分の譲渡とは、包括的な相続財産全体に対する持分又は法律的な地位の譲渡であり、その相続財産に土地が含まれている場合であっても、それは飽くまでも相続分を譲渡(売買)したのであり、土地そのものを売買したものではないと考えられます。
 したがって、遺産分割前の相続人から共同相続人以外の第三者への相続分の譲渡(売買)について、「相続分の売買」を登記原因として土地の所有権の移転の登記をする場合であっても、当該登記に係る登録免許税について措置法第72条の適用はないものと考えます。