別紙

20090317審業001
平成21年3月27日

国税庁課税部審理室長
大久保 修身 殿

特許庁審査業務部
出願支援課長
多田 昌司

1 照会の趣旨

 被担保債権と質権や抵当権等の担保権を切り離して担保権のみを信託することが可能かどうかについて、平成18年に制定された信託法(平成18年法律第108号)第3条第1号及び第2号において、信託の方法として「担保権の設定」が規定されたほか、同法第55条において、受託者による担保権の実行について明確化されました。
 これにより、実務上も、シンジケートローン等の債権者が複数の場合において一の債権者等が他の債権者の被担保債権も含めた担保権者となり、当該担保権の管理を行うような、担保権の信託(いわゆるセキュリティ・トラスト)の活用が可能となり、特許権についても、特許権を目的とする質権を設定し、当該質権を信託財産とする信託の登録が行われることとなりました。
 この場合、特許権を目的とする共同担保の質権を信託財産とする信託の登録に係る登録免許税について、次のとおり取り扱って差し支えないか、ご照会申し上げます。

1 同時の申請により同一の債権のために複数の特許権を目的とする質権の信託の登録を受ける場合には、登録免許税法(昭和42年法律第35号。以下「登録免許税法」といいます。)第13条第1項の規定により、これらの信託の登録は一の質権の信託の登録とみなされ、同法別表第1の13号(5)イの規定に基づき、当該登録に係る登録免許税の課税標準は債権金額、税率は1,000分の2となる。

2 上記1の時点において、特許出願(特許法(昭和34年法律第121号)第36条に定める願書を特許庁長官に提出しているが、特許原簿に登録がなされていないものをいいます。以下同じです。)していた案件が、その後、特許権として特許原簿に登録されたことにより、上記1の債権のために追加して当該特許権を目的とする質権の信託の登録を受ける場合の当該登録に係る登録免許税の課税標準及び税率は、登録免許税法第13条第2項に規定する財務省令で定める一定の書類を当該登録の申請書に添付した場合には、特許権の件数1件につき1,500円となる。

2 照会に係る取引等の概要

 特許権を目的とする質権の設定及び信託の登録の手続きは以下のとおりです。

(1) 質権の設定及び信託の登録
 特許権を目的とする質権の信託の受託者は、特許登録令(昭和35年政令第39号)第58条の規定に基づき、信託財産とされた質権の信託の登録の申請を行い、特許庁長官は、特許信託原簿に当該質権の信託の登録を行います。
 なお、特許権を目的とする質権の信託の設定方式には、委託者と受益者が異なる他益信託による方式と委託者と受益者が同じ自益信託による方式とがあります(別紙(PDFファイル/43KB))。

イ 他益信託による方式
  債権者が債務者に対し金銭等の貸付けを行うと同時に又はその後、債務者は、当該貸付債権を被担保債権とし、特許権を目的とする質権を、信託銀行等を質権者として設定するとともに、債務者は、当該質権を信託財産として、信託を設定します。これにより、債務者が委託者、質権者(信託銀行等)が受託者、債権者が受益者となります。

ロ 自益信託による方式
 債権者が債務者に対し金銭等の貸付けを行うと同時に又はその後、債務者は、当該貸付債権を被担保債権とし、特許権を目的とする質権を、債権者を質権者として設定し、その後、債権者は、当該質権を信託財産として、信託を設定します。これにより、債権者自らが委託者兼受益者、信託銀行等が受託者(質権者)となります。

(2) 追加の信託の登録
 上記(1)の時点において、特許出願していた案件が、その後、特許権として特許原簿に登録された場合、上記(1)の受託者は信託契約に基づき、上記(1)の債権のために追加して当該特許権を目的とする質権の信託の登録の申請を行い、特許庁長官は、特許信託原簿に当該質権の信託の登録を行います。

3 照会者の求める見解となることの理由

(1) 登録免許税法の規定

イ 特許権を目的とする質権の信託の登録に係る登録免許税の課税標準は債権金額、税率は1,000分の2とされています(登録免許税法第9条、同法別表第1の13号(5)イ)。

ロ 一方、登録免許税法第13条第1項は、一の登記官署等において、同時の申請により同一の債権のために数個の不動産等に関する権利を目的とする先取特権、質権又は抵当権の保存又は設定の登記又は登録(以下「抵当権等の設定登記」といいます。)を受ける場合には、これらの設定登記を一の抵当権等の設定登記とみなして、この法律の規定を適用する旨定め、同条第2項は、同一の債権のために数個の不動産等に関する権利を目的とする抵当権等の設定登記を受ける場合において、当該設定登記の申請が最初の申請以外のものであるときは、当該設定登記に係る登録免許税の課税標準及び税率は、当該設定登記がこの項の規定に該当するものであることを証する財務省令で定める書類を添付して当該設定登記の申請をするものに限り、当該設定登記に係る不動産等に関する権利の件数一件につき 1,500円とする旨と定めています。
 なお、上記の不動産等に関する権利には、特許権も含まれることとされています(登録免許税法第11条第1項)。

(2) 照会者の求める見解となることの理由

イ 上記(1)ロのとおり、登録免許税法第13条は、「抵当権等の設定登記」を受ける場合に限定しているところ、本件の場合は、「質権の信託の登録」であることから、同条の規定の適用がないとも考えられます。

ロ しかしながら、同じく、登録免許税法第13条には規定されていない「抵当権等の移転の登記等」について、昭和43年8月24日付直審(資)3「共同担保の抵当権等の移転の登記等をする場合の登録免許税の取扱いについて」(以下「昭和43年通達」といいます。)では、同条の規定の適用がある旨回答がなされています。これは、抵当権等の移転は実質的には抵当権等の新たな取得と同視し得るだけの経済的な効果をもつところ、不動産ごとに債権金額の1,000分の1あるいは1,000分の2の登録免許税を納付しなければならないということになると、たとえば、不動産の個数が非常に多い場合には、「抵当権等の設定登記」の場合よりはるかに高い登録免許税を納付しなければならないということになり、著しく均衡を失うことになることを考慮したものと考えます。

ハ 特許権を目的とする「質権の信託の登録」の場合は、登録免許税法第13条の規定が適用される「質権の設定の登録」が必要となり、質権の設定と質権の信託は特許権を目的とする質権を信託財産とする信託の登録という同一の経済的な効果を目的とするものであるところ、「質権の信託の登録」の場合に特許権ごとに債権金額の1,000分の2の登録免許税を納付しなければならないということになると、たとえば、特許権の個数が非常に多い場合には、同一の経済的な効果を目的とする「質権の設定の登録」の場合に比して高い登録免許税を納付しなければならないということになり、昭和43年通達における「抵当権等の移転の登記等」の場合と同様、著しく均衡を失うことになることからすれば、特許権を目的とする「質権の信託の登録」の場合も、昭和43年通達と同様に登録免許税法第13条の規定の適用があると取り扱うのが妥当であると考えます。
 したがって、同時の申請により同一の債権のために複数の特許権を目的とする質権の信託の登録を受ける場合にも、登録免許税法第13条第1項の規定により、複数の質権の信託の登録は一の質権の信託の登録とみなされ、同法別表第1の13号(5)イの規定に基づき、当該登録に係る登録免許税の課税標準は債権金額、税率は1,000分の2となるものと考えます。
 また、特許出願していた案件が、その後、特許権として特許原簿に登録されたことにより、同一の債権のために追加して、当該特許権を目的とする質権の信託の登録を受ける場合の当該登録に係る登録免許税の課税標準及び税率は、登録免許税法第13条第2項に規定する財務省令で定める一定の書類を当該登録の申請書に添付した場合には、特許権の件数1件につき1,500円となるものと考えます。